•Nature
1)妊娠悪阻
胎児由来のGDF15は妊娠中の吐き気と嘔吐の母体リスクと関連する(GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy) |
吐き気と嘔吐は妊娠の約70%に認められ,特に症状のひどい妊娠悪阻は全妊娠の0.3〜2%に合併し,母体の衰弱に関わることが知られている。近年,妊娠中の悪心・嘔吐の分子病態として,TGFβスーパーファミリーの血液循環因子GDF15の関与が明らかになった(
リンク)。GDF15はもともと2000年に妊婦の血中で特にに高値を示すホルモンとして報告された。ヒト絨毛細胞からの産生が特に高く,胎盤で発現が高いことも示されている(
リンク)。ただ非妊娠状態でも,GDF15は様々な細胞ストレスに応答して産生される。その受容体は,GFRALとRETのヘテロ二量体であり,この受容体が後脳にのみ発現し,その活性化は吐き気,嘔吐,嫌悪反応を引き起こし,拒食症にも関わることが示されている(
リンク)。
今回,南カリフォルニア大学とケンブリッジ大学のグループは,GDF15が妊娠悪阻を呈した症例で,実際に血中濃度が上昇していることを示すだけでなく,GDF15の大部分が胎児に由来することを明らかにした。さらに妊娠悪阻のリスクを増加させるGDF15のC211Gバリアント(211番目のアミノ酸残基システインCがグリシンGに変化)をヘテロで保有する母体では,非妊娠状態での循環血中GDF15を低下させ,妊娠に伴う急なGDF15の増加に対する応答の亢進からHGが発症しやすくなることをマウスモデルも用いて証明したという内容である。NEWS AND VIEWSでも取り上げられている(
リンク)。
まず妊娠15週の血中GDF15は,嘔気・嘔吐を認める症例や,妊娠悪阻を呈した症例で特に上昇することを示している(
Fig.1)。さらにGDF15のソースを評価するため,GDF15の202番目のアミノ酸残基に高頻度で認められるバリアント(機能には関連なし。ヒスチジンHもしくはアスパラギン酸D)の違いを質量分析で比較する測定系を用いて,母体と胎児のバリアントが異なるケース(母HD/胎児DD, 母HD/胎児HH, 母HH/胎児HDのパターンが検討されている)での血中GDF15の由来を測定したところ,ほとんどが胎児由来であることを明らかにした(
Fig. 2)。次に,GDF15の機能に関わるC211Gバリアント(妊娠悪阻発症リスクを10倍以上にあげるバリアントだが妊娠悪阻を発症しないコントロールでも38%が保有しているというデータがあり (
リンク)について解析している。HEK293細胞に野生型のGDF15を発現した場合と,C211Gバリアントを発現した場合で比較すると,C211GバリアントではGDF15分泌が極端に減少することを示し,さらにヒト血液検体でも同様の特徴を示している(
Fig. 3)。最後に,なぜ血中GDF15が低いにもかかわらず,妊娠悪阻が生じやすくなるのかを明らかにするため,マウスに長期に機能が維持されるように加工したa long-acting form of GDF15(Fc-GDF15)をあらかじめ投与したマウスと未治療のマウスを準備し,その後通常のGDF15を急速静注した前後の接触状況をモニターした。その結果,あらかじめGDF15を投与されているマウスでは,その後の一過性のGDF15投与で接触行動に変化を認めなかったものの,前投薬がないマウスでは有意に摂食障害が認められた。以上から急激なGDF15の血中濃度の上昇が妊娠悪阻のトリガーになる可能性が示された(
Fig. 4)。
つわりに対する治療介入の可能性を示す画期的な発見であり,今後の臨床応用が期待される一方,著者らは,サリドマイドの悲劇を教訓に,GDF15自体を標的とすることで,胎児にも作用してしまう可能性から,受容体側のGFRALを阻害する戦略が安全なのでは,というdiscussionを加えている。
•Science
1)がん検診
血液ベースのがん検診の導入(Deploying blood-based cancer screening) |
PerspectiveにBostonのHaber(現在TellBio社設立、CTC特許所有)らからの総説が興味深い。血液のcell free DNAのメチル化状態を評価することでがんを早期に検出する米国FDAで承認されたGalleriについて紹介が記載されている(
リンク)。特に乳癌,子宮頸癌,大腸癌,肺癌,前立腺癌の測定を得意としているようであるが,いくつかの課題も示されている。例えば,膵臓癌や卵巣癌などには不向きであること,採血は40mL必要(これはそれほど大きな負担ではないかもしれない),PATHFINDER試験という臨床試験においては,Galleriでがんの可能性が示された患者のうち38%が実際にがんの診断に至り,62%は偽陽性であった(
リンク)。
血中の cell free DNA以外にもctDNAやAIを用いた画像など測定手法が様々な手法が試みられており,今後リスクなどに応じてどのような測定の組み合わせがもっとも効果的にがんの早期発見につながるかがdiscussionされている。
•NEJM
1)ダラツムマブ
多発性骨髄腫に対するダラツムマブ,ボルテゾミブ,レナリドミド,デキサメタゾンの4剤併用療法(Daratumumab, bortezomib, lenalidomide, and dexamethasone for multiple myeloma) |
CD38を標的とする抗体製剤ダラツムマブは,多発性骨髄腫の標準治療(ボルテゾミブ,レナリドミド,デキサメタゾンの併用:VRd)との併用がすでに承認されている。すでに報告されている無作為化比較第II相試験(
GRIFFIN試験)において静脈注射の抗CD38抗体とVRd併用が有効性を示していたが,今回は,新規に多発性骨髄腫と診断された移植(autologous stem-cell transplantation)適応患者の治療において,VRdと皮下注のダラツムマブの併用効果をP3で比較した試験(PERSEUS試験)。
新たに多発性骨髄腫と診断された移植適応患者709例を,ダラツムマブ皮下投与をVRdによる寛解導入・地固め療法+レナリドミドの維持療法と併用する群(D-VRd群)とVRdによる寛解導入・地固め療法+レナリドミドの維持療法のみを行う群(VRd群)に無作為に割り付けて比較した。プライマリーエンドポイントは無増悪生存とした。48カ月の時点での無増悪生存率の推定値は,D-VRd群で84.3%に対してVRd群で67.7%だった(病勢進行または死亡のハザード比 0.42,95%信頼区間 0.30~0.59,p<0.001)(
Fig. 1)。CRの割合はD-VRd群のほうがVRd群よりも高かった(87.9%対70.1%,p<0.001)。グレード3または4の有害事象は,両群の大部分の患者に発現し(いずれも85%以上:
Table 3),重篤な有害事象は,D-VRd群の57.0%とVRd群の49.3%に発現した。
無増悪生存に関して有意な改善を認めているが,かなり高い頻度で有害事象が出現する点で注意が必要と考える(
試験の概要説明)。
(小山正平)