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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 317

公開日:2025.3.26




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小細胞肺癌の電気生理学的特徴/上皮由来のGM-CSFが好中球の殺菌性を制御する/乳癌に対するセンチネルリンパ節生検群は必須ではない

•Nature

1)がん
内在的な電気的活動が小細胞肺癌の進行を駆動する(Intrinsic electrical activity drives small-cell lung cancer progression
DOI: 10.1038/s41586-024-08575-7

 Francis Crick 研究所とMITからの報告。SCLCは予後不良で増殖が速い神経内分泌(NE)腫瘍の典型例であり,NE細胞と非NE細胞の2つの異なるサブセットを含む(リンク1リンク2)〔この論文ではSCLCのA,N,Y,P(リンク)のうち,A,NをNE,Y,Pを非NEと分けている〕。この論文では,ヒトおよびマウスの小細胞肺癌(SCLC)細胞株および患者由来異種移植(PDX)モデルを用いて,電気生理学的な評価やがん代謝の解析を併せて実施している。結果として,NE細胞の電気的活動が,その腫瘍形成能力を直接的に駆動していることがわかった。ただ,電気活動を維持するためにATP需要が増加するため,特有の代謝的脆弱性(高いATP需要が生じ,NE細胞は酸化的リン酸化に依存。ほとんどの癌細胞が解糖系に大きく依存するという点と対照的)が同時に伴うことも明らかになった(今週のScienceで「細胞内におけるミトコンドリア呼吸鎖の構造」に関して論報告があったので引用する:リンク)。さらに,non-NE細胞がNE細胞の電気活動を維持するために代謝的サポートを提供しており,これはアストロサイトとニューロンの相互作用に類似していることを示した。最後に,SCLCの進行中に神経支配が劇的に変化し,腫瘍内のヘテロジェネイティが増加し,SCLC細胞の神経特性が高まることが観察された。以上の結果は,癌細胞における内因性の電気活動によって駆動される腫瘍自律的な悪循環の誘導を示唆している。以下にそれぞれのFigureの簡単なサマリーを記述する。

 Figure 1:パッチクランプ法を用いて,NE細胞は興奮性を示すが,非NE細胞はその能力がないことが示している。カルシウム波:NE細胞は自発的および誘発されたカルシウム波を生成し,これが細胞内でゆっくりと伝播するだけでなく,細胞間のギャップを越えて伝播することができる。一方,隣接するNE細胞間の直接的なシナプス伝達はなし。

 Figure 2:NE細胞はイオン性ニコチン性コリン作動性受容体(nAChR)を発現しており,コリン作動性アゴニストであるカルバコール(CCh)刺激で,脱分極と広範なカルシウム活動が誘発される。初期のSCLC病変では神経支配(β3-Tubulin陽性)が増加し,神経線維が病変の中心部にまで密に織り込まれているが,進行したSCLC腫瘍では,神経支配が減少し,がん細胞がβ3-Tubulinを高発現するようになる。SCLC細胞は自律的にAChを合成・分泌する能力を持つ。

 Figure 3:NE細胞は非NE細胞や他の非興奮性のがん細胞に比べて解糖活性が低く,酸化的リン酸化(OXPHOS)に依存することがわかった。非NE細胞の培養上清はNE細胞の悪性度を促進し,その効果は透析によって減少した。質量分析の結果,非NE細胞の培地には乳酸とピルビン酸が多く含まれていることが明らかになった。非NE細胞はMCT4(モノカルボキシレートトランスポーター4)を高発現し,乳酸をより排出する一方,NE細胞はMCT1を高発現し,乳酸を取り込む能力を持つことが示された(乳酸をOXPHOSに活用)。

 Figure 4:代謝的な資源だけでなく,NE細胞を非NE細胞と共培養することで,NE細胞のカルシウム活動が増加した(その効果はMCT4阻害薬であるジクロフェナクによって抑制)。NE細胞を乳酸のみで培養した場合,ATPを消費しつづけたが,MCT1阻害薬によって,NE細胞の膜電位が脱分極し,興奮性が低下した。以上から,非NE細胞がNE細胞の高ATP需要を支え,NE細胞の電気活動を維持する役割を果たしていることがわかった。

 Figure 5:NE細胞の電気活動を増加させるために,オプトジェネティクスを用いてChR2(チャネルロドプシン2)を発現させ,青色光照射により膜電位の脱分極と活動電位の発生を誘導した。青色光照射により,ChR2陽性NE細胞でCREBのリン酸化とFOSの発現が増加した。
 テトロドトキシン処理はNE細胞の生存率には影響を与えなかったが,長期的な腫瘍形成能力を著しく阻害した。NE細胞の電気活動がSCLCの長期的な腫瘍形成能力と転移能力を直接促進することを示し,電気活動の抑制がSCLCの進行を抑制する可能性が示唆された。


•Sci Immunol

1)感染症
GM-CSF によって媒介される上皮細胞と免疫細胞のクロストークは,Aspergillus fumigatus に対する肺免疫を調整する(GM-CSF–mediated epithelial-immune cell cross-talk orchestrates pulmonary immunity to Aspergillus fumigatus
DOI: 10.1126/sciimmunol.adr0547

 骨髄細胞はバリア免疫を維持するために不可欠であり,免疫不全症においてはA. fumigatusによる侵襲性アスペルギルス症のリスクが高まる。好中球NADPHオキシダーゼ機能の喪失などが侵襲性アスペルギルス症の感受性にも関わる。本研究は米国コーネル大学からの報告で,真菌感染によって誘導されるインターロイキン-1(IL-1)およびIII型インターフェロン(IFN)がそれぞれ独立して,好中球流入の局所部位でGM-CSF産生を促進することを見出した。さらにGM-CSFの産生は主にサーファクタントタンパク質C(SPC)を発現する上皮細胞(2型肺胞上皮を含む)によることを見出したという内容。A. fumigatusに対する宿主防御におけるGM-CSFの必要性を明らかにし,それが肺胞マクロファージによる肺の恒常性維持とは異なる役割であることを示している。以下にそれぞれのFigureの簡単なサマリーを記述する。

 Figure 1A. fumigatus感染後の肺内GM-CSFの産生は12時間後にピークに達する。GM-CSF欠損(Csf2−/−)マウスでは感染後2日以内にすべて死亡するのに対し,野生型マウスでは約30%が4日後に死亡すること,Csf2−/−マウスの肺内では真菌量が野生型よりも2〜3倍高いことがわかった。

 Figure 2:IL-1シグナル伝達経路の欠陥(Il1a/b−/−,Il1r1−/−,Myd88−/−)およびIII型インターフェロン(IFN-λ)シグナル伝達経路の欠陥(Ifnl2/3−/−,Ifnlr1−/−)があるマウスでは,感染後の肺内GM-CSFレベルが低下した。IL-1およびIII型IFN(IFN-λ)シグナル伝達が並行してGM-CSF生成を促進していることが示された。

 Figure 3:未感染のB6,Csf2−/−,Il1r1−/−,Stat1−/−,およびIl1r1−/−Stat1−/−マウスの肺から得られた細胞を解析したところ,IL-1およびStat1シグナルは,定常状態でのGM-CSF生成および肺胞マクロファージの維持には必要ないことがわかった。

 Figure 4:骨髄キメラマウスの検討から,レシピエントマウスがCsf2−/−の場合,肺内GM-CSFレベルは低下するが,ドナー(骨髄側)がCsf2−/−でも肺内GM-CSFレベルは低下しなかった。免疫細胞,上皮細胞,内皮細胞のCsf2発現レベルを,定常状態と感染状態で確認すると,上皮細胞(AECIIsおよびBASCs)で最も高かった。以上から,SPC陽性肺上皮細胞がA. fumigatus感染中にGM-CSFを生成する主な細胞であり,IL-1およびIFN-λシグナル伝達によってGM-CSFの産生が誘導されていることが示された。

 Figure 5:GM-CSFを生成するSPC陽性肺上皮細胞は,A. fumigatusのconidia(分生子)および好中球と空間的に近い位置に存在し,感染部位で細胞間コミュニケーションネットワークを形成していることを示した。

 Figure 6:Csf2ΔSPCマウス(SPC産生上皮でCsf2欠損)の好中球では,conidiaの取り込みが減少すると同時に,抗菌活性の低下が示された。

 Figure 7:Csf2rbΔNeutsマウス(好中球でCsf2rb欠損)では,感染後24時間の肺内好中球数が減少していること,さらに好中球によるconidiaの取り込みはコントロールと変わらないものの,好中球内の生存率が高いことが示された。これは,好中球はconidiaを取り込むことはできるが,GM-CSFシグナルがないと効果的に殺菌できないことがわかった。

•NEJM

1)腫瘍学
乳癌に対する腋窩手術ーINSEMA試験の主要解析結果(Axillary surgery in breast cancer — Primary results of the INSEMA trial
DOI: 10.1056/NEJMoa2412063

 乳房温存療法の一環として行われる外科的腋窩病期診断を省略することによって生存に影響が生じるかについては,依然として明らかではない。
 今回ドイツを中心に,臨床的にリンパ節転移がない(cN0),腫瘍サイズが5cm以下(病期T1またはT2)の乳癌患者を対象として,前向きの無作為化非劣性試験(INSEMA試験)が行われた。この試験では,乳房温存手術を受ける患者を「腋窩手術省略群」と「センチネルリンパ節生検群」に無作為に割り付け,5年無浸潤疾患生存期間(IDFS)を主要評価項目としている(この論文ではper-protocol解析:治験実施計画書に適合した対象集団についての解析の結果として報告)。腋窩手術省略の非劣性を示すためには,腋窩手術省略群の5年IDFSが85%以上,腋窩手術省略群と比較群のハザード比の上限が1.271未満であることが要件であった。
 適格患者5,502例(90%が臨床病期T1,79%が病理学的病期T1)が,1:4の割合で無作為化された。Per-protocol集団は4,858例で,腋窩手術省略群が962例,センチネルリンパ節生検(手術施行群)が3,896例であった。追跡期間の中央値は73.6カ月で,5年無浸潤疾患生存率の推定値は,腋窩手術省略群で91.9%(95%CI 89.9~93.5),手術施行群で91.7%(95%CI 90.8~92.6)であり,ハザード比は0.91(95%CI 0.73~1.14)で,事前に規定した非劣性マージンを下回った。腋窩再発率については,腋窩手術省略群で1.0%,センチネルリンパ節生検群で0.3%と,若干の差が見られたが,全体的な再発率は低く抑えられた。安全性解析では,腋窩手術省略群の患者は,リンパ浮腫の発生率が低く(1.8% vs. 5.7%),腕や肩の可動域が改善され,術後の痛みも軽減されるなど,明らかなQOLの向上が確認された。
 以上から,臨床的にリンパ節転移がないと診断された乳癌患者において,腋窩リンパ節生検や手術を省略することで,治療効果を損なうことなく副作用を大幅に軽減できる可能性が示された(特に50歳以上のホルモン受容体陽性,HER2陰性の患者での適用が期待)。

 本試験のサマリーと動画による試験内容のサマリーを参照いただきたい。

今週の写真:沈丁花 有明にて

(小山正平)