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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 276

公開日:2024.4.16


今週のジャーナル

Nature Vol.628 Issue 8007(2024年4月11日) 英語版 日本語版

Science Vol.384 Issue 66922024年4月12日英語版

NEJM  Vol. 390 Issue 14(2024年4月11日)英語版 日本語版








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アポトーシス細胞を貪食したマクロファージにおける転写調節/免疫応答の性差/ALK陽性肺癌の術後補助治療

•Nature

1)免疫学:Article
マクロファージのエフェロサイトーシス能は転写一時停止の解除を介して迅速に誘発される(Rapid unleashing of macrophage efferocytic capacity via transcriptional pause release
 組織の恒常性を維持するためにマクロファージは,発生や炎症などで生じたアポトーシス細胞を貪食して免疫寛容を誘導している。このアポトーシス細胞の除去する過程は「エフェロサイトーシス」と呼ばれている。ちなみに「エフェロサイトーシス」は,ラテン語で埋葬を意味する「effero」にちなんで命名された造語である。本論文では,このエフェロサイトーシスでは数分以内に迅速な転写応答が起きており,その機序として,「転写の一時停止/解除」と呼ばれる転写調節機構が関わっていることを明らかにした。米国セントルイスのワシントン大学からの報告である。
 図1では,マウスマクロファージがアポトーシス細胞を貪食すると,90分で265遺伝子の発現が上昇し,489遺伝子の発現が減少して,爆発的に遺伝子発現が変化することを示している。その理由として,定常状態のマクロファージでは,転写酵素であるRNAポリメラーゼ(Pol) IIが多くの遺伝子の転写開始点に留まっていて,その「Pol IIの一時停止」がエフェロサイトーシスで一気に解除されているのがわかった。
 図2では,「1個のマクロファージが複数のアポトーシス細胞を通常処理しないと組織の恒常性は維持できないのでは?」という問いに基づき,最初のエフェロサイトーシスで「Pol IIの一時停止」が解除されたマクロファージでは,さらに次のエフェロサイトーシスが誘発されることを,一時停止の解除に関わっているCDK9の阻害薬(flavopiridolあるいはPROTAC-CDK9)を用いて示している。
 図3では,実際どのような遺伝子の「Pol IIの一時停止」がエフェロサイトーシスで解除されるのかが示されている。この遺伝子の中には,免疫寛容に関わるIL10のように従来からエフェロサイトーシスで発現上昇することが知られている遺伝子に加え,Egr(early growth response: 即時型誘導転写因子)ファミリーのように,従来の数時間単位の遺伝子発現変化では同定されなかった遺伝子も含まれていた。
 最後に図4では,EgrファミリーのEgr-3を取り上げ,その遺伝子欠損マウスや強発現系を用いることによって,エフェロサイトーシスにおいてEgr-3の発現上昇が重要であることを示している。
「エフェロサイトーシス」も「転写一時停止/解除」も,提唱されてから20年前後経っているものの,手垢感なくいまだに新鮮味を保っている概念である。この2つの概念を,マクロファージの生物学として絶妙に組み合わせたところに感心させられる。

•Science

1)免疫学:RESEARCH ARTICLE
アンドロゲン-ILC2-樹状細胞による皮膚免疫の性的二型(Sexual dimorphism in skin immunity is mediated by an androgen-ILC2-dendritic cell axis
 米国ベセスダの国立アレルギー・感染症研究所で,パスツール研究所の所長に就任されるBelkaid博士からの報告である。がん,自己免疫疾患,COVID-19を含む感染症など多くの疾患で,疾患感受性には性差が認められて,「性的二型(sexual dimorphism)」と呼ばれている。本報告では,免疫応答の性的二型には組織特異性があり,皮膚免疫においては「男性ホルモンであるアンドロゲンによって皮膚ILC2(自然リンパ球2型)数は減少し,これによってILC2が産生するGM-CSFが低下するために,雄マウスでは皮膚樹状細胞の機能が制限されている」ことがわかった(SUMMARYの図)。
 図1では,免疫応答の性的二型に組織特異性があることを示している。成体マウスにおいて,皮膚と肺では性的二型が認められたが,小腸では認められなかった。さらに無菌マウスで調べてみると,皮膚においては免疫応答の性的二型が認められたものの,肺において性的二型が認められなかった。すなわち,皮膚の性的二型には細菌という外的要員が関与していないことが示唆された。
 図2では,皮膚の性的二型がアンドロゲンによるものであることを示している。マウスが性的に成熟する前には性的二型は認められず,また,性的に成熟する前にマウスの精巣を除去すると,雌マウスと同様の表現型を呈するようになった。
 図3では,雄マウスでは,雌マウスに比し皮膚樹状細胞の細胞数が減少し,その免疫誘導能も低下していることを示している。
 続いて図4では,アンドロゲンの標的細胞を探索するために,皮膚リンパ球のシングルセルRNA-seq解析を行い,ILC2がアンドロゲン受容体を高発現していることを見出した。さらに,既報と同様にアンドロゲンはILC2に抑制的に作用しており,アンドロゲン受容体を欠損させると,ILC2の細胞数は増加した。
 図5では,ILC2を有さないRag2-/- γc-/-マウスの皮内にILC2を移入したところ,樹状細胞の細胞数が増加した。すなわち,雄マウスで樹状細胞数が減少しているのは,アンドロゲンによってILC2の細胞数が減少したためと考えられた。そして最後に,GM-CSF欠損マウスのILC2をRag2-/- γc-/-マウスの皮内に移入しても樹状細胞数が増加しなかったことから,ILC2の産生するGM-CSFによって樹状細胞数は増加していたと考えられた。
 「免疫応答の性差」という比較的わかりやすい事象を,話題性のあるILC2を絡めながら順序立てて解明しており,論旨が明快な論文である。

•NEJM

1)呼吸器病学:ORIGINAL ARTICLE
ALK陽性肺癌に対する術後アレクチニブ(Alectinib in resected ALK-positive non–small-cell lung cancer
 EGFR変異陽性肺癌に対する術後オシメルチニブが全生存期間の延長を示した第Ⅲ相ADURA試験に続く,ALK陽性肺癌に対する術後アレクチニブの有用性を検証した国際共同第Ⅲ相試験である。豪州メルボルンのピーター・マッカラムがんセンターからの報告である。全生存期間は未決ではあるものの,主要評価項目である無病生存期間はハザード比0.24と,白金製剤の術後化学療法に比し,術後アレクチニブが有意に有用であった。
 試験デザインは,国際共同第Ⅲ相非盲検無作為化試験で,対象は完全切除を受けたIB-IIIA期(国際対がん連合UICC第7版)のALK陽性肺癌患者257名である。アレクチニブ2年内服群130名,白金製剤の化学療法4サイクル群127名に割付した。
 2年後の無病生存者割合をII/IIIA期の患者で見てみると,アレクチニブ群93.8%,化学療法群63.0%で,ハザード比0.24(図1,95%信頼区間は 0.13-0.45,p<0.001)であった。安全性の懸念は認められず,副次的評価項目である全生存期間については未決と報告されている。
 全生存期間の結果が待たれるところではあるが,ALK陽性肺癌に対する術後アレクチニブ投与が今後標準治療になりうることを期待させる結果である。

今週の写真:
大韓航空の機内食です。韓国のりにチューブ入りコチジャンと,焼き肉屋さんの豪華ランチを凌ぐ大満足でした。

(TK)

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