" /> 【投稿/症例報告】肺癌複合免疫療法中に発症したShewanella algae肺炎の1例■片桐 忍ほか |
呼吸臨床
VIEW
---
  PDF
DL
  PRINT
OUT

【投稿/症例報告】肺癌複合免疫療法中に発症したShewanella algae肺炎の1例


片桐 忍,城取沙紀,成田 淳,彈塚孝雄


長野中央病院外科(〒380-0814 長野県長野市西鶴賀1570)

A case of Shewanella algae pneumonia during combination immunotherapy for lung cancer

Shinobu Katagiri, Saki Shirotori, Jun Narita, Takao Danzuka

Department of Surgery, Nagano Chuo Hospital, Nagano


Keywords:Shewanella algae,肺炎,肺癌,化学療法/Shewanella algae, pneumonia, lung cancer, chemotherapy


呼吸臨床 2024年8巻5号 論文No. e00189
Jpn Open J Respir Med 2024 Vol. 8 No. 5 Article No.e00189

DOI: 10.24557/kokyurinsho.8.e00189


受付日:2024年2月16日
掲載日:2024年5月13日


©️Shinobu Katagiri, et al.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。



要旨

 74歳男性。右上葉肺扁平上皮癌stageⅣの診断で複合免疫療法が開始されていた。3コース目の治療予定日に38℃の発熱と右胸痛が出現し,胸部CTから右上葉肺炎と診断した。アンピシリン・スルバクタムによる治療を開始したが,喀痰塗抹検鏡でグラム陰性桿菌を認めたためセフトリアキソンに変更した。最終的にShewanella algaeによる肺炎と診断されたが増悪なく改善した。Shewanella属による肺炎は稀だが同定までに時間を要することが多く,また肺癌治療中の感染は劇症化のリスクがあるため注意が必要である。

はじめに

 Shewanella属は極短鞭毛を有するグラム陰性桿菌であり,臨床検体から分離されるものとしてはShewanella putrefaciensS. putrefaciens)とShewanella algaeS. algae)の2菌種がある。海水や魚類などの水環境に見いだされることが多く,中耳炎や皮膚軟部組織感染,胆道系感染の報告が散見されるが呼吸器感染の報告は少ない。今回,肺癌の化学療法中にS. algaeによる肺炎を発症した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

症例

 患者:74歳,男性。

 主訴:発熱。

 現病歴:2カ月前から右上葉肺扁平上皮癌cT4N1M1b stageⅣA(同側他肺葉転移,肋骨転移)に対しカルボプラチン+ナブパクリタキセル+ペムブロリズマブによる化学療法が開始された。3コース目開始予定日に38.5℃の発熱と右胸痛が出現し入院となった。

 既往歴:2型糖尿病,高血圧。

 喫煙歴:30本/日を54年間。肺癌と診断されてから禁煙している。

 入院時身体所見:体温37.8℃,血圧125/71mmHg,脈拍113回/分,呼吸数28回/分,SpO2 95%(room air)。胸部聴診にて右上肺野で著明なrhonchiを聴取した。

 血液検査所見:白血球数15,270/µL,CRP 26.89mg/dLと著明な炎症所見を認めた。他は明らかな異常を認めず,免疫関連有害事象を疑う所見もみられなかった。

 尿検査所見:尿中肺炎球菌漿膜抗原と尿中レジオネラ抗原はいずれも陰性であった。

 胸部単純CT所見:2カ月前の化学療法開始時に撮影したCTでは右上葉肺門部に腫瘤を認め,上葉気管支の狭窄がみられたが明らかな肺炎像は認めなかった(図1a)。3コース目開始時のCTでは右上葉の広範囲にconsolidationとすりガラス陰影が出現していた(図1b)。

図1 胸部CT
a.右上葉肺扁平上皮癌。化学療法開始時。
b.右上葉の広範囲にconsolidationとすりガラス陰影が出現。


 入院後経過①:閉塞性肺炎と診断し,喀痰培養を提出後にアンピシリン・スルバクタム9g/日の投与を開始した。第3病日時点で体温は38.1℃と解熱を得られず,血液検査は白血球数13,610/µL,CRP 25mg/dLと改善に乏しかった。また喀痰塗抹検鏡でグラム陰性桿菌を認めたため(図2)セフトリアキソン4g/日に変更し起因菌の同定を待った。

図2 喀痰塗抹検鏡(1,000倍)
 グラム陰性桿菌を多数認めた。
(喀痰性状はMiller&Jone分類P3,Geckler分類G4)


 細菌学的検査:血液寒天培地において培養1日目にムコイド状を示すコロニーの発育がみられた(図3)。全自動同定感受性検査システムBD Phoenix M50(日本BD)のNMIC/ID-442パネル(ブドウ糖非発酵菌用)を用いて同定感受性を検査したところS. putrefaciens(信頼値98%)と同定された。またTSI培地(栄研化学)で生化学性状を確認したところブドウ糖非発酵,硫化水素産生陽性を認め,ポアメディアオキシダーゼテスト(栄研化学)でオキシダーゼ陽性を確認したことからShewanella属に矛盾しないと判断した。同定菌確認のため他施設に質量分析装置VITEK MS(シスメックス)による菌種同定検査を依頼したところS. algae(信頼値99.9%)と判定された。当院との同定結果に差異が認められたため,42℃での発育条件とSS寒天培地での発育条件を追加して試験を行ったところ,両条件で共に発育を認めたことから今回の検出菌をS. algaeと確定した。

図3 血液寒天培地
 培養1日目にムコイド状を示すコロニーが発育した。


 入院後経過②:第8病日に先述した細菌学的検査の結果が得られS. algae肺炎と診断した。薬剤感受性試験ではセフトリアキソンに対する感受性が良好であったため投与を継続した(表1)。起因菌同定後に行動歴や食事歴を詳細に聴取したが,明らかな海水曝露や海鮮物の摂取は確認されなかった。第14病日には体温36.7℃まで解熱し,血液検査でも白血球数8,580 /µL,CRP 2.03mg/dLと改善を認めたためセフトリアキソンの投与を終了した。第16病日にカルボプラチン+ナブパクリタキセル+ペムブロリズマブ3コース目を開始し第17病日に退院となった。その後は肺炎の増悪なく外来で化学療法を継続している。

表1 薬剤感受性試験(µg/mL)



考察

 Shewanella属は極短鞭毛を有するグラム陰性桿菌であり[1],感染症の起因菌としては稀ではあるが,敗血症時の致死率30%前後と報告されている重篤な病原体である[2]。臨床検体から分離されるものとしてはS. putrefaciensS. algaeの2菌種があり,ヒトから分離同定されるShewanella属のほとんどがS. algaeと報告されているが[3],細菌同定に用いられる自動同定機器によってはS. algaeのデータベースが含まれていない場合があり,その場合にはS. putrefaciensと誤判定してしまうため注意が必要である[1]。またShewanella属は「オキシダーゼテスト陽性」,「ブドウ糖非分解」,「硫化水素産生」,「寒天培地でムコイドコロニーを形成する」といった特徴を示すが,S. algaeS. putrefaciensの差異として,S. algaeは「42℃の環境で発育する」,「ヒツジ血液寒天培地の48時間後β溶血を示す」,「SS寒天培地で発育する」などの性質があり,この性質を利用して両者の区別を行うことも可能である。本症例においても当院の自動同定機器ではS. putrefaciensと判定されたものの,Shewanella属に
関するこれらの報告を確認することで追加検査を行い,最終的にS. algaeの同定に至ることができた。

 Shewanella属は自然界に広く分布しており,主に海水や魚類などの水環境に見いだされることが多く,生の魚介類の経口摂取や体表の海水暴露による中耳炎や皮膚軟部組織感染,また胆汁酸に抵抗性があることから胆道系の感染も来すとされている[4]。特に担癌状態,免疫抑制治療中,低出生体重児などでは菌血症を起こし劇症化することがある[4]。

 Shewanella属による肺炎の報告は少ないが散見され,PubMedで検索したところ7例の報告が確認できた[5]〜[11](表2)。このうちS. algaeによるものは1例のみで[10] 他はすべてS. putrefaciensと同定されているが,先に述べた通り同定方法によっては誤判定される可能性があり,全ての報告が確実に同定できているかは不明である。いずれも背景に心疾患,呼吸器疾患,腎疾患,胆道疾患,高齢,集中治療管理中などのリスク因子を有しており,4例は人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)であった[5][6][8][11]ことからShewanella属による肺炎は日和見感染症に近いと考えられる。感染経路については2例で水環境の接触歴が確認できていたが[6][8],残りの報告では明らかな感染経路は特定できていなかった。全例で抗菌薬投与による治療が行われており,転帰については1例が緩和医療に移行していたが[9],他はすべて軽快し退院となっていた。本症例でも担癌状態や糖尿病といった易感染のリスクを有しており,また病歴を詳細に聴取したものの明らかな感染経路は特定できていなかった。このことから,Shewanella属による肺炎では感染源が特定できないことが多い可能性があり,明らかな水環境の接触歴がなくても易感染性を有する場合はShewanella属の感染を考慮する必要があると考えらえた。また先に述べた通り担癌状態は劇症化のリスクの1つであるが,本症例は幸運にも抗菌薬治療が奏効し劇症化には至らなかった。

表2 Shewanella属による肺炎の報告


 Shewanella属の薬剤感受性についてはペニシリン系や第一世代セファロスポリン系抗菌薬に対し耐性が多いと報告されているが[1],ペニシリン系に感受性がある株が多かった報告や[12],カルバペネムに耐性があったとの報告もみられる[13]。Shewanella属の薬剤感受性の報告についてはまだばらつきがあり症例の集積が待たれるが,治療には第三,第四世代セファロスポリン系が選択されることが多く,肺炎の報告においても4例でセフェピム[6][8][9][11],2例でセフトリアキソン[7][10]が選択されていた。本症例で検出された株はペニシリン系にも感受性を有しておりカルバペネム系の耐性もみられなかった。また抗菌薬については喀痰塗抹検鏡でグラム陰性桿菌が検出された時点でセフトリアキソンを選択し改善を得られている。このことからShewanella属による肺炎においては第三,第四世代セファロスポリン系が有効と考えられるものの,本症例のような担癌状態や複合免疫療法など特殊な免疫状況や重症患者では緑膿菌や薬剤耐性菌なども考慮する必要があり,抗菌薬選択については起因菌が同定されるまでは肺炎診療ガイドラインなどに基づいて適切なリスク評価と状況に応じた経験的治療が必要と考えられた。

結語

 Shewanella属による肺炎は稀だが同定までに時間を要することが多く,また肺癌治療中の感染は劇症化のリスクがあるため注意が必要である。
本論文の要旨は第63回日本肺癌学会学術集会(2022年12月)において発表した。

 謝辞S. algaeの同定に御尽力いただいた当院臨床検査部の高野陽太先生,起因菌同定に御協力いただいた長野市民病院臨床検査部に深謝いたします。

 利益相反:なし。

Abstract

 A 74-year-old man was diagnosed with stage IV squamous cell carcinoma of the right upper lobe of the lung and had started combination immunotherapy. On the day of the third course of the treatment, he developed a fever of 38°C and right-sided chest pain, and was diagnosed with pneumonia of the right upper lobe based on chest computed tomography. Ampicillin/sulbactam was initiated, but a sputum smear specimen showed Gram-negative bacilli, so the ampicillin/sulbactam was switched to ceftriaxone with consideration of drug susceptibility. Subsequently, Shewanella spp. were detected in sputum culture, and the species was identified as Shewanella algae by mass spectrometry. The pneumonia improved with no problems. Pneumonia caused by Shewanella spp. is rare but often takes time to identify, and caution should be exercised during lung cancer treatment because of the risk of fulminant infection.


図表


文献

  1. Holt HM, et al. Shewanella algae and Shewanella putrefaciens: clinical and microbiological characteristics. Clin Microbiol Infect. 2005; 11: 347-52.
  2. Liu PY, et al. Clinical and microbiological features of shewanella bacteremia inpatients with hepatobiliary disease. Intern Med. 2013; 52: 431-8.
  3. Nozue H, et al. Isolation and characterization of Shewanella alga from human clinical specimens and emendation of the description of S. alga Simidu et al., 1990, 335. Int J Syst Bacteriol. 1992; 42: 628-34.
  4. 風見由祐, ほか. 食道癌術後にAeromonas hydrophiliaとShewanella algaeの混合感染による劇症型壊死性軟部組織感染症を発症した1例. 日外感染症会誌. 2020; 17: 46-53.
  5. Jorens PG, et al. Shewanella putrefaciens isolated in a case of ventilator-associated pneumonia. Respiration. 2004; 71: 199-201.
  6. Tucker C, et al. Ventilator-associated pneumonia due to Shewanella putrefaciens. Am J Health Syst Pharm. 2010; 67: 1007-9.
  7. Durdu B, et al. A rare cause of pneumonia: Shewanella putrefaciens. Mikrobiyol Bul. 2012; 46: 117-21.
  8. Patel R, et al. A rare case of pneumonia caused by Shewanella putrefaciens. Case Rep Med. 2012; 2012: 597301.
  9. Ullah S, et al. Shewanella putrefaciens: An emerging cause of nosocomial pneumonia. J Investig Med High Impact Case Rep. 2018; 6: 2324709618775441.
  10. Weiss TJ, et al. Case Report: Shewanella algae pneumonia and bacteremia in an elderly male living at a long-term care facility. Am J Trop Med Hyg. 2021; 106: 60-1.
  11. Huynh K, et al. Shewanella putrefaciens: A critically emerging pathogen of ventilator-associated pneumonia. Cureus. 2023; 15: e38858.
  12. 北岡真由子,ほか. 胆道悪性疾患に発症したShewanella algae菌血症の3例. 日消誌. 2019; 116: 850-7.
  13. Kim DM, et al. Treatment failure due to emergence of resistance to carbapenem during therapy for Shewanella algae bacteremia. J Clin Microbiol. 2006; 44: 1172-4.