•Nature
1)血液学
正常時とストレス応答時の造血における回復力のある解剖学的構造と局所的可塑性(Resilient anatomy and local plasticity of naive and stress haematopoiesis) |
骨髄のおける造血幹細胞・前駆細胞から成熟血球細胞への分化の系譜は教科書的なイメージ(造血幹細胞:
Wiki)を持たれている先生方も多いと思う。今回,このような造血のプロセスを骨髄内における部位(位置情報)と併せて検討すると共に,各種ストレス時における変化(3種類のストレス:ストレスとして瀉血・リステリア感染・GCSF投与で評価)とその変化が骨の解剖学的部位によって異なることを明らかにした研究である。
NEWS AND VIEWSに要約がわかりやすくまとめられている。
シンシナティ小児病院の実験血液学・癌生物学部門からの報告で,まず骨髄における4つ造血プロセス(多能性幹細胞から各lineageの前駆細胞に至るまでの造血,赤血球造血,B細胞造血,骨髄球系造血)に関わる細胞マーカーとして247種類の候補を抽出し,フローサイトメトリーで一定以上の発現強度が認められ,かつ少なくとも2つ以上造血幹細胞・前駆細胞の種類を発現によって分けられるマーカーとして中から35種類のマーカーに絞りこみを実施している。その35種類マーカーに含まれるESAM(
Wiki)というマーカーが全ての造血幹細胞に発現する一方,各lineageの前駆細胞ではほとんど消失することを明らかにした(
Fig. 1a,b)。このESAMとlineageマーカーをうまく組み合わせることで,4種類の造血プロセスにある血球細胞集団を,共焦点顕微鏡を用いた多重の蛍光免疫染色を実施することで評価している(
Fig. 1d,e)。
この論文で最も強調されるのはそのvisual impactであることは間違いないが,NEWS AND VIEWSの
Fig. 1や
Fig. 3o,pでわかりやすくまとめられているように,例えばB細胞造血は細動脈(arteliole)の周囲で生じているのに対して,骨髄球系の造血は類洞(sinusoid)で生じている。つまり各lineageの前駆細胞には局在があることを示しており,この骨髄内の局在は脛骨・上腕骨・腰椎・頭蓋骨のラムダ縫合部で共通している。さらにその分子生物学的なメカニズムまでの解析はされていないが,それぞれの骨髄幹細胞は骨髄内で単細胞として存在しているが(
Fig. 2a),その理由として,骨髄幹細胞同士が近距離に接近するとどちらかの細胞が離れていく現象(move awayという表現がされている)を捉えている(
Fig. 2b)。結果として,一部の例外(MPP2というタイプの細胞)を除いて,それぞれの骨髄幹細胞が骨髄内でランダムに分布することになる。
以上のような解析プラットフォームと基盤データに基づいて,3種類のストレス(瀉血・リステリア感染・GCSF投与)をかけた場合の造血応答を比較している。それぞれのストレスの内容によって各lineageの造血パターンが異なること(
Fig. 4),さらに骨の部位によっても異なること(
Fig. 5)を明らかにしている。
最初の247種類のマーカーから35種類まで絞り込む過程や,蛍光イメージングと合わせた解析がされている点は,驚異的なエフォートを感じるとともに,骨髄内での各細胞の局在がどのように制御されているのかを知る糸口となり,発癌などを含めた今後の研究への応用が注目される。
•Science
1)感染症学・ワクチン学
BCGワクチン接種が牛の結核感染を減少させ,撲滅の見込みが高まる(BCG vaccination reduces bovine tuberculosis transmission, improving prospects for elimination)
|
従来型のワクチンの有効性評価においては,ワクチン接種による防御免疫の誘導を評価対象として感染するかしないかが主に検討されてきたが,ワクチン接種歴のある感染者とワクチン接種歴のない感染者から,どのように感染が伝播するのか,後方伝播に対するワクチン接種の影響を測定することはできなかった。牛におけるBCGの評価にとって,このようなワクチンの作用機序を理解する必要がある。その理由として,牛においてBCGの主な効果が,感染予防を提供するというよりも,病変の重症度や進行速度を減少させることが主目的となるからである。今回,エチオピアのアジスアベバ大学のグループは,クロスオーバーデザイン法という独自の評価方法を用いて,牛結核の自然伝染実験を行い,BCGが牛結核伝播に与える影響を,直接的な有効性と伝播抑制効果の両方の意義として定量化することに成功した。
PERSPECTIVEでも取り上げられている。
クロスオーバーデザイン法というのは,
summaryにわかりすく記載されているとおり,まず感染している牛(seeder)とワクチン接種した牛もしくはワクチン接種をしていない牛と接触させ,この段階で直接的な効果=感染予防を評価する。さらにワクチン接種した牛で実際に感染した牛(いずれもseeder)を,ワクチン接種した牛と摂取していない牛と接触させ,感染および症状の増悪などを評価している(間接的有効性)。1年間の曝露期間中にワクチン接種を受けた牛とワクチン接種を受けていない牛への感染率および牛からの感染率を直接推定した。その結果,BCGの間接的有効性=ワクチン接種を受けた家畜がその後感染させるのを抑制する効果(74%,95%信頼区間:46~98%)は,感染に対する直接防御(58%,95%信頼区間:34~73%)と比較して高かった。さらに,ワクチン接種を受けた牛では,ワクチン接種を受けていない牛と比較して,目に見える病変の総スコアが大幅に低かった。
さらにエチオピアのデータを用いて評価したstochastic metapopulation transmission modelから,子牛の時期に定期的にBCGワクチンを接種することで,酪農牛における結核菌の拡大を防ぎ,わずか10年以内に母集団で平均した再生産率(基本再生産数:
Wiki)を1以下にする可能性があることが示唆された。以上の結果から,BCGワクチン接種の直接的および間接的効果の組み合わせが,牛結核撲滅を可能にする上で極めて重要であることを浮き彫りにしている。
•NEJM
21日・28日が合併号だったので,やや離れるが乳癌治療の臨床試験の結果を記載する。
1)腫瘍医学
早期乳癌に対するリボシクリブと内分泌療法の併用(Ribociclib plus endocrine therapy in early breast cancer) |
進行期のホルモン受容体(HR)陽性,ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)陰性の乳癌に対して全生存期間の有益性が示されているリボシクリブ(
ribociclib)について(
リンク),同様の有益性が早期乳癌においても実証できるかを評価した非盲検無作為化P3試験。
QUICK TAKEと
research summaryを参照いただきたい。症例数多さと観察期間の長さが乳癌(特に早期)ならではの印象的な内容である。
HR陽性HER2陰性早期乳癌患者(解剖学的病期がII期またはIII期)を,リボシクリブ(400mg/日3週間投与+1週間休薬のサイクルを3年間)と非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(レトロゾール2.5mg/日またはアナストロゾール1mg/日を5年以上)を併用する群と,非ステロイド性アロマターゼ阻害薬のみを投与する群に1:1の割合で無作為に割り付けた。プライマリーエンドポイントは無浸潤生存期間で,事前に規定した中間解析の結果をおよびその他の有効性・安全性の結果を報告している。有効な優越性の中止基準の境界値は片側p値0.0128で規定した。
事前に規定した中間解析のデータカットオフ日の時点で,426例で腫瘍の浸潤・再発・死亡が認められた。併用群では,非ステロイド性アロマターゼ阻害薬単剤群と比較して,無浸潤生存率に有意な改善を認めた(3年の無浸潤生存率は併用群90.4%,単剤群87.1%)。腫瘍の浸潤・再発・死亡のハザード比0.75,95%信頼区間 0.62~0.91,p=0.003であった.副次的エンドポイントの無遠隔転移生存と無再発生存についても併用群が良好で,開始用量400mgリボシクリブと非ステロイド性アロマターゼ阻害薬を3年間併用するレジメンは,有意な有害事象の増加を示さなかった(様々なグレードの好中球現象が併用群で目立った)。以上の結果から,II期またはIII期のHR陽性HER2陰性早期乳癌患者において,リボシクリブと非ステロイド性アロマターゼ阻害薬の併用は,無浸潤生存期間を有意に改善した(NATALEE試験)。
長期使用においても有害事象の有意な増加なく,併用治療の有効性が示された。
今週の写真:金沢兼六園の根上松
|
(小山正平)