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肺癌にKEAP1やSTK11に変異があるとPD-1/PD-L1阻害薬に抵抗性でCTLA-4阻害薬の併用のメリットがある/Long Covidにおける男女差と免疫機能/肺移植の総説
1)肺癌免疫療法
CTLA4の阻害はKEAP1/STK11に関連したPD-(L)1阻害薬抵抗性を防ぐ(CTLA4 blockade abrogates KEAP1/STK11-related resistance to PD-(L)1 inhibitors) |
DOI: 10.1038/s41586-024-07943-7
進行非小細胞肺癌(NSCLC)の治療では,まずドライバー遺伝子変異/転座があるかどうかで分類し,ドライバー遺伝子変異/転座が陰性の場合にはPD-L1検査による発現を調べ,PD-L1発現が少ない1%未満あるいは中等度の1〜49%では,免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を含む併用治療が選択されることが多い。有効性と毒性のバランスの問題,薬剤耐性が出現すること,および完璧なバイオマーカーがないことなどが現在も問題となっている。また,PD-1/PD-L1阻害薬に加えてCTLA-4阻害薬を投与する「ICIの2剤併用療法」は一部でより効果がでるが副作用も増えることから,2剤ICI併用療法にメリットのある患者選択に有用なバイオマーカーが求められている。
米国MDアンダーソンがんセンターからの本論文では,PD-1/PD-L1阻害薬の抵抗性とCTLA-4阻害薬の役割について検討された。まず,プラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1阻害薬を併用した際に(CDDP or CBDCA + Pemetrexed + Pembrolizumab),がん抑制遺伝子であるSTK11および/あるいはKEAP1の変異の有無で調べると,どちらの遺伝子についても変異があると予後が悪いことが確認された(Fig. 1)。
次に無作為化第III相POSEIDON試験〔(プラチナ製剤併用療法+PD-L1阻害薬+CTLA-4阻害薬)vs.(プラチナ製剤併用療法+PD-L1阻害薬)vs.(プラチナ製剤併用療法)〕のデータ(リンク)についてSTK11および/あるいはKEAP1の変異の有無で解析した結果を示した。PD-L1阻害薬デュルバルマブとCTLA4阻害薬トレメリムマブの2剤ICI併用は臨床的に有益だが,STK11および/あるいはKEAP1に変異がある患者ではデュルバルマブ単独では有益でなかった。STK11およびKEAP1の変異はどちらもPD-(L)1阻害に対する抵抗性の独立したドライバーであることが示された(Fig. 2)。
CRISPR-Cas9のライブラリーを遺伝導入した3LLマウス肺癌細胞を用いた実験系で,バイアスのないin vivoスクリーニングを行ったところ,PD-1阻害による治療耐性のメカニズムとして最も有意な遺伝子として,興味深いことにSTK11とKEAP1が最上位の遺伝子として示された。これらの個々の遺伝子不活化癌細胞で実験すると確かにPD-1阻害による耐性の原因となっていることが確認された。さらにPD-1阻害薬に加えてCTLA-4阻害薬を投与する「2剤ICI併用療法」においてスクリーニングを行うと,KEAP1遺伝子の不活化が2剤ICB併用の有効性の最も強力なゲノム予測因子であることが明らかとなった(Fig. 3)。
次に,PD-1/PD-L1阻害薬に加えてCTLA-4阻害薬を投与する2剤ICI併用療法の系におけるSTK11とKEAP1の役割についてマウスモデルを用いて検討した。その結果,抑制性の骨髄系細胞が優勢で,CD8+細胞傷害性T細胞は枯渇しているが,CD4+エフェクターサブセットは比較的少ないという特徴がみられた。2剤ICI併用は,CD4+エフェクター細胞を強力に働かせ,腫瘍の骨髄系細胞分画をiNOSを発現する殺腫瘍性表現型へと再プログラム化し,CD4+T細胞やCD8+T細胞と共に抗腫瘍効果に寄与した(Fig. 4)。
本研究成果は,STK11および/あるいはKEAP1の変異を有するNSCLC患者で,PD-1/PD-L1阻害薬に対する抵抗性を軽減するために(CTLA-4阻害薬を追加することで)2剤ICB併用(化学)免疫療法を用いることのメリットがあることを示していて興味深い結果である。
1)COVID-19
性差と免疫が新型コロナウイルス感染後遺症(Long Covid)の発症,症状の持続,解消に相関する(Sex differences and immune correlates of Long Covid development, symptom persistence, and resolution) |
DOI: 10.1126/scitranslmed.adr1032
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって,世界中で7億人以上がこれまでに感染し700万人以上が亡くなっている。このような急性感染だけでなく,その後に後遺症(Long Covid)になる人は感染者の5~10%でみられているという。Long CovidについてはTJH#301で紹介されている。
本論文は米国スタンフォード大学からの,このLong Covidにおける性差と免疫についての報告である。実はCOVID-19(急性感染)とLong Covid(後遺症)の両方で性差が報告されており,男性は通常より重篤な急性疾患を呈し疾患の重症度と死亡率が高く,女性はLong Covidを発症する可能性が高いことから,何らかの性差と免疫学的機序の関与が示唆されてきた。そこで,Long Covidを発症または回復した45人の参加者のコホートで,急性重症SARS-CoV-2感染中および感染後3カ月と12カ月に採取した血液サンプルのマルチオミクス解析(PBMCのscRNA-seqやCyTOF解析および血漿プロテオミクスなど)を行った(Fig. 1)。
後にLong Covidを発症する男性は急性感染中にTGF-βシグナル伝達経路の増強を示したのに対し,Long Covidを発症する女性ではTGFB1発現が減少していた(Fig. 3)。Long Covidを発症した女性は,回復した女性と比較して,急性感染中にXIST(Wiki)の発現が増加していた。XIST は,X染色体にコードされているノンコーディングRNAで,X染色体不活性化過程に重要であると同時に,自己免疫に関与する(リンク)ことが報告されている。
また,単球の表現型や活性化状態の変化など,Long Covidの多くの免疫特性も性別を超えて保存されていた(Fig. 4,Fig. 6)。NF-κBは,急性期および回復期の時点で多くの細胞型で発現が亢進していた(Fig. 7)。進行中のLong Covid患者では,リンパ球サブセット全体で ETS1 発現が低下し,T 細胞サブセットで細胞内IL-4が増加しており,ETS1の変化がLong Covidで異常に増加した2型反応(Th2様反応)を引き起こす可能性があることが示唆された(Fig. 8)。
本研究は45人の解析ではあるが,Long Covidにおける性差についての膨大なデータの解析結果であり,今後のLong Covidに対する性別ごとの対応や新規治療法開発につながる貴重な研究と考えられた。
1)総説
肺移植(Lung transplantation) |
肺移植は,もともとは実験段階から60年間かけて進歩してきたが,現在では生命を脅かす肺疾患に対する標準治療として認められるまでになってきている。わが国では11施設で施行されており(リンク),日本の脳死肺移植では,片肺移植は登録時60歳未満,両肺移植は登録時55歳未満(移植時の年齢ではない)の年齢制限が設けられている。
本総説は肺移植についてのレビューであり,「肺移植候補者の評価と選考」「ドナー肺の選択と利用」「肺の割り当て」「外科的アプローチ」「術後早期管理と合併症」「免疫抑制の戦略」「急性肺移植機能不全(acute lung allograft dysfunction:ALAD)」「慢性肺移植機能不全(chronic lung allograft dysfunction:CLAD)」「発がん」「生存率と長期的結果」「今後の方向性」,といった項目について,まとまって解説されている。
特に,肺移植における多職種チームの重要性(Fig. 1),肺移植に対するコンセンサスに基づく禁忌と転帰不良のリスク要因(Table 1),肺移植のプロセス(Fig. 2),慢性肺移植機能不全(CLAD)(Fig. 3)については各々わかりやすい図表で示されている。
今週の写真:日本が誇る世界遺産,奈良・東大寺の大仏様 |
(鈴木拓児)