•Nature
1)感染症
細胞応答によるプロテアソーム由来生体防御ペプチドによる自然免疫(Cell-autonomous innate immunity by proteasome-derived defence peptides) |
プロテアソームは不要になったタンパク質を分解する役割だけでなく,分解して得られたペプチド断片をMHCクラスIに抗原提示させる役割が知られてきたが,イスラエルからの今回の研究では,プロテアソームは細菌感染によってタンパク質の分解パターンを変えることにより,抗菌活性をもったペプチド(AMPs: antimicrobial peptides)を産生できるという新しい役割を発見した内容でイスラエルのWeizmann Institute of ScienceのYifat Merbl教授らによる報告である。
Fig. 1はヒトのプロテオームのうち実験的に検証されている抗菌ペプチド(AMPs)が,ヒトのタンパク質配列の中にどのように存在しているかを可視化した図を示し,AMPs部分は安定した構造でタンパク質の内部に埋もれている傾向があること,細胞への細菌(ここではサルモネラ菌)感染時にプロテアソームを阻害したり,ペプチド分解酵素を添加すると,細菌増殖することから,プロテアソームによって産生されるペプチドが抗菌活性をもつことを明らかにした。
Fig. 2はMAPP(Mass spectrometry Analysis of Proteasome Products)という手法を用いて,プロテアソームを免疫沈降し,それに結合した・あるいは直近で分解されたペプチドを回収して質量分析で網羅的に同定したところ,細胞から培養液中に分泌されたペプチドとある程度一致したことからプロテアソームで分解されたペプチドが細胞外にも分泌されることを確認した。抗菌活性予測スコアを付けて,特に活性の強いものを10種類選択し,グラム陰性桿菌(緑膿菌,
E. coli,サルモネラ)とグラム陽性球菌(
M. luteus,
S. haemolyticus)のそれぞれに対して,抗菌活性を調べたところ,概ね容量依存的に細菌膜を破壊することを確認した。
Fig. 3は特に抗菌活性の強いペプチドの産生源となるPPP1CBを用いて,緑膿菌のよる肺炎と菌血症のマウスモデルで
in vivoでの薬効を明らかにし,特に菌血症モデルではトブラマイシンよりも強い抗菌作用があり,マウスの生存率も高めることを示した。
Fig. 4は
dTAGシステムを用いてPPP1CBを特異的にプロテアソーム分解する手法でPPP1CB由来のペプチドが細胞の培養上清中に出てくることを利用して,培養上清そのものが細胞内外の細菌に対して抗菌活性をもつことを明らかにした。
Fig. 5はサルモネラ菌感染と非感染のMAPP解析によりプロテアソーム由来ペプチドがどのように変化するかを調べた結果,感染細胞のペプチドのほうが抗菌活性が強っていること,ペプチドC末端でカチオン性(Lys,Arg,His)アミノ酸で終わるペプチドが増加し,芳香族(Phe,Tyr,Trp)で終わるペプチドは減少していたこと等から,プロテアソームの切断パターンが変化したことがわかった。また,質量分析の結果,PSME3(PA28γ)というタンパク質が感染後にプロテアソームと共沈されやすくなっていたことから,これをノックダウンした細胞で感染実験を行うと抗菌活性が失われたことで,抗菌ペプチドの産生にPSME3が必要なことがわかった。
この研究は
News & Viewsにも取り上げられており,自然免疫の新たなメカニズムを発見しただけでなく,抗菌ペプチドそのものが
in vivoで強い抗菌活性を示しており,今後の多剤耐性緑膿菌にも効果が期待されることにも言及されている。
•Cell
1)がん
肺の血栓促進性ニッチ由来の細胞外小胞が,インテグリンβ2を介してがん関連血栓症と転移を促進する(Extracellular vesicles from the lung pro-thrombotic niche drive cancer-associated thrombosis and metastasis via integrin beta 2) |
がん関連血栓症は播種性血管内凝固症候群(DIC)をもたらし,PDAC(膵管腺癌)やLUAD(肺線癌)などの致死要因になることが多い。また,血栓予防が遠隔転移のリスクを下げることは一部のがんでは知られてきたが,メカニズムは十分に解明されていなかった。DICを発症前に診断し,血栓とがん転移を予防する方法を開発する需要は大きい。本研究では①肺の間質マクロファージから産生される細胞外小胞(sEVs)が血栓リスクを高めること,②肺が血栓を誘発する主たる臓器であること,③細胞外小胞の表面に発現するintegrinβ2の活性化がaXb2 dimersと血小板に発現するGPIbと直接相互作用して血管内血栓の引き金となること,④integrinβ2を阻害すれば,血栓形成を抑制するだけでなく,遠隔転移も抑えること,⑤膵管腺癌患者での血漿中sEVsにおけるintegrinβ2の上昇がその後の血栓発症と相関し,血栓と遠隔転移を予防するための治療標的となりえることを見出した。膨大なデータをまとめた画期的な内容で米国コーネル大のDavid C. Lynden教授らによる報告である。
Figure 1では①Kras変異陽性の膵管腺癌をもつマウスの肺,肝臓,膵臓からsEVsを回収してマウスに注射し,肺由来sEVsだけが血小板数低下,血栓形成,生存率低下をもたらすこと,②膵管腺癌,乳癌,メラノーマのマウスモデルを用いて腫瘍細胞そのものではなく,肺由来sEVsにDIC様病態を誘発する因子が含まれること,③血小板とsEVsが血管内血栓に共局在すること,④血小板除去処理をしたマウスにsEVsを投与しても致死的な血栓は形成されずに生存率も高まることを示し,肺由来sEVsが血小板との相互作用でDIC様病態を誘発することを明らかにした。
Figure2では①膵臓・肝臓・肺の組織由来sEVsのプロテオーム解析(LC-MSによる質量分析)を行い,肺由来sEVsでintegrinβ2が多く発現していることを発見,②マウスとヒトの転移肺組織の特にがん周囲組織でintegrinβ2がクラスター上に分布する(活性型の所見)ことを超解像顕微鏡(dSTORM)で証明,③血小板とsEVsの共培養実験でintegrinβ2に対する阻害抗体を添加すると血小板凝集が抑制されること,④integrinβ2に対する阻害抗体をマウスに投与しておくとsEVsを注射してもDIC様病態は抑制され,マウスの製造率も高まること,⑤integrinβ2ノックアウトマウス由来の乳癌肺転移モデルでも肺由来sEVsでは血栓が誘発されないことを示し,integrinβ2がsEVsの病原性の責任タンパク質であることを証明した。
Figure3では①B16F10メラノーマを皮下移植した遠隔転移マウスモデルで3週間にわたって週2回抗integrinβ2抗体を投与し,肺,腫瘍,血液をサンプリングしたところ,原発巣の腫瘍サイズには変化がなく,肺血栓と肺への微小転移の数とサイズに抑制効果があること,②B16F10メラノーマの静脈注射による肺転移モデルでは4週間にわたり週2回の抗integrinβ2抗体を投与して,同様の効果が得られ,生存期間の有意な延長も認めたこと,③抗integrinβ2抗体が出血リスクを高めないこと(ヘパリンと比較して)を示した。
Figure4では①シングルセル解析でintegrinβ2陽性細胞が免疫細胞に多いこと,②腫瘍マウスの肺では顆粒球は減少し,マクロファージ・B/T/NK細胞が増加すること,③間質マクロファージでintegrinβ2陽性細胞が5倍に増加すること,④間質マクロファージはF4/80⁺ Ly6C⁻ MHC-II⁺ SiglecF⁻として同定でき,免疫抑制型のM2マーカーを発現すること,⑤間質マクロファージを抗CSF1R抗体で除去(肺胞マクロファージは温存される)すると,肺由来sEVsはDIC様病態を形成せず,マウスの生存率も改善することを示し,間質マクロファージがintegrinβ2陽性sEVsの主要な産生細胞であることを明らかにした。
Figure 5では①膵管腺癌をもつマウスの血漿と膵臓の組織培養液のプロテオーム解析を行い,膵管腺癌マウスで野生型よりも顕著に増加している因子としてCXCL13を同定,②健常者末梢血由来の単球由来マクロファージをPDAC患者由来腫瘍の組織培養液で刺激するとCD206陽性M2マクロファージや血栓形成が増加,抗CXCL13中和抗体を添加するといずれも抑制されること,③野生型マウスにCXCL13を投与すると間質マクロファージのintegrinβ2が発現増加し,肺由来sEVsを介してDIC様病態を誘発することを示して,CXCL13→肺の間質マクロファージのリプログラム→sEVs産生→DIC様病態という流れを明らかにした。
Figure 6では①mMap(photocatalytic proximity labeling)(
リンク)という近傍のタンパク質を同定する手法でsEVs上のintegrinβ2の近傍にあるintegrinαXを同定,②sEVsと血小板の共培養実験ではintegrinβ2の近傍にある血小板側因子としてGPIbα/βを同定し,原子間力顕微鏡を用いてintegrinαXβ2とGPIbαが直接強く結合するとわかったこと,③Eptifibatide(GPIIb/IIIa阻害薬)やアスピリンを使ってもsEVsによる血小板凝集は阻止できなかった一方で,抗GPIb抗体や抗integrinβ2抗体では凝集を抑制できることがわかり,sEVsは従来の抗血小板薬では防げない機序で血小板凝集を誘発することがわかった。
Figure 7では①膵管腺癌患者の血栓既往の有無とsEVsやsEVsに含まれるintegrinβ2の発現量の関係性を調べ,膵管腺癌患者ではいずれも健常者に比べて増加し,血栓発症後はさらに増加すること,②肺腺癌やホジキンリンパ腫ではsEVsに含まれるintegrinβ2が高値,③肺腺癌および膵管腺癌患者の肺組織を用いた免疫染色で腫瘍近傍組織に活性型integrinβ2がよく染まること,④膵管腺癌患者のEVを除去後の血漿でCXCL13を測定し,血栓既往のある患者のほうが有意に高値であることを確認した。
マウスモデルにとどまらず,臨床検体も集めたこと,プロテオーム解析,シングルセル解析に加え,超解像顕微鏡,原子間力顕微鏡など様々な手法を駆使して丁寧にロジックを詰めており,さすがCellだと思いました。
•NEJM
1)咳嗽
今週号では総説で慢性咳嗽について米国UMass Chan Medical SchoolのRichard S. Irwin教授らによってまとめられていたので簡単に紹介する。まず,言うまでもなく咳の原因の診断とそれに基づいた治療が重要であり,種々のガイドラインがあるが,特に日本呼吸器学会からは「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019」が刊行されて詳細かつ丁寧にまとめられており,そちらを参照されたい。一般的に咳嗽は継続期間で急性(3週間まで),遷延性(3〜8週間),慢性(8週間以上)に分かれるが,今回の総説では慢性咳嗽でガイドラインでは対処困難な診断不能あるいは治療抵抗性の咳嗽を扱っている。
成人における原因不明もしくは治療抵抗性の慢性咳嗽(Unexplained or refractory chronic cough in adults) |
Key pointsとして載せられているのは,ガイドラインに沿って十分に調べ尽くしても原因不明または治療抵抗性と確認された慢性咳嗽は全体の10%ほどを占め,迷走神経伝達における神経障害性変化(すなわち咳過敏症候群)が原因である可能性が高いこと。Multimodal speech therapy(多面的音声療法)や薬理学的神経調節薬はランダム化比較試験で有効性が示されたものもあり,不安や抑うつ症状への対応も考慮すべきと述べられている。そして開発中のものを含めた新薬について紹介されている。
多面的音声療法は言語聴覚士が専門的に行う治療手段で,脳に働きかけることで咳反射を抑制するもので,具体的には咳の病態理解といった教育要素,咳抑制テクニック(鼻から深く息を吸う,口をすぼめて息をゆっくり吐く)や呼吸トレーニング(腹式呼吸やリズム呼吸法),発声訓練(喉をリラックスさせるような「ふー」と吐き出すような発声など)が中心となり,ランダム化比較試験で慢性咳嗽に有効と報告されてきた。一方,神経調節薬としてamitriptyline(三環系抗うつ薬),gabapentin,morphine,baclofenなどが挙げられている。その他,不安や抑うつ症状は慢性咳嗽から二次的に起きる場合もあることから対処が必要とされる場合や上喉頭神経ブロック(Superior Laryngeal Nerve Block)が有効な例もあることが述べられている。新薬については気道に分布する迷走神経C線維上のイオンチャネルであるP2X3受容体拮抗薬が期待されており,その副作用としてP2X2/3受容体が味蕾にも分布することから味覚障害のリスクを避けにくいことが述べられている。特にgefapixantが日本とEUでは承認済で臨床で使用されていること(ただしFDAでは未承認)や,臨床試験中のCamlipixant(BLU-5937),Filapixant(BAY-1902607),吸入薬Aspirex(DT-0111)等についても紹介されている。
Fig. 1には,末梢の感覚受容(気道上皮に達する末梢神経にはP2X3受容体だけでなく,以前から注目されてきた
TRPV1,BK受容体なども発現)→中枢処理(延髄孤束核・傍三叉神経核で処理して,咳を意識的に制御するため中脳・大脳皮質との連絡)→運動指令(咳動作)の咳のメカニズムをわかりやすく示されていた。
今週の写真:京都の円山公園の夜桜もほぼ満開を迎えました。 
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