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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 310

公開日:2025.1.24




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PGE2分泌と単球を介した抗腫瘍免疫の抑制/筋肉由来ミオスタチンによる卵胞刺激ホルモン合成/無症状でも重度大動脈弁狭窄症にはTAVIが有効か

•Nature

1)がん
がん細胞は単球を介したT細胞刺激を阻害して免疫を回避する(Cancer cells impair monocyte-mediated T cell stimulation to evade immunity
DOI: 10.1038/s41586-024-08257-4

 本研究はオーストリアのウイーンバイオセンターの分子病理学研究所(IMP)からの報告で,腫瘍細胞がPGE2を産生して単球を再プログラム化し,腫瘍を標的とするT細胞を活性化させないようにしている機構について解析した内容である。
 特異的なT細胞腫瘍免疫を評価するために,Rag2-/-マウスにOVA発現腫瘍を移植してOVA抗原特異的な活性化したT細胞(OT-1)を養子細胞移植(adoptive cell transfer:ACT)して治療効果をみる系で研究している。腫瘍としてYUMM1.7悪性黒色腫を使用し,未治療腫瘍(NTT)と分子標的医薬薬剤耐性にした腫瘍(RTT)で比較すると,in vitroではT細胞の細胞傷害効果に差はないが,in vivoではACT後にNTT腫瘍は縮小するがRTT腫瘍細胞では治療抵抗性がみられた。scRNA-seq解析を行い腫瘍微小環境を精査すると,RTT腫瘍細胞検体では免疫抑制性のいわゆる腫瘍関連マクロファージは増加していたが,単球が減少していることが明らかとなった(Fig. 1)。RTT腫瘍に比べてNTT腫瘍ではCD8+ T細胞が腫瘍内で増殖活性化しており,単球との接触によるCD8+ T細胞の再刺激の重要性が示唆された。
 これまでcDC1樹状細胞が抗腫瘍効果に重要と報告されてきていたが,樹状細胞を欠損させても同様の結果が確認されたことから,CD8+T細胞による抗腫瘍効果に単球が重要であることが示され,これらの単球はインターフェロン刺激を受けているCxcl9,Cxcl10およびIl15を発現する「炎症性単球」であることが判明した。しかしながら抗原提示能の高い樹状細胞に比べて,炎症性単球は抗原提示能「クロスプレゼンテーション(cross-presentation)」に必要な分子を発現していないという疑問があった。そこでノックアウトマウスを用いた種々の解析を行った結果,なんと炎症性単球は腫瘍細胞から「クロスドレッシング(cross-dressing)」によって「ペプチドと主要組織適合遺伝子複合体クラスIの複合体をそのまま獲得してT細胞へ抗原提示する」ことが明らかとなった(Fig. 2)。さらに空間トランスクリプトーム解析をすることで,ヒト悪性黒色腫や非小細胞肺癌の組織上でもマウス炎症性単球とヒトで相同するCXCL9+CXCL10+マクロファージがCD8+T細胞と接して局在していることが示されている。
 次にNTT腫瘍とRTT腫瘍細胞の違いを調べていくと,RTT腫瘍細胞ではプロスタグランジンE2(PGE2)を高発現していることが明らかとなった。そこでPGE2を産生できないRTT腫瘍細胞を作成して解析するとin vivoでNTT腫瘍と同様のCD8+T細胞の抗腫瘍効果がみられPGE2の重要性が確認された。さらにRTT腫瘍ではI型インターフェロン(IFN-I)の産生が低下していることも判明し,PGE2産生上昇と共に抗腫瘍効果低下に寄与していることが示された(Fig. 3)。これらPGE2の分泌誘導とIFN-Iサイトカインの産生低下は,発癌とも関係するMAPKシグナル伝達の過剰活性化によって協調的に生じており,抗腫瘍機能を有するT細胞機能を低下させていた。悪性黒色腫や非小細胞肺癌のICI治療におけるCOX-2阻害薬の効果については,これまでも後ろ向き臨床研究の報告があり,本論文でもメタ解析結果を示している(Fig. 5)。そこでIFN-Iサイトカイン誘導が知られているDNAメチル化阻害薬・5-azacitidine(5-AZA)をCOX-2阻害薬とともに投与したところ,マウス実験で強い抗腫瘍効果を確認することができた。
 本研究では薬剤耐性になっている腫瘍においては腫瘍が単球を介して腫瘍免疫抵抗性を獲得しており,「IFN-Iサイトカイン産生を亢進させること」と「PGE2分泌を遮断すること」によってT細胞を介した抗腫瘍効果の感受性を復活させられるという点で非常に興味深い。本論文はNEWS AND VIEWSでわかりやすいとともに紹介されている。

•Science

1)内分泌
筋肉由来ミオスタチンは卵胞刺激ホルモン合成の主要な内分泌ドライバーである(Muscle-derived myostatin is a major endocrine driver of follicle-stimulating hormone synthesis
DOI: 10.1126/science.adi4736

 カナダ・モントリオールのマギル大学からの卵胞刺激ホルモン(FSH)の制御に関する筋肉・内分泌連関の興味深い報告を紹介する。
 筋肉の収縮に反応して生成・放出される数百のサイトカイン・小タンパク質(約5~20 kDa)・プロテオグリカンペプチドなどはミオカインと呼ばれ,様々な全身への内分泌効果が報告されている(Myokine)。ミオスタチン〔Myostatin:growth differentiation factor 8(GDF8);成長分化因子8〕は1990 年代後半に骨格筋の成長を負に制御する因子として同定され,ヒトではMSTN遺伝子によってコード化されるタンパク質(ミオカイン)である。ミオスタチンはTGF-βファミリーのメンバーの分泌成長分化因子として,ヒトを含むさまざまな種の筋肉量を調節し,筋肉細胞に作用して筋肉の成長を抑制する(Myostatin)。TGFβファミリーリガンドはヒトゲノム中に33種類の類縁タンパク質が存在し,これらの受容体としては7種類のI型受容体と5種類のII型受容体が存在し,2分子のTGF-β I型受容体と2分子のTGF-β II型受容体からなるヘテロ四量体に結合する(TGF-beta Superfamily Summary Table)。
 性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin releasing hormone:GnRH)は視床下部で合成・分泌され,下垂体前葉からFSHと黄体形成ホルモン(LH)を分泌させる。FSHは,下垂体前葉のゴナドトロピン細胞によって生成され,最近は閉経後の骨量減少,体重増加,認知機能低下などにも関係することが知られるが,大切な機能は生殖腺で卵胞の成長や精子形成を制御することである(性腺刺激ホルモン )。FSHに反応した生殖腺はTGFβファミリーリガンドであるインヒビンを分泌し,下垂体ゴナドトロピンにネガティブフィードバックしてFSHを選択的に抑制する。アクチビンもこのファミリーの一つであるが,下垂体ゴナドトロピン産生細胞によって生成されるアクチビンBが,体内でのFSH合成の主な推進力と考えられてきたが実はこれに矛盾する内容も報告されてきていた。アクチビンBを生成できないインヒビンβB(Inhbb)ノックアウトマウスは,予測されたFSHレベルの低下ではなく,FSHレベルが上昇していたが,ゴナドトロピン細胞でアクチビンタイプII受容体を欠損しているマウスはFSH欠乏症である。これらの結果から別のTGFβリガンドがin vivoでFSH産生を促進する可能性が考えられた。そしてゴナドトロピン産生細胞特異的Inhbbコンディショナルノックアウトマウスなどの解析から,FSH合成にはゴナドトロピン由来アクチビンBは必要ないことが示された(Fig. 1)。
 TGFβファミリーリガンドと受容体が沢山あるので複雑であるが(リンク),ゴナドトロピン産生細胞のI型受容体TGFBR1を欠くマウスではFSH分泌が減少することや,同細胞でACVR1BとTGFBR1の両方を欠損しているマウスはFSHが欠乏してることが明らかになり,最終的にミオスタチンとGDF11がFSH分泌を強く促す因子の候補となった(Fig. 4)。そして種々のコンディショナルノックアウトマウスの解析から,アクチビンB,GDF11,ゴナドトロピン細胞由来のミオスタチンは生体内でのFSH産生には必要ではないことが示され,「筋肉由来ミオスタチン」がFSH産生を刺激する因子として最も重要であることが明らかとなった(Fig. 5)。ミオスタチンの機能を抑制することで骨格筋の肥大や筋力の増大を目指す開発が進んでいるが,生殖機能への影響の警鐘として重要な研究成果と考えられた。

•NEJM

1)循環器
無症状の重度大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁置換術(Transcatheter aortic-valve replacement for asymptomatic severe aortic stenosis
DOI: 10.1056/NEJMoa2405880

 TAVI(transcatheter aortic valve implantation)/TAVR(transcatheter aortic valve replacement)(経カテーテル的大動脈弁留置術)は,従来の外科的人工弁置換術に比べて人工心肺を用いず開胸しないため,体への負担が少なく,高齢者でも可能な治療となっている(TAVI)。一方で,これまでは左室駆出率が保たれた無症状の重度大動脈弁狭窄症患者には,現在のガイドラインでは6~12カ月ごとの経過観察が推奨されていた。
 本研究は米国とカナダの75施設の「EARLY TAVR試験」の報告で,早期に施行する群と臨床経過観察を行う群に1:1の割合で無作為に割り付け,主要評価項目として死亡,脳卒中,心血管系の原因による予定外の入院の複合項目を評価した。主要評価項目イベントは,TAVR群では122例(26.8%)に発生し,臨床経過観察群では202例(45.3%)に発生した(ハザード比 0.50,95%信頼区間 0.40~0.63,p<0.001).TAVR群と臨床経過観察群における死亡は各々8.4%と9.2%に発生し,脳卒中はそれぞれ4.2%と6.7%に発生し,心血管系の原因による予定外の入院は20.9%と41.7%に発生した(Fig. 1)。中央値3.8年の追跡期間中に臨床経過観察群の87.0%が大動脈弁置換術を受けた。2群間で有害事象に関して明らかな差はなかった。以上から無症状の重度大動脈弁狭窄症患者においては「早期にTAVRを施行する治療」が死亡・脳卒中・心血管系の原因による予定外の入院の発生率の低下に関して臨床経過観察に対する優越性が示された。QUICK TAKEの動画での解説がわかりすい。

今週の写真:正月の江の島

(鈴木拓児)