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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 321

公開日:2025.4.24




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新たなスクリーニング法による新規抗真菌薬の発見/免疫学と理工学の融合でアレルギーを克服する/血友病Bに対する遺伝子治療の長期成績

•Nature

1)微生物学:Article
真菌類の細胞膜に存在するリン脂質を標的とするポリエンマクロライド(A polyene macrolide targeting phospholipids in the fungal cell membrane
DOI: 10.1038/s41586-025-08678-9

 薬剤耐性菌は細菌での話題が先行しているが,真菌感染症においても深刻な耐性問題を抱えている。特にCandida auriusなどの多剤耐性真菌は,現行の4クラスすべての抗真菌薬(ポリエン系,アゾール系,エキノカンジン系,ピリミジン系)に耐性を示しており,世界的に公衆衛生学上の深刻な懸念事項となっている。実際に,2023年にはわが国でも初めてのC. auriusの検出が報告されている(JIC 2023)。このような現状を打破すべく,中国薬科大学のグループから,新しい天然抗菌薬探索プラットフォームを構築し,これまで未知であり,かつ新規機序により抗真菌活性を示す天然物であるMandimycinを見出したことが報告された。

 従来の抗菌薬探索法は活性指向型スクリーニングが主であり,この方法は土壌や発酵培養液などから抽出した天然物を真菌に対して直接スクリーニングし,抗菌活性を持つ化合物を選別する手法である。この手法で抗菌薬ラインナップは広がってきたわけであるが,過去に同定された化合物の再発見率が高く,真に新規な化合物の発見率が極端に低いことが問題であった。今回用いられた方法は「進化系統解析に基づく天然物探索」である。特定の天然物の生合成に関与する酵素群を進化の観点から遺伝学的に解析し,系統樹に基づいて既存薬とは異なる系統(クレード)に属する生合成遺伝子クラスター(BGC)を抽出,そこから新規化合物を予測・同定するアプローチのことを言う。

 今回は,アンホテリシンB(ampB)が属するポリエン系薬剤の共通の糖(マイコサミン)の転移酵素に注目しS. netropsisのクレード解析を行い,新規mandimycin産生遺伝子クラスターを同定,さらにそのクラスターをKOすることにより抗真菌活性が消失することを確認している(Fig.1)。Mandimycinの薬剤特性としてampBと比較して9,700倍以上の水溶性をもつこと確認している。

 Fig.2ではmandimycinの抗真菌活性機序が細胞膜障害にあること,また耐性誘導実験で既存の抗真菌薬では生じる耐性が生じないことを示している。このことから,作用機序の分子基盤が従来のポリエン系抗真菌薬が標的としているエルゴステロールではないことを仮説として,さらに詳細な検討を進めた。エルゴステロールの存在下でも活性は減弱せず,UVスペクトル解析などでもエルゴステロールとの結合は確認されない一方でリン脂質とは高親和性に結合していた。これより,mandimycinの標的が真菌細胞膜のリン脂質への直接作用であることが明らかとなった。興味深いことに,mandimycinの糖鎖構造の一部であるatratcynose Aを欠損すると,その標的はエルゴステロールへ逆戻りし活性も大幅に減弱したことから,この糖鎖修飾が鍵を握っていたことになる(Fig.3)。
 Fig.4ではPOCとして,Candida albicansCryptococcus neoformans等への抗真菌活性,またマウス感染モデルへの実際の投与により,100%の生存達成とampBと比較して腎毒性がはるかに低く安全であることを示している。

 本報告では2つのブレークスルーが特筆できる。新規抗真菌薬を同定した方法論と,その抗真菌薬であるmandimycinの作用機序である。当然この方法論は応用可能であり,ほかの新規抗菌薬の発見にもつながることが想像される。また,mandimycin自体も全く新たな機序により抗真菌活性を示すことから,多剤耐性真菌に対しての薬剤候補として大きな期待が持てるだろう。

•Sci Transl Med 

1)免疫学:Research Article 
肝臓を舞台に行うアレルゲン免疫療法は急速かつ安全に気道アレルギー疾患を持つマウスにトレランスを誘導する(Liver-targeted allergen immunotherapy rapidly and safely induces antigen-specific tolerance to treat allergic airway disease in mice
DOI: 10.1126/scitranslmed.adl0406

 喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患は,いまだに「免疫の暴走」を抑える薬物治療に頼らざるを得ない状態が続いている。近年,抗IL-5抗体や抗IgE抗体などの分子標的治療薬が登場し重症例への対応は向上しているが,「根本治療」と呼べるにはほど遠い。アレルゲン免疫療法(AIT)は唯一,アレルゲン特異的な免疫寛容を誘導できる手段だが,長期間の投与やアナフィラキシーのリスクにより,臨床現場での普及は限られている。そのような中,「肝臓」を舞台にアレルギー免疫を“静かに教育して書き換える”というスマートな発想の論文がシカゴ大学のグループより報告された。
本論文の前提として肝臓の免疫寛容誘導能力を簡単に記す。肝臓は元来食事由来抗原や腸内細菌成分などに対する不適切な免疫反応を防ぐための免疫抑制環境をもつことが知られている。肝臓には共刺激分子の低レベル発現,TGF-β,IL-10の分泌などの特徴をもつ特有の抗原提示細胞(クッパー細胞,類洞非内皮細胞,肝星細胞等)が存在し,T細胞抑制的に作用している。これらは,通常抗原提示に必要とされるDAMPsやPAMPs,炎症性サイトカインが非常に低レベルな環境で平和的に抗原提示を行っている。これが,肝臓の免疫寛容誘導の前提となる能力である。
 これを最大限利用するために本研究で行われた工夫は抗原のマンノース修飾である。前述の肝臓に住む抗原提示細胞はマンノース受容体をはじめとするC型レクチン受容体を高発現しており,この受容体経由の刺激は炎症を伴わない抗原提示であることが知られる。そこで,アレルゲンをマンノース修飾(糖鎖修飾)することにより,効率的に肝臓関連抗原提示細胞に送達し,静かな抗原提示をさせることで免疫寛容を誘導すること(LIT:Liver-induced immunotherapy)を試みたということが本研究の根幹である。

 まずはOVA感作マウスモデルにおける予防的な効果を検討している。OVA感作の前にマンノース修飾を行ったOVAを2回のLIT(静脈投与)をしただけで,アレルゲン曝露後のIgE産生,気道好酸球浸潤,気道過敏性下,粘液分泌といった喘息病態が抑制された(Fig.1)。その詳細な機序の解析では,抗原特異的CD4⁺T細胞はFoxP3⁺Tregへと分化し肺局所に浸潤,活性化・増殖している様子がFlowSOMやUMAP解析により可視化されている(Fig.2)。さらに,FoxP3-DTRマウスを用いてTreg細胞のみを選択的に除去すると,LITの効果は消失し,その保護作用はアレルゲン特異的Treg細胞の存在に依存していることを明らかにした(Fig.3)。続いて,より臨床応用に近い,OVA感作を先に行ったマウスを用いて同様の検討行っている。既感作個体へのLIT投与においても,マンノース修飾アレルゲンはIgEによる結合を回避し,アナフィラキシーの誘発なしに免疫寛容が成立。また,その効果は短期間の投与にもかかわらず1年以上にわたって持続し,抗原再曝露によるIgE再上昇や好酸球動員も認められなかったことを示している(Fig.4Fig.5)。
 最後に実臨床では最も多いアレルゲンであるダニの主要抗原であるDer p1をマンノース修飾しLITが確立し,その効果は既感作個体でも生じることを示した。この実験ではDer p1のみを用いているが,HDMという多抗原性アレルゲン系に対しても抑制効果が得られており(Fig.6Fig.7),単一抗原に対するトレランス誘導で複数抗原の過剰応答をコントロールできる可能性も示唆された。

 「静かに免疫系を教育する」という肝臓の生理的特徴を,理工系の技術(糖鎖修飾)と免疫学的知見で融合させた点で見事な研究と感じた。

•NEJM

1)遺伝子治療:ORIGINAL ARTICLE
血友病Bに対する遺伝子治療の長期追跡研究(Fidanacogene elaparvovec for hemophilia B — A multiyear follow-up study
DOI: 10.1056/NEJMoa2307159

 血友病Bは,凝固因子Ⅸ(FⅨ)の欠乏によって出血傾向を呈するX染色体連鎖性疾患である。現在の標準治療は,FⅨ製剤の定期的静注投与だが,治療負担やアドヒアランスなどが大きな課題である。AAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターを用いた遺伝子治療は,単回投与で持続的な治療効果が期待される新たな治療法であり,先行研究ではfidanacogene elaparvovec〔FⅨ-Padua(R338L)と呼ばれる高活性変異体をコード〕の初期成績でFⅨ活性の持続的上昇が報告されている(NEJM 2017)。しかし,長期的な安全性と有効性は明らかでなく,本研究ではその多年度(最長6年)のフォローアップデータを提示している。
 Fig.1ではFⅨ活性の経過を示しているが,治療後,FIX活性は平均して7〜44%と軽度血友病のレベルで安定していた。また,出血イベントは顕著に減少し,参加者の2/3が「無治療出血なし」を達成。外科手術13件でも予想外の出血はなく,凝固能が十分に保持されていたことが示唆された(Fig.2)。投与後1年以降に治療関連の有害事象は皆無で,脂肪肝の進行が数例でみられたが,これはBMIや基礎疾患に起因する可能性が高く直接的な因果関係は示されなかった。肝癌発生もゼロであった。興味深いこととして,この効果が非常に低用量のAAVベクター投与で達成されている点がある。AAVベクターの長期発現と免疫反応制御のバランスをとる点において,FⅨ-Padua(R338L)の高比活性(この1アミノ酸置換により第Ⅸ因子の酵素活性が8から12倍高くなる)という設計が大きな利点になっていると考えられる。
 われわれの領域である呼吸器疾患においても,α1アンチトリプシン欠損症などにおいては,この「低用量×高活性型」の遺伝子治療アプローチは応用可能であろう。

今週の写真:サンメッセ日南のモアイ
宮崎県のサンメッセ日南には相当大きな7体のモアイがあります。
背景の水平線が見事でした。 

(坂上拓郎)