" /> COVID-19における小児と高齢者の鼻腔上皮細胞の決定的違い/SSIは皮膚のマイクロバイオームが原因であった/食物アレルギー治療薬としてのオマリズマブ/インフルエンザ山形系統の終焉がワクチンデザインを変える |
呼吸臨床
VIEW
---
  PRINT
OUT

「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 279

公開日:2024.5.20




Archive

COVID-19における小児と高齢者の鼻腔上皮細胞の決定的違い/SSIは皮膚のマイクロバイオームが原因であった/食物アレルギー治療薬としてのオマリズマブ/インフルエンザ山形系統の終焉がワクチンデザインを変える

•Nat Microbiol

1)呼吸器:Article
年齢特異的なSARS CoV-2感染に対する鼻腔上皮細胞の反応(Age-specific nasal epithelial responses to SARS-CoV-2 infection
DOI: 10.1038/s41564-024-01658-1

 以前のTJH(Link)でも紹介している英国のロンドン大学のグループから年齢特異的なSARS CoV-2感染に対する鼻腔上皮細胞の反応を解析した報告である。
 若年,中年,高齢者各々の鼻腔上皮細胞(nasal epithelial cells :NECs)にSARS-CoV-2を感染させ,scRNA sequencingにより,24種類の細胞集団を同定している(Fig. 1)。各年齢群における細胞種の分布の違いおよび,ACE2およびTMPRSS2の発現が解析されている。特に小児のGoblet細胞では,ACE2およびTMPRSS2の高発現が観察され,高力価のウイルス量と関連していた。
 次にSARS-CoV-2感染による鼻腔上皮細胞の病理学的変化を解析している(Fig. 2)。上皮細胞の菲薄化,細胞間接着の消失に加えて,高齢者においてはBasal cell(KRT5hi) mobilization(Proliferation)の所見が認められていた。
 次に,小児のインターフェロン産生に関係する細胞として,小児のgoblet 2 inflammatory NECsに注目している。小児のgoblet 2 inflammatory NECsでは,ウイルス感染72時間後に感染細胞でIFI6,IFITM1,IFIT1,IFIT2,ISG15などのインターフェロン応答関連遺伝子の顕著な発現上昇が認められ,ウイルス複製阻害能が示唆された。さらに,感染の進行とともにIFNαやIFNγなどのインターフェロンタンパク質の上昇が認められ,免疫応答がウイルス伝播を抑制する小児に特異的な現象であることが示唆された(Fig. 3)。小児のgoblet 2 inflammatory NECsにおいて,インターフェロン応答と共にウイルス複製が不完全になることをSARS-CoV-2ウイルスゲノムのカバレッジプロットによって示している(Fig. 4)。
 一方,高齢者では,鼻腔上皮細胞におけるウイルス増殖・伝播とどのように関連しているか,Basaloid-like 2 cellsに注目して解析を進めている(Fig. 5)。Basaloid-like 2 cellsはITGB6,ITGB1,ITGAVなどの線維化関連マーカーを発現しており,線維化シグナルと密接に関連していた。ウイルス感染後にBasaloid-like 2 cellsが増加し,創傷治癒に関連するパスウェイや線維化のパスウェイが促進していた。さらに,ITGB6発現の上昇を介してウイルス複製が遷延している可能性も示唆された。これらの結果は,小児と異なり,高齢者ではSARS-CoV-2感染においてBasaloid-like 2 cellsが重要な役割を果たすことが示唆された。
 最後に,創傷治癒プロセスがどのようにSARS-CoV-2の複製と伝播を促進するかを解析している(Fig. 6)。創傷治癒モデルにおいて,ウイルス感染後にBasaloid-like 2 cellsのマーカー(ITGB6,KRT5,VIM)発現が上昇し,ウイルス感染細胞数の増加と関連していた。以上より,小児ではgoblet 2 inflammatory NECsがtype1 IFN応答を中心にウイルス複製を制御するのに対し,高齢者ではBasaloid-like 2 cellsが線維化を促進し,さらにはウイルス増殖を促進しているモデルを提唱している。
 現在,慈恵医大の吉田先生が報告した論文(Link)のプロジェクトから一貫して,年齢ごとのCOVID-19検体をしっかりと確保し,丁寧な生物学的な解析を加えた研究成果である。

•Sci Transl Med

1)感染症:Article 
脊椎手術における手術部位感染と抗生物質予防の失敗における患者のマイクロバイオームの関与(Contribution of the patient microbiome to surgical site infection and antibiotic prophylaxis failure in spine surgery
DOI: 10.1126/scitranslmed.adk8222

 感染制御を行っていると,しばしば手術部位感染(SSI)に遭遇し,どのようにしたらSSIの頻度を下げられるか,多職種で議論される。教科書には手術室の「落下細菌」などの記載があるが,この論文では,患者の術前の皮膚から採取した細菌と術後の感染症から採取した細菌をゲノムレベルで解析し,起因菌は患者自身の術前サンプルと一致していることを明らかにしている。
 ワシントン大学シアトル校のグループは,清潔な皮膚切開を行う手術として脊椎手術を採用し,204例の患者コホートにおいて,術前のマイクロバイオームと術後のSSI分離株を前向きにサンプリングした。複数のゲノム解析を組み合わせて,SSI病原体の同一性,解剖学的分布,および抗菌薬耐性プロファイルを,患者の皮膚マイクロバイオームから得られた術前の菌株のプロファイルと相関解析を行っている。その結果,SSIの86%が術前菌株から内因性に発生したものであった。また,患者1610例との解析では共通した感染源のエビデンスは認められなかった。しかも,SSI分離株の大部分(59%)は,手術中に投与された予防的抗生物質に対して耐性であった。しかも,そのSSI分離株の耐性パターンは患者の術前のレジストーム(マイクロバイオームが有するすべての耐性遺伝子の総和)(Link)と相関していた(p=0.0002)。
 これらの知見から,個々の患者に存在する術前のマイクロバイオームとレジストームに合わせたSSI予防戦略が必要だと結論づけている。将来的には,術前抗菌薬の臨床プラクティスはなくなり,現在も行われているような術前の生体消毒薬を用いて入浴またはシャワー浴に加えて,マイクロバイオームを変化させるような(?)入浴が一般化するかもしれない。

•NEJM

1)アレルギー:Original Article 
複数の食物アレルギーの治療のためのオマリズマブ(Omalizumab for the treatment of multiple food allergies
DOI: 10.1056/NEJMoa2305635

 食物アレルギーは日常臨床でもよく見られ,疾患負荷も多い。米国では唯一承認されている治療法はピーナッツアレルギーに対する経口免疫療法で,それ以外の治療法はない。
 本試験では,ジョンズ・ホップキンス大学のグループが中心となった,食物アレルギーを有する患者に対して,モノクローナル抗体IgE抗体であるオマリズマブの投与が効果的かつ安全であるかを評価した。ピーナッツおよび他の食物(カシューナッツ,牛乳,卵,クルミ,小麦,ヘーゼルナッツ)にアレルギーのある1歳から55歳までの被検者がスクリーニングされた。ピーナッツタンパク質100mg以下,他の2つの食品で300mg以下の食物チャレンジに反応した場合にエントリーされた。参加者は,2:1の比率で,オマリズマブまたはプラセボに割り付けられ,体重とIgEレベルに基づいた用量で皮下投与し,16〜20週間後に食物チャレンジが行われた。主要評価項目は,600mg以上のピーナッツタンパク質を1回の服用で症状なしに摂取することとされた。副次評価項目は,カシューナッツ,牛乳,卵をそれぞれ1,000mg以上の単回投与で症状なしに摂取することとされた。この初期段階を完了した最初の60人の参加者(その内,59人が小児と17歳以下の若年者)は,24週間の追加のオープンラベル期間に登録された。
 スクリーニングされた462人のうち,180人がランダム化された。解析対象集団は,1歳から17歳までの177人の小児と若年者で構成されていた。オマリズマブを受けた118人の参加者のうち79人(67%)が主要評価項目の基準を達成した。一方,プラセボ群59人の参加者のうち主要評価項目の基準を達成したのは4人(7%)であった(p<0.001)(Link)。副次評価項目の結果は,主要評価項目の結果と一致していた(カシューナッツ41%対3%,牛乳66%対10%,卵67%対0%,すべてp<0.001)。安全性は,オマリズマブ群での注射部位反応が多かった以外,グループ間で差は認めなかった。
 1歳からの小児期において複数の食物アレルギーを持つ人々において,16週間のオマリズマブ治療は,ピーナッツおよび他の一般的な食物アレルゲンに対する反応閾値を高めることにおいてプラセボよりも優れている。
 FDA(Link)も食物アレルギーに対してオマリズマブを2024年2月に承認している。我々が喘息で使い慣れているオマリズマブが,食事アレルギーのために使用できたら,患者さん,そしてその患者に大きな福音になるであろう。

2)感染症:Perspective
B/Yamgata(山形)インフルエンザ感染の終焉- 価ワクチンからの移行(The end of B/Yamagata influenza transmission — Transitioning from quadrivalent vaccines
DOI: 10.1056/NEJMp2314801

 1977年までのインフルエンザワクチンは,A型とB型がそれぞれ1種類の抗原が含まれていた。その後,新種のA型の亜型であるH1N1が出現し,H1N1を含む三価ワクチンが開発され,世界的に使用されるようになった。1980年代後半には,B型の2つの異なる系統が流行していたことが明らかになった。B型の2つの系統を含む四価ワクチンが開発され,2013年には米国で初めて認可された。しかし,B型の2つの系統の内,B/Yamagata(山形)系統のウイルスは2020年3月以降確認されておらず,今後のワクチンに含めるかどうか議論が行われている。米国ではB/Yamagata系統をワクチンから除外することが提案され,2024〜2025年シーズンでは,アメリカでは全てのインフルエンザワクチンが三価になる可能性が高いとされる。
 COVID-19がインフルエンザの流行状況も大きく変え,B/Yamagata(山形)系統の消失と関連する議論もみられる。この世界的なウイルスの伝播の変化は,インフルエンザワクチンの価数にも影響を及ぼしている。

今週の写真:長崎大学医学部キャンパス近くにある浦上天主堂
教会内部には,原爆後も奇跡的に残った「被爆マリア像」がある(内部の撮影は禁止)。

(南宮湖)