•Nature
1)免疫学:Article
自由な生活を送るマウスから伝播する腸内真菌がⅡ型免疫を誘導する(Fungal symbiont transmitted by free-living mice promotes type 2 immunity) |
腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は腸内の恒常性と免疫応答において重要な役割を果たすが,腸内真菌叢(マイコバイオーム)の機能は細菌に比べて未解明の部分が多い。一部の真菌は消化酵素の補助や免疫系の調節に寄与するが免疫系との相互作用が不十分なモデルが多く,特にマウスモデルでの安定した真菌の研究は困難であった。今回,米国コーネル大学から野生マウス由来の真菌であるKazachstania pintolopesiiがマウスの腸管共生定着真菌であることを見出し,免疫応答に及ぼす影響を明らかにした報告がなされた。
まずは,様々な環境(研究施設,野生マウス)のマウスから採取した糞便サンプルを
内部転写スペーサー(ITS)シーケンシングで分析し,共通して定着している腸内真菌の検索を行い,
K. pintolopesiiを同定している。さらに,抗菌薬処理などの様々な環境へのストレス下でも
K. pintolopesiiは腸内に定着し続けることを確認し,この真菌が野生由来であり,高度に腸内環境に適応した上で安定的に繁殖し得るマイコバイオームの中での優位性を確立していることを結論づけている(
Fig. 1)。
次に
K. pintolopesiiがホストの免疫応答に及ぼす影響を検討している。研究施設の環境においては,
K. pintolopesiiが自然免疫も獲得免疫も変動させないことから宿主の免疫系から遮断された状況にあることが考えられた。そこで,腸管粘液層の厚さを減少させる無繊維食(FFD)を与えることにより,腸管上皮と
K. pintolopesiiの物理的な接触を生じさせる状況を作り出して検討を進めた。結果として,好酸球増多,Th2の誘導などのⅡ型免疫を誘導することが示された(
Fig. 2)。さらに,Ⅱ型免疫を誘導する機序としてIL-33に注目し,IL-33下流に関連するシグナル分子の増加,欠損マウスによるⅡ型免疫誘導の減弱化などが生じることを明らかにしている。さらに,
K. pintolopesiiが分泌するセリンプロテアーゼがIL-33の活性化に影響することから上皮細胞へ及ぼす影響の機序が示された(
Fig. 3)。
最後に,疾患モデルへの影響を検討している。OVAによる食物アレルギーモデルでは,
K. pintolopesiiの腸管共生によるIgE産生の増加とアレルギー症状の増悪を示し,寄生虫感染モデルでは,好酸球と杯細胞の増加を介して感染症の軽減が図られることが確認された(
Fig. 4)。
今まで標的真菌の同定が困難であり検討が進まなかったマイコバイオームに関する報告である。動物実験では今までにこの真菌の感染の有無は検討されていないことから,特にアレルギー関連の検討においては交絡因子としての検討が必須となるであろう。また,ヒトにおいてもアトピーや喘息などと食事の関連は盛んに言われてきたが,今後はマイコバイオームの観点からも解明が進むことを期待したい。
•Sci Transl Med
1)呼吸器:Research Article
Dextromethorphanコラーゲン輸送を阻害し肺線維症を改善する(Dextromethorphan inhibits collagen and collagen-like cargo secretion to ameliorate lung fibrosis) |
肺線維症は,肺胞周囲の細胞が損傷を受け異常に多量の細胞外マトリックス(ECM)が沈着することで発症する。特にコラーゲンI型(COL1)が線維化の主な要因とされているが,現行の抗線維化薬(ニンテダニブやピルフェニドン)は進行を遅らせるものの,効果は限定的で副作用や高額な費用も課題である。今回,ドイツの欧州分子生物学研究所から,FDA承認薬におけるドラッグリポジショニングから抗線維化作用を持つ可能性のある薬剤をスクリーニングし,咳止め成分として知られるDextropethorphan(DXM:メジコン®)がCOL1の分泌を抑制することを見出したことが報告された。
最初のスクリーニングとしてFDA承認薬を含む712種類のライブラリーを用いて,正常ヒト線維芽細胞におけるTGF-βによるECM中のCOL1量を調べている。免疫染色と
第2次高調波発生顕微鏡(SHG)で検討を行い,DXMがCOL1の過剰沈着を抑制することを見出した(
Fig. 1)。続いて,
In vivoモデルとしてブレオマイシン誘導マウス肺線維症モデルにおいて,実際にDXMを投与するとマウス肺において抗線維化作用が発揮されることを示している(
Fig. 2)。
抗線維化メカニズムに迫るためにプロテオミクスと電顕を用いてCOL1の細胞内分布とその移送を検討している。DXM処理によりCOL1はERにとどまり蓄積,ゴルジ体への輸送が停止することにより分泌が抑制されることが明らかになった(
Fig. 3)。質量分析による細胞内外の線維化関連蛋白の比較では,DXM負荷により線維化関連タンパク質の輸送が抑制され線維化プロセスを広範に抑えることを示し(
Fig. 4),さらにコラーゲン輸送に特化したタンパク質であるTANGO1やHSP47の分布を共焦点顕微鏡で確認したところ,その分布が変化することとDXM除去によりそれが回復することを示している(
Fig. 5)。
蛋白輸送以外の機序を多角的に検討するために,
熱プロテオームプロファイリング(TPP)を用いて解析し,DXMは21種のコラーゲン関連タンパク質の熱安定性を向上させることがわかった(
Fig. 6)。最後に,DXMがTGF-βにより誘導される遺伝子発現に影響するのかを調べ,その線維化に関連する経路を抑制する可能性を示した(
Fig. 7)。
つい最近は出荷制限を受けていた古典的な中枢性鎮咳薬である。まだ前臨床のデータのみであるが,実際の症例における検討が気になる報告である。
•NEJM
1)呼吸器:Original Article
好酸球性重症喘息に対するデペモキマブの年2回投与(Twice-yearly depemokimab in severe asthma with an eosinophilic phenotype) |
現在,本邦での重症喘息に対するバイオ製剤は5種類が使用されている。いずれのバイオ製剤の効果も増悪抑制,症状改善,維持経口ステロイド量の減量,呼吸機能改善の4つに集約される。そこで,新規承認を得るための第3相試験の主要評価項目は増悪抑制に設定されることがお作法的になっている。現在の5種は,2週,4週,8週間隔の接種が必要であるが,今回のデペモキマブは抗IL-5抗体であり半年に一度の接種で効果が持続する製剤として開発が進んできた。残念ながら効果をここまで延長させる機序に関してはトップシークレットらしく私には情報がない。結果自体は
Plain language summaryがわかりやすい。
第3相無作為化プラセボ対照試験を2つのコホートで行っている。対象は,①重症喘息,②中用量または高用量のICS吸入にもかかわらず増悪あり,③末梢血好酸球数高値(過去12カ月間に300/μL以上,またはスクリーニング時に150/μL以上)の症例であり,既存の治験での対象例と大きく違わない。デペモキマブ(100mg皮下)を投与する群とプラセボを投与する群に2:1の割合で無作為に割り付け,標準治療に加えてデモペキマブの投与を0週と26週で行い,52週時点での各項目を評価した。全解析の対象は762例で,デペモキマブ群502例,プラセボ群260例であった。主要評価項目である増悪の年間発生率は1つ目のコホートではデペモキマブ群 0.46(95%CI:0.36~0.58),プラセボ群 1.11(95%CI:0.86~1.43),(RR 0.42,95%CI:0.30~0.59,p<0.001),2つ目のコホートではデペモキマブ群0.56(95%CI:0.44~0.70),プラセボ群1.08(95%CI:0.83~1.41),(RR 0.52,95%CI:0.36~0.73,p<0.001)でありいずれのコホートでもメットした。有害事象については,両群に差を認めなかった。
半年に一度の抗IL-5抗体の重症喘息における増悪抑制効果が既存のバイオ製剤同様に示された。いずれ実臨床に登場してくるであろう。
今週の写真:医局のクリスマスツリー 秘書さんプロデュースの毎年恒例ツリーです。 |
(坂上拓郎)