【投稿/症例報告】両側肺野にすりガラス陰影が出現し肺水腫との鑑別を要した異所性肺石灰化症の1例
二ノ丸平*,島田天美子*,岩本夏彦*,藤本昌大*,髙宮 麗*,川口亜記*,池田美穂*,畠山由記久*,岡村佳代子*,吉村 将*,大西 尚*
*明石医療センター呼吸器内科(〒674-0063 兵庫県明石市大久保町八木743-33)
Metastatic pulmonary calcification mimicking pulmonary edema with bilateral ground glass opacity
Taira Ninomaru*,Temiko Shimada*,Natsuhiko Iwamoto*,Shodai Fujimoto*,Rei Takamiya*,Aki Kawaguchi*,Miho Ikeda*,Yukihisa Hatakeyama*,Kayoko Okamura*,Sho Yoshimura*,Hisashi Ohnishi*
*Division of respiratory medicine,Akashi Medical Center,Hyogo
Keywords:異所性肺石灰化症,慢性腎不全,維持透析,すりガラス陰影/metastatic pulmonary calcification,chronic renal failure,hemodialysis,ground-glass opacities
呼吸臨床 2019年3巻6号 論文No.e00089
Jpn Open J Respir Med 2019 Vol. 3 No. 6 Article No.e00089
DOI: 10.24557/kokyurinsho.3.e00089
受付日:2019年5月30日
掲載日:2019年6月27日
©️Taira Ninomaru, et al. 本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。
症例は59歳男性。慢性腎不全で7年前から維持透析中。近医入院中の胸部CTで両側肺野のびまん性すりガラス陰影を指摘され,間質性肺炎疑いで当院へ紹介入院となった。下腿の浮腫があり,肺水腫を疑い,透析でドライウェイトを調整したが,画像の有意な改善は得られなかった。胸部CTで異所性肺石灰化症を疑い,経気管支肺生検で肺胞中隔にカルシウムの沈着が確認され,異所性肺石灰化症と診断した。透析患者において,胸部CTで両側肺野にすりガラス状陰影が出現した場合に,異所性肺石灰化症を鑑別として挙げる必要がある。
異所性肺石灰症は,肺胞中隔にカルシウム塩が沈着する疾患で,慢性腎不全やそれに伴う副甲状腺機能亢進症,カルシウムやビタミンDの過剰摂取などの良性疾患や悪性腫瘍の骨転移,多発性骨髄腫,白血病・リンパ腫などの悪性疾患に合併して起こる。胸部X線写真では特異的な所見に乏しく,診断が困難であった症例の報告もある。胸部CTでは,すりガラス陰影や結節影に加えて,胸壁の血管の石灰化が特徴的な所見とされる。今回,肺水腫との鑑別を要した異所性肺石灰化症の1例を経験したので,報告する。
症例:59歳男性
主訴:なし
既往歴:糖尿病性腎症(7年前から週3回の維持透析),甲状腺機能低下症,蛋白漏出性胃腸症,慢性膵炎,骨盤骨折。
現病歴:X年12月31日に自宅で転倒し近医へ救急搬送され,左大腿骨頸部骨折と診断された。X+1年1月12日に手術の予定であったが,胸部CTで両側肺野にびまん性のすりガラス陰影を指摘された。呼吸状態には問題はないが,陰影が改善しないため,間質性肺炎疑いで,X+1年1月10日に当院へ転院となった。
薬物歴:沈降炭酸カルシウム1,500mg,エルデカルシトール0.75μg,バルサルタン80mg ニフェジピン20mg,酸化マグネシウム1,000mg,ポリカルボフィルカルシウム1,500m,宮入菌末40mg,タンニン酸3g,ロペラミド2mg,アセトアミノフェン
1,800mg,ブロチゾラム0.25mg,プロラノン点眼薬,ヒアルロン酸キサラタン点眼薬,ベタメタゾン軟膏,ロキソプロフェンナトリウムテープ。
喫煙歴:20〜30本/日×24年。動物との接触歴:鳥との接触歴なし。
住居歴:鉄筋建築の団地に10年前より居住。
職業歴:建築関係,粉塵曝露歴あり。アスベスト曝露歴は幼少期にあり。
入院時現症:身長177.0cm,体重64.0kg,体温36.1℃,血圧128/60 mmHg,脈拍数78/min,SpO296%(room air)。胸部;呼吸音清,心雑音なし。腹部;平坦で軟,圧痛なし。下腿;圧痕を残す浮腫。
入院時検査所見:好中球分画は上昇し,軽度の貧血が認められた。生化学検査では,カルシウム(以下Ca)値は補正値で9.8g/dLと正常値で,リン(以下P)値は4.1g/dLと正常値よりもやや低下しているのみで,PTH-intactは103.4pg/mLと軽度の上昇のみであった。その他に,KL-6,β-D-グルカン,BNPはおのおの軽度上昇していた(表1)。
表1 入院時血液検査所見
画像検査所見:胸部X線写真では,右肺野・左上中肺野に胸膜直下と葉間・縦隔側がスペアされた淡い浸潤影が認められた(図1)。胸部CTの肺野条件では,小葉中心性のすりガラス状の結節が肺野の腹側を中心に認められ,背側では,その結節が癒合傾向となり,胸膜直下がスペアされていた。陰影の分布としては,下葉・肺底部には少なかった。また,両側胸水の貯留も認められた(図2a,b)。胸部CTの縦隔条件では,大動脈壁の石灰化に加えて,胸壁の血管の石灰化が認められた(図2c,d)。
図1 入院時胸部X線写真検査
右肺野・左上中肺野に胸膜直下と葉間・縦隔側がスペアされた淡い浸潤影が認められた。
図2 入院時胸部CT写真
a,b:縦隔条件 c,d:肺野条件
肺野条件では,小葉中心性のすりガラス状の結節が肺野の腹側を中心に認められ,背側では,その結節が癒合傾向となり,胸膜直下がスペアされていた。また,両側胸水の貯留も認められた。胸部CTの縦隔条件では,大動脈壁の石灰化に加えて,胸壁の血管の石灰化が認められた。
肺機能検査:%VCが32.7%と拘束性換気障害があり,DLco/Vaは26.2(mL/min/mmHg/L)と拡散能の低下が認められた(表2)。
気管支鏡検査:気管支肺胞洗浄をB5bより施行した。気管支肺胞洗浄液の細胞分画は明らかな異常はなく(表3),培養では一般細菌,抗酸菌ともに検出されなかった右肺の上葉・中葉・下葉より経気管支肺生検を施行し,病理組織のHE染色では肺胞壁にカルシウムの沈着が認められ,コッサ染色でも同様に肺胞壁にカルシウムの沈着が認められた(図3a,b)
表2 肺機能検査
表3 気管支肺胞洗浄
図3 肺生検の組織像
a:HE染色(×200),b:コッサ染色(×200)
病理組織のHE染色では肺胞壁にカルシウムの沈着が認められ,コッサ染色でも同様に肺胞壁にカルシウムの沈着が認められた。
骨シンチ:胸部画像上での陰影の部位と一致して,テクネシウムの集積が認められた(図4)。
図4 骨シンチグラム
胸部画像上での陰影の部位と一致して,Gdの集積が認められた。
心エコー図検査:左室駆出率は68.4%と収縮能は良好で,E/e’ 16.4と軽度の拡張能障害を認めた。右心負荷所見はなかったが,心嚢水を認めた(表4)。
表4 心エコー図検査所見
入院後経過:下腿浮腫および画像上で両側胸水と両側肺野のすりガラス陰影があることから,心原性肺水腫の可能性を考え,透析によりドライウェイトを調整したが,画像での改善は得られなかった。透析患者であることと胸部CTの所見から,異所性肺石灰化症の可能性が考えられ,気管支鏡検査で経気管支肺生検を行ったところ,病理組織で肺胞壁に沿った石灰化が確認された。以上より,異所性肺石灰化症と診断した。血清Ca補正値は10g/dL程度で推移しており,エルデカルシトール・沈降炭酸カルシウムを中止した。その後も,血清Ca・血清P・血清PTH-intactは管理目標値内で推移したものの,陰影は改善しなかった。無症候性で呼吸状態にも変化がないため,血清Ca・血清Pの値を正常に保ちつつ,管理を行い経過観察する方針となった。
異所性肺石灰化症は肺間質にカルシウムが沈着する疾患であり,その原因は,良性疾患に伴うものと悪性疾患に伴うものとに分けられる[1]。良性疾患としては,慢性腎不全,副甲状腺機能亢進症,カルシウムやビタミンDの過剰摂取,サルコイドーシス,ミルクアルカリ症候群,骨粗鬆症,骨パジェット病,肝臓・腎臓移植後,心臓外科手術後などがあり,悪性疾患としては,多発性骨髄腫,副甲状腺癌,白血病,リンパ腫,乳癌,滑膜癌,絨毛癌,悪性黒色腫,下咽頭扁平上皮癌などがある[1]。特に,透析患者では高頻度で発症し,透析患者の剖検例の60〜75%で本疾患が確認されたと報告[1]されている。
異所性肺石灰化症は無症候で進行が緩徐であるため,診断されず経過することが多いが,呼吸困難や慢性咳嗽を来すこともある[2]。また,肺炎や肺水腫のような画像所見を呈して,呼吸不全が急激に進行する症例も存在する[3]。どのような因子が呼吸状態の増悪に寄与するかは不明であるが[1],腎移植後や高Ca血症に伴うもので急性呼吸不全を合併する例が報告されている[4]。
胸部X線写真では,正常所見やびまん性浸潤影,結節影など多彩な所見を呈し,石灰化像を明確に指摘できない症例や肺炎・肺水腫と鑑別が困難なこともあるため,異所性肺石灰化症の診断には有用ではないとされている[1]。病変の分布に関しては,上肺野が下肺野に比べて換気-血流比が高く,PaCO2が低く,pHが高くなるために,カルシウムが沈着しやすく[5],胸部X線写真検査では上肺野優位に陰影が認められることが多い。胸部CTでは多発する結節影,びまん性のすりガラス影や浸潤影,汎小葉性の浸潤影を来す[6]。Hartmanらの報告によると,胸部CTにおいて,7例中6例の異所性肺石灰化症の症例で胸壁の血管の石灰化が認められている[7]。また,異所性肺石灰化症の早期診断に骨シンチが有用であると報告されており,Faubertらは胸部X線写真で異常が確認されない血液透析患者の23名中14名(61%)に骨シンチグラムで,肺への石灰沈着が認められたと報告している[8]。
本症例では,胸部CTで,癒合するすりガラス影があり,末梢がスペアされていることや両側胸水もあることから,当初は肺水腫を疑い,ドライウェイトの調整を行ったが,陰影は変化しなかった。胸部CTの再検討で小葉間隔壁の肥厚が目立たず,小葉中心性のすりガラス陰影に加えて,胸壁の血管の石灰化があることから、異所性肺石灰化症を鑑別に考え,経気管支肺生検を施行した。経気管支肺生検による組織診では,肺胞壁に石灰化が認められ,確定診断に至った。骨シンチフラフィでも,肺陰影と一致してテクネシウムの集積が認められた。本症例では,胸部CTで小葉間隔壁の肥厚が目立たないことと胸壁の血管の石灰化があることが,肺水腫と異所性肺石灰化症との鑑別に有効であった。
日本透析医学会のガイドラインでは,血清Pを3.5〜6.0mg/dL,血清Caを8.4〜10.0mg/dL,血清PTH-intactを60〜240mg/dLに管理することが推奨されている[9]。 長期透析患者における異所性肺石灰化症の原因として,2次性副甲状腺機能亢進症による血清PTH-intact高値,血清CaとPの積が50以上,過剰なビタミンDの投与や透析液のCa濃度の高値,透析による急激なアシドーシスの是正が考えられている[9]。本症例では,推奨されている管理目標は満たしていたが,異所性肺石灰化症を来した。血清Ca,血清Pの値が正常な異所性肺石灰化症の報告もされている[10]。その症例では,弁膜症の術後に一時的な急性腎不全をきたした。その一時的な腎不全や術後の一時的な呼吸性アルカローシスなどが異所性肺石灰化症の原因と推測されている。本症例も,骨盤骨折の手術歴があり,術後の一時的なアルカローシスなどが発症の契機となった可能性が考えられた。
慢性腎不全の患者において,肺炎像や肺水腫の陰影を疑わせるような所見を呈し,肺炎治療や透析に反応しないような場合には異所性肺石灰化症の可能性を検討する必要がある。
本論文の要旨は,第92回日本呼吸器学会近畿地方会で発表した。
開示すべき利益相反はない。
We report a case of a 59 year-old male hemodialysis patient who was referred to our hospital because of the appearance of bilateral centrilobular ground-glass opacities (GGOs). He had been on hemodialysis for seven years. Cardiopulmonary edema was suspected due to pitting edema of the legs, and dry weight was adjusted. However, no improvement was observed on chest X ray. Therefore, we performed bronchoscopy for GGOs and pathological analysis revealed deposition of calcium salts on the alveoli and we diagnosed ectopic pulmonary calcification. The patient was released under observation. We need to consider ectopic pulmonary calcification in hemodialysis patients when chest CT shows GGOs.
- Belém LC, et al. Metastatic pulmonary calcification: state-of-the-art review focused on imaging findings. Respir Med. 2014; 108: 668-76. doi: 10.1016/j.rmed.2014.01.012.
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- 三戸克彦, ほか. 急速に進行した慢性腎不全による異所性肺石灰化症の1例. 日胸. 2000; 59: 298-303.
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