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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 284

公開日:2024.6.25




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造血維持しながら造血幹細胞移植が可能/非小細胞肺癌の治療にJAK阻害薬を併用する意義/挿管前の呼吸管理にはNPPVがよいかも

•Nature

1)腫瘍免疫学
造血を維持しながらの血液がん根絶療法(Selective haematological cancer eradication with preserved haematopoiesis
DOI: 10.1038/s41586-024-07456-3

 スイスのバーゼル大学からの報告で,血液悪性腫瘍の根絶に向けた治療の報告である。造血幹細胞移植(HSCT)が,広範な血液悪性腫瘍に対する唯一の治癒的治療法である。しかし,現在の標準治療は腫瘍細胞を標的としていない化学療法に依存し,HSCT後に化学療法する場合も,移植された健康な細胞に影響を及ぼしてしまう。また抗体−薬物複合体(ADC)やキメラ抗原受容体(CAR)T細胞のような,非常に効果的な抗原特異的細胞枯渇薬物療法の開発は,造血幹細胞と腫瘍細胞を同様に標的として定めて枯渇させることが期待され,造血幹細胞移植を大きく改善する可能性がある。しかし,腫瘍細胞と必須健常細胞(造血幹細胞やT細胞など)に抗原が共通して発現していると,毒性のリスクが生じる。さらに,標的の選択は複雑で,造血系細胞のサブセットで発現する抗原に限定されるため,治療の全体像が断片化されて,開発コストもかなり高くなる。
 CD45(白血球共通抗原,LCA)は,分化した全ての造血細胞表面上に存在することで知られる抗原で,赤血球上には発現していない。抗CD45抗体はフローサイトメトリーで細胞を同定するためによく使われ,臨床的にリンパ腫や骨髄腫を癌腫と区別するのにも使われる。その抗CD45抗体は,免疫系細胞の除去にも応用され,造血幹細胞移植前の放射線・免疫抑制薬による治療に代わる処置として期待されている。本研究はCD45を標的とする強力なADCを開発し,そのADCから遮蔽されるように改変した造血幹細胞での移植を組み合わせることで,造血を維持しながら白血病細胞を選択的に根絶できるようになるという内容である。
 まず,安定した生物物理学的特性を持つ塩基編集可能なCD45バリアントを同定,およびCD45遮蔽バリアント候補の特徴を確認している。つまり標的となる腫瘍細胞と健常細胞を区別するための工夫した処理を行い,そして強力なヒト化CD45標的ADCを作製した。そのADCから造血幹前駆細胞は保護され,生体内で機能維持していることが確認され,腫瘍治療の効果を4つの血液腫瘍細胞株をマウスモデルで評価している(Fig.4)。すべての腫瘍は急速に縮小したが,B細胞系(NALM-6)腫瘍細胞では,広範な病巣がほぼ完全に消失したにもかかわらず,すべてのマウスで再発していた。これらの細胞は,コントロールに比べてCD45の発現が減少していた。その他3つの腫瘍細胞では3週間後も再発していないことから,CD45標的ADCが,特に血液癌の中で最も医療ニーズが高いAMLとT細胞悪性腫瘍に広く応用できる可能性がある。
 CD45を標的とするADCと改変HSCの組み合わせる治療法,造血維持されながら骨髄の腫瘍を治療できること,また疾患の病因や起源細胞のタイプに関係なく,罹患した造血系を置き換えるほぼ普遍的な戦略が構築されることは,画期的なことである。

•Science

1)腫瘍免疫学
非小細胞肺癌に対する抗PD-1抗体とJAK阻害薬の併用療法(Combined JAK inhibition and PD-1 immunotherapy for non–small cell lung cancer patients
DOI: 10.1126/science.adf1329

 米国ペンシルベニア大学からの報告で,JAK阻害薬(ルキソリチニブ)とニボルマブの併用療法は,免疫チェックポイント阻害薬が無効例にも効果的であったことを臨床試験およびマウスモデルでの検証したものである。炎症はがん免疫における特徴であり,抗腫瘍免疫応答を生み出すためにも必要とされる。インターフェロン(IFN)のようなサイトカインに短時間曝されると腫瘍免疫は増強されるが,長期間曝されると逆に腫瘍免疫は抑制されていく。がん免疫療法においてサイトカイン活性化の有益な効果を利用しつつ,有害な結果を回避することがベストであり,まさに本研究でJAK阻害薬の併用が免疫療法の有効性が確認させたことは臨床的意義の高い結果である。
 マウス実験では,免疫チェックポイント阻害療法(ICB)開始後にイタシチニブを添加すると,インターフェロン刺激遺伝子(ISG)高値抵抗性腫瘍の反応が改善し,末梢で増殖している未熟なCD8 T細胞の増加がみられた。またIFN-I受容体遮断抗体の使用も同様にICBの有効性を改善していた。
 そして,第二相臨床試験(リンク)としてPD-L1≧50%で,ECOG PSが0~1,生検が可能なRECIST v1.1測定可能病変を有し,未治療の脳転移がない進行性NSCLC患者が登録された(n=31のスクリーニング)。患者にはペムブロリズマブ(200mg,21日ごと)が投与され,イタシチニブ〔選択的ヤヌスキナーゼ1(JAK1)阻害薬〕1日200mgの経口投与はペムブロリズマブ投与3サイクル目の1日目から開始され,6週間継続された。スクリーニングされた31人の患者のうち,23人が2018年10月16日から2021年3月4日の間に登録され,少なくとも1サイクルのペムブロリズマブの投与を受けた。全奏効率は67%,無増悪生存期間中央値は23.8カ月であった。NSCLC患者は以下の3グループ:抗PD-1単剤療法の最初の2サイクル以内の臨床的に奏効した例(αPD1.R),抗PD-1単剤療法の3サイクル目の開始時にイタシチニブを6週間同時投与して初めて奏効した例(JAKi.R),または奏効しなかった例(NR)に分類して臨床効果とCD8T細胞とIFN-Iシグナルを評価している(Fig.1)。αPD1.R群では,抗PD-1単独療法後のベースラインの炎症とCD8 T細胞応答が低かった。JAKi.R群は,抗PD-1単独療法後に炎症マーカーが上昇し,CD8 T細胞応答が不良で,免疫シグナル伝達が鈍化していたが,イタシチニブ追加後,その後の臨床効果と共に未熟なCD8 T細胞の増加を伴う炎症性シグナル伝達が減少していた。対照的に,NR群ではJAK阻害に抵抗性の高い炎症がベースラインにみられ,その持続的な炎症性シグナルとIFN-Iシグナルは,CD8 T細胞の終末分化と臨床効果に関連していた。
 持続性IFNおよび/または慢性炎症による免疫抑制効果を阻害する治療戦略として,初回抗PD-1療法後のJAK阻害は安全で実行可能であり,NSCLCにおいて持続的で高い奏効率に関連することが示された。JAK阻害は,抗PD-1単独療法でCD8 T細胞の反応が乏しい,炎症が亢進している症例で特に有効な可能性がある。しかし,ベースラインの炎症レベルが高い例では,JAK1阻害薬の効果はなく,CD8 T細胞の終末分化が進行し,疾患進行していた。これらの点も踏まえて,新たな進行性非小細胞肺癌の治療戦略がまた一つ増えたことは素晴らしい。
 今週号のScienceにはホジキンリンパ腫においてもJAK阻害薬が免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強させる報告(リンク)があり,2つの論文のメカニズムを「JAKing up immunity」というタイトルのPerspectiveで解説している。腫瘍特異的CD8+T細胞は腫瘍抗原を認識し,JAKを活性化するIFN-γを分泌する。IFNとT細胞の活性化は,免疫チェックポイントであるPD-L1とCTLA4の発現も誘導する。腫瘍抗原による慢性的な刺激によりCD8+T細胞は疲弊し,MDSCsと腫瘍から分泌されるI型IFNによってその疲弊は増強される。ICIは腫瘍細胞の殺傷を促進するが,反応しない患者もいる。ICIにJAK阻害薬を併用すると,IFNの免疫抑制作用が制限され,抗腫瘍反応が増強されるというストーリーが分かりやすい図は是非とも参照して欲しい。
 本研究は西川先生のAASJでも紹介されている。

•NEJM

1)呼吸管理
緊急挿管までの前酸素化に非侵襲的換気は有効である(Noninvasive ventilation for preoxygenation during emergency intubation
DOI: 10.1056/NEJMoa2313680

 ノース・カロライナ州のウエイク・フォレスト大学を筆頭とした米国the PREOXI Investigators and the Pragmatic Critical Care Research Groupからの報告である。緊急で気管挿管となる重症成人において,その挿管前の酸素化に対して非侵襲的換気を要するべきか明確なエビデンスは不明で,我々も経験的対応に委ねられることが多い。その疑問を検証した臨床研究である。米国の24施設における救急部と集中治療室で多施設共同無作為化試験を行い,緊急気管挿管を受ける重症成人(18歳以上)を,前酸素化に非侵襲的換気を用いる群と酸素マスクを用いる群に無作為に割り付けた。主要転帰は挿管後の低酸素血症とし,麻酔導入から気管挿管2分後までの酸素飽和度が85%未満と定義した。1,301例(非侵襲的換気群645例,酸素マスク群656例)が対象となり,低酸素血症は,酸素飽和度のデータが得られた非侵襲的換気群の624例中57例(9.1%)と,酸素マスク群の637例中118例(18.5%)に発生(差 -9.4 パーセントポイント,95%信頼区間 [CI] -13.2~-5.6,p<0.001)。心停止は,非侵襲的換気群の1例(0.2%)と酸素マスク群の7例(1.1%)に発生(差 -0.9 パーセントポイント,95%CI -1.8~-0.1)。吸引は,非侵襲的換気群の6例(0.9%)と酸素マスク群の9例(1.4%)に発現(差 -0.4パーセントポイント,95%CI -1.6~0.7)。以上から,前酸素化に非侵襲的換気を用いた場合,酸素マスクよりも挿管中の低酸素血症の発生率を低下させたという結論である。詳細な解析にて非侵襲的換気の有用性が高いのは,BMIが30以上の肥満やFiO2 0.7以上を要する重症呼吸不全,という結果からも臨床的に換気補助を要する必要性が高い病状を把握することが重要であろう。
 また本研究の対象者は,ベースライン時に約60%が精神状態の異常をみとめている。それに対して,呼吸器疾患としてCOPDも急性肺炎も共に15%程度という患者背景であったことは理解しておくべきである。

今週の写真:グアムの恋人岬
タモン湾を一望する展望台があり,恋愛にまつわるパワースポットらしく絶景を眺める人気観光場所です。海岸線が男の人の顔に見えるようです。

(石井晴之)