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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 308

公開日:2025.1.8




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緑膿菌の生存戦略におけるトレードオフの実態/結核の免疫学病理の最新知見/高病原性鳥インフルエンザの臨床実態

•Nat Microbiol

1)感染症:Article

緑膿菌は気道感染時に粘膜へのcolonizationと抗生物質耐性の間で適応度のトレードオフに直面する(Pseudomonas aeruginosa faces a fitness trade-off between mucosal colonization and antibiotic tolerance during airway infection

DOI: 10.1038/s41564-024-01842-3


 スイス連邦工科大学ローザンヌ校による報告である。緑膿菌が粘膜表面でどのように増殖するのかを観察するために,トランスポゾンシークエンス(Tn-Seq)(Link)を用いて,緑膿菌野生株 PAO1のTn5ベースのトランスポゾンライブラリを作成し,健常人のHBE(Human Bronchial Epithelial)培養の粘膜表面で増殖させた(Fig. 1b)。このうち,緑膿菌の粘膜表面での適応性に影響を与える620個の遺伝子を同定している(549個は適応性が低下し,71個は適応性が向上)。これらの遺伝子群の中には,代謝をコードする遺伝子群に加えて,バイオフィルム形成とc-di-GMPシグナル伝達(細菌では,動物では使われていないc-di-GMPがセカンドメッセンジャーとして,環境応答に広く使われている)(Link)に関与する調節遺伝子が濃縮されていた。CF由来のHBE培養に対しても,Tn-Seq解析を行い,トランスポゾン挿入による適応性の変化は,CF患者と健常人由来のHBE培養の間で強く相関していることが判明した。
 次に個々の遺伝子を解析している。アミノ酸やヌクレオチド生合成に関与する遺伝子の変異は,緑膿菌の適応性の顕著な低下をもたらし,また,グルコースや乳酸の利用に関与する遺伝子を欠損した変異株の作成により,粘膜定着時にこれらを主要な炭素源として利用している可能性が示唆された(Fig. 2)。同様に,鉄の取り込みに関与するPvdE輸送体を欠く変異株も定着に不利となることが判明した。これらの変異株は液体培養では正常に増殖するものの,粘膜表面では適応性が低下しており,これは粘膜定着中,緑膿菌は宿主から得られない必須化合物を自ら合成する(以前から知られていた)「代謝的独立性」が求められることが示唆された。
 緑膿菌のバイオフィルムは慢性呼吸器感染と関連していることが知られているが,Tn-seqデータではむしろ,バイオフィルム形成を抑制する変異が濃縮されていた(Fig. 3)。特に,pslオペロンの機能喪失変異はHBE培養での適応性を向上させ,粘膜表面でこのマトリックス成分の生産が代謝的負担となることが示唆された。複数のバイオフィルム調節に影響を与える遺伝子変異が,粘膜表面で異なる選択を受けていた。特に,細胞内cdGMP(バイオフィルム形成に重要)濃度を調節する遺伝子は強い選択を受けており,低cdGMP濃度の変異株は液体培養と比較して粘液上で適応性が高い一方(Fig. 3a),高cdGMP濃度の変異株は適応性が低下していた。
 さらに,粘膜定着の動態を観察するため,AirGelと命名されている人工オルガノイド(Link)のタイムラプス顕微鏡観察を実施した。WTとの競合実験では,∆wspF(緑膿菌のバイオフィルム形成と遊泳運動のバランスを調整する遺伝子)株では定着速度が低下しており,感染11時間後には効率的に分散できない大きなバイオフィルムを形成していた。一方,WTは新たな環境に拡散できていた。また,WTは粘膜表面でバイオフィルムと浮遊性細胞の両方を形成していたのに対し,∆wspFは主に凝集体を形成し,浮遊性細胞はほとんど見られなかった。さらに,∆wspFはWTよりも大きなクラスターを形成する傾向があり,WTは単一細胞や小さなクラスターを多く形成していた。
 一方で,シプロフロキサシンの曝露を用いた実験で,バイオフィルム形成は粘膜表面での抗生物質耐性を高めていたことが判明した(Fig. 5)。以上から緑膿菌は慢性感染を確立するために,相反する物理的および生物学的選択圧の間を巧みに切り替えていることが判明した。


•Sci Immunol

1)感染症:Review

ヒト結核の免疫病理(Immunopathology in human tuberculosis

DOI: 10.1126/sciimmunol.ado5951


 Science Immunologyに結核の免疫・病理に関するReviewがまとまっていたので,病態の部分を中心にまとめた。
 病変の進行は,I型およびII型インターフェロンシグナル伝達や補体カスケードの活性化といった免疫学的プロセスが密接に関連しており,これらのシグナルは,結核の診断の1年以上前から血球遺伝子発現や血清プロテオームプロファイリングによって検出可能であるとのことだ。結核の診断時期には,骨髄での炎症やリンパ球,単球,好中球の遺伝子発現の調節,さらに組織分解を示すマーカーが検出される。また,MMPやシステインカテプシンプロテアーゼの発現が,肺の空洞化を引き起こすことが示されている。一方で,動物モデルでのMMP阻害は空洞形成の完全な予防はできず,さらに複雑なプロセスがあること示唆されている。一方,MMP-1阻害薬として知られるドキシサイクリンの臨床試験では空洞サイズの大幅な縮小が観察されており,補助療法としてのMMP阻害の可能性も同時に示唆されている。
 結核の後に引き起こされる肺の線維化は,線維芽細胞によるコラーゲンやグリコサミノグリカン,プロテオグリカンなどのECMの過剰な沈着によって引き起こされる。線維芽細胞周囲の「線維性niche」にSPP1発現する単球由来マクロファージが増加しており,これらのマクロファージは全身性の線維化病態に共通した転写プロファイルを有している。
 IL-1β,AREG,PDGF,SPP1などのリガンドにより線維化が促進され,線維芽細胞上の各種受容体(IL-1RA,EGFR,PDGFR-A,CD44)を活性化している。また,線維芽細胞とマクロファージは,カドヘリン11やTGF-βを介した直接接触によってもシグナルを伝達する。
 さらに,炎症性線維芽細胞はケモカインやIL-6などの線維化促進性サイトカインを発現し,マクロファージとの相互作用し,ECM産生を加速させる。時間の経過とともに,線維芽細胞は自己分泌PDGFシグナルを発達させ,CCL2などの炎症性メディエーターを放出して線維化を促進させる。一方,病的なECM沈着は機械的な硬さを増大させ,免疫細胞の機能に影響を与えている。実際に,コラーゲン合成を調節するマクロファージ経路の一部は,機械感受性による制御を受けていることが報告されている。
 IFN-γとTNFは,結核菌に対する免疫で最も重要なサイトカインである。IFN-γは主にT細胞やNK細胞から産生され,マクロファージの抗菌機能やオートファジーを活性化し,細菌の増殖を抑えつつ,肉芽腫の発達を調整する。しかし,過剰なIFN-γは有害となる場合がある。TNFはマクロファージや単球,樹状細胞などから産生され,結核において二重の役割を持つ。TNFは肉芽腫形成や初期防御に必要不可欠だが,過剰なTNFシグナルはマクロファージの壊死や炎症の悪化,菌量増加を引き起こす。
 I型IFNには,樹状細胞が産生するIFN-αとマクロファージが産生するIFN-βがあり,こちらも二重の役割を果たす。I型IFNは感染初期に宿主保護反応を促進するが,過剰なI型IFNは結核菌の増殖や病理所見の悪化と関連する。また,I型IFNシグナルを阻害するIFNAR1変異は結核リスクの低下に関連し,I型IFN誘導遺伝子ISG15の欠損はIFN-γ産生の減少と結核リスクの増加を引き起こす。さらに,IFN-αを用いた治療を受けた患者で結核が再活性化した例も報告されている。
 以上の治験から,I型とII型IFNが互いに拮抗的に制御し,免疫応答のバランスが結核防御に重要であることが示唆される。
 細胞死は,アポトーシスやオートファジーといったプログラムされた経路と,ネクローシスのような非プログラム経路に分類される。ただし,ネクローシスにもネクロプトーシスやピロプトーシスなどの制御された経路が含まれる。一般に,アポトーシスとオートファジーは結核の制御に有益で,ネクローシスは細菌の増殖や伝播に寄与する(Fig. 3)。
 細胞死経路において,好中球の集積,その中でも,好中球死の一種であるNETosisが重要である。このNETには抗菌ペプチドやプロテイナーゼが含まれ,IL-8の放出を誘導し,好中球動員やMMP8・MMP9の産生を通じて組織損傷を促進する。また,NETはマクロファージやpDCを活性化し,さらに炎症と好中球の集積を加速させる。NETによって活性化されたpDCが産生するIFN-αは,さらなるNETosisを誘導し,フィードバックループを形成する。
 結核は菌自体に,細胞死を制御する能力を持ち,アポトーシスやオートファジーを阻害しながら壊死経路を促進させている。例えば,壊死毒素はNADHを枯渇させてネクローシスを誘導し,また,フェロトーシスやピロトーシスを誘発する。また,ESAT-6はオートファジーを阻害し,ネクローシスやNETosisを促進するなど,多様な細胞死経路に関与している(Fig. 2)。実に,結核菌が多様な病態に関与することを認識させられるReviewであった。


•NEJM

1)感染症:Original Article

高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒト感染例〔Highly pathogenic avian influenza A(H5N1)virus infections in humans

DOI: 10.1056/NEJMoa2414610


 高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスは,米国の乳牛や家禽に広範囲な感染を引き起こしており,散発的に人への感染も確認されている。2024年3月から10月にかけて,米国で確認されたヒト感染例の臨床的特徴がCDCより報告されている。
 46人の患者のうち,20人は感染した家禽に,25人は感染または感染が疑われる乳牛に曝露しており,1人は曝露経路が特定できなかった(Table 1)。曝露経路が特定できなかった患者は非呼吸器症状で入院し,ルーチンの入院時検査でインフルエンザA(H5N1)ウイルス感染が検出された。動物に曝露した45人の患者の中央値年齢は34歳で,全員が軽症であり,入院例や死亡例は確認されなかった。
 患者の93%にあたる42人が結膜炎を発症し,49%の22人が発熱,36%の16人が呼吸器症状を呈していた。結膜炎のみを発症した患者は33%にあたる15人であった。症状の経過を追跡できた16人では,症状の持続期間の中央値は4日(1~8日)であった。患者の87%がオセルタミビル治療を受けており,症状発症後2日(中央値)で治療を開始していた(Table 2)。動物に曝露した患者の家庭内接触者97人の間で,追加の感染症例は確認されなかった。
 感染した動物に曝露した労働者が使用していた個人防護具(PPE)は,手袋(71%),目の保護具(60%),フェイスマスク(47%)であった。
 インフルエンザA(H5N1)ウイルスは,主に軽症で短期間の症状を引き起こし,結膜炎が最も多く見られた。感染した動物に曝露した成人に症例が集中しており,ほとんどの患者は迅速な抗ウイルス治療を受けていた。ヒトからヒトへのインフルエンザA(H5N1)感染は確認されなかったが,職業的に曝露された人々におけるPPEの使用率は不十分であった。


今週の写真:正月の穏やかな晴天の下,凧揚げを楽しみました。


(南宮湖)