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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 306

公開日:2024.12.19




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人工衛星を用いた地球規模の解析2つ:降雨と植生,河川の変化/週1回のインスリン治療

•Nature

1)降雨と植生
地球規模の植生は日々の降雨パターン変動に強く依存する(Large global-scale vegetation sensitivity to daily rainfall variability

 この研究は,米国NASAのゴダード・スペースセンターからの報告である。気候変動による降雨パターンの変化が地球規模の植生に与える影響を定量的に示し,気候変動の影響を評価したもので,地球規模の植生と炭素循環に対する気候変動の影響という新たな視点から捉えている。
 従来の研究では年間降水量が植生に与える影響が多く研究されてきたが,日々の降雨の変動が植生にどのような影響を及ぼすかについては不明確であった。そのため,本研究では日々の降雨変動(降雨頻度と強度)が,年間降水量とは独立して植生の機能(光合成と成長)にどの程度影響を及ぼすのかを調査している。
 複数の衛星データを利用して,植生の光合成活動やバイオマスの変動を分析。また部分最小二乗回帰を使用して,日々の降雨変動の影響を年間降水量や他の気候要因(例:太陽放射,地表温度,大気湿度)から解析している。その結果,世界の植生の42%の陸地で,日々の降雨変動への植生感度は,年間降水量への感度とほぼ同等の大きさ(約95%)であったことを指摘。図1では植生が「日々の降雨変動」(降雨頻度と強度)と「年間降水量」に対してどれほど敏感に反応するか地理的に可視化し,植生感度が特に顕著な地域(アフリカ南部やオーストラリアの乾燥地域など)を特定している。また降雨頻度と強度の変化が,湿潤地と乾燥地で異なる影響を及ぼすことも強調している(図3)。湿潤地(年間降水量1,500mm以上)では,降雨頻度の低下が植生指数の減少を引き起こす傾向。乾燥地(年間降水量500mm以下)では,降雨頻度の低下が植生指数の増加をもたらす。つまり,草地やサバンナのような乾燥地域では降雨強度の増加が有益だが,湿潤森林では逆にストレス要因となりうることを示している。
 本研究は,以下のことにつながる重要な成果である。①植生の光合成は地球の炭素循環の主要な要素であるため,炭素循環モデルの精度向上や機構変動の影響的評価への強化につながる。②降雨の変動は,農業の生産性や作物の収量に直接関係するため,食料安全保障や農業の適応戦略に対する洞察することができる。③森林や農業管理,また水資源管理など地域ごとの気候変動適応政策の設計にも期待されている。
 TJHack #101で森林が世界に雨と風を供給する論文を紹介しているので関連して参照ください。

•Science

1)河川の変化
世界の河川の形状と機能は変化している:水流量は上流で増え,下流で減少(More flow upstream and less flow downstream: The changing form and function of global rivers

 本研究は,米国シンシナティ大学の研究室が1984年から2018年の期間にわたる約290万の河川を対象に,河川流量(streamflow)やその変化を地球規模で詳細に解析したものである。衛星観測とGRDRデータセット(Global River Discharge Reanalysis)を統合する新しい技術的アプローチにより,従来の地上観測だけでは捉えきれない広範囲かつ詳細なデータを活用することで,より正確で実用的な知見を得ている。
 まず河川のストラーラー番号(SO: Strahler Order:流域別)ごとに流量の増減を世界地図(図1)で示しており,河川の上流域(SO1)では,流量の増加傾向が下流域より1.7倍多く観測された。逆に,河川の下流域(SO≧8)では,流量の減少が顕著であった。またLHDI(Longitudinal Hydrologic Distribution Index)という指標で,河川流量の重心が研究期間中に,29%の地球表面で上流シフトが確認された(図3)。これは,降水量や雪解け量の上流移動とも一致しており,上流シフトが進行している地域では,河川の断片化や都市化,ダムによる水利用がより顕著であった。本研究では,河川の流量変化が,地球規模でエコシステムや社会経済的影響を及ぼすこと,そして上流での洪水リスクや浸食の増加,下流での堆積物輸送の低下を引き起こす可能性を示唆している。つまり,流量の空間的・時間的変化を考慮することは,より効率的な水資源の利用と保全が可能になること,気候変動が河川流量に与える影響を正確に把握し,洪水や干ばつへの備えを強化するために不可欠と考えられる。本論文は,地球規模での河川流量変化を定量的かつ包括的に示した初めての研究であり,気候変動の影響や持続可能な水資源管理に向けた科学的知見を大幅に前進させている。この研究が提示する新たなデータと枠組みは,エコロジー,政策,工学分野で広く活用される可能性がある。

•NEJM

1)インスリン治療
インスリン治療歴のない2型糖尿病に対するインスリンエフシトラとデグルデクとの比較(Insulin efsitora versus degludec in Type 2 diabetes without previous insulin treatment

 本研究は,週1回投与の新規インスリン薬:インスリンエフシトラアルファ〔insulin efsitora alfa(エフシトラ)〕の国際共同第三相試験で,2型糖尿病のインスリン未使用患者に対し,週1回投与の新しいインスリン「エフシトラ」と,1日1回投与のインスリン「デグルデク」の効果と安全性を比較したものである。イーライリリー社から研究助成を受けたQWINT-2試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT05362058である。
 2型糖尿病を有しインスリン治療歴のない成人を対象に,エフシトラを週1回投与群と,デグルデク1日1回投与群に1:1で無作為に割り付けた。主要評価項目はHbA1c値のベースラインから52週目までの変化量で,エフシトラの,デグルデクに対する非劣性証明の試験である。副次的評価項目は,グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬の使用者・非使用者のサブグループにおけるHbA1c値の変化量,48~52週目に血糖値が70~180mg/dLの目標範囲内であった時間の割合などとし,安全性評価項目は低血糖エピソードなどとした。
 928例(エフシトラ群 466例,デグルデク群 462例)が対象になり,HbA1c値の平均は,エフシトラ群ではベースライン時の8.21%から52週目に6.97%に低下し,デグルデク群では8.24%から7.05%に低下〔推定治療差 -0.09パーセントポイント,95%信頼区間(CI)-0.22~0.04〕し,非劣性が示された。またGLP-1受容体作動薬の使用者・非使用者においても,エフシトラはHbA1c値の変化量に関して非劣性であった(図1A)。血糖値が目標範囲内であった時間の割合は,エフシトラ群64.3%,デグルデク群61.2%と有意差なし。臨床的に意義のある低血糖と重度の低血糖を合わせた発生率は,エフシトラ群0.58件/人年とデグルデク群0.45件/人年と有意差なし。その中で重度の低血糖はエフシトラ群では報告はなかったが,デグルデク群では6件あり。有害事象の発現率は2群間で同程度であった。
 週1回投与のエフシトラは,インスリン未使用の2型糖尿病患者において,1日1回投与のインスリンと比較して,HbA1cの低下において劣らず,投与回数が少ないため患者の治療の負担軽減に寄与する可能性を示した。本研究はアジア人が35%含まれているが,8割以上がメトフォルミン投薬中でもBMI平均値30,HbA1c値が8.2という血糖コントロール不良者なので,週1回という投薬スケジュールは生活習慣上においてもメリットが大きいと思われる。

今週の写真:クリスマスの院内フルートコンサート

(石井晴之)