•Nature
1)細胞生物学:Article
肺線維症の起源細胞と転写調節因子(RUNX2 promotes fibrosis via an alveolar-to-pathological fibroblast transition) |
米国コロンビア大学アーヴィング医療センターからの報告である。肺が線維化する機構として,レプチン受容体(Lepr)を発現する肺線維芽細胞が,転写因子RUNX2(Runt関連転写因子2)によって病理的線維芽細胞へと変化することを示している。
組織特異的な細胞系譜追跡と単一細胞解析を組み合わせた,いわゆるイマ風の論文で,「LEPR+肺胞線維芽細胞が病理的線維芽細胞の起源で,RUNX2がその変換を制御する鍵である」ことを明らかにした。
図1では,マウス肺組織の解析から,Lepr陽性の肺間葉系細胞は肺胞形成期に増加し,ブレオマイシン誘導線維症モデルではこれらの細胞がαSMAやCTHRC1/Collagen Triple Helix Repeat Containing 1が陽性の病理的線維芽細胞に変化していることが示唆された。
そこで図2では,scRNA-seq解析によって,LeprcreERT2でラベルされたLepr陽性の肺線維芽細胞が,ブレオマイシン処理後に病理的線維芽細胞へと変化することを示している。LeprcreERT2システムでは,Lepr遺伝子領域にタモキシフェン誘導型Cre組換え酵素(CreERT2)が挿入してあるため,タモキシフェンを投与するとCreERT2が機能し,Rosa26-tdTomatoレポーターマウスと交配したマウスでは,Lepr陽性細胞とその子孫が永続的に赤色蛍光タンパク質tdTomatoで標識される。
図3では,αSMAやCTHRC1が特異的に陽性となる病理的線維芽細胞では,ペリオスチン(Postn)も発現しており,Postn陽性細胞を除去すると肺線維症は軽減することが示されている。ここで用いたPostncreERマウスは,Postn遺伝子の制御下でMerCreMer(タモキシフェン誘導型Cre組換え酵素)を発現するノックインマウスで,R26tdTレポーターマウスと交配し,タモキシフェン投与すると,Postn陽性細胞とその子孫が蛍光標識される。また,R26DTAマウスと交配することによって,タモキシフェン投与でPostn発現細胞を特異的に除去することができる。
図4では,scRNA-seqとscATAC-seq解析により,Runx2が線維化遺伝子の主要な調節因子として同定され,これを欠損させるとブレオマイシンで肺線維症を誘導できなくなった。具体的には,LeprcreERT2;Runx2f/fマウス(タモキシフェン投与によりレプチン受容体陽性細胞が特異的にRunx2を欠損)や,Scube2creERT2;Runx2f/fマウス(細胞外マトリックスタンパク質であるSCUBE2/signal peptide-CUB-EGF domain-containing protein 2を発現する細胞,すなわち肺胞線維芽細胞で特異的にRunx2を欠損)では,線維化領域,ハイドロキシプロリン含量,αSMA+細胞,CTHRC1+細胞が有意に減少した。RUNX2は,骨形成の制御で広く知られている転写因子である。RUNX2はTGFβシグナル伝達の下流でも機能し,細胞外マトリックス関連遺伝子の発現を調節している。
図5では,特発性肺線維症(IPF)患者においても,病理的線維芽細胞でRUNX2が発現上昇し,細胞外マトリックスの産生を促していることを明らかにした。
•Science
1)分子生物学:RESEARCH ARTICLE
水素イオンを感知するTRIM25による外来RNAの監視機構(Exogenous RNA surveillance by proton-sensing TRIM25) |
韓国のソウル国立大学からの報告で,COVID-19ワクチンに用いられたmRNAが細胞内でどのように処理されるのかを明らかにしている。特に,TRIM25/tripartite motif containing 25というRNA結合性E3ユビキチンリガーゼが細胞内に入った外来mRNAを認識して分解を促すこと,そしてN¹-メチルシュードウリジン修飾がこのTRIM25による監視を回避し,タンパク質産生効率を高めることを明らかにしている。また,TRIM25が水素イオン感知器として機能し,エンドソーム由来のmRNAを選択的に標的にすることも明らかにしている。
COVID-19ワクチンのmRNAをどうしてm¹ψ修飾しておかなければならなかったのかを説明する論文である。逆に言うと,こういう基本的なこともわからないままCOVID-19ワクチンを始めなければならなかった当時の状況を,改めて考えさせられる。
図1では,細胞内でLNP(lipid nano particle)-mRNAを制御している因子を同定するためにゲノムワイドCRISPRスクリーニング行っている。sgRNAライブラリを導入したヒト大腸癌由来HCT116細胞にEGFP mRNAを導入し,GFP蛍光の高低によって細胞を分取し,シークエンスで濃縮されたsgRNAを同定した。この方法で,重要な調節因子としてHSPG /heparan sulfate proteoglycan「ヘパラン硫酸プロテオグリカン」合成,V-ATPaseサブユニット,TRIM25が見つかった。
図2では,HSPGとV-ATPaseがLNP-mRNAの細胞内送達に必要であることを示している。HSPGはLNPの細胞表面への結合を促進し,V-ATPaseはエンドソームを酸性化してLNP 内のmRNAが細胞質へ放出されるのを促していた。細胞表面のHSPGと競合するヘパリンで細胞を処理するとLNPの取り込みは阻害され,またバフィロマイシンA1(V-ATPase阻害薬)で処理するとmRNAがエンドソームから放出されなくなった。
なおV-ATPaseは,エンドソーム膜に存在するH+ポンプで,ATPのエネルギーを利用してH+をエンドソーム内腔に輸送している。輸送されたH+でエンドソーム内のLNPは正電荷化し,①膜融合(正電荷化したLNPがエンドソーム膜と融合し,膜を破壊),②H+スポンジ効果(電気的中性を保つため,エンドソーム内へCl--の流入→浸透圧勾配による水分子の流入→エンドソームは膨張),①と②の機構によってエンドソームは破壊され,同時にLNPも壊れてmRNAが細胞質へ放出される。
そして図3と図4では,細胞質へ放出されたmRNAが,H+感知性のユビキチンリガーゼTRIM25によって急速に分解を促されることを示している。COVID-19ワクチンでも用いられているN¹-メチルシュードウリジン(m¹Ψ)修飾されたmRNAはTRIM25に認識されない。しかし修飾されていないmRNAはTRIM25で認識された後に,エンドリボヌクレアーゼであるN4BP1とKHNYNによって分解されてしまう。
図5では,TRIM25が非修飾mRNAと結合して活性化することを示している。TRIM25は非修飾mRNAに強く結合するものの,m¹ψ修飾mRNAとは結合が弱かった。mRNAとの結合によってTRIM25のE3ユビキチンリガーゼは活性化された。一方,RNA結合能力やリガーゼ活性を欠いたTRIM25の変異体では,mRNAの分解を促進する機能が喪失してしまった。
最後に図6では,TRIM25がエンドソーム経由で侵入した外来mRNAだけを標的とすることを示している。LNPで導入されたmRNAとは異なり,リポフェクタミンや電気穿孔法で導入されたmRNAはTRIM25によって分解されなかった。すなわち,TRIM25のRNA結合能力は酸性pH条件で増強され,破裂したエンドソームから放出されるH+がTRIM25の活性化に重要であることが示唆された。
•NEJM
1)遺伝学:ORIGINAL ARTICLE
先天性下痢・腸症の遺伝的原因(The genetic architecture of congenital diarrhea and enteropathy) |
カナダのトロント・シックキッズ病院からの報告である。先天性下痢症および腸症(CODEs/Congenital diarrhea and enteropathies)の遺伝的要因を体系的に調査し,その遺伝的構造を解明している。先天性単一遺伝子性下痢障害が疑われる129人の乳児(発端者,プロバンド)のエクソームまたはゲノム解析を実施した。62人(48%)で既知の単一遺伝子性CODEs関連遺伝子に原因変異が見つかった。3つの新規候補遺伝子が同定され,細胞およびゼブラフィッシュモデルを用いた機能解析によってCODEsとの関連が確認された。
①GRWD1:兄弟姉妹ペアで同定された変異で,リボソーム生合成に関与する遺伝子。変異によってRPL3 (Ribosomal Protein L3,リボソームの60Sを構成するタンパク質)のシャペロン活性が障害され,腸管ゴブレット細胞の異常が引き起こされた。
②MYO1A:2カ月齢で突然の下痢を発症した男児で同定された。腸管刷子縁に局在するアクチン依存性モーター蛋白質をコードし,変異により微絨毛からのMYO1Aの局在異常がみられた。
③MON1A:生後3日で下痢を発症した新生児で同定された。後期エンドサイトーシスでのRAB7A(後期エンドソームとリソソームの機能に関わる低分子量GTPaseタンパク質)機能を支援するGEF(グアニンヌクレオチド交換因子,GタンパクやGTPaseタンパク質の活性化を促進する分子)複合体の一部をコードし,変異によりエンドソーム選別とRAB7依存性エンドソーム成熟に障害が生じた。
この研究では先天性下痢症の遺伝的原因を網羅的に解明し,特に3つの新規遺伝子変異を同定している。分子メカニズムも詳細に解析しており,将来的な治療法開発へつながることが期待される。
今週の写真:ベトナム発祥のサンドイッチ「バインミー」を初の実食。異国情緒を味わえました。 
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(TK)