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昇任基準はどうあるべきか/早期膵癌検出アッセイ/進行性の膵神経内分泌腫瘍に対する新たな治療
1)教育学
学術的昇進のための評価における地域別および機関別の傾向(Regional and institutional trends in assessment for academic promotion) |
DOI: 10.1038/s41586-024-08422-9
この論文は,2016年5月から2023年11月にかけて,グローバル・ヤング・アカデミーという団体による国際共同研究である。その会員および卒業生のネットワークを活用し,世界各地の大学や政府機関による教授職への昇進基準を分析し,地域や制度による違いを明らかしている。研究者の評価基準は,大学の質を維持し,競争を促すために重要とされるが,①業績などの指標重視は本来の目的を見失うリスクがあること,②研究の「卓越性(excellence)」が重要視されるが,その定義が曖昧であること,③研究者のキャリアパスの多様性が十分に考慮されないため結果的にキャリアの選択肢を制限している,などの問題が考えられている。
2016~2023年まで段階的に,グローバルノース32カ国とグローバルサウス89カ国に及ぶ,190の学術機関からの314の方針と58の政府機関からの218の方針に基づいて分析している。その結果をみると,一般的な昇進基準としては,研究成果(97%),教育(93%),研究資金の獲得(79%),指導経験(75%)が主要な評価基準にされていた。そのうちの研究成果の評価には,大半は定量的評価(論文数,被引用数など)が使われるが,定性的評価(社会的影響,論文の質など)も77%も用いられていた。また地域差・制度差に注目すると,グローバル・サウス(発展途上国)では定量的評価がより強調される傾向だが,グローバル・ノース(先進国)では,定性的評価の比重が高い(83%の機関で使用)。そして政府機関の昇進基準は研究成果の数や論文掲載誌の指標(インパクトファクターなど)に依存する傾向が強く,大学の昇進基準は研究者の長期的な展望や学際的な研究への貢献を重視する傾向であった。さらに,経済レベルでみると,中所得国(upper-middle-income countries)では,研究評価が数値指標(被引用数,特許数など)に偏る傾向があり,質的評価が軽視されがちであった。高所得国(high-income countries)では,研究者の「知名度」や「社会的影響」がより重要視されていた(Fig. 3)。
世界の教授昇進基準には多様性があり,共通の評価基準は存在しない。しかし,本研究結果からは,より柔軟で多様な基準を取り入れ,学際的な研究や社会貢献も評価するシステムが求められるように思う。
1)腫瘍学
プロテアーゼ活性化ナノセンサーアッセイによる膵臓癌の早期発見(Early detection of pancreatic cancer by a high-throughput protease-activated nanosensor assay) |
DOI: 10.1126/scitranslmed.adq3110
がん関連死因の上位に挙げられる膵管腺癌(PDAC)は,進行した病期で診断されることが多く有効な治療法も限られている。本研究は,米国オレゴン健康科学大学(OHSU)からの報告で,リキッドバイオプシーによるPDACの早期発見を目指し,治療法の選択肢が広がり,生存率の改善につながることを目的に行われた。ここでは,PDAC患者の末梢血で増加しているがん関連プロテアーゼ活性を活用し,血清プロテアーゼ活性に基づくPDACの非侵襲的検出アッセイを開発したものである。一連のプロテアーゼ切断ペプチドプローブをスクリーニングし,膵臓癌サンプルと健常者および非癌性膵疾患のサンプルを識別している。その結果,matrix metalloproteinaseに感受性のある単一プローブを特定し,このプローブは79±6%の精度で膵臓癌を健常者との識別を可能とし,さらに,このプローブをPAC-MANN(リンク)と命名した迅速な磁気ナノセンサーアッセイへと発展させた。このアッセイでは,標的プローブナノセンサーの血清プロテアーゼ切断をシンプルな蛍光読み取りで測定するもの。外科的切除を受けた患者の縦断的コホートでは,手術後にプローブ切断シグナルが16±24%減少していた。また別の盲検後ろ向き研究では,PAC-MANNアッセイは,全病期において98%の特異度と73%の感度で膵臓癌のサンプルを特定し,膵臓癌患者と比較して非癌性膵臓疾患患者を100%識別した。PAC-MANNアッセイを臨床バイオマーカーのCA 19-9と組み合わせた場合,I期の膵臓癌の検出感度は85%,特異度は96%であり,PAC-MANNアッセイは膵臓癌を発症するリスクの高い人々において,早期の膵臓癌発見を促進する可能性を秘めている。
この内容については,OHSUの大学ニュースとしても掲載されている(リンク)。この検査の大きな利点は,採血量はわずか8マイクロリットルで,検査にかかる時間は45分,さらに費用は1サンプルあたり1セント未満とのことである。
1)腫瘍学
進行した神経内分泌腫瘍に対するカボザンチニブの第3相試験(Phase 3 trial of cabozantinib to treat advanced neuroendocrine tumors) |
CABINET試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT03375320)として行われた,治療歴のある進行性の神経内分泌腫瘍:NETs(膵外神経内分泌腫瘍または膵神経内分泌腫瘍)の患者に対するカボザンチニブ投与(Wiki)の第三相試験の結果報告である。本試験はカボザンチニブの有効性を示す中間解析結果に基づき,すべての評価項目を解析している。
膵外神経内分泌腫瘍患者のコホートと,膵神経内分泌腫瘍患者のコホートをそれぞれ登録し,各コホート内で患者をカボザンチニブ60mg/日の投与群とプラセボ群に2:1の割合で無作為に割り付けた。主要評価項目は無増悪生存期間で,副次的評価項目は客観的奏効率・全生存期間・安全性としていた。膵外神経内分泌腫瘍患者203例のコホートにおいて,無増悪生存期間の中央値はカボザンチニブ群で8.4カ月,プラセボ群で3.9カ月〔病勢進行または死亡の層別化ハザード比0.38,95%信頼区間(CI)0.25~0.59,p<0.001〕(Fig. 1)。膵神経内分泌腫瘍患者95例のコホートでの無増悪生存期間の中央値は,カボザンチニブ群で13.8カ月,プラセボ群で4.4カ月(層別化ハザード比0.23,95%CI 0.12~0.42,p<0.001)。カボザンチニブによる確定された客観的奏効割合は,膵外神経内分泌腫瘍患者で5%,膵神経内分泌腫瘍患者で19%であったのに対し,プラセボ群ではいずれのコホートでも0%であった。グレード3以上の有害事象は,カボザンチニブの投与を受けた患者では62~65%に認められ,プラセボ群では23~27%。グレード3以上の治療関連有害事象で頻度が高かったのは,高血圧,倦怠感,下痢,血栓塞栓症であった。カボザンチニブ群の大半は,有害事象に対して用量変更または減量を行っていたことも認識しておく必要はある。
NETsにはこれまでエベロリムスやソマトスタチンアナログなどが使われてきたが,進行すると治療効果が低下する。本試験は,カボザンチニブの血管新生阻害作用により,NETsの進行を抑える可能性が示唆される結果となった。
今週の写真:福井県永平寺の土産屋にある,ごま豆腐ソフト |
(石井晴之)