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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 298

公開日:2024.10.21




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間欠的なダイエットは動脈硬化を悪化させる/免疫チェック阻害薬の効果を左右するエピジェネティックス/限局期小細胞肺癌の補助療法

•Nature    

1)心血管生物学:Article
ヨーヨーダイエットは免疫系を再プログラムすることで心血管疾患を加速させる(Yo-yo dieting accelerates cardiovascular disease by reprogramming the immune system
DOI: 10.1038/d41586-024-03030-z

 ダイエットと非ダイエットの繰り返し(ヨーヨーダイエット)は体に悪いことは2017のN Engl J Med誌に報告されているが,その機序は不明だった。フランスのパリ・シテ大学から「Alternating high-fat diet enhances atherosclerosis by neutrophil reprogramming」と,イギリスのケンブリッジ大学から「Early intermittent hyperlipidaemia alters tissue macrophages to fuel atherosclerosis」と,本号では2つの独立したグループから,マウスに高脂肪食と普通食を交互に与えて血管の粥状硬化を調べた研究が発表された(図1)。
 フランスグループでは,高脂肪食4週,普通食8週,そして再び高脂肪食4週を与える交互群と,普通食8週後に高脂肪食8週を与える対照群とを比べている。一方イギリスグループでは,高脂肪食1週後に普通食2週を1サイクルとし5サイクル繰り返し最後に高脂肪食1週を追加する頻回交互群と,普通食10週後に高脂肪食6週を与える対照群とを比べている。
 フランスグループとイギリスグループで,高脂肪食と普通食を繰り返すスケジュールは異なるものの,結果は同様であった。それぞれのグループの2群間で,マウスの体重や血中のコレストロール値に差は認められたかったものの,対照群に比し,交互群や頻回交互群では血管の粥状硬化が顕著であった。その機序として,フランスグループは好中球による炎症を,イギリスグループはマクロファージによる炎症をそれぞれ原因として示している。
 この理屈が正しければ,宴会が間欠的に続く忘年会シーズンは,宴会のない休養日もコッテリした宴会食を食べた方が動脈硬化には良い,ということになるのかもしれません。

•Science      

1) 免疫学:RESEARCH ARTICLE
クローン性造血のエピジェネティック制御因子が免疫療法におけるCD8 T細胞の幹細胞性を制御する(Epigenetic regulators of clonal hematopoiesis control CD8 T cell stemness during immunotherapy
DOI: 10.1126/science.adl4492

 米国メンフィスのセントジュード小児研究病院からの報告である。T細胞においてクローン造血(CH/clonal hematopoiesis)を制御している因子(Dnmt3a,Tet2,Asxl1)を除去するとヒストン脱ユビキチン化が抑制され,そのクロマチン構造が開いて,T細胞の自己複製能・幹細胞能に関連する因子(TCF1,LEF1,MYB)の転写活性が亢進する。結果的に免疫チェック阻害薬に反応するT細胞が増えることを示した(SUMMARYの図)。
 図1では,クローン造血の制御因子(Dnmt3a,Tet2,Asxl1)が,T細胞の自己複製能・幹細胞能も制御していることを示している。
 図2では,クローン造血の制御因子からAsxl1を取り上げている。Asxl1の遺伝子欠損マウスでは,T細胞のエフェクター機能が保たれていることを慢性リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)感染モデルで示している。
 図3では,Asxl1を除去すると,ヒストン2Aの119番リジン残基の脱ユビキチン化が起こらなくなり,そのクロマチン構造が開くことで,T細胞の自己複製能・幹細胞能に関連する因子(TCF1,LEF1,MYB)の転写活性が上昇することを示している。
 最後に図4では,担がんマウスモデルを用いて,Asxl1の遺伝子欠損マウスではPD-L1阻害薬がより効果的であることを示している。また臨床検体を用いた検討でも,ASXL1低発現者は高発現者より免疫チェック阻害薬による予後改善効果が高かった。
 どのような方に免疫チェック阻害薬の効果が期待できるのかは,臨床上大きな関心事であり,様々な観点で次々と研究成果が報告されている。まさに群雄割拠状態であり,今回のエピジェネティック制御因子も含めて,どの基礎的知見が今後臨床応用まで進めるのかを注目していきたい。

•NEJM

1)呼吸器病学:SPECIAL ARTICLE
限局期小細胞肺癌に対する化学放射線療法後のデュルバルマブ(Durvalumab after chemoradiotherapy in limited-stage small-cell lung cancer
DOI: 10.1056/NEJMoa2404873

 オランダのアムステルダム大学からの報告である。限局期小細胞肺癌に対する白金製剤ベースの標準的な同時化学放射線療法後を対象に,抗PD-L1抗体であるデュルバルマブによる化学放射線後補助療法の効果を検証した第3相二重盲検無作為化プラセボ対照試験である。プラセボ群とデュルバルマブ群に加え,抗CTLA-4抗体であるトレメリムマブとデュルバルマブを併用した三群で行われた試験である。今回はデュルバルマブ+トレメリムマブ群の盲検性は維持したまま,プラセボ群とデュルバルマブ群で解析が行われた。
 264名がデュルバルマブ群,266名がプラセボ群に割付けられた。デュルバルマブ群の全生存期間は,プラセボ群と比較して有意に延長し(中央値 55.9カ月対 33.4カ月),ハザード比 0.73であった。中間解析ではあるが,デュルバルマブ群の3年生存率は56.5%であった。グレード3または4の肺臓炎または放射線肺臓炎は,デュルバルマブ群3.1%,プラセボ群2.6%と,ややデュルバルマブ群で多かったものの,デュルバルマブ群のグレード3または4の有害事象は,おおむねプラセボ群と同程度の発現率であった(リンク)。
 ここ四半世紀以上の間,限局期小細胞肺癌の5年生存率はずっと30%前後で推移してきたことを考えると,今回のADRIATIC 試験の結果は大きな進歩である。トレメリムマブを併用することによって,限局期小細胞肺癌患者の生存率がさらにどこまで改善されるのかが注目される。

今週の写真:東京ドーム


(TK)