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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 314

公開日:2025.2.28




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食物アレルギーの新たな制御因子/免疫シグネチャーで疾患を診断する/CAR-T療法における新たな課題

•Nature

1)免疫学:Article
RELMβは腸内細菌叢による経口免疫寛容を制御する(RELMβ sets the threshold for microbiome-dependent oral tolerance
DOI: 10.1038/s41586-024-08440-7

 経口免疫寛容は,食物抗原に対する免疫応答を抑制し,食物アレルギー(FA)やアナフィラキシーを防ぐ重要な機構である。しかし,この免疫寛容がどのように維持・破綻するのかはいまだ十分に解明されていない。近年,腸上皮細胞から分泌される resistin-like molecule β(RELMβ) が,2型免疫応答と関連し,寄生虫感染時の防御機構として機能することが報告されていた。また,食物アレルギーモデルでは IL-4/IL-13 シグナル が過剰に活性化し,RELMβ の発現を増加させることが示唆されていた。今回,米国Boston Children’s Hospital の研究チームは,マウス食物アレルギーモデルを用いた解析とヒト血清の測定を組み合わせ,RELMβの発現上昇がTreg の抑制と腸内細菌叢の変化を引き起こし,結果的に経口免疫寛容を破綻ささせ,食物アレルギーを発症させることを報告している。

 まずは,RELMβがFAと関連するかを検討している(Fig. 1)。食物アレルギーモデルマウスの解析では,腸管での RELMβ の発現が顕著に増加し血中濃度も上昇,食物アレルギー患者の血清解析でも同様にRELMβ が高値を示した。また,RELMβ欠損マウスにおいては,アナフィラキシー反応の完全な抑制が認められ,RELMβはFA発症のスイッチとして機能する可能性が示唆された。元来,経口免疫寛容の維持には,RORγt+ 制御性T細胞(Treg) が重要な役割を果たすことが知られていることから,研究チームはその細胞学的な機序がTregにあると仮定して検討を進めている(Fig. 2)。RELMβ を欠損させたマウスでは,Treg の割合が有意に増加し,FA の発症が完全に抑制されることを明らかにした。一方で,RORγt 遺伝子を欠損させたTreg-nullマウスでは,RELMβ の欠損による FA 抑制効果が消失してしまった。つまり,RELMβ はTregを抑制しFA を促進することが示された。 
 次に,このRELMβによるTregの抑制を介在する機序として,腸内細菌叢の関与を検討した(Fig. 3Fig. 4)。RELMβ は腸内の Lactobacillus属 や Alistipes属 を減少させることに加え,RELMβ 欠損マウスの腸内細菌叢を食物アレルギー感受性の高いマウスに移植すると,FAの発症が抑制された。つまり,RELMβ の影響を受けた腸内細菌叢の変化が,免疫寛容の破綻に関与していることが明らかになった。さらにそれら腸内細菌叢の変化とTregの抑制を橋渡しする機序として,インドール-3-酢酸(IAA)などのインドール代謝産物の減少が示唆され,Lactobacillus属やAlistipes属は腸管でトリプトファンからインドール代謝産物を産生し,これがTregを誘導し,FA を抑制していることを示唆する結果が得られた。
 最後に,この結果を踏まえたRELMβの抑制による経口免疫寛容の誘導を効率的に行う方法をマウスモデルで検討している(Fig. 5)。その結果,幼少期のRELMβの投与がTreg成長後のTreg抑制に影響すること,RELMβモノクローナル抗体を幼少期に使用することにより成長後の経口免疫寛容が誘導されることが明らかになった。
 この結果からRELMβ が食物アレルギー発症の新たな分子標的になり得ることが明確となり,その臨床応用の可能性として,RELMβ 阻害薬の開発,Lactobacillus属・Alistipes属などのプロバイオティクス療法,インドール代謝産物の補充による免疫寛容の回復などが示唆された。

•Science 

1)データサイエンス:Research Article 
BCR/TCR配列の機械学習から疾患を診断する(Disease diagnostics using machine learning of B cell and T cell receptor sequences
DOI: 10.1126/science.adp2407

 現代の医療診断は,画像検査や血液検査などの客観的データを駆使する一方で,免疫システムが持つ膨大な情報を活用することはほとんどない。B細胞受容体(BCR)やT細胞受容体(TCR)は,病原体や自己抗原への曝露によってクローン増殖し,免疫応答に適応するため,いわば過去の感染や自己免疫反応の履歴を記録する"免疫メモリー"であり,疾患ごとの特徴的な配列(シグネチャー)を持つ可能性がある。そこで,その配列を解析することで感染症や自己免疫疾患の診断に有用なバイオマーカーとなるのではないかというアイディアが生まれ,スタンフォード大学の研究グループが機械学習を用いて実証した結果が報告された。研究グループは免疫受容体のシーケンスデータを用いた革新的な機械学習診断法「Mal-ID」を開発し,COVID-19,HIV,SLE,1型糖尿病(T1D),インフルエンザワクチン接種者,健康対照群を含む593人の血液サンプルを解析し,BCRおよびTCRの配列データを取得。これらの膨大なデータをもとに,3つの異なる機械学習モデルを統合し,高精度な免疫診断を可能にしている。この免疫診断モデル確立までのフィレームワークはFig. 1に示されている。
 Mal-IDの最大の特長は,従来の単純な配列マッチングではなく,BCRやTCRのレパートリー全体を解析し,疾患特異的なパターンを抽出する点にある。その中核となるモデルの一つは,Evolutionary Scale Modeling-2(ESM-2)と呼ばれるタンパク質言語モデル(アミノ酸を単語,タンパク質の一次配列を文とみなして学習するモデル)を活用した解析手法である。このモデルは,BCRやTCRのCDR3領域(抗原結合部位)のアミノ酸配列を数値ベクトルに変換し,疾患ごとの特徴的なシグネチャーを抽出する。この方法により,個々の配列の違いを考慮しつつ,疾患間の共通点や違いを統計的に捉えることができる(Fig. 2)。具体例としてMal-IDはIGHV遺伝子ごとに病原体や自己免疫疾患と関連するシグナルを特定できることがFig. 3に示されている。例えば,COVID-19患者では,IGHV1-24IGHV2-70を使用するBCRが特徴的に増加していたり,SLE患者では自己抗体産生に関連することが知られているIGHV4-34IGHV4-59が優先的に使用されていたりするという結果が得られており,これら得られた免疫シグネチャーからの診断の可能性を充分に示唆している。
 この解析の重要な点は,従来のBCR/TCR解析が単なる配列の一致に依存していたのに対し,Mal-IDは配列の意味的な特徴を捉え,疾患ごとのシグナルを抽出できることである。例えば,COVID-19に関連する抗体配列として報告されているデータベース上のSARS-CoV-2特異的BCR配列と比較したところ,Mal-IDは疾患特異的なBCRを識別する能力を持つことが確認された(Fig. 4)。さらに,Mal-IDの特徴の一つは,既知の抗原特異的BCR配列を用いなくても,疾患特異的なBCR・TCRのシグナルを学習できる点である。これは,タンパク質言語モデルが単に既存のデータに依存するのではなく,免疫レパートリー全体の統計的なパターンを抽出できることを示している。
 このMal-IDは,感染症や自己免疫性疾患の高精度な診断だけでなく,新規疾患の同定や,得られたシグネチャーデータと臨床コホートを組み合わせることにより,疾患リスクの同定,新規ワクチンの開発などにもつながる手法となる可能性を感じた。

•NEJM

1)免疫療法:Case Reports

難治性多発骨髄腫に対するCilta細胞療法後のCAR−T細胞リンパ腫(CAR+ T-cell lymphoma after cilta-cel therapy for relapsed or refractory myeloma
DOI: 10.1056/NEJMoa2309728

 CAR-T細胞療法は,患者自身のT細胞に遺伝子改変を施し,特定の腫瘍抗原を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を発現させたT細胞を用いる免疫療法である。この治療は特にB細胞系悪性腫瘍に対して劇的な治療効果を示すことが知られている。しかし,これまでにB細胞系の2次発癌リスクが懸念されており,2023年にはFDAより22例の2次B細胞性リンパ腫の症例が報告されている。その原因としては,長期にわたるB細胞の枯渇によるEBV再活性化関連,CAR-T細胞による挿入変異などが考察されてはいるが完全な解明にはいたってない。今回オーストラリアの研究グループからCAR-T細胞療法(Cilta-cel)を受けた多発性骨髄腫患者2例において,CAR-T細胞が腫瘍化したと考えられる事例が発生,詳細に解析され,新規概念としてCAR-T細胞リンパ増殖性疾患(CTTLN)を提唱する報告がなされた。
 患者1(Fig. 1)は,治療後5カ月で鼻面部に紅斑性病変で発症,患者2(Fig. 2)は16カ月後に皮膚病変で発症し,その後,リンパ節や骨にも病変が進展している。いずれの症例もリンパ節生検によりCAR+ T細胞の異常増殖が確認された。
 このがん化の機序を探るために詳細な解析が行われた。腫瘍化したT細胞には治療前から存在していたTET2変異(TET2はシトシンの脱メチル化に関わる遺伝子で,その欠損により造血幹細胞のクローン増殖が生じ,白血病化のきっかけとなり得る)が検出され,さらにCAR遺伝子がPBX2遺伝子(患者1)やARID1A遺伝子(患者2)に挿入されていたことが判明した。PBX2もARID1Aもがん関連遺伝子として知られているが,今回の事例で本当にがん化に寄与したのかは不明である。しかし,TET2変異が元々存在していたことで,CAR-T細胞が免疫監視を回避しながらクローン増殖し,腫瘍化しやすい環境が整っていた可能性が考察されている。
 また,患者1では治療後にCOVID-19感染を,患者2ではパルボウイルスB19感染を経験しており,ウイルス感染がCAR-T細胞の異常増殖を後押しした可能性。加えて,両名とも2次発がんのリスクが知られるレナリドミドやメルファランを含む治療歴があり,これらが腫瘍発生リスクを高めた可能性も考えられた。
 これら2例の事例は,これまでの2次B細胞系腫瘍発生の報告と異なりT細胞由来のがんが,しかもCAR遺伝子を保持したまま発生したという点で極めて特異的である。研究グループはこの事実を踏まえCAR-T細胞リンパ増殖性疾患(CTTLN)という,CAR-T細胞療法を受けた患者において,CAR遺伝子を保持したT細胞が異常増殖し,T細胞リンパ腫またはリンパ増殖性疾患を引き起こす病態概念を提唱しており,CAR-T細胞療法の安全性に対する新たな課題を提示した。 

今週の写真:黒川温泉の湯あかり
熊本県の温泉地でも有名な黒川温泉の夜の散歩での風景です。渓流沿いに竹細工の鞠灯篭,筒灯篭がならぶ冬の風物詩だそうです。結構寒いのですがきれいでした。


(坂上拓郎)