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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 273

公開日:2024.3.16


今週のジャーナル

Nature Vol.627 Issue 8002(2024年3月7日) 英語版 日本語版

Science Vol.383 Issue 66872024年3月8日英語版

NEJM  Vol. 390 Issue 10(2024年3月7日)英語版 日本語版








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40Hz光・音刺激が脳脊髄液灌流を促進/発声が呼気相になる理由/頸動脈Plaque中のnanoplasticsと循環器疾患

 今週のTJHは少しcontroversialな内容の論文を選んだ。
 私自身,TJHの執筆陣の先生方より30年長く,医学研究業界を眺めてきた。最近,21世紀サイエンスが本格化しはじめたことを何度か述べている。今回のNature紹介論文,Science紹介論文では,マウスモデルがマウス脳,しかも非常に微細な神経細胞核へ,遺伝子改変はじめoptogenetics等諸々の操作がなされるのを読んで,全く驚いてしまう。そういう微細な実験操作だけに結果がcontroversialであるのかもしれない。

•Nature

1)脳科学
多重ガンマ波刺激はアミロイドのGlymphaticクリアランスを促進する(Multisensory gamma stimulation promotes glymphatic clearance of amyloid
 Alzheimer病治療への抗体療法が本格化する中,BBBに守られた中枢神経環境における,cerebrospinal fluid perfusionも病的蓄積回避の意味でinterventionの対象となる。
今回の論文はこの脳脊髄液流が扱われる。
 Glymphaptic system(glia+lymphatics)という聞き慣れない用語を用いた論文が2報,back to backで掲載されている。身に覚えある高齢者はつい読みたくなる論文である。これらはNews&Viewsにも取り上げられ,また西川先生のAASJでは,ごく最近のSTM誌の40Hz(化学療法による神経細胞障害回復)論文も含め3報(3/2,3/7,3/9)が取り上げられている。

 では簡便にNature論文の内容を紹介する。米国BostonのMITからの報告である。
基本的方法論としては,5XFADマウス(Alzheimerモデルマウス,リンク)をchamberに入れ,40Hzの光と音の刺激を与えるというnon-invasiveなもの〔TED presentationではlast authorのTsaiが講演し(TEDリンク),マウスを刺激する漫画は示されるが,Webを検索しても本物のchamber写真は見つからない〕。このMITのグループには先行する2016年のNature論文がある。

 Fig.1には,40Hz以外に8Hz,80Hzでの光・音刺激下で,くも膜下腔に蛍光トレーサーを入れて脳脊髄液の出入を見ている。D54D2(βAmyloid抗体試薬)で識別したβAmyloidは40Hzでの光・音刺激で排出傾向がみられる(Fig.1a, b)。
 一方で,Astrocyteのwater channelであるAQP4(aquaporin 4)に関しては,TGN020という阻害剤を使うと,40Hzでの排出が見られなくなる(Fig.1e,f)。さらにAAV-GFP-shAqp4(こうした多様な遺伝子操作に関しては詳細は煩雑になるので省略)でも,AQP4量が減り40Hzでの現象が見られなくなる(Fig.1g,h)。すなわち脳内灌流にはAQP4の関与が示唆される。
 Fig.2では40Hz光・音刺激での小動脈のpulsationが促進されることを示している。

 Fig.3では,40Hz光音刺激の一時間後に,なんとマウス全脳からsnRNAseqを行い,脳脊髄液の出入に関与するendothelial cell,astrocyte,interneuronに関して詳細に検討している。その一つがK+ channelのkcnk1でastrocyteのendfeetへの局在が亢進した(Fig.3f,g)。一方AQP4はintracellular vesicleから細胞膜へのpolarizationが40Hz光・音刺激で亢進し(Fig.3h,i),これらに関連する遺伝子のup regulationもみられた。

 最後に多様なペプチド因子を伝達分泌する介在神経群のうち,VIP(Vasoactive intestinal peptide)神経に着目し,Glymphaptic clearenceへの関与を検討している。特異ムスカリン受容体(hM4Di)をAAVで発現することにより〔DREADD(Designer Receptor Exclusively Activated by Designer Drugs)法といい,人工的に神経細胞を抑制する神経科学的方法論〕VIP神経を抑制すると,蛍光トレーサーの通過(Fig.4c )やvasomotionが抑制(Fig.4e)されることが示された。

 以上より40Hzの光・音という一見不可思議な刺激でマウス脳内のcerebrospinal fluid perfusionに関与する血管,Astrocyte,またそれらの基礎にあるchannel遺伝子も絡む現象であるとは理解できる。

 Back to backの論文は“Neuronal dynamics direct cerebrospinal fluid perfusion and brain clearance”(リンク)である。詳細でなく,章タイトルのみ記すと:
 Rhythmic ionic waves in ISF boost brain perfusion
 Sleep synchronizes neurons to drive brain CSF perfusion
 Flattened ionic waves in ISF impedes brain CSF perfusion
 Chemogenetic inhibition impairs brain clearance
 Synthesized waves enhance CSF-to-ISF perfusion
と,現象としては似たような記載である。

 実は東北大学のAstrocyte研究の専門家に本論文の評価を訊ねると,「40Hz光・音刺激による2016年のNature論文(先のリンク参照)は,2023年の論文(リンク)で否定されたと理解していた。なぜ今回のNature論文か?」と。Controversialである。
 しかし,interventionに通じる現象として,40Hz波動の実態は何であるのかをさらに詰める必要がある。実はすでに臨床検討が始まっていることは,引用文献が挙げられている。

•Science

1)発声の生理
発声の脳幹制御と呼吸との調整(Brainstem control of vocalization and its coordination with respiration
 なぜ会話や歌唱は,息を吐きながらでないとできないの? そんなの当たり前だ!
 こうした疑問が,マウス・モデルを用いて,脳幹の呼吸中枢や,声帯筋支配の中枢等を解析して明らかになる時代である。先のNature論文同様に,マウスにAAVで遺伝子改変を定位的に実施しながら,Fos発現で神経活動を,またoptogenetics反応系を利用しながら解析されている。全くの驚きである。

 この論文もMITを中心とする米国のグループからである。先行する論文は2016年Neuron誌にある。
 マウスでなぜ発声研究が可能か?
 実はオスにメスを近づけると,愛の歌,courtship songをultrasonic vocalization(USV)で奏でる。歌は一連のsyllableで,時々吸気相で中断される。可聴域の閉じたvocal cordで振動されるヒトの発声とは異なり,USVは閉じたvocal cordに形成された小さな穴をjet流が通るwhistle様機序で発生するという。

 さてまず,laryngeal muscles支配の神経核はどう同定するか? 著者は3 step monosynaptic rabies virus tracing〔狂犬病ウイルス株由来,G欠損狂犬病ウイルスを用いる(リンク)。狂犬病ウィルス蛋白N,P,M,G,Lの内,Gを欠損させると感染後ウイルス粒子形成不能で,それより先への逆行感染はない。これにGFPをつけたRABVΔG-GFPを用いる〕。原理のみで論文中で使用するウイルス試薬の詳細は省略するが,それをNA(nucleus ambiguus)近辺に注入する(Fig.1B)。それをさらに組み替えられた別ウィルス試薬にバトンタッチされ,シナプスを乗り越え,脳幹部の複数の神経核をGFPで染める(Fig.1C)。

 RAm(retro-ambiguus)の同定は,Fos mRNA発現(神経活動の証明)を,オスをメスに近づけて90分後の脳で,RAm神経細胞で染色されることを証明した。研究者らは先に開発したCANE(capturing activated neuronal ensembles)法(リンク)を用いても,Fos発現がRAm であることや,ChAT(choline acetyltransferase)で運動神経であること,Vglut2で興奮性inputが関与する等を調べている。

 ここからは機能解析である。遺伝子KOと同じ効果を,tetanus toxin light chain (TeLC)を用いて神経細胞でRAmに発現すると,メスがいてもUSVを出さない(Fig.2G)。
 次はいよいよ,なぜRAmの指令は呼気相だけなのかという解析である。ここでoptogenetics法〔実際にはCANE法下のAAV-DIO-ChRminを使う(ChR: channel rhodopsin)〕が,メス刺激に変わって登場する。するとRAmへのレーザー光照射に合わせて,USVが発出する(Fig.3F)。

 ではRAmのUSVを抑制するシグナルはどこから来るか? 再度monosynaptic tracingを行って,候補神経核を示し(Fig.5B),抑制シグナルはpreBötC呼吸中枢由来であることを同定している。RAm-USVへの指令はPAG(中脳のperiacqueductal gray)からきている。これをpreBötCが吸気相で抑制する。この点をCANE法にAAV-TRE3G-GFE3(GFE3とはpostsynapticを構成するgephyrinを分解するubiqutin ligase)を使うことにより(すなわち抑制シグナルの後シナプスを破壊することで),optogenetic刺激下にも抑制が解除され,USVが漏れている(Fig.5F,下)。これは喘鳴のような音であったと説明されている。脳幹における神経核関連はFig.5Cにまとめられている。

 以上,呼気相での発声をコントロールするRAmと,その上流のPAG,また吸・呼気リズム発生のpreBötCの関連が,遺伝子改変マウスや,さらに一過性のAAVによる修飾,あるいはoptogenetics等で説明されている。
 なぜ会話は呼気相でないとできないのか? もう説明できますね。


•NEJM

1)循環器疾患
アテローム中のマイクロプラスチックとナノプラスチックおよびその心血管イベント(Microplastics and nanoplastics in atheromas and cardiovascular events
 世の中はPlasticsに溢れている。
 それが環境中でmicroplasticsになり,すでにその環境汚染はTV番組でしばしば放映されている。それがnanoplasticsに分解すれば生体に侵入するだろうことは容易に想像できる。
 今回紹介する論文は,こうしたnanoplasticsの頸動脈壁プラークでの検出と,そのそれが循環器疾患に甚大な予後をきたすことを報告している。Editorialでも取り上げられ,本論文のようにnanoplasticsを臨床観察として取り上げたものはscant,皆無だと述べている。そのには世界のplastics産生量の推移で,1950から2050年の実・予想量とその焼却,廃棄,再利用などの割合も示されている。正に私の80年弱の人生での甚大な変化を,重く突きつける図である。

 論文はナポリのCampania大学を中心とするグループの報告である。
 ナポリ近辺の患者で,頸動脈プラークのendarterectomy(動脈内膜切除術)が行われた,312 例の患者で,手術検体中のmicroplastics検索や,三年弱の経過観察による257例についての観察研究である。
 うち150例(58.4%)ではMNPs(microplastics and nanoplastics)が検出可能(pyrolysis-gas chromatography-mass spectrometryによる)で,polyethylene(21.7  24.5ug/mg plaque)が見出され,31例(12.1%)にはpolyvinyl chloride(5.22.4ug/mg plaque)が検出された。
 一方107例では手術検体でMNPsは検出されなかった(Fig.1)。

 検体を電顕で観察するとmacrophage中にjagged edgesの封入体が見出されている(Fig.2)。このプラークそのものには炎症が見られるという既報をもとに,IL-18,IL-1β,IL-6,TNF-αなどを計測すると,MNPs(+)患者で優位に高値であることが見出されている(Fig.3)。
 ではcardiovascular eventsはどうか?
 Primary end-point event(Nonfatal myocardial infraction, nonfatal stroke or death)で見ると,MNP(-)では8例/170例(7.5%)でみられたのに対し,MNPs(+)では30例/ 150例(20%)であった。MNPs(+)の患者のほうがhigh risk(HR 4.53, 95%CI 2.00-10.27, p<0.001)であった(Fig.4)。

 多くの重要なデータはsupplementに掲載されている。もちろん本報告は初のMNPsとcardiovascular healthの臨床観察ではある。MNPsの人体への侵入として経口,吸入などとの関連,臓器分布,あるいは職業歴,居住歴など,また併存疾患なども,今後より詳細な検討が必要なことはいうまでもない。筆者は退職後勤務の病院のOpen hospitalデモの頸部ECHOで頸動脈閉塞が見つかり,原因がわからない。
 Editorialには今話題であるSDGsにおける気候変動危機同様,MNPsの環境汚染がさらに健康被害をきたすことも,広く公知される必要があると述べられている。
 なお今週号にはReviewにも,endocrine disruptorとしてのFossil fuelが論じられているので,参照されたい。

今週の写真:2月初旬,水戸市偕楽園
梅の向こうに千波湖と水戸市街。水戸の町には優雅な命名が多い。水戸藩の文化を感じる。

(貫和敏博)

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