最近自分の興味がBrain scienceにあり,面倒な専門用語訳探しをGoogle AI自動翻訳で瞬時に全部日本語訳で読むことが多い。これが結構良い。Abstractを「抽象的な」と訳すのは愛嬌だが,本文訳は数年前より格段によい(AttentionやTransformerによる)。これを全文コピーし,Wordへ「元の形式を保持」でペーストすると,タイトルの文字ポイントやリンクが維持され,さらに全体をHG丸ゴシックM-PROに変えて保存する。
今回は呼吸器関連2題を取り上げたが,このAI翻訳方式を使った。翻訳のいい点は,漢字による斜め読みが可能,議論ポイントをすぐ目で探せるなどある。便利な世の中になった,皆様はどの程度ご利用か?
•Nature
1)感染症・炎症
異常な免疫上皮前駆細胞ニッチがウイルス性肺後遺症を引き起こす(An aberrant immune–epithelial progenitor niche drives viral lung sequelae) |
コロナ(COVID-19)流行で記憶に新しいのが,「肺炎」といわれるコロナ感染後,後遺症(sequelae)として見られる肺線維化である。
当然この病態への関心は高く,
TJH#151(2021年7月)においては,snRNAseqによる肺の炎症としてKRT8陽性のpre-AT1 transitional cell state(PATS)の病態や,IPBLP(intrapulmonary basal-like progenitor)細胞などが取り上げられている。さらに単球・macrophage由来IL-1β,上皮細胞由来IL-6などが病態原因として述べられている。
本論文は9月4日のonline掲載論文である。ここでは3年を経過し,上述のウイルス感染後肺病態をマウスモデルとしても検討している。米国バージニア大学のグループの報告である。
彼らは,実際にコロナ感染後肺線維化(post-acute sequelae of SARS-CoV-2:PACS)患者の肺移植時検体などを用いて,まず病態の詳細病理像を述べる。正常肺胞上皮AT1,AT2の減少,肺の大部分がCD8
+T細胞,KRT8陽性を特徴とする異形成上皮細胞病態が多い。またインフルエンザ後肺線維症と共通の遺伝子発現であることを指摘する(
Fig.1)。これらは日常に目にするIPFとは発現遺伝子が異なるという。
次に研究者らは,この病態解析のためのマウスモデル形成を試みる。
コロナ感染マウスモデルとして“MA-10 SARS-CoV-2”を使用し,C57BL/6,BALB/c系統で若年・加齢マウスで病態形成を試みるが,明確な結果が得られなかった。
しかし異形成上皮細胞病態がインフルエンザH1N1 A(IAV)感染病態との類似に気づいた。インフルエンザ感染後のAT1・AT2細胞の減少,KRT8
+病巣の出現などを見,かつ肺の変化は高齢マウスで顕著という。すなわちIAV感染加齢マウス肺線維化がヒトのPASC-PFと病理組織学的に一致すると指摘する。この時抗CD8
+抗体を使用すると,KRT8
+細胞が減少し,proSP-C
+細胞が増加,肺機能も改善を示している(
Fig. 2)。
次に肺常在CD8
+T細胞が異形成上皮前駆細胞病態に関与する点を,さらに空間プロファイリングで解析している。抗CD8
+抗体処理で,KRT5,KRT8陽性細胞が減少し,健常肺への回復傾向が示される。それは単球由来Mφ,CD4
+T細胞,B細胞,NK細胞が異形成修復領域に集まり,抗CD8
+抗体でCCL2,CX3CR1
+が減少する所見を示している(
Fig. 3)。
研究者はこの異形成修復ニッシェを「CD8
+T cell-macrophage axis」病態と命名し,その病態改善への解析をしている。IAV感染加齢マウスに見られるCD64
+MφはproIL-1β発現が増強し,それはCD8
+T,TNF
+CD8 TによるIFNγ,TNFの影響と仮説し,まずin vitro AT2細胞培養モデルで検討した(
Fig. 4)。
こうした病態形成細胞群の発現遺伝子解析により,抗IFNγ,抗TNF抗体はKRT5
+・KRT8
+細胞を抑制し,AT1・AT2細胞群を回復させることを示している。一方,病巣Mφ由来のIL-1βに対し,抗IL-1β抗体でもKRT5
+・KRT8
+領域が減少,PDPN
+,proSP-C発現の回復を示し,肺機能も改善した(
Fig. 5)。しかしIL-6に関しては抗IL-6抗体による有意性は見られなかったという。
米国では家畜への鳥インフルエンザ流行が懸念されている。本論文は,コロナ感染後のPASC病態解析から,加齢マウス・インフルエンザモデルでのPASC病態を解析した。さらに抗IFNγ,抗TNF抗体また抗IL-1β抗体による病態改善,さらにはアナキンラ(
IL-1βR拮抗薬)やJAK阻害バリシチニブの使用可能性も言及している。
「CD8+T細胞-マクロファージ軸」というウイルス感染肺後遺症へのコンセプトを提示し,具体的な治療法を示唆する点で注目すべき論文であると考える。
•Science
1)皮膚透過技術
吸収分子を用いて生きた動物の光学的透明性を実現(Achieving optical transparency in live animals with absorbing molecules) |
メディアでもニュースになった論文である。目の前のものが見えるということは,光の反射を網膜細胞で捉えているという事実は知りながら,では皮膚を通して内臓が見えない理由は? というと,普通は正確には答えられないだろう。
この論文はDiscussionの最初の“We report a counterintuitive finding: Strongly absorbing dye molecules, when applied topologically biological tissues, can reduce the intrinsic light scattering within these tissues”という文章にすべて要約されている。残念ながら,理論的背景はMDとして十分には理解できない。
米国Stanford大学からの報告である。
Research Article Summaryの図に上記の概念が示してある。皮膚の中の多様なタンパク質が,実は入ってきた光を散乱している。また屈折率(refractive index: RI)も皮膚の構成成分で異なる(RIは水性成分では低く,脂質やタンパク質成分では高い)。ところがこの散乱を吸収し,かつRIを水性より高くする溶液を使えば,皮膚の中の散乱が抑えられて透過性が得られるという。この辺の詳細は,論文の理論編の章で細かく論じてある。
この物理特性を変える最適物質が,実はFDAでも承認のtartrazine(
Wiki)であり,人工食品着色料として広く使用されているという。EFSAは2g/kg Wtまで安全とし,“FD & C Yellow 5”と呼ばれている。吸収波長は428nm(Fig. 2)であるので,長波長側の赤い色が少しつく。候補となるこうした吸収分子の表がTable 2にある。その四番目がtartrazineである。
まずin vitroで散乱性ゲルや鶏胸肉にtartrazine加え,透過性の亢進を示す(Fig. 3)。またScatter phantomに対してtartrazine濃度を上昇させると,透過度が向上することも示される(Fig. 4)。
最後にin vivoとして,マウスの剃毛した腹部皮膚などにアガロースに混溶したtartrazineを塗布すると,約5分後から腹部内臓が肉眼視できるようになる(Fig. 5)。研究者は腸管神経系をtdTomatoで染めるマウス〔(ChAT)-Cre-tdTomato〕を用いて,神経と腸の動きの計測ができるとデータで示される。
もちろん,Fig. 5Aにあるように,マウス皮膚が500から800μmであるので比較的容易に腹部内臓が透過視できている。しかしマウスを用いてのpre-clinicalな研究には応用できそうであるが,ヒトにおける臨床応用はどうなるか?
我々の直感に反して,生物材料の透過性を変化させる現実は理解できたが,その研究応用がどうなるのか?今後の展開が期待される。
•NEJM
1)喘息/デペモキマブ
好酸球性表現型の重症喘息に対するデペモキマブの年2回投与(Twice-yearly depemokimab in severe asthma with an eosinophilic phenotype) |
やはりタイトルの“Twice-yearly”には驚く。GSK社の新規抗IL-5抗体depemokimabの臨床試験報告である。SWIFT-1,SWIFT-2の成績のニュースは耳にしたが,データを見ると驚く。だがdepemokimabの開発基礎データ論文がない。2021年の第一相試験論文(
DOI: 10.1111/bcp.15002)には“extended half-life and improved affinity for IL-5”とある。mepolizmabと同じエピトープ認識ながら,29倍の対IL-5効果という。血中好酸球を抑制し,50%前値に戻るのにdepemokimabで169日,mepolizmabで29日という圧倒的な差である。
Replicateの臨床試験の詳細はサプリメント中にあるが,2試験で計760人が2:1でランダム化され,502人がdepemokimab,260人がプラセボである。enrollは,過去12カ月月の好酸球>300/μL,あるいはスクリーン時に好酸球>150/μLで,中・高用量吸入グルココルチコイド使用下に過去12カ月に急性増悪で経口グルココルチコイド使用が2回以上と,結構厳格なものである。
成績として増悪の年間発生率はSWIFT-1でdepemokimab vs placeboが0.46(0.36~0.58)vs. 1.11(0.86~1.43),p<0.001。SWIFT-2でも同様な成績である(
Fig. 1,
Table 2)。安全性,有害事象での大きな問題はなさそうである。
IL-5に関する抗体製剤として,mepolizmab(ヌーカラ),reslizmab,benralizmab(ファセンラ,抗IL-5受容体抗体)に加え,四番手となる。depemokimabのextended half-lifeにどうした処理がなされているかの記載はないが,同様の製造処置が可能となれば抗体製剤の応用がさらに多方面で展開する可能性を予想させる。なおbenralizmabはHES(好酸球増多症候群)にも適応があり,
TJH#42で紹介している。
今週の写真: Google Gemini(=Imagen 3)に胸腔をAI作画させた。Prompt「解剖図,胸腔,肋骨・横隔膜に囲まれた空間,肺は除いて」。しかしどうしても肺が付いてくる!考えてみれば,LLM資料に肺のない胸腔の図などないのでないか? どなたか効果あるPromptで,上手に肺のない胸腔の図が作成できたら,是非教えてください。 |
(貫和敏博)