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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 305

公開日:2024.12.10




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チェックポイント心筋炎の免疫応答/合成サプレッサーT細胞による免疫制御/出生前検査による母体癌の偶発的発見

•Nature 

1)免疫学:Article
心臓,血液,腫瘍にまたがるチェックポイント心筋炎における免疫応答(Immune responses in checkpoint myocarditis across heart, blood and tumour
DOI: 10.1038/s41586-024-08105-5

 マサチューセッツ総合病院を中心とする研究グループからの報告で,がん免疫チェックポイント阻害薬による副作用として発症する心筋炎(irMyocarditis)について,28人のirMyocarditis患者と41人の対照患者の3つの組織(心臓・血液・腫瘍)を用いて,単一細胞RNAシークエンシングやT細胞受容体解析で免疫応答の解析を行っている。
 図1では,irMyocarditis患者の心臓と血液の細胞を解析している。心臓組織では細胞傷害性T細胞,樹状細胞,炎症性線維芽細胞が増加し,血液では形質細胞様樹状細胞,通常型樹状細胞,B細胞系が減少,単核球系が増加していた。
 図2では,心臓に浸潤したT細胞とNK細胞を詳細に解析している。9,134個の細胞を7つのサブタイプに分類し,特にCCL5とNKG7を発現するCD8陽性T細胞が心筋炎患者の心臓組織で有意に増加していた。
 図3では,心臓,腫瘍,血液におけるT細胞受容体(TCR)を解析している。心筋炎患者の心臓で見られるTCRは腫瘍組織とは異なるパターンを示し,血液中の分裂増殖中のCD8陽性T細胞のTCRと一致する割合が致死的な症例では高かった。
 図4では,心臓内の樹状細胞とマクロファージを解析している。9,824個の細胞を8つのサブタイプに分類し,通常型樹状細胞(cDC)の増加は心筋トロポニンT値と相関していた。また,免疫染色により,これらの細胞がCD8陽性T細胞と近接して存在することも確認した。
 最後に図5では,心臓の線維芽細胞を解析している。6,701個の細胞を7つのサブタイプに分類し,特にCXCL9とHLA-DRAを発現する炎症性線維芽細胞が心筋炎患者で増加していた。これらの細胞は活動性の心筋炎症例でのみ検出され,心筋トロポニンT値と相関していた。
 がん免疫療法の副作用として,頻度は高くないものの,発生すると致死的となりうる心筋炎について,最新の分子生物学的手法を用いて解析した論文である。今後の予防法開発につながることが期待される重要な知見と思われます。

•Science        

1)細胞工学:RESEARCH ARTICLE
局所的に標的化された免疫防御プログラムを実行する合成サプレッサーT細胞の工学的研究(Engineering synthetic suppressor T cells that execute locally targeted immunoprotective programs
DOI: 10.1126/science.adl4793

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究グループからの報告である。筆者らは従来のCD4陽性T細胞に合成Notch受容体を導入し,抗炎症性物質を産生する人工的な制御性T細胞(抑制性T細胞)を作製した。Notchの膜貫通ドメインと細胞内ドメインに,例えば抗CD19受容体を合成した合成Notch受容体を使用した場合,CD19発現細胞を認識することによって,Notch下流に仕込んでおいたpayload「搭載物」が発現する仕組みである。これにより,腫瘍免疫療法で使用されるCAR-T細胞による正常組織への攻撃や移植片拒絶反応を,全身性の免疫抑制をかけることなく局所的に抑制できることを示している(PERSPECTIVESの図およびSUMMARYの図)。
 図1では,合成Notch受容体を導入したCD4陽性T細胞において,payloadとして抗炎症性サイトカイン(TGFβ1やIL-10)と炎症性サイトカインの除去機能(CD25)を組み合わせることで,より効果的にCAR-T細胞の活性を抑制できることを示している。
 図2では,CD25とTGFβ1を同一の細胞で産生することが,抑制効果を高めるために重要であることを示している。CD25はIL-2を消費するとともに,抑制性T細胞の増殖を促進し,結果としてTGFβ1の産生をさらに増加させた。
 図3では,マウスの両側に異なる腫瘍(CD19陽性とCD19陰性)を移植し,合成抑制性T細胞がCAR-T細胞の攻撃を局所的に制御できることを示している。CD19陽性の腫瘍のみが保護され,全身性の免疫抑制は起こらなかった。
 図4では,人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製したベータ細胞オルガノイド(事前にモデル抗原としてCD19を発現させてある)を用いて,合成抑制性T細胞がCAR-T細胞による細胞障害を防ぐことを示している。抑制性T細胞は,CAR-T細胞の周囲に集まり,局所的な免疫抑制環境を形成した。
 図5では,マウスの腎臓被膜下に移植したベータ細胞オルガノイドが,合成抑制性T細胞によって保護されることを示している。保護されたオルガノイドは,グルコース刺激に応答してインスリンを分泌する機能を維持していた。
 最後に図6では,合成抑制性T細胞の3つの治療応用の可能性を概念図として示している。1)CAR-T細胞による正常組織への攻撃を防ぐNOTゲートとしての使用,2)移植片拒絶反応の予防,3)自己免疫疾患(1型糖尿病など)における組織特異的な免疫抑制の実現。
 移植医療やCAR-T細胞療法などの大きな課題である全身性の炎症性副作用を克服する革新的なアプローチを感じさせる論文ではあるが,図6で示している可能性を実現させるためには,それぞれ1)正常組織特異的な抗原,2)移植片(allo-transplant)に発現する抗原,3)膵島などの標的組織特異的な抗原をそれぞれ用意する必要があり,実現に向けた大きな課題と思われる。

•NEJM

1)周産期医学:SPECIAL ARTICLE
出生前cfDNAシーケンスと母体癌の偶発的発見(Prenatal cfDNA sequencing and incidental detection of maternal cancer
DOI: 10.1056/NEJMoa2401029
 
 米国国立衛生研究所(NIH)からの報告である。無侵襲性出生前遺伝学的検査(NIPT)である胎児染色体異常スクリーニング検査を受け,異常結果を示した妊婦をコホートとして,潜在的な悪性腫瘍の検出を調べた研究である。
 方法として,北米の12の検査機関でNIPTの異常結果や判定不能結果を示した妊婦または産後2年以内の女性を対象に,全身MRI,血液検査,腫瘍マーカー検査,便潜血検査,家族歴聴取,身体診察を含む統一されたがんスクリーニングプロトコルを実施し,研究目的のcfDNA(cell-free DNA)シークエンシング解析も行った。主要評価項目は,がんスクリーニング評価後のがんの存在である。
 完全なデータが得られた107人の参加者のうち,52人(48.6%)にがんが発見された。そのうち最も多かったのはリンパ腫(31人,59.6%)で,次いで大腸癌(9人,17.3%),乳癌(4人,7.7%)であった。全身MRIのがん検出における感度は98.0%,特異度は88.5%であった(Table 2)。一方,身体診察や血液検査はがんの特定に限界が認められた。研究用cfDNAシークエンシングでは,3つ以上の染色体における複数のコピー数増減を示した49人のうち,47人(95.9%)にがんが存在し,このパターンががんを示唆する重要な指標となることが示唆された。
 NIPTで異常結果を示した妊婦の約半数に潜在的ながんが発見されたことは,驚くべき結果である。胎児染色体異常スクリーニング検査を受けた妊婦というバイアスがコホートにあるものの,cfDNAを用いたがん検診の時代を想起させる論文である。

今週の写真:天ざるを頼んだら,おそばより明らかに天婦羅の方が多めで,満腹となりました。

(TK)