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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 290

公開日:2024.8.7




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抗IL-11治療は不老不死の薬?/SARS-CoV-2感染が引き起こす気道上皮細胞死/ポドサイト障害と連動する自己抗体

•Nature

1)老化
IL-11を抑制することで哺乳生物の健康寿命も含めた寿命が延びる(Inhibition of IL-11 signalling extends mammalian healthspan and lifespan
DOI: 10.1038/s41586-024-07701-9

 IL-11は以前より肺線維症をはじめ様々な線維症で発現が亢進することが知られ,抗IL-11抗体による臨床治験も行われている。今回は主にマウスを用いた研究で様々な老化を抑制して寿命を延長する効果もあることを,IL-11の一連の研究に関わってきたシンガポールのStuart A. Cook教授らが報告しており,AASJにも取りあげられている。研究者たちはまず,マウスが老化するにつれて,特に肝臓におけるIL-11やその下流シグナルであるERKリン酸化や細胞老化マーカーであるp16やp21などが増加すること,IL-11欠損の老齢マウスではこれらが抑制されるだけでなく,老化の指標となるテロメアの短縮やミトコンドリアDNAのコピー数減少も抑えられることを見出した(Fig. 1)。

 次に老齢マウスを用いて肥満,フレイルスコア,力の強さ,血清コレステロールおよび中性脂肪,耐糖能,内臓脂肪,皮下脂肪について調べたところIL-11欠損老齢マウスでは「若返り効果」を認めた(Fig. 2)。そして,抗IL-11抗体を75週齢のマウスに3週おきに8回投与したところ,抗体を投与しなかったマウスと比べ,フレイルスコアなどの老化の各指標や,肝臓,内臓白色脂肪組織,骨格筋におけるコラーゲンの沈着が低下することを確認して「若返り」を明らかにした(Fig. 3)。抗IL-11抗体の効果を肝臓,内臓白色脂肪,骨格筋における遺伝子発現でも調べ,老化に伴って発現上昇する遺伝子群が抗IL-11抗体の投与によって抑制されることを明らかにした。また,白色脂肪細胞がベージュ脂肪細胞(脂肪を熱源として消費できる)に分化する際に重要とされるUCP1などの遺伝子群や,中性脂肪の代謝関連遺伝子の発現上昇を明らかにした。さらに老化で誘発される間質炎症マーカーの遺伝子群は抗IL-11抗体によって発現が抑制され,CD68+マクロファージの浸潤も目立たなくなった(Fig. 4)。最後にIL-11欠損マウスと抗IL-11抗体を投与したマウスのそれぞれの生存曲線を示し,生存期間中間値がIL-11欠損マウスでは120.9週から151週に,抗IL-11抗体投与マウスでは120.9週から155.6週にそれぞれ有意差をもって延びることを示した。さらにそれぞれのマウスを死亡時に解剖すると,対照群の老齢マウスに比べて腫瘍形成が見つかる頻度は有意に減少していた。

 抗IL-11抗体は肺線維症でのPhase I臨床治験も進められており,今回,健康寿命も延ばせる可能性もあるということでは期待の新薬といえる。ただ,海外ではIL-11の組み換えタンパク質製剤が,抗癌薬治療による血小板減少に対して承認されていたりもして(Wiki),無用な遺伝子というわけでもなさそうだ。また,IL-11欠損マウスについては骨量は減少し,脂肪が増え,耐糖能異常を認めたことが2022年のNat Commun誌に報告もされており,実験背景の違いによると思われるが,今後の治験の成り行きに注目したい。


•Sci Immunol

1)COVID-19
SARS-CoV-2によって気道上皮細胞が死に始めるメカニズム(Initiator cell death event induced by SARS-CoV-2 in the human airway epithelium
DOI: 10.1126/sciimmunol.adn0178

 私たちの研究室では少し前に新型コロナウイルスの研究に取り組む中,アピカルアウト型のオルガノイド培養法を開発して,デルタ株や初期のSARS-CoV-2が気道上皮細胞に感染すると細胞死が誘導されてオルガノイドが縮小することを見出していた(リンク)が,細胞死が起きるメカニズムの詳細はわからずじまいだった。今回,ノースカロライナ大学からの報告では,SARS-CoV-2が気道上皮細胞に感染した時に起こる細胞死にはネクロトーシスとアポトーシスの両方があることが報告されていて納得のいくものだったので紹介しておく。

 研究者たちはSARS-CoV-2の受容体であるACE2を強制発現したA549株(ACE2-A549)とヒト初代気道上皮細胞(5ドナー)を用いて,SARS-CoV-2を感染させたところ,ネクロトーシスの指標であるpRIPK1,pRIPK3,pMLKLに加えてアポトーシスの指標であるcleaved caspase-3が上昇することを確認した。インフラマソームによるパイロトーシスが関与した可能性を調べたところGSDMD(Wiki)の切断はアポトーシス誘導後であり,IL-1βの放出もほとんど見られなかったことから関与は少ないと考えられた(リンク)。次に蛍光免疫染色を行ってネクロトーシス細胞(pMLKL陽性)とアポトーシス細胞(cleaved caspase-3陽性)を定量化したところ,①ネクロトーシス細胞は感染細胞に多く,非感染細胞にはほとんどいないこと,②アポトーシス細胞は感染細胞にも非感染細胞にいることがネクロトーシス細胞よりも少ないこと,③ネクロトーシス細胞とアポトーシス細胞は排他的であること(両方陽性の細胞はほとんどいない)を明らかにした(Fig. 3)。さらに,MLKL欠損細胞を作成して感染させたところ,アポトーシス細胞の数には変化なく,アポトーシスはネクロトーシスによって誘発されるわけではないことがわかった。

 研究者たちはCOVID-19患者の剖検肺も用いて解析を進めたところ,pMLKL陽性細胞はSARS-CoV-2のNタンパク質の発現細胞とおおむね一致し,cleaved caspase-3とSARS-CoV-2抗原の関連性は認めなかった。インフラマソームのマーカーであるApoptosis-associated speck-like protein containing a C-terminal caspase recruitment domain(ASC: Wiki)を調べたところ,ほぼCD11c陽性の骨髄系細胞だけに発現しており,ここでもSARS-CoV-2が感染した上皮細胞ではインフラマソームがほとんど形成されないことがわかった。

 SARS-CoV-2感染細胞ではウイルス由来RNAでZ-RNAが形成されることが知られ,COVID-19患者のACE2陽性肺上皮細胞にはZBP1が強発現しているため,ACE2-A549とヒト初代気道上皮細胞でZBP1の発現を調べたところ,SARS-CoV-2感染後にZBP1の発現が顕著に誘導されることを見出した。ZBP1はSARS-CoV-2感染に伴うI/III型インターフェロン産生により誘導され,JAK阻害薬で抑制されること,Z-RNAは感染細胞にのみ局することを確認した(Fig. 5)。ZBP1はZ-RNAを結合し,RIPK3をリン酸化して,MLKLのリン酸化を介してネクロトーシスを誘導することが知られる。Proximity ligation assay(PLA)はZBP1とZ-RNAが近い位置にあることを確認するための手法で,2つの分子が40nm以内であれば,抗体に結合した1本鎖DNA同士が結合し,その部分をPCRで増幅して蛍光プローブで可視化できる。この方法でSARS-CoV-2感染後にZBP1とZ-RNAの結合を示す蛍光が増加することもわかった。一方で,ZBP1欠損細胞を作成し,SARS-CoV-2を感染させたところ,pMLKLは消失したが,cleaved caspase-3の発現は保たれ,LDHの放出もウイルスRNAも減少しなかったので,細胞死に至るメカニズムにはさらに異なる経路が存在する可能性が考えられた。

 最後にSARS-CoV-2のデルタ株とオミクロン株を比較し,デルタ株がオミクロン株よりも細胞障害性が強いこと,ZBP1,RIPK1,RIPK3,MLKLを強く誘導すること,いずれもネクロトーシスはウイルス感染細胞に起きることを示した。ヒトACE2のトランスジェニックマウス(K18-hACE2)に感染させる実験も行い,デルタ株がマウスに致死的な感染を起こすことを示し,マウスの感染肺組織とCOVID-19患者の剖検肺をそれぞれ,PLA値を用いてZBP1とZ-RNAの局在がデルタ株で多く検出されたこと,さらにCOVID-19患者の剖検肺で認められるPLA値がウイルス力価と正の相関関係(r=0.691)にあることを示した。

 SARS-CoV-2の感染によって引き起こされた気道上皮の細胞死はネクロトーシスがアポトーシスよりも優勢に起きること,ネクロトーシスは感染細胞のみで,隣接細胞ではアポトーシスが起きること,感染細胞ではZBP1とZ-RNAがほぼ直接作用すること,それらの評価方法として株化細胞,初代細胞,剖検肺,hACE2トランスジェニックマウスへの感染実験,と多くの角度から証明されていることが印象的だった。


•NEJM

1)自己抗体
ポドサイト障害におけるネフリン自己抗体(Autoantibodies targeting nephrin in podocytopathies
 成人の微小変化型と原発性巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)や小児特発性ネフローゼ症候群は免疫介在性ポドサイト病であり,ネフリン自己抗体が注目されてきた,病的意義がわかっていなかった。今回ドイツが中心となり,イタリア,フランス,米国の国際多施設共同研究で,自己抗体がもたらす病態メカニズムの説明はがわかりやすい。様々な糸球体病のネフリン自己抗体を調べ,成人患者357症例,小児患者182症例,対照群は健常成人67例と小児50例を合わせた117症例について検討した。検査方法はネフリン組み換えタンパク質を用いて血清もしくは血漿での免疫沈降を行い,プロテインGで集めたものを電気泳動して,抗ネフリン抗体で染色し,ELISA法で測定した。

 成人症例では微小変化型では44%,原発性FSGSでは9%にネフリン自己抗体を検出し,IgA腎症(別の抗原に対する自己抗体によって誘発されるIgA腎症については抗体によって自己抗体産生を抑制する臨床治験がTJH#258に紹介されている),ANCA関連糸球体腎炎,ループス腎炎,健常者では検出されなかった。また,ネフリン自己抗体陽性群の69%では顕著な蛋白尿などを認め,小児患者は発性ネフローゼ症候群の80%でネフリン自己抗体が陽性であり,その多くで顕著な蛋白尿が認められた。また,免疫抑制薬を処方されていない活動性疾患症例というくくりで見ると微小変化型の69%,特発性ネフローゼ症候群の90%でネフリン自己抗体が見つかった。

 抗体価は成人と小児のそれぞれで,寛解と再燃による疾患活動性の指標である蛋白尿の程度とよく相関していた(Fig. 2, Fig. 3)。また,ネフリン抗原をマウスに免疫したところ,ネフローゼ症候群が誘発され,微小変化型に近い所見,ポドサイトのスリット膜へのIgG沈着,ネフリンリン酸化,細胞骨格の大きな変化が再現され,ネフリン自己抗体には病原性があると考えられた(Fig. 4)。

 一般的に自己抗体には病原性を伴うものとそうでないものがあり,前者の代表的なものでは呼吸器では肺胞蛋白症(新潟大学の中田先生),皮膚では尋常性天疱瘡(慶応大学の天谷先生),消化器では潰瘍性大腸炎(京都大学の塩川先生)などが知られており,日本の研究者も大きく貢献してきたことは特記しておきたい。ネフリン自己抗体を定量することで病勢を判断できることは,本邦からも東京女子医大から病勢判断に利用できることが報告されていた(リンク)が,今回,マウス実験で抗ネフリン自己抗体を誘発することで病態を再現できたことも意義が大きかったように思われる。自己抗体がまだ見つかっていない様々な疾患があると思われるので,診療上も有用な難治性疾患の自己抗体が今後も見つかることを期待したい。

今週の写真:
研究室で開催したBBQ大会,今年はスイカが割れる瞬間を見事にとらえることができました。
 
(後藤慎平)