" /> 【連載】呼吸との出会いと呼吸器との出会い:個人的履歴と呼吸器臨床における「呼吸」の意義■第7回 坐禅とMindfulnessのneuroscience:fMRIからneural networkへ,延髄呼吸中枢active expirationから坐禅(腹部・丹田)呼吸へ■貫和敏博 |
呼吸臨床

【連載】呼吸との出会いと呼吸器との出会い:個人的履歴と呼吸器臨床における「呼吸」の意義


第7回 坐禅とMindfulnessのneuroscience:fMRIからneural networkへ,延髄呼吸中枢active expirationから坐禅(腹部・丹田)呼吸へ

貫和敏博*


*東北大学名誉教授


[Essays] A tale of two domains: "breathing movement" and "gas-exchange/lung science" - A personal history and the significance of breathing in the respiratory medicine 

No 7: Neuroscience of Zen and Mindfulness: fMRI recording of Mindfulness leads to novel neural network approach, and active expiration phase with abdominal muscles leads to calm and ultra-oligo Zen breathing


Toshihiro Nukiwa*


*Professor Emeritus, Tohoku University


呼吸臨床 2018年2巻10号 論文No.e00068
Jpn Open J Respir Med 2018 Vo2. No.10 Article No.e00068

DOI: 10.24557/kokyurinsho.2.e00068


掲載日:2018年10月11日


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(第6回はこちら





はじめに

 本連載では,そもそも呼吸の非ガス交換機能に関して議論している。


 歴史的にも呼吸器としての肺が研究対象となる遥か以前より,人類はこの呼吸の不思議に気付き,一方で身体論,健康論として,他方では深い認識にいたる呼吸の制御に関して,経験を蓄積してきた。近代医学では,残念ながら計測などでの評価技術の不備で,この領域には十分なscienceがない点も,本連載では議論している。


 20世紀の医学ではアプローチのしようがなかった領域であった。


 例えば第6回で議論した坐禅など[1],私がそれを実践していた時代は脳波的研究程度であった。しかし坐禅の深い効果に着目して始められたのが,mindfulness-based stress reduction(MBSR)である。さらにMBSRがなぜ実際に臨床効果があるのかの探求は,こうした行為とはまったく関連のない,しかし脳研究としては重要な,機能的脳imaging(fMRI)の臨床応用の展開と結びついた。数十年を経て,脳研究が脳波解析から,新規のfMRI解析へ進歩したのである。


 ここではfMRIの詳細は説明しないが,脳血流における酸素消費(局所の神経活動を反映する)を,フーリエ解析による3次元局所解像度とともに評価できる。具体的には1990年代前半からの技術進歩が,21世紀に入り広く脳現象の解析に応用されるようになった。すなわち脳全体を機能的に3次元で評価できるneuroscience技術となった。


 従来の脳科学である局所の神経核の電気的神経細胞機能から,脳を立体的なsystemとして捉えるNeural Networkという新たな概念形成で理解する方向に,研究は進みつつある。


 連載を呼吸法(西野流呼吸法)に進める前段階の準備として,これらを理解することは目の前の現象に捕らわれず,もともとSomaがかかわりながら説明のできない領域,buried medicineを理解する助けになる。


 一方,調身として紹介した,身体を真っ直ぐに立てることのneuroscienceはまだ前面に出ていない。しかし全身に働きかけるという考え方は,健常者ではない肢体不自由児や脳血管障害のrehabilitationなどで,実は臨床の場としては取り込まれている。この章にはSomaとの関連でこの部分も加えたい。すなわち身体Somaのsettingが脳に働きかけ,それをneuroscienceとして解析するという,広い範疇の研究領域である。


文献

  1. 貫和敏博. 呼吸との出会いと呼吸器との出会い:個人的履歴と呼吸器臨床における「呼吸」の意義. 第6回 これはTranslational medicineだ!:ZenとMindfulness,何が共通しているのか?. https://kokyurinsho.com/focus/e00067/ .
  2. Mesulam MM. From sensation to cognition. Brain. 1998; 121: 1013-52.
  3. 越野英哉他. 脳内ネットワークの競合と協調: デフォルトモードネットワークとワーキングメモリネットワークの相互作用. Jpn Psychol Rev. 2013; 56: 376-91.
  4. 虫明 元. 学ぶ脳: ぼんやりにこそ意味がある. 岩波科学ライブラリー272. 東京: 岩波書店, 2018.
  5. Tang YY, et al. The neuroscience of mindfulness meditation. Nat Rev Neurosci. 2015; 16: 213-25.
  6. Craig AD. How do you feel--now? The anterior insula and human awareness. Nat Rev Neurosci. 2009; 10: 59-70.
  7. Plotnik JM, et al. Self-recognition in an Asian elephant. Proc Natl Acad Sci U S A. 2006; 103: 17053-7.
  8. Naqvi NH, et al. Damage to the insula disrupts addiction to cigarette smoking. Science. 2007; 315: 531-4.
  9. Del Negro CA, et al. Breathing matters. Nat Rev Neurosci. 2018; 19: 351-67.
  10. Li P, et al. The peptidergic control circuit for sighing. Nature. 2016; 530:  293-7.
  11. Goulding M. Circuits controlling vertebrate locomotion: moving in a new direction. Nat Rev Neurosci. 2009; 10: 507-18.
  12. 成瀬悟策. 姿勢のふしぎ: しなやかな体と心が健康をつくる. ブルーバックスB-1223. 東京: 講談社, 1998.
  13. 宮本省三. 脳のなかの身体: 認知運動療法の挑戦. 講談社現代新書1929. 東京: 講談社, 2008.