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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 326

公開日:2025.6.11




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加齢に伴う腸管バリア機能の低下は疾患リスク/老化によってタウリンは減少しない/末梢肺結節の診断法

•Nature                 

1)血液病学:Article
老化に伴って蓄積する微生物代謝物がクローン造血を促す(Microbial metabolite drives ageing-related clonal haematopoiesis via ALPK1
DOI: 10.1038/s41586-025-08938-8

 米国のシンシナティ小児病院医療センターからの報告である。加齢により腸管バリア機能が低下すると,グラム陰性細菌由来の代謝産物ADP-ヘプトースが血中に流入するようになり,前白血病細胞のALPK1(Alpha-protein kinase 1,細菌由来の病原体関連分子パターンPAMPを認識する非定型キナーゼ)を介してNF-κBシグナルが活性化され,クローナル造血が促進されていた。高齢者やCHIP(Clonal Hematopoiesis of Indeterminate Potential,不確定な潜在能を持つクローン性造血)患者では血中ADP-ヘプトース濃度が上昇しており,これが炎症と心血管疾患リスクの増加と関連していた。
 図1では,腸管上皮障害と微生物叢の変化によって,DNAメチル化酵素Dnmt3aを欠損した造血幹細胞(前白血病細胞)は,その増殖が促進されることを示している。DSS誘発大腸炎や加齢によりマウスの腸管バリアが破綻すると,Dnmt3a欠損造血幹細胞が選択的に増殖した。この現象は抗生物質処理により抑制され,微生物叢移植実験では,DSS処理マウスや高齢マウス由来の腸内細菌がDnmt3a欠損造血幹細胞の増殖を惹起することが確認された。
 図2は,グラム陰性細菌由来のADP-ヘプトースがDnmt3a欠損造血幹細胞の増殖を惹起することを示している。DSS処理や加齢によりマウスの血中ADP-ヘプトース濃度は上昇し,高齢者やMDS患者でも血中ADP-ヘプトースが検出された。ADP-ヘプトース投与により,マウスではDnmt3a欠損造血幹細胞が増殖し,MDS患者由来細胞の増殖が免疫不全マウス内で確認された。
 図3は,ADP-ヘプトースがALPK1を介してTIFAsome形成とNF-κB活性化を誘導し,前白血病細胞の拡大に必要であることを示している。なおTIFAsomeは,TIFA(TRAF-interacting protein with forkhead-associated domain)タンパク質のオリゴマーで,ADP-heptoseが結合したALPK1がTIFAをリン酸化することによって形成される。高齢者やCHIP,MDS患者の血漿ではTIFAsome形成が認められ,MDS患者ではALPK1発現が増加していた。Dnmt3a欠損造血幹細胞はADP-ヘプトースに対してより敏感に反応し,Alpk1欠損によりDnmt3a欠損造血幹細胞の増殖は阻害された。
 図4は,ADP-ヘプトースがALPK1を介して,Dnmt3a欠損造血幹細胞に特異的な転写変化を誘導することを示している。Dnmt3a欠損細胞では造血幹細胞や未分化細胞に関連する遺伝子が発現上昇しており,成熟免疫細胞関連遺伝子は野生型細胞で発現上昇していた。転写因子解析では,Dnmt3a欠損細胞でNF-κB結合モチーフの顕著な濃縮が認められ,NF-κB標的遺伝子の発現増加が確認された。
 図5は,ADP-ヘプトースがALPK1を介してDnmt3a欠損造血幹細胞の増殖を促進し,その機序にE2ユビキチン結合酵素UBE2N依存性のNF-κB活性化が関与することを示している。阻害薬スクリーニングにより,IL-1βとは異なりADP-ヘプトースはUBE2Nを介してNF-κBを活性化し,UBE2N阻害によりDnmt3a欠損細胞の増殖が抑制された。
 加齢に伴う疾患リスクを腸管バリア機能と関連付けた視点は,今後の予防医学や治療戦略に大きな影響を与えると思われる。

•Science   

1)加齢学:RESEARCH ARTICLE
タウリンは加齢のバイオマーカー?(Is taurine an aging biomarker?
DOI: 10.1126/science.adl2116

 米国国立老化研究所(NIA)からの報告である。従来,血中タウリン濃度が加齢とともに低下し,タウリン補充が老化を遅らせる可能性が示唆されていた。この研究では3つの哺乳類種(ヒト,アカゲザル,マウス)を対象とした大規模な縦断研究により,実際には血中タウリン濃度は加齢とともに増加または変化しないことを明らかにした。さらに,タウリン濃度の個体差は加齢による変化よりも大きく,運動機能や体重との関連も一貫性がないことから,タウリンは老化の良好なバイオマーカーとはならないと結論づけられた(SUMMARYの図)。
 図1は,3つの種(ヒト,アカゲザル,マウス)における血中タウリン濃度の加齢変化を性別ごとに示している。ヒトデータ(BLSA縦断研究とBalearic横断研究),アカゲザルとマウスの縦断データを分析した結果,雄マウスを除くすべてのコホートでタウリン濃度が加齢とともに増加していた。これらの4つのデータに,もう一つのヒトデータ(PREMED研究)も加えて統合的にメタ解析を行っても,やはり全体的に軽度から中等度の増加を示した。すなわち,従来の「タウリンは加齢とともに減少する」という仮説とは逆の結果となった。
 図2は,血中タウリン濃度と運動機能(膝伸展筋力,握力)の関連を年齢・性別に分けて示している。BLSA縦断研究では膝伸展筋力とタウリンに正の相関が認められたが,握力との関連はみられなかった。Balearic横断研究では握力とタウリンの関係が年齢により変化し,若年者では正の相関,中高年では負の相関を示した。マウスでは握力との関連は認められなかった。これらの結果から,タウリンと運動機能の関係が種や年齢,測定項目により一貫性がないことがわかった。
 図3は,血中タウリン濃度と体重の関連を年齢・性別に分けて示している。BLSA研究では中年まで体重とタウリンに正の相関があったが,高齢者では関連が消失してしまった。Balearic研究では若年者で正の相関,高齢者で負の相関を認めた。アカゲザルでは若年で負の相関,高齢で正の相関と逆転パターンが認められた。マウスでは体重とタウリンの関係は非線形で,最も痩せた個体で最高濃度を示した。これらの結果から,タウリンと体重の関係が種・年齢・コホートにより大きく異なることがわかった。
 大規模な縦断研究による厳密な検証により,「タウリン減少が老化の原因」という従来の仮説を覆した,すごい論文です。

•NEJM

1)腫瘍学:ORIGINAL ARTICLE
肺結節に対する気管支鏡検査と経胸壁生検との比較(Navigational bronchoscopy or transthoracic needle biopsy for lung nodules
DOI: 10.1056/NEJMoa2414059

 米国の7施設が参加したVERITAS試験と呼ばれる多施設共同ランダム化比較試験の報告である。PET検査および臨床医の評価により組織診断が推奨された末梢肺結節(10〜30mm)の患者に対して,ナビゲーション気管支鏡検査と経胸壁針生検の診断精度を比較し,ナビゲーション気管支鏡検査の非劣性を検証した。末梢肺結節を有する患者258名を対象に,ナビゲーション気管支鏡検査群129名と経胸壁針生検群129名に1対1でランダムに割り付けた。主要評価項目は診断精度で,12カ月の臨床フォローアップで確認された特異的診断(癌または特異的良性疾患)の割合と定義し,非劣性マージンを10パーセントポイントとして設定した。
 主要評価項目である診断精度は,ナビゲーション気管支鏡検査群で94/119例(79.0%),経胸壁針生検群で81/110例(73.6%)であり,絶対差5.4パーセントポイント(95%信頼区間-6.5〜17.2)でナビゲーション気管支鏡検査の非劣性が証明された(p=0.003)。安全性の面では,気胸の発生率はナビゲーション気管支鏡検査群で4/121例(3.3%),経胸壁針生検群で32/113例(28.3%)と有意差があった。胸腔ドレーン挿入や入院を要する重篤な気胸は,それぞれ1例(0.8%)と13例(11.5%)であった。手技時間の中央値はナビゲーション気管支鏡検査で36分,経胸壁針生検で25分であった。偽陰性率は経胸壁針生検群で3.6%,ナビゲーション気管支鏡検査群では0%であった。両群間で追加の侵襲的診断手技を要した症例の割合に差はなかった。
 これまで両手技の比較は単群研究に基づいており,選択バイアスや発表バイアスのリスクが高かった。初のランダム化比較試験であるVERITAS試験によって,ナビゲーション気管支鏡検査が経胸壁針生検と同等の診断精度を有しながら,合併症が明らかに少ないことが示されたことになる。特に気胸発生率の大幅な減少(3.3% vs. 28.3%)は臨床的に重要と思われる。「技術的に両手技が可能な末梢肺結節に対してはナビゲーション気管支鏡検査を第一選択とすべき」という重要なエビデンスである。

今週の写真:菜の花畑です。

(TK)