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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 285

公開日:2024.7.4




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試験の前には眠るべし!/2型自然リンパ球の新規制御機構/COPDに対するDupilumab

•Nature

1)神経科学:Article
睡眠不足は海馬の再活性化および再生を低下させる(Sleep loss diminishes hippocampal reactivation and replay
DOI: 10.21203/rs.3.rs-2540186/v1

 明らかに10代の時とは比べものにならないほどの自身の記憶力に愕然とする日々を過ごしているが,どうしたものか…

 脳科学は正直門外漢であるが,睡眠というと何となく呼吸器内科医にも少しだけ馴染みがあることから今回は記憶と睡眠に関するミシガン大学からの報告に興味を持った。この報告は試験前に徹夜で勉強すべきか,ある程度で眠ってしまうべきなのか,という命題にある程度の答えをもたらしている。
 記憶がどのように定着するのかについて,近年の脳科学の進歩から様々な知見が得られている。海馬が短期記憶をつかさどっていることはある程度ご存じのことと思う。たとえばマウスが迷路をさまよう際には,迷路の各場所で海馬内の神経細胞が次々に発火活動する。その後,マウスが睡眠をとる間にそれらの神経細胞活動が同じ順番で,かつ時間的に圧縮されて繰り返し再生され,空間記憶が固定される。この現象は「再活性化」と「リプレイ」と呼ばれ,海馬の脳波のうちの鋭波リップル(SWR)に同期して起こることが知られていた。しかし,睡眠が障害された状況(睡眠不足)がこの記憶の定着の過程にどのような影響を及ぼすのかは不明であった。今回の報告は睡眠不足がこのプロセスにどのように影響するかを報告している。
 モデル動物としては10〜15週齢のラットを用いている。ラットを迷路に1時間程度置いたのちに,自然に8時間の睡眠をとらせる自然睡眠グループ(NSD)と,人工的に5時間起こし続けたのちに3時間の睡眠をとらせる睡眠不足グループ(SD)に分けて(Fig.1a),海馬ニューロンの活動を記録することにより睡眠不足の影響を評価した。結果を以下にサマライズする。

①睡眠不足時のSWRの頻度は増加したが,そのパワーは低く,周波数が高くなる傾向という特性の変化があった(Fig.1)。

②睡眠不足中,海馬錐体細胞における発火パターンの再活性化とリプレイが減少,場合によっては完全に消失した(Fig.2)。さらに,回復睡眠を行っても自然睡眠時のレベルには戻らなかった(Fig.3)。

③錐体細胞の発火率は自然睡眠の開始とともに低下したが,睡眠不足中は高いままであった。一方で介在するニューロンの発火率は,睡眠不足中に上昇し続けた(Fig.3)。

④回復睡眠が始まると,錐体細胞と介在ニューロンの発火率は急速に低下した(Fig.4)。

 以上より,睡眠不足は海馬の機能に大きく影響し,特に,SWRに関連する再活性化とリプレイのプロセスが妨げられることが示された。一番わかりやすく言うと,記憶の定着には睡眠がとてつもなく重要であり,試験前にはある程度で眠ってしまうべきということになる。

•Science

1)アレルギー:Research Article 
Mef2dは2型免疫応答とアレルギー性肺炎を増強する(Mef2d potentiates type-2 immune responses and allergic lung inflammation
DOI: 10.1126/science.adl0370

 2型炎症は,IL4,5,13などの2型サイトカインの産生を主軸とする炎症反応を指す。主に寄生虫に対する生体防御反応として機能する一方で,アレルギー性炎症の主因ともなっている。呼吸器領域では喘息が2型炎症を主たる病態とする疾患として認識される。従来は獲得免疫系であるTh2が主要な役割を担うと考えられていたが,現在では自然免疫系のILC2も重要な役割を果たすことが明らかになっている。2型を定義づけている各サイトカインのマスタ―転写因子としてはGATA3が知られるが,GATA3低ILCからGATA3高ILC2への制御機構は明らかになっていない。その理由としてはILC2特異的に遺伝子発現を単一遺伝子の操作ではコントロールが難しかったところにある。今回,英国ケンブリッジ大学のMRC研究所のグループはCRIPRスクリーニングを用いて上流の転写因子候補を同定したのちに,Booleanロジックアプローチというモジュール式のILC2特異的遺伝子発現コントロールマウスを作成することにより,そのメカニズムを報告している(Fig.)。 

 まずは,候補因子の同定のためにIL13とGATA3のレポーターマウスから誘導した前駆細胞でCRISPRスクリ―ニングを行い,両分子共通の促進的なレギュレーターとしてとしてMef2bを同定した(Fig.1)。ILC,T,B細胞におけるMef2b欠損マウスでは,GATA3低発現の正常数ILC2を有しており,IL33経鼻刺激(2型炎症を強固に誘導し肺炎を惹起する)ではIL13発現,好酸球増多などをマーカーとする2型炎症が抑制されることが示された(Fig.2A〜D)。さらにILC2はTh2細胞分化促進作用を介して獲得型の2型反応を増強することから,Th2反応を誘導する実験系を用いて検討したところ,自然免疫系同様に最終的なアウトプットである2型炎症を抑制することを明かにしている(Fig.2E〜I)。

 次にILC2特異的なMef2bの影響を検討するために,3つの異なる遺伝子座に,3つの異なるDNAリコンビナーゼを導入した,Booleanアプローチによる成熟ILC2特異的な遺伝子改変マウスを作成した。私の解釈では,あるタイミングでonとなる遺伝子それぞれにリコンビナーゼを導入し,段階的に他の遺伝子発現にon/offを提供できる多段階Conditionalというコンセプトである。このマウスの作成が本報告の肝と言えよう。このマウスから誘導したMef2b-KO-ILC2で,前述の2型炎症に関連するアウトプットが抑制されていることも示されている(Fig.3)。ILC2における強固な2型反応の惹起物質ある上皮サイトカインIL-33のレセプターST2はGATA3による制御を受ける。Mef2b欠損ILC2マウスでST2の発現レベルが低下し,2型サイトカイン産生を含む下流シグナルが障害されることも確認している(Fig.4)。
 最後にMef2bがILC2をILC2たらしめている機序を2つ示している。1つは,ILC2特異的Mef2b欠損マウスのILC2におけるバルクRNA-seqとChip-seqからで,Mef2bは特定のmRNA配列を分解するエンドリボヌクレアーゼであるRegnase-1をコードする遺伝子座にアクセスしその発現を抑制した。Regnase-1はST2の発現を抑制し,IL-33シグナルを障害することが知られていることから,Mef2bはRegnase-1を抑制することを介してILC2において2型表現型を促進する方向へ働くことを示している(Fig.5)。また,もう1つは,強力なILCS2刺激因子であるLTC4刺激後にILC2内でMef2bはNFAT1と複合体を形成し,その核内転医を促進,TCR下流のカルシウムを介在するシグナル経路を増強することを示した。これによりIL33等と相乗的に2型免疫反応が増強することを明らかにしている(Fig.6)。

 CRISPRスクリーニングと,Booleanマウスモデルの組み合わせにより,今まで特異的に遺伝子発現をコントロールすることが難しかったILC2のマスター転写因子であるGATA3の発現調節機構が明らかにされた。この手法は複雑になっている様々な細胞系譜の解析にも応用ができる手法であろう。

•NEJM

1)COPDOriginal Article
2型炎症を伴うCOPD患者に対するデュピルマブ(Dupilumab for COPD with blood eosinophil evidence of type 2 inflammationa
DOI: 10.1056/NEJMoa2401304

 喘息のように免疫反応による炎症がベースの疾患においては抗体製剤が花盛りである。閉塞性換気障害を呈する疾患としては,医学教育的には喘息と双璧をなすCOPDがあるが,こちらも喫煙や加齢に伴う慢性炎症がベースにあることが知られるが,疾患表現型の細分化に伴い,COPDにおいても2型炎症の表現型を有する例が存在することが明らかになっている。COPDにおいては過去20年余りはLABA,LAMA,ICSの組み合わせの中で治療ストラテジーが組まれており,新しいクラスの薬剤が登場することはなかった。そのような中で2023年5月のNEJM誌では,本報告に先立ち2型炎症を伴うCOPDにおける抗IL4Rα抗体であるDupilumabの第三相試験(BOREAS試験)のポジティブな結果が報告されている(NEJM2023)。これと同時にもう1つ同じデザインの第三相試験(NOTUS試験)が異なる集団を対象として行われており,今回結果が報告されている(Summary)。
 対象は,血中好酸球数 300/μL 以上の COPD 例,40〜85歳,LABA/LAMAもしくはICS/LABA/LAMA吸入中,過去1年間に中等度増悪が2回以上もしくは重度増悪が1回以上ある例がエントリーされた。935例が無作為化された。主要評価項目である中等度または重度の増悪の年間発生率は,Dupilumab vs. Placeboで 0.86(95%CI 0.70~1.06) vs. 1.30(95%CI 1.05~1.60)であり,減少率は 0.66(95%CI 0.54~0.82)であった(P<0.001)(Table2)。副次評価項目である,気管支拡張薬吸入前の FEV1 もPlacebo群と比較して有意に改善した(Fig.2)。有害事象は 2 群で同程度であり,喘息などで知られるDupilumabのプロファイルと一致していた。
 先行試験と同様の結果が確認されたことになり,おそらく臨床現場に導入されてくるものと考えられるが,個人単位で見た際に費用対効果が大きな議論となりそうな気配である。

今週の写真:神戸のそばめし
先日の神戸での感染症学会にて。帰熊まぎわにご当地B級グルメのそばめしをいただきました。甘酸っぱいばらソースをかけて仕上げます。炭水化物 on 炭水化物ですが,こういった食べ物は明らかにうまくて困ります。

(坂上拓郎)