•Nature
1)免疫遺伝学:Article
異なる免疫細胞タイプ間の相互作用が免疫形質の進化を促進する(Interactions between immune cell types facilitate the evolution of immune traits) |
イスラエルのハイファにあるイスラエル工科大学からの報告である。
自然淘汰による進化には,環境への適合に影響する形質が個体間で異なっていることが不可欠である。したがって,ある系の進化速度は,選択可能な変異を生み出す能力「進化可能性」に依存している。そこで筆者らは,哺乳類で最も進化スピードが速いと思われる免疫系に着目し,免疫系の進化可能性に重要な因子は,異なる免疫細胞タイプによる相互作用であることを示した。
まず筆者らは,遺伝的に多様なマウス54系統の骨髄を用いて,9つの免疫細胞種(造血幹細胞,NK細胞,CD8陽性T細胞,CD4陽性T細胞,全B細胞,プロB細胞,後期B細胞,顆粒球,単球)それぞれの細胞数を計測した。骨髄を用いたのは,ヒトでは採取するのが難しいため,と説明されている(
図1)。
次にマウス遺伝子のエクソーム解析を行い,骨髄の細胞種毎に細胞数と関連するエクソン変異を解析し,そのエクソン変異を有する遺伝子として6,902個同定した(
図2)。
そして
図3では,これら6,902個の遺伝子について,その発現量を調べた。その結果,骨髄の細胞種毎に細胞数と関連する遺伝子として,285遺伝子が同定された。285遺伝子の9割の257遺伝子は,細胞周期などに関わる遺伝子で,その細胞種自身のみに関与する「
cyto-cys」と考えられた。残り28遺伝子が「
cyto-trans」で,エクソン変異でその細胞種の細胞数と関連が高いとされたにもかかわらず,その細胞種での発現量が低かった遺伝子,すなわち他の細胞種の高発現によってその細胞種の数に影響を及ぼしている遺伝子であった。
図4では,この「
cyto-trans」遺伝子のエクソン変異が,他の細胞種に広く影響を与え,免疫細胞の進化に寄与していることを示している。最後に今回マウスで見つかった「
cyto-trans」遺伝子のエクソン変異が,ヒトの血液検体データにも当てはまることが述べられている。
ゲノム解析と発現解析の組み合わせによって進化を論じる,というコンセプトが秀逸な論文である。忙しい方は,図3aと図3bだけを見れば,本論文のコンセプト「cyto-cys」と「cyto-trans」が理解できる。
•Science
1)代謝学:RESEARCH ARTICLE
胎児期のホロドモールと成人2型糖尿病胎児期(Fetal exposure to the Ukraine famine of 1932–1933 and adult type 2 diabetes mellitus) |
米国ニューヨークのコロンビア大学からの報告である。1932〜1933年にウクライナで起きた大飢饉「
ホロドモール(ウクライナ語で飢餓による死亡を意味する)」では,400万人以上の超過死亡が短期間で認められた。それから70年が経ち,今回筆者らは,胎児としてホロドモールを経験したコホートについて,ホロドモールが2型糖尿病の発症に与えた影響について検討した。1930年から1938年にかけての出生データと,2000年から2008年にかけてウクライナ国内の糖尿病レジストリに登録された2型糖尿病患者データを統合することによって,この生態学的研究を行った。
まず図1では,超過死亡率を基に,ウクライナ全土を飢饉が極端にひどかった3地区,とてもひどかった9地区,ひどかった4地区,飢饉がなかった7地区の4種類に分類した。当時のウクライナ全土の出生者数に占めるそれぞれの地区の出生者数の割合は,極端にひどかった3地区で14.5%,とてもひどかった9地区で38.8%,ひどかった4地区で22.2%,飢饉がなかった7地区で24.4%であった。
図2の探索研究では,1934年上半期に出生した人で,2型糖尿病と診断されたオッズ比が跳ねあがっていることがわかった。そのオッズ比は,飢饉の程度と相応して高くなっており,極端にひどかった3地区で2.15倍増加,とてもひどかった9地区で1.93倍増加,ひどかった4地区で1.48倍増加だったのに対し,飢饉がなかった7地区で増加は認められなかった(表1)。
図3では,1933年の超過死亡(すなわち飢饉のひどさ)と,2型糖尿病のオッズ比の回帰が,地区ごとに示されている。妊娠初期における飢饉の程度がひどかった地区は,2型糖尿病のオッズ比も高かった。
出産前栄養と2型糖尿病の関連は,1944〜1945年オランダや1959〜1961年中国の飢饉でもこれまで言われているとのことで,その分子機構についてはよくわからないものの,歴史と紐づけた科学研究の重要性が改めて示された。
•NEJM
1)感染症学:SPECIAL ARTICLE
COVID-19急性期後の後遺症(Postacute Sequelae of SARS-CoV-2 Infection in the Pre-Delta, Delta, and Omicron Eras) |
米国バージニア州のセントルイス退役軍人医療サービスからの報告である。この研究では,退役軍人医療サービスのデータベースを用いて,2020年3月から2022年1月までにSARS-CoV-2感染した441,583人の退役軍人コホートを構築した。そして,感染後1年間のCOVID-19後遺症(いわゆる「ロングCOVID」)を,前デルタ期,デルタ期,オミクロン期の3つの時期に分けて検討した。
その結果,オミクロン株になってからCOVID-19後遺症は減ってきており,オミクロン期と前オミクロン期(前デルタ期+デルタ期)を比べると,1年間100人当たり5.23人(95%信頼区間,4.97から5.47)減少していた。そしてその減少効果の28.11%(95%信頼区間,25.57から30.50)はオミクロン株への変化によるもので,71.89%(95%信頼区間,69.50から74.43)はワクチン接種によるものであったと推計された(
図3C)。
「なんとなく最近ロングCOVIDの患者さん,いらっしゃらないわけではないが,以前より減ってきているような気がする」という肌感覚を明快に説明してくれるまさにタイムリーな論文である。今後この傾向がどのように変化していくのかに注目していきたい。
今週の写真:「DNA,脂肪酸,2と1/2カップのつぶしたバナナできたミニオン」のドーナッツは予想通りバナナ味でした。
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(TK)