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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 324

公開日:2025.5.27




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セルフリーRNAの超高感度検出法/コウモリオルガノイドによる人獣共通感染症研究/ナルコレプシー1型に対する経口薬オベポレクストン

•Nature

1)がん研究
セルフリーRNAの超高感度検出法(An ultrasensitive method for detection of cell-free RNA
DOI: 10.1038/s41586-025-08834-1

 DNAとRNAは通常は無傷の細胞内に存在するが,がんなど一部の疾患の場合,細胞からこれらの分子が少量放出されて血液中を循環する。リキッドバイオプシーと呼ばれる血液検査を用いて,これら無細胞(セルフリー)RNA(cfRNA)の高感度な検出法があれば,非侵襲的な遺伝子発現プロファイリングや疾患の監視が容易になると考えられている。しかしながらリキッドバイオプシーのサンプル調製中に破裂した血球や血小板などの血球断片からのRNAによる汚染がしばしば問題となってきていた。
 米国スタンフォード大学からの本研究は,cfRNAの解析のために最適化した方法であるRARE-seq(random priming and affinity capture of cfRNA fragments for enrichment analysis by sequencing)について開発している。News and Viewsでも「血液中の希少な疾患由来の無細胞RNAを検出することは,騒がしい雑踏の中でささやき声を聞こうとするのと同じような挑戦である。」と紹介されているが(),筆者らは血小板の混入によってcfRNAの分析がかなり混乱する可能性があることを示し,採血,RNA抽出,遠心分離機で血液を処理する速度,配列決定法,バイオインフォマティクス解析を最適化した(Fig.1)。詳細は本文MethodsおよびSupplementに記載されている。続いて分析的検証によって,腫瘍由来のcfRNAの検出に関しては本法であるRARE-seqが全トランスクリプトームRNA塩基配列解読法(RNA-seq)よりも感度が約50倍高く,検出限界は0.05%であることが明らかとなった(Fig.2)。臨床的有用性を検討するため,がんまたは非悪性疾患を有する369人と対照群から得られた437の血漿サンプルをプロファイリングした。cfRNAにおける非小細胞肺がん発現シグネチャーの検出は,病期が進むにつれて増加し(I期では20例中6例(30%),II期では8例中5例(63%),III期では15例中10例(67%),IV期では96例中80例(感度83%),特異度95%),RARE-seqは腫瘍非存在の循環腫瘍DNA(ctDNA)解析よりも感度が高かった(Fig.3)。
 EGFR変異を有する非小細胞肺腺癌の患者に対してチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)(オシメルチニブ)の治療をうけた10人について,TKI耐性についてRARE-seqで解析を行った。4例で小細胞肺癌(SCLC)への組織学的形質転換が確認されたが,そのうちの3例の患者ではASCL1やNEUROD1やINSM1を含む小細胞肺癌(SCLC)関連の73個の遺伝子プロファイルが検出されている(Fig.4)。すなわち組織学的形質転換について通常必要な組織検体を採取せずに診断ができる可能性を示している点で優れている。そしてRARE-seqががんの原発組織の決定や良性の呼吸器疾患の評価,さらにはmRNAワクチンへの応答の追跡(mRNA COVID-19ワクチンを接種した5人の血液サンプルから20以上の時点におけるRNAプロファイルを調べた)にも利用可能であることを実証している(Fig.5)。以上からRARE-seqは超高感度のcfRNA分析方法であり,さまざまな臨床応用が可能であることが示唆された。

•Science

1)感染症
多様なコウモリオルガノイドは人獣共通感染症ウイルスの病態生理学的モデルを提供する(Diverse bat organoids provide pathophysiological models for zoonotic viruses
DOI: 10.1126/science.adt1438

 世界保健機関(WHO)は,人獣共通感染症について脊椎動物からヒトへ自然感染するあらゆる疾患または感染症と定義している。歴史的には黒死病,スペイン風邪,香港風邪,COVID-19など,多くのパンデミックが人獣共通感染症の病原体に起因している。ヒトにおける新規または新興感染症の約75%は人獣共通感染症(Wiki)に起因すると推定されている。コウモリは,重症急性呼吸器症候群(SARS),中東呼吸器症候群(MERS),COVID-19の原因となるコロナウイルス,ヘニパウイルス,リッサウイルス,フィロウイルスなど,いくつかの人獣共通感染症ウイルスの重要な哺乳類リザーバーであると考えられている。しかし,これらのウイルスを保有するコウモリは病気の兆候をほとんど示さず,ウイルスのスピルオーバー(ウイルスが他の種に感染すること)などの脅威が知られている。世界には推定1400種のコウモリがおり,その生息地や行動は様々である。しかしながら広く感染症の研究を進めるにあたり,これらの病原体を研究するためのコウモリのモデルはその限られた種や生息地域特殊性などの点において問題であった。
 韓国科学技術院(KAIST: Korea Advanced Institute of Science and Technology)からの本研究では,地域的にも様々なVespertilionidae科とRhinolophidae科の非熱帯性食虫コウモリから,5種類の4臓器にまたがるコウモリオルガノイドモデルを開発している(Rhinolophus ferrumequinum,Myotis aurascens,Pipistrellus abramus,Eptesicus serotinus,Hypsugo alaschanicus)。肺オルガノイド(リンク)については気管支〔繊毛細胞(Ac-Tub),杯細胞(MUC5AC),基底細胞(KRT5)〕に加え,肺胞上皮のII型細胞(SFTPC)とI型細胞(AQP5)といった細胞について検証している。また,腎臓オルガノイド(リンク)では,尿細管上皮と尿管上皮に沿った単線毛細胞にはアセチル化チューブリン(Ac-Tub),近位尿細管にはLTL,遠位尿細管と集合管にはCDH-1,集合管にはAQP3,増殖中の腎前駆細胞にはKi-67を用いて,さまざまなネフロン分節を示す主要な細胞マーカーの存在を観察された(Fig.1)。
 感染実験ではオルガノイドのSARS-CoV-2およびMERS-CoVに対する感受性の違いが観察された。すなわちSARS-CoV-2はRhinolophusコウモリに対する種特異性を示し,MERS-CoVはR. ferrumequinumM. aurascensE. serotinusの肺オルガノイドで強い複製を示した。そして,鳥インフルエンザA型ウイルスに対するコウモリ呼吸器オルガノイドの高い感受性があることも明らかとなった。この広い感受性は,それぞれ鳥およびヒトインフルエンザウイルスレセプターであるα-2,3およびα-2,6シアル酸の共染色と相関していた。また,ウイルス感染によるインターフェロン刺激遺伝子(ISG)の誘導なども確認されている(Fig.2)。ウイルスの臓器特異感受性についても調べており,例えばヒトA型インフルエンザウイルスH1N1(CA04)または鳥インフルエンザウイルスH5N1(偽型,Δ401)は呼吸器オルガノイドと腎臓オルガノイドで効率的に複製し,小腸オルガノイドでは弱かった。R. ferrumequinumおよびE. serotinusの腎臓オルガノイドは,旧世界のハンタウイルスであるOrthohantavirus seoulense(SEOV)に感受性があり,肺や小腸オルガノイドと比べても複製が強く,ISGが誘導され自然免疫応答が観察された(Fig.3)。
 さらにオルガノイド・プラットフォームを用いて,コウモリのサンプリング地点から採取した糞便から,これまで知られていなかったコウモリウイルスを分離を試みた。その結果,コウモリ媒介性哺乳類オルソレオウイルスおよびパラミクソウイルスの分離と特性解析に成功し,これらのオルガノイドパネルがこうした監視に有用であることが実証された。また,抗ウイルス治療薬の迅速な試験の有用性についても調べたところ,その有用性が示された(Fig.4)。
 このように本研究で示された多種・多臓器オルガノイドパネルは,いくつかのウイルスについて種特異的および組織特異的な複製パターンを示し,呼吸器系,腎臓系,腸管系の人獣共通感染症ウイルスの研究のための病態生理学的モデルとして非常に有用であり,さらに,コウモリウイルス分離株に対する既存の抗ウイルス薬の有効性を試験すること(薬効試験)にも成功している。

•NEJM

1)睡眠医学
ナルコレプシー1型に対する経口オレキシン2型受容体選択的作動薬オベポレクストン(Oveporexton, an oral orexin receptor 2–selective agonist, in narcolepsy type 1
DOI: 10.1056/NEJMoa2405847

 ナルコレプシー(Wiki)は,日中において場所や状況を選ばず起こる強い眠気の発作を主な症状とする睡眠障害であり,夜間の睡眠障害,催眠幻覚,睡眠麻痺,および著しいQOLの低下がみられる。感情が高まったときに急に力が抜ける「情動脱力発作(カタプレキシー)」がみられるのが1型で,視床下部のオレキシン産生ニューロンの喪失によって特徴付けられ,脳脊髄液中のオレキシン(Wiki)濃度は低いか,あるいは存在しない。
ちなみに2型はオレキシンの値が正常で情動脱力発作を伴わないナルコレプシーである。
 一般にオレキシンはオレキシン1型受容体1(OX1R)とオレキシン2型受容体(OX2R)という2つのGタンパク質共役型受容体を介して作用し,脳内では重複するが異なる分布を示している。どちらの受容体もさまざまな生理的反応に関与しているが,とくにOX2Rは覚醒,急速眼球運動(REM)睡眠,ナルコレプシー動物モデルにおけるカタプレキシー予防に機能している,といわれている。
 本試験はアメリカ武田開発センター(Takeda Development Center Americas)を中心としたフランス,イタリア,米国などからの国際研究で,ナルコレプシー1型の参加者に,経口オレキシン2型受容体選択的作動薬オベポレクストン(oveporexton;TAK-861)(リンク)を1日1回または2回もしくはプラセボを投与した第2相無作為化プラセボ対照試験である。主要評価項目は,覚醒維持検査(Maintenance of Wakefulness Test: MWT)(リンク)で評価した平均睡眠潜時(入眠までの時間;範囲は0~40分で,20分以上で正常)におけるベースラインから8週までの平均変化量とした。副次的評価項目は,エプワース眠気尺度(Epworth sleepiness Scale : ESS)(リンク)の総スコア(範囲は0~24で,10以下で正常)におけるベースラインから8週までの変化量,8週の時点での1週間あたりの情動脱力発作の発生率,有害事象の発現などとした。
 90例がオベポレクストンの投与を受け(0.5mg1日2回:23例,2mg 1日2回:21例,1回目2mg・2回目5mgの1日2回:23例,7mg1日1回:23例),22例がプラセボの投与を受けた。MWTで評価した平均睡眠潜時におけるベースラインから8週までの平均変化量は,それぞれ12.5分,23.5分,25.4分,15.0分,-1.2分であった(プラセボと比較した補正P値はすべて0.001以下).8週の時点でのESS総スコアの平均変化量は,それぞれ-8.9,-13.8,-12.8,-11.3,-2.5であった(プラセボと比較した補正P値はすべて0.004以下).8週の時点での1週間あたりの情動脱力発作の発生率は,それぞれ4.24,3.14,2.48,5.89,8.76であった(2mg1日2回と,1回目2mg・2回目5mgの1日2回は,プラセボと比較した補正P値が0.05未満)(Figure 1Table 2)。オベポレクストンに関連する有害事象としてとくに頻度が高かったのは,不眠(参加者の48%;大部分は1週間以内に消失),尿意切迫(33%),頻尿(32%)であり,肝毒性は認められなかった。
 ナルコレプシータイプ1患者を対象とした第2相試験でオベポレクストンは,覚醒,眠気,情動脱力発作の指標を8週の期間中有意に改善しており,今後の実用化が期待される。QuickTakeにわかりやすい動画で紹介されている。

今週の写真:
 ATSで訪れたサンフランシスコには無人のタクシー(waymo;ウェイモ ,Wiki)が走っている。最新のテクノロジーの一方で,街にホームレスが増えている現実がありました。Waymoは賢く意外と快適でした。
(鈴木拓児)