" /> 喫煙と獲得免疫/喫煙と肺癌リスクの免疫遺伝学的基礎/自己免疫疾患に対するCAR-T療法 |
呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 272

公開日:2024.2.29


今週のジャーナル

Nature Vol.626 Issue 8000(2024年2月14日) 英語版 日本語版

Science Vol.383 Issue 66852024年2月23日英語版

NEJM  Vol. 390 Issue 8(2024年2月22日)英語版 日本語版








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喫煙と獲得免疫/喫煙と肺癌リスクの免疫遺伝学的基礎/自己免疫疾患に対するCAR-T療法

•Nature

1)免疫学:Article
喫煙は獲得免疫に長期にわたる影響を及ぼす(Smoking changes adaptive immunity with persistent effects
 どの病名でも診療を行っていると完全に同じ経過を示すことはなく患者さんごとの違いが実感される。多様性・個体差ということで言い表されるが,その原因は個人の遺伝情報を主とする内的要因によるものに加え,食習慣・生活習慣・住居環境・ストレス等々の様々な外的要因が影響していることには疑問を挟む余地はない。ゲノム情報が整備され始めた2000年代よりGWASを代表とする解析手法の進歩があり,遺伝要因に関する検討は進んだが,集団における個体差を説明しうる外的要因を含んで理論的に説明する方法論は遅れていたと言えるだろう。
 紹介するフランスのパスツール研究所からの報告では,今週号の表紙にも採用されており,遺伝要因だけでなくより複雑で多様な外的要因まで含んだ統計学的解析を行い,個体による健康な状態での免疫応答多様性に関わる因子を明らかにしている。News & Viewsでも紹介されており研究の全体像を表した図がわかりやすい。研究はMilieu Interieur Projectと名付けられた個体による免疫反応のばらつきの解明を目指したコホート研究のデータを用いて行われている。1000人の参加者から得られた全血を11種類の免疫アゴニストで22時間刺激し,13種類のサイトカイン濃度をLuminexで測定したデータと,個人の特性データ(身長,体重にはじまり,生活習慣,栄養習慣,SNPデータなど136種類の環境要因を含み多岐にわたる)をあわせて解析を進めている。

 最初に,各刺激時のサイトカイン分泌のプロファイルが個人特性と関連しているかどうかを解析し,BCG刺激によるBMI,獲得免疫系に対する刺激であるSEB(黄色ブドウ球菌エンテロトキシンB:SEB)やCD3+CD28刺激によるCMV潜伏感染,喫煙歴,自然免疫刺激による喫煙歴などの関連が見出された(Fig.1)。(個人的にはPoly I:Cにおけるビールの影響が興味深いが……。)
それぞれは興味深い事象であるが,喫煙歴が獲得免疫系と自然免疫系両者へ影響することから,喫煙歴に絞った解析が進む。興味深いことに,自然免疫系刺激に反応するのは現喫煙者のみであり既喫煙者は反応しない。一方で獲得免疫系刺激では両者とも反応することが示され,喫煙が獲得免疫反応に対して禁煙後も長期にわたり影響を残すことが示された(Fig.2)。この影響は自然免疫刺激においては特定の免疫細胞サブセットの実数に影響されず,獲得免疫刺激においては複数のB細胞と制御性T細胞の数に影響を受けていた(Fig.3)。ここで,獲得免疫における喫煙の影響が持続するメカニズムの仮説としては当然のことながらエピジェネティックなものが考えられる。CpGメチル化アレイの結果と統計処理により11 Locusが獲得免疫刺激(SEB)によるサイトカイン分泌との関連に影響することが見出された。うち7 Locusは喫煙関連遺伝子座候補として既報があった。各Locusは現喫煙者ではメチル化低下が著しく,過去喫煙者では中間であった。メチル化の程度は一貫して喫煙本数,喫煙年数と負の相関を示し禁煙からの経過年数は正の相関を示した(Fig.4)。最後に喫煙歴がサイトカイン分泌の個人間のばらつきに4〜9%寄与しており,その強さは年齢,性別,遺伝的影響に匹敵するレベルであったことを示している(Fig.5)。

 健常者における免疫反応の個体差を説明することを目的としたプロジェクトからの報告である。常識的に知られる,年齢・性別・遺伝的変異,などに加えて喫煙状況,CMV潜伏感染,BMIなどが変数となり得ることが証明された。特に自然免疫系への影響は禁煙により速やかに解消されるが,一方で獲得免疫系への影響は長期にわたることが示されたことは興味深い。シンプルな研究計画だが,大規模データを処理する機器と方法論の発展により可能となったことが肝要と思われる。特にさまざまな影響の排除をwetな実験ではなく,さまざまな統計手法を用いて進めている点を強調したい。

•Science

1)免疫学:Research Article 
肺癌リスクにおける免疫遺伝学的基礎(An immunogenetic basis for lung cancer risk
 前記のNature誌に続き,喫煙と免疫の関連をサイエンス誌からも紹介する。HLAは抗原ペプチドを認識しT細胞に提示する獲得免疫系における根幹的機序を担っている。このHLAはヘテロ接合体である方が疾病予防に有利であるという仮説がある。その根拠としては,ホモ接合体であるよりもヘテロ接合体である方が認識できる抗原のレパートリーが拡がり感染細胞や腫瘍細胞を効率的に除去することができることが考えられている。実際にHIV感染者におけるAIDSへの進行遅延や,B型肝炎ウイルスのクリアランスにおいてはHLAのヘテロ接合体の優位性が示されている。

 米国のブロード研究所やMt. Sinai病院を中心としたグループは欧州の二つの大規模集団コホートから得られた膨大な臨床・遺伝・環境の縦断データを用いて解析を行い,喫煙者の肺癌発生リスクにHLAⅡのヘテロ結合性が関与すること報告している。
 最初に選択されたコホートが集団を代表するものとして偏りなく妥当であることを確認した後に,HLAの接合性と肺癌リスクについての解析を行い,HLAⅡ領域のヘテロ接合性が有意に関与することを示し(Fig.1),さらに各ローカスのヘテロ接合性が喫煙による肺癌発生リスクを減少させることをFig.2Fig.3で示している。数字の具体例も補足データで挙がっているが,80歳までの肺癌生涯リスクを考えるとHLA-DRB1のホモ接合体は13.92%,ヘテロ接合体では10.81%と算出され,3.11%の過剰リスクであった。より解像度の高い解析であるファインマッピングの手法を用いると,HLA-DRB1,DQB1のペプチド溝における複数のSNPにおけるヘテロ結合性がリスクと関連することが明らかとなった(Fig.4)。
 喫煙とHLAによる抗原提示の間の仮説としては喫煙によって誘発される突然変異率の上昇によるネオアンチゲンの提示が効率化されることが挙げられる。さらには,喫煙による肺微小環境の変化が炎症環境を誘導し,その結果HLA-Ⅱによる抗原提示を促進することが補足的な事象として考えられる。そこで過去に行われた2つの研究での正常肺scRNAデータを解析したところ,喫煙者では非喫煙者と比較して肺胞マクロファージが濃縮されること,その炎症経路が活性化されること,かつHLA-DRB1を代表とするHLA-Ⅱ遺伝子を高発現させることがわかった(Fig.5 A〜H)。また,別の研究で用いられたscRNAデータからは上皮においてもHLA-Ⅱの発現を認め喫煙者では発現が亢進すること,喫煙者における炎症促進経路の活性化も肺胞マクロファージ同様に亢進することも確認され(Fig.5 I,J),前述の仮説を支持する結果であった。
 さらにHLA-Ⅱ領域におけるヘテロ接合性の肺癌リスクへの優位性を示すために,ヘテロ接合性が失われる事象であるLOH: loss of heterozygosityイベントの影響を検討している。2つのNSCLCコホートから得られたゲノムデータを用いた解析では,腫瘍組織においてはHLA-Ⅰ,ⅡともにLOHを伴うことが多く,LOHを伴うことにより認識できるペプチドレパートリーが減少することが示された(Fig.6)。これは,上皮腫瘍におけるHLA領域のヘテロ接合性が失われることが腫瘍の生存に優位(免疫逃避に優位)であることを示唆する結果と考えられた。

 HLAに規定される免疫監視機構が喫煙による肺癌リスクに関与することが示された研究である。本邦での肺癌検診での喀痰細胞診の推奨は50歳以上の喫煙者(BI≧600)であるが,将来的にはHLA-Ⅱヘテロ接合性といった免疫遺伝学情報を織り込んだ検診プログラムが肺癌の予後改善への1つの手立てとなるかもしれないことが論文の最後に述べられている。

•NEJM

1)CAR-T療法:Original Article

自己免疫疾患に対するCD19 CAR-T細胞療法(CD19 CAR T-cell therapy in autoimmune disease — A case series with follow-up
 血液腫瘍領域では既に臨床応用され,固形腫瘍についても導入が見据えられているCAR-T療法であるが,自己免疫疾患に対してのケースシリーズがドイツより報告された。重症SLE(8例),炎症性筋疾患(3例),全身性強皮症(4例)を対象にB細胞を標的としたCD19-CAR-T細胞を一度だけ投与し,その後最長で2年間(追跡期間の中央値は15カ月)の経過を観察した結果の報告である。Fig.1に示されるように,全例で疾患活動性が長期にわたり低下することが確認され,驚くべきことに免疫抑制療法は全例で中止可能であった。自己抗体価はもちろん低下したが,経過中にワクチン接種(破傷風,肺炎球菌,COVID)を行った例では抗体価の上昇を確認することができた(Fig.2)。B細胞の経過中の変動がFig.3にサマライズされており,depletionの持続期間平均は112日であった。Table 2Table 3では有害事象が示されており,短期的な事象としてはグレード1のサイトカイン放出症候群が10例に発現した.グレード2のサイトカイン放出症候群,入院が必要な肺炎などが1例に発現した.長期的な事象としてはマイナーな感染症が散見されるものの生命にかかわるようなものは認められず忍容性は高いと考えられた。
 今後,しかるべき臨床試験が計画されるのであろう。個人的には私達の領域でMDA5陽性皮膚筋炎に伴う急速進行性間質性肺炎治療のオプションとして期待したいが,CAR-T作成と病勢進行スピードの勝負といったところであろうか。

今週の写真:熊本のコメで新潟の酒をつくる
天草地域の病院の先生からいただきました。天草産コシヒカリを用いて新潟県佐渡の北雪酒造が仕込んだ日本酒です。こんなコラボもあるのだなと,感慨深く思いながら,大変美味しくいただいた跡です。
(坂上拓郎)

※500文字以内で書いてください