" /> 【投稿/症例報告】気管気管支に伴う気管狭窄と気管支軟化症によりフローボリューム曲線が上気道閉塞パターンを呈した1例■眞本卓司,ほか |
呼吸臨床
VIEW
---
  PDF
DL
  PRINT
OUT

【投稿/症例報告】気管気管支に伴う気管狭窄と気管支軟化症によりフローボリューム曲線が上気道閉塞パターンを呈した1例

眞本卓司*1,服部剛士*1,佐渡康介*1,山根健志*1,津田誉至*1,長嶺宏明*1,濵﨑直子*1,門谷英昭*2,井本和紀*2,阪上和樹*1


*1社会医療法人生長会ベルランド総合病院呼吸器内科(〒599-8247 大阪府堺市中区東山500-3)

*2大阪市立大学大学院医学研究科呼吸器内科学


A case of tracheal bronchus and bronchomalacia with upper airway obstruction revealed by abnormal flow-volume curves


Takashi Mamoto*1, Tuyoshi Hattori*1, Kosuke Sawatari*1, Kenshi Ymane*1, Takashi Tsuda*1, Hiroaki Nagamine*1, Naoko Hamasaki*1, Hideaki Kadotani*2, Waki Imoto*2, Kazuki Sakagami*1


*1Department of Respiratory Medicine, BellLand General Hospital, Osaka

*2Department of Respiratory Medicine, Graduate School of Medicine, Osaka City University, Osaka


Keywords:気管気管支,転位気管支,気管支軟化症,上気道閉塞, フローボリューム曲線/tracheal bronchus, displaced bronchus, bronchomalacia, upper airway obstruction, flow-volume curve


呼吸臨床 2020年4巻4号 論文No.e00099
Jpn Open J Respir Med 2020 Vol. 4 No. 4 Article No.e00099

DOI: 10.24557/kokyurinsho.4.e00099


受付日:2020年2月17日

掲載日:2020年4月20日


©️Takashi Mamoto, et al.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。





要旨

 症例は65歳女性。気管支喘息と診断を受けていた。当院初診時,フローボリューム曲線で上気道閉塞パターンを認めた。胸部CTおよび気管支鏡検査では,右気管気管支が分岐し,同部位で気管の狭窄を認めた。また,気管分岐部では,呼気時に右主気管支が高度の狭窄を呈した。気管支分岐異常に伴う気管狭窄と右主気管支の気管支軟化症が喘息様症状に関与し,フローボリューム曲線における上気道閉塞パターンとして反映された興味深い症例であった。

はじめに

 気管支分岐異常は無症状で発見されることが多いが,喘鳴や反復性肺炎などの症状を契機として発見されることもある。今回われわれは,気管支喘息として治療され,フローボリューム曲線で上気道閉塞パターンを呈した気管気管支を有する成人例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

症例

 症例:65歳,女性。
 主訴:喘鳴。
 既往歴:15歳で肺結核。
 生活歴:喫煙歴なし。
 
 現病歴:小児期より感冒症状などに伴って喘鳴や呼吸困難が出現し,気管支喘息の診断を受けていた。症状出現時に随時治療を受けていたが,定期通院はしていなかった。20xx−6年から前医で吸入ステロイド薬が開始となったが,気道感染合併時に気道分泌物の増加とともに喘鳴や呼吸困難が増悪していた。20xx年,他科受診を契機に当院での通院を希望され当科初診となった。

 理学所見:身長160 cm,体重58.0 kg,SpO2 98 %(室内気),意識清明,表在リンパ節触知せず。心音異常なし。呼吸音は吸呼気時ともラ音は聴取しなかった。その他,身体所見に異常を認めなかった。
 
 胸部単純X線写真図1):第5胸椎レベルで右上葉支の分岐を認めた。右下肺動脈陰影の尾側への偏位を認めた。

図1  胸部単純X線写真


 血液検査所見表1):白血球数,好酸球数は正常範囲で,血清IgE値の上昇は認めなかった。

表1  血液検査所見


 呼吸機能検査表2,図2):%VC 89.0 %,FEV/FVC 59.4 %と閉塞性障害を認めた。PEFは2.08 L/sと著明な低下を示し(表2),フローボリューム曲線で呼気流速の平低化を認め,上気道閉塞パターンであった。吸気流速の平低化はみられなかった(図2)。

表2 呼吸機能検査所見および呼気一酸化窒素濃度(FeNO)

図2  呼吸機能検査(フローボリューム曲線)


 胸部CT図3):右上葉に微小石灰化結節を認めた。3次元CT(図3a)では,気管から右上葉支が単独分岐し,同部位で気管の狭窄を認めた(青矢印)。さらに約50mm末梢側に気管分岐部が存在した(緑矢印)。
呼気CTでは,右上葉支分岐部では気管径は保たれていたが(図3b:青矢印),気管分岐部で右主気管支の高度の狭窄を認めた(図3c:緑矢印)。

図3  胸部CT
a. 3次元CT
b. 呼気CT:右上葉支分岐部
c. 呼気CT:気管分岐部


 気管支鏡検査図4):気管粘膜表面に異常は認めず軟骨輪の消失や気管軟化症は認めなかった。右上葉支の分岐部(図4a:青矢
印)で気管の狭窄を認めた(図4a:緑矢印)が,軟骨輪に支持され呼吸による変動はみられず,気管支鏡(OLYMPUS BF-260:外径4.9mm)の通過は可能であった。右主気管支(図4b:青矢印)と左主気管支(図4b:緑矢印)の分岐部では,呼気時に右主気管支の狭窄を認めた(図4c:青矢印)が,その末梢では中葉支,下葉支には狭窄所見はみられなかった。左主気管支および左上下葉支に異常所見は認めなかった。

図4  気管支鏡検査
a. 右上葉支分岐部,b. 気管分岐部,c. 気管分岐部(呼気時)

経過

 当院受診時,フローボリューム曲線(図2)は,上気道閉塞パターンを示した。気道の精査のため胸部CTおよび気管支鏡検査を行った(図3,4)。右気管気管支の存在と,同部位での気管の狭窄を認めた。さらに気管分岐部では右主気管支の呼気時の狭窄を認め,限局性の気管支軟化症と診断した。これらの気道の狭窄がフローボリューム曲線の異常と関連していると考えられた。

 通院開始後,気道感染時に喀痰増加に伴う喘鳴の出現は認めるものの,症状の日内変動や発作性の喘鳴悪化のなどはなく経過した。以上の検査所見および症状経過からは,一連の呼吸器症状は,気管支喘息発作である可能性は低く,気管支分岐異常に伴う気道狭窄が原因となっているものと考えられた。

考察

 気管支分岐異常は,Foster-Carter[1]の過剰気管支,転位気管支,先天性嚢胞性疾患とする分類が多く用いられている。太田ら[2]は外科的処置の違いから転位気管支を転位葉気管支と転位区域気管支とに区別し,過剰気管支,転位葉気管支,転位区域気管支,その他という分類を作成した。気管支分岐異常の頻度は,本邦では0.42〜0.64%[2][3]と報告されている。右上葉の分岐異常が最多で気管支分岐異常の69〜75%を占めている[2][3]。気管支分岐異常のうち,気管分岐部の中枢側で気管から直接分岐する気管支は,気管気管支と呼ばれる[4]。気管気管支は,両上葉への過剰気管支,転位気管支を含む分岐異常である。右上葉気管支が完全に気管から直接分岐する転位葉気管支は,豚やその他の反芻動物では正常構造であることから“pig bronchus”との名称で表記される。Ghayeら[4]は気管気管支35例のうちpig bronchusを1例で認めたと報告している。

 気管気管支は,ほとんどが無症状で発見されるが,小児期に呼吸困難や反復性肺炎,喘鳴などの症状を呈し発見される症例が報告されている[5][6]。Conacherら[5]は,気管気管支を全身麻酔時の気道確保への注意喚起からType I,II,IIIに分類した。Type IIIが最も多く,気管分岐部レベルで右上葉支が分岐し,気管分岐部が3分岐として観察されるもので,症状を有する症例は少ない。Type Iでは気管中央から気管の末梢1/3で右上葉支の分岐がみられ,喉頭軟化症や気管気管支軟化症,気道の狭窄,先天性心疾患を伴うことがある[5][6]。Type IIの分岐部はType IとIIIの中間に位置する。本症例の気管気管支は,右上葉の転位葉気管支にあたるが,第5胸椎レベルで右上葉支が分岐しており,正常の気管分岐部と同レベルである。本症例の気管分岐部は約50mm末梢側にあり,気管が長く,気管分岐部が正常より尾側に位置する構造となっていた。気管全長と気管気管支の分岐部の位置からはConacherの分類するType IIであるが,気管の狭窄や,右主気管支の気管支軟化症の存在などからType Iに近い形態であると考えられた。

 気道狭窄症状を伴った気管支分岐異常の成人例は平田ら[7]により報告されており,分泌物の増加による喘鳴の悪化を報告している。本症例のように喘息様症状を呈し,呼吸機能検査の異常を認めた気管気管支の症例は報告されているが少数である。Hosker[8]の報告では,初期の呼気流速の低下を指摘しているが,フローボリューム曲線の記載がない。Ruzycki[9]の報告では吸気流速の平低化と最大呼気流量の低下を報告しており,可動性の胸郭外上気道閉塞パターンあるいは固定性の上気道閉塞パターン[10]である。本症例のフローボリューム曲線では呼気相において流速の平低化を認め,吸気相では流速に平低化は見られなかった。このことから胸腔内での可動性の上気道閉塞パターンであると考えられた[10]。気管気管支分岐部で気管の狭窄が見られるものの,気管支鏡所見および呼気時CTからは,右主気管支の気管支軟化症が呼気流速の制限に主にかかわっていると考えられた。気管狭窄部が気流制限にどの程度関与しているかは,フローボリューム曲線からは不明である。

 本症例では肺結核の既往があるものの右上葉の微小な石灰化結節を認めるのみで,肺の構造破壊や縦隔リンパ節の石灰化などは認めなかった。また,CTや気管支鏡では気道壁の肥厚,気管軟骨の消失などは認めなかった。症状が小児期より反復していることからも,肺結核の既往や再発性多発軟骨炎などの後天的な疾患が,気管狭窄や右主気管支の気管支軟化症に関与している可能は極めて低いと考えられた。前述のようにType Iの気管気管支は他の先天性疾患を合併する症例が報告されており,本症例でも先天的な気管支分岐異常に伴う気管狭窄及び気管支軟化症であると考えられた。

 通院中,感染合併時の喘鳴の増悪は呈するものの,発作性の症状悪化などは認めなかった。問診やその後の経過からは,気管支分岐異常に伴う気道狭窄が,喘鳴などの呼吸器症状を引き起こしていると考えられ,フローボリューム曲線が病態の把握に有用であった。
 フローボリューム曲線の異常を伴う気管支分岐異常の報告は少なく,今後の症例の蓄積が必要である。

 本論文の要旨は,第41回呼吸器内視鏡学会学術集会(2018年東京)において発表した。
 利益相反:なし。


Abstract

 Herein, we reported the case of a 65-year-old woman with a tracheal bronchus who was diagnosed with bronchial asthma, for which she received inhaled corticosteroid. On the first visit, she did not exhibit any symptoms and there were no abnormal findings on lung auscultation. The flow–volume curve patterns were consistent with those of an upper airway obstruction. Bronchoscopy and computed tomography revealed a right tracheal bronchus, which appeared as a displaced right upper lobe bronchus originating from the trachea, and confirmed tracheal narrowing. The right main bronchus appeared to have branched 50 mm distally and was severely stenosed in the expiratory phase. In this case, the bronchial anatomy may have contributed to the respiratory symptoms and may have reflected the morphology of the flow–volume curves. This case emphasized the utility of flow–volume curves for the diagnosis of upper airway obstruction.

図表


文献

  1. Foster-Carter AF. Broncho-pulmonary abnormalities. Brit J Tuberc. 1946; 40: 111-124. doi: 10.1016/s0366-0869(46)80017-0. PMID: 20279521.
  2. 太田伸一郎,ほか.気管気管支分岐異常71例の検討.気管支学.1986; 8: 122-130.
  3. 佐藤博俊,ほか. 気管支分岐異常症例の検討. 日気食会報. 1975; 26: 321-325.
  4. Ghaye B, et al. Congenital bronchial abnormalities revisited. Radiographics. 2001; 21: 105-119. doi: 10.1148/radiographics.21.1.g01ja06105. PMID: 11158647.
  5. Conacher ID. Implications of a teacheal bronchus for adult anaesthetic practice. Br J Anaesth. 2000; 85: 317-320. doi: 10.1093/bja/85.2.317. PMID: 10992847.
  6. Dave MH, et al, The prevalence of tracheal bronchus in pediatric patients undergoing rigid bronchoscopy. J Bronchology Interv Pulmonol. 2014; 21: 26-31. doi: 10.1097/LBR.0000000000000029. PMID: 24419183.
  7. 平田正弘,ほか.狭窄を伴う気管支分岐異常により著名な喘鳴を呈した1症例.気管支学.1995; 17: 64-68.
  8. Hosker HSR, et al. Ectopic right upper lobe bronchus as a cause of breathlessness. Thorax. 1987; 42: 473-474. doi: 10.1136/thx.42.6.473 .PMID: 3660306.
  9. Ruzycki S, et al. Flow-volume loop abnormality detecting a previously unrecognized right upper lobe tracheal bronchus. Respir Med Case Rep. 2015; 15: 1-3. doi: 10.1016/j.rmcr.2015.02.003. PMID: 26236587.
  10. Miller MR, et al. Standardisation of spirometry. Eur Respir J. 2005; 26: 319-338. doi: 10.1183/09031936.05.00034805. PMID: 16055882.