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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 299

公開日:2024.10.31




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PACSによる肺線維化進行のメカニズム/腫瘍細胞のリプログラミングによる免疫療法/新規非小細胞肺癌治療

•Nature

1)免疫学:Article
異常な免疫–上皮前駆細胞ニッチはウイルス感染後肺後遺症を引き起こす(An aberrant immune–epithelial progenitor niche drives viral lung sequelae
DOI: 10.1038/s41586-024-07926-8

 実はこの論文は#294で紹介されている。筆者がぼーっとしていたことから気づかずに原稿にしてしまい再掲載をお願いすることにした報告である。ご容赦を。

 COVID-19後の後遺症を表すPACS(post-acute sequela of SARS-CV-2)であるが,その中でも呼吸器に関連する問題として肺線維化が進行するPACS-PFが知られる。本邦でどの程度の症例が存在するのかは不明だが,米国においては最近の肺移植例の10%程度はCOVID-19関連らしく大きな医療上の問題と言えるだろう。こういった線維化の進行はCOVIDに限られたものではなく,インフルエンザなどのウイルス肺炎感染後にしばしば経験されることから過去にも検討が行われ,異常な免疫反応や臓器再生不全が原因である可能性が示唆されてはきたが,長期的に線維化がなぜ発生するのかは十分に解明されてなかった。今回,米国バージニア大学のグループから免疫-上皮前駆細胞からなる微小環境が,そのメカニズムに関わることが報告された。

 まず,PASC-PFにおける病的な微小環境を同定するために,COVID-19後に肺移植に至った例の肺組織を空間トランスクリプトミクスと多重免疫染色で評価している(Fig. 1)。CD8+T細胞と異形成性上皮前駆細胞(KRT5+,KRT8high)が,線維化領域に集中して蓄積しており特徴的な微小環境(ニッチ)を形成していることがわかった。次にマウスモデルでの再現を試みたが,SARS-CoV2感染ではモデル作成がうまくいかず,ウイルス感染後肺線維症モデルとしてH1N1インフルエンザウイルスA(IAV)でモデルを用いている(Fig. 2)。このモデルでは老齢マウスで,ヒト肺に認められたものと同様のニッチ形成と線維化の進行が再現されたが,若年マウスでは早期に回復することが観察され,加齢による肺の再生能力への影響があるものと考えられた。更に,老齢マウスモデル肺での空間トンランスクリプトミクスでは,CD8+T細胞とマクロファージが異形成性上皮細胞と近接して存在することが明らかになり,この状況が異形成性上皮細胞の持続的な存在を促し病的な肺再生に寄与していることが示唆された(Fig. 3)。次に,線維化に関わる炎症経路として古くから知られるIL-1βの役割を検証している。IAVモデルにおいて抗IL-1β抗体を投与することによりKRT8high異形成性上皮細胞の割合が顕著に減少し,正常肺胞上皮細胞の増加に伴う肺線維化の軽減,ひいては肺機能の改善が示された(Fig. 4)。さらに同様の効果をIFNγとTNFαの中和抗体でも示した(Fig. 5)ことから,先行研究で示されていたCD8+ T細胞から分泌されるIFNγおよびTNFがマクロファージを刺激しIL-1βを誘導,これがKRT8high異形成性上皮細胞の持続的な存在を引き起こしていることが示された。
 これらの結果からは,各サイトカインの中和抗体や,シグナル分子を標的とした既存薬によるPASC-PFの抑制の可能性が提唱されている。

•Science

1)腫瘍免疫:Research Article 
生体内での樹状細胞へのリプログラミングによるがん免疫療法(In vivo dendritic cell reprogramming for cancer immunotherapy
DOI: 10.1126/science.adn9083

 がん免疫療法の効果を最大限に得るための研究が花盛りである。一般的に腫瘍細胞はその周囲の微小環境を免疫抑制的に誘導することから,ICIの効果が十分に発揮できないケースが存在するが,そのICIの有効性を規定する要因として腫瘍を排除する免疫反応を開始する際に重要な細胞であるタイプ1従来型樹状細胞(cDC1)が知られる。多くの腫瘍ではcDC1の数が非常に少ないことから,それを補うための戦略が検討されてきた。今回,スウェーデンのLund大学のグループから,腫瘍細胞をcDC1に直接的にリプログラムすることで,腫瘍内での抗原提示能を高め,特異的免疫応答を誘導する方法が報告されている。

 まずは,腫瘍内におけるリプログラムの実行と,その腫瘍免疫学的な現象の確認を行っている(Fig. 12)。すでに以前の研究(Sci Immunol 201820222023)で特定の転写因子(PU.1,IRF8,BATF3)が線維芽細胞や腫瘍細胞をcDC1様細胞にリプログラム()することが明らかになっていることから,これら3つを(PIB)をウイルスベクターで腫瘍に直接導入するマウスモデルを作成し,腫瘍細胞のcDC1様細胞へのリプログラミング,腫瘍内への免疫細胞の集簇,T細胞の活性化による腫瘍攻撃が行われていることを明らかにしている。腫瘍縮小効果については,PIB導入だけでも認められたが,ICI治療を追加することによりシナジー効果があることも示唆された。さらに,腫瘍内のT細胞応答をscRNA-seqとTCR解析により検討し(Fig. 3),リプログラム処理により多様なクローンの増加,特に腫瘍内での特定の腫瘍抗原を認識して応答するポリクローナルな活性化が示されことから,腫瘍特的な免疫記憶が確立されたことが示唆された。
 動物モデルでの腫瘍へのPIB導入効果が示されたことから,引き続いてヒトモデルでの確認が行われた。免疫不全マウスへヒトの癌を移植しPIB導入実験を行い,cDC1様細胞の形成と機能の獲得を確認し,ヒト腫瘍環境下でもリプログラミングが可能であることを示した(Fig. 4)。更に,実用化にむけた前臨床試験として,3次元スフェロイドモデルにおけるリプログラミングの条件検討(Fig. 5),効率的なベクターとしてのアデノウイルスベクターの有効性の検討(Fig. 6)を行っている。最終的にB6マウスへのマウスメラノーマ移植モデルを用いて,PIBによるリプログラミングの生体効果を確認した。PIB導入を受けたマウスでは腫瘍成長が顕著に抑制されCRになるマウスが増えた。またICIを併用した場合にはその効果を増強することも確認されている。更に,腫瘍内でのエフェクターT細胞の増加,腫瘍移植の再チャレンジでは腫瘍形成を当初から抑制することが観察され,免疫記憶が形成されることも確認された(Fig. 7)。

 ICI効果を増強する方向性に注目が向けられがちだが,今回の結果は腫瘍の遺伝子治療であり,半永久的に抗腫瘍免疫を記憶させる画期的な治療につながる可能性が示唆される。腫瘍の克服と免疫は非常に近しい関係にあることを改めて認識した。 

•NEJM

1)TKI:Original Article
治療歴のない EGFR 変異陽性進行非小細胞肺癌に対するアミバンタマブとラゼルチニブの併用(Amivantamab plus lazertinib in previously untreated EGFR-mutated advanced NSCLC
DOI: 10.1056/NEJMoa2403614

 進行期EGFR変異陽性肺癌の臨床はTKIの登場により大きく様変わりした。特に第3世代TKIであるオシメルチニブは,その効果とエビデンスの豊富さから最も汎用される薬剤であろう。しかしながらよく効く薬剤とは言えど,そのOSは38.6カ月とのことであり,いわゆる5生率は20%に満たないとされる。そこをアンメットニーズとして各社しのぎを削って薬剤開発を進めている。
 今回のNEJMにはEGFRとMETを標的とする二重特異性抗体であるアミバンタマブとEGFR-TKIであるラゼルチニブの併用療法の非小細胞肺癌における1次治療の結果が報告されている。
 対象は治療歴のないEGFR変異陽性(エクソン19欠失またはL858R)の局所進行または転移性NSCLC患者であり,無作為化の上でアミバンタマブ+ラゼルチニブ群429例,オシメルチニブ群429例,ラゼルチニブ群216例に振り分けられた。主要評価項目であるPFSはアミバンタマブ+ラゼルチニブ群が,オシメルチニブ群より有意に延長された(23.7 vs. 16.6 M,HR:0.70,95% CI:0.58 to 0.85,p<0.001)(Fig.1)。主な有害事象はEGFR関連毒性であり,薬剤中止率は,アミバンタマブ+ラゼルチニブ群10%,オシメルチニブ群3%であった。また,サブ解析では,アジア人における効果が優れる結果であった。
 このレジメンはすでに本邦で承認申請が行われており,間もなく私たちの選択肢として実臨床に導入されるであろう。

今週の写真:秋の里山
熊本の秋の里山です。彼岸花,栗,棚田とそろい踏みですが,真夏日の10月初旬でした。
(坂上拓郎)