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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 288

公開日:2024.7.29




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肺胞線維芽細胞の肺の役割/米国100万人退役軍人プログラム研究/Covid-19 に対する曝露後予防内服の効果

•Nature

1)炎症
肺胞線維芽細胞は幹細胞ニッチや損傷への応答の役割を担う(Alveolar fibroblast lineage orchestrates lung inflammation and fibrosis
DOI: 10.1038/s41586-024-07660-1 

 近年,線維芽細胞の多様性についての様々な臓器や疾患について盛んに研究されてきている。本研究は米国サンフランシスコ・UCSFのSheppardラボからの肺の線維芽細胞についての報告である。彼らは肺の肺胞領域に存在する線維芽細胞「肺胞線維芽細胞」についての先行研究で,Scube2遺伝子が特異的に発現していることを同定していた。そこでScube2-creERマウスを作製し,Rosa26-tdTomatoマウスと交配してScube2-tdTomatoマウスを作製して「肺胞線維芽細胞」を標識して解析した。標識されるtdTomato陽性細胞,すなわち「肺胞線維芽細胞」はlineage markers(CD31,CD45,EPCAM,Ter119,MCAM)が陰性で,SCA-1-CD9-PDGFRA+であった。線維芽細胞全般が標識されるCol1a1-GFPマウスと交配することで線維芽細胞全般について観察したところ,肺で広範に存在するGFP陽性線維芽細胞と異なり,tdTomato陽性の「肺胞線維芽細胞」は肺胞領域への限局した存在が観察された。さらに2型肺胞上皮細胞との隣接が観察されたことから,Scube2-creERマウスとRosa26-DTAマウスを交配してScube2陽性の「肺胞線維芽細胞」を消失させたところ,30〜40%の数の2型肺胞上皮細胞も減少した。さらに本マウスにブレオマイシンを経気管投与したところ,γδT細胞によるIL-17aの増加などの炎症の増加と肺血管透過性亢進がみられ,体重減少と生存率の低下が観察された。「肺胞線維芽細胞」が2型肺胞上皮細胞の形成する肺胞の微小環境の恒常性を維持していることが示唆された(Fig. 1)。
 次にブレオマイシン投与肺のscRNA-seqで47476個の11クラスターの間葉系細胞について解析したところ安静時にはみられない4種類の線維芽細胞,「fibrotic」「inflammatory」「stress-activated」「proliferative」が同定された。各々特異的な遺伝子発現があり,fibrotic fibroblastsではCthrc1やCol1a1やECM遺伝子が,inflammatory fibroblastsではCxcl12などのケモカイン遺伝子やSaa3やLcn2やIFN反応遺伝子が発現していた。Stress-activated fibroblastsでは細胞周期関連のp21や翻訳関連遺伝子やストレス関連遺伝子が発現していた。Scube2-tdTomatoマウスにおける細胞系譜追跡により,ブレオマイシン投与後のtdTomato発現について解析すると4つのどの線維芽細胞でも70〜80%が陽性であり,これら4つの線維芽細胞が「肺胞線維芽細胞」からの由来が主体であることが示唆された。シリカを用いた別の肺傷害後のモデルでも同様にシリカ結節など病的な線維芽細胞は「肺胞線維芽細胞」由来であることが示された。scRNA-seqのpseudotime(偽時間)解析では,肺傷害後に「肺胞線維芽細胞」特有の遺伝子発現が徐々に低下していき,inflammatory fibroblastsは肺傷害早期に出現し,後期にはfibrotic fibroblastsが出てくること,stress-activated fibroblastsはinflammatory fibroblastsから由来することが示唆された(Fig. 2)。
 マウスから精製した「肺胞線維芽細胞」についてin vitroでサイトカイン刺激をすると,IL-1βによってSaa3やLcn2といったinflammatory fibroblastsで発現する遺伝子の発現がみられ,TGF-βの刺激ではCol1a1やCthrc1の発現上昇がみられた。TGF-βの刺激後ではIL-1βによるSaa3やLcn2の発現が低下した。
 ヒトの肺線維症のscRNA-seqデータについて調べてみると,主にIL-1やTNFで誘導されていると想定されるinflammatory cluster 1やIFNによって誘導されるinflammatory cluster 2,マウスと同様のfibrotic clusterとalveolar clusterが同定された。Stress-activated fibroblastsは同定できなかったが,2つのinflammatory clusterではストレス反応関連遺伝子の発現が確認された。またpseudotime解析では,マウスと同様に「肺胞線維芽細胞」からinflammatory clusterを介してfibrotic clusterへと変化していくことが示唆された。線維芽細胞巣(Fibroblastic foci)ではCOL1A1chiでCTHRC1+のfibrotic fibroblastsが集積しており,そのまわりにSFRP2+,CCL2+,ITGA8+なinflammatory fibroblasts1が局在し,SFRP4+CXCL14+ITGA8+のinflammatory fibroblasts 2は線維芽細胞巣の中の間質側に存在し2種類のinflammatory fibroblastsが線維化に近接して局在していた(Fig. 3)。
 肺傷害後に出現し,IPFでも線維化が報告されているfibroticなCTHRC1陽性線維芽細胞について研究するため,Cthrc1-creERとRosa26-tdTomatoを掛け合わせたマウスを解析したところ,tdTomato陽性細胞では線維化関連遺伝子が高発現していた。CTHRC1陽性線維芽細胞は肺胞腔内に観察され膠原線維を伴っていたことから,遊走能が高く肺胞内の線維化に関与することが示唆された。Cthrc1-creERマウスとRosa-26-lox-stop-lox-DTAマウスと交配することでCTHRC1陽性線維芽細胞を約50%減少させたところ,ブレオマイシン投与後の肺の線維化が抑制されることから,線維化におけるこのCTHRC1陽性線維芽細胞の重要性が示された(Fig. 4)。
 最後に線維化におけるTGFβ経路の役割について精査するために「肺胞線維芽細胞」特異的なTgfbr2欠損マウス(Tgfbr2-cKOマウス)を作成したところ肺の線維化の抑制が観察された。しかしブレオマイシンの投与後の炎症期においてはTgfbr2-cKOマウスでは野生型マウスに比べて体重減少が著しく死亡率が増加した。Tgfbr2-cKOマウスでは,fibrotic fibroblasts関連遺伝子発現が減少しinflammatory fibroblasts関連遺伝子発現が増加していたことから,肺の線維化は抑制するが,炎症を増悪させてしまい肺傷害を悪化させることから体重減少と死亡率増加に至ると考えられた。TGFβは,損傷後早期に出現するinflammatory fibroblastsを負に調節し,fibrotic fibroblastsへの分化を促して,肺胞内の線維化を引き起こすことが示された。「肺胞線維芽細胞」は正常な恒常性維持に必要で,肺傷害に際してはinflammatory fibroblastsを介してfibrotic fibroblastsへと変化していき,このfibrotic fibroblastsが肺の線維化に重要な役割を果たすことが明らかとなった(Fig. 5)。

•Science

1)GWAS研究
多様性と規模: VA Million Veteran Program における 2068 形質の遺伝的構造(Diversity and scale: Genetic architecture of 2068 traits in the VA Million Veteran Program
DOI: 10.1126/science.adj1182

 米国ハーバード大学,ペンシルバニア大学などを中心とした,米国最大のバイオバンクの1つである「退役軍人省〔Veterans Affairs(VA)〕100万人退役軍人プログラム〔Million Veteran Program(MVP)〕」の研究である。近年のゲノムワイド関連研究(GWAS)から得られた知見は,病気の遺伝的基盤に関する基礎的な知識を提供し,正確な予防と治療に大きく貢献してきている。しかしながら,これまでは西洋人対象のデータが中心(95%がヨーロッパ参照集団)であり,多様な人種における遺伝子,形質,疾患間の関係についての知識に関しては不十分であった。本プログラム(MVP)の29%は,アフリカ人(AFR),混合アメリカ人(AMR),および東アジア人(EAS)の参照集団と遺伝的に類似した個人で構成されており,635,000人を超える参加者と,電子医療記録(EHR)からの詳細な表現型データに関連付けられた4,430万を超える遺伝子型変異型という膨大な規模のデータについて解析されている。高密度のMVPデータを活用して,AFR,AMR,EAS,およびヨーロッパ(EUR)参照集団との遺伝的類似性に基づいて,4つの集団グループの2068の形質にわたってGWASを実施した(Fig. 1)。
 簡単にまとめると,635,969人の参加者のうち,1,270形質にわたる26,049個の変異形質関連性が特定され,そのうち3,477個は,非EUR集団の個人が含まれた場合にのみ有意であった。詳細なマッピングにより,936形質にわたる57,601の独立したシグナルが明らかになり,これらのシグナルのうち15,045は単一の変異体に高い信頼度でマッピングされた。主に集団間の対立遺伝子頻度の違いに起因し,2,069個の高信頼性シグナルと549個の遺伝子候補は非EURグループに特有であった。一例紹介すると,特にrs76024540にマッピングされたシグナルは,SLC22A18/SLC22A18ASが,EUR集団よりもAFRではるかに蔓延している状態であるケロイド瘢痕のエフェクター遺伝子として関与していることが示唆された。
 本研究では多様性の増加によりGWASの能力が強化され,EUR集団のみの結果よりも優れた変異体の発見と詳細なマッピングの精度を達成することが可能となった。集団間の遺伝子構造の違いよりも類似点の方が多いことが示唆された。本研究により人種多様な遺伝子関連の膨大なアトラスが提示され今後の研究に非常に有用であると考えられる。本研究はPERSPECTIVEでも紹介されている。

•NEJM

1)感染症
Covid-19に対する曝露後予防としての経口ニルマトレルビル/リトナビル(Oral nirmatrelvir–ritonavir as postexposure prophylaxis for Covid-19
DOI: 10.1056/NEJMoa2309002

 家族が新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に罹患して曝露した場合に,隔離する以外に何か有効な予防法はあるか,経口ニルマトレルビル/リトナビルは予防的投与に有効かどうか,という疑問に対するファイザー社からの有効性と安全性を評価する第2・3相二重盲検試験研究である。
 無作為化前96時間に家庭内でCovid-19患者に曝露した無症状の迅速抗原検査陰性の成人を対象とした。ニルマトレルビル/リトナビル(ニルマトレルビル300mg,リトナビル100mg)を12時間ごとに5日間投与する群,10日間投与する群,プラセボを10日間投与する群に1:1:1の割合で無作為に割り付けた。主要評価項目はベースライン時の逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査で陰性であった参加者に症状を伴う重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染が14日目までに発生することとした。感染はRT-PCR検査または迅速抗原検査で確認した。
 ニルマトレルビル/リトナビル5日間群921例,ニルマトレルビル/リトナビル10日間群917例,プラセボ群898例での計2736例が無作為に割り付けられた(Fig. 1)。14日目までに症状を伴うSARS-CoV-2感染はニルマトレルビル/リトナビル5日間群の2.6%,ニルマトレルビル/リトナビル10日間群の2.4%,プラセボ群の3.9%に発生した(Fig. 2)。症状を伴うSARS-CoV-2感染が発生した割合に有意差は認められなかった。有害事象の発現率は3群で同程度であり,最も多く報告された有害事象は味覚障害であった(ニルマトレルビル/リトナビル5日間群5.9%,ニルマトレルビル/リトナビル10日間群6.8%,プラセボ群0.7%)。結論として,5日間または10日間のニルマトレルビル/リトナビルによる曝露後予防投与は症状を伴うSARS-CoV-2感染のリスクを有意に減少させることはなかった,というネガティブな結果であった。2分半のビデオサマリー(QUICK TAKE)がわかりやすい。


今週の写真:真夏の満月(夜です)

(鈴木拓児)