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呼吸臨床
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【投稿/症例報告】転移性肺腫瘍との鑑別が困難であった肺犬糸状虫症の1例

三好誠吾*1,*2,中川和彦*3,柳垣孝広*4,山口 修*2


*1住友別子病院腫瘍センター

*2愛媛大学大学院循環器・呼吸器・腎高血圧内科学講座(〒791-0295 愛媛県東温市志津川)

*3住友別子病院外科,*4同泌尿器科


A case of pulmonary dirofilariasis mimicking metastatic lung cancer


Seigo Miyoshi*1,*2, Kazuhiko Nakagawa*3
,Takahiro Yanagaki*4, Osamu Yamaguchi*2


*1Department of Cancer center, Sumitomo Besshi Hospital, Niihama, Ehime

*2Department of Cardiology, Pulmonology, Hypertension and Nephrology, Ehime University Graduate School of Medicine, Toon, Ehime

*3Department of Surgery, *4Department of Urology, Sumitomo Besshi Hospital, Niihama, Ehime


Keywords:肺犬糸状虫症,胸部結節影/pulmonary dirofilariasis, pulmonary nodule


呼吸臨床 2022年6巻2号 論文No.e00145
Jpn Open J Respir Med 2022 Vol. 6 No. 2 Article No.e00145

DOI: 10.24557/kokyurinsho.6.e00145


受付日:2021年11月8日
掲載日:2022年2月14日


©️Seigo Miyoshi, et al.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。



要旨

 症例は88歳,女性。腎細胞癌の術後のため当院泌尿器科で経過観察されていた。定期受診時のCTで右上葉S2に結節影を認め,当科を紹介受診した。腎細胞癌の肺転移が疑われ,手術を施行された。病変内に凝固壊死を認め,壊死巣内の肺動脈腔内に厚い角皮を持つ虫体を認め犬糸状虫症と診断された。肺犬糸状虫症は,孤立結節影を呈することが多く,腫瘍性疾患や,結節影を示す他の良性疾患との鑑別を要する。本疾患は比較的まれな病態であり注意が必要である。

はじめに

 肺犬糸状虫症はDirofilaria immitisが,中間宿主である蚊を介して人体に侵入して引き起こされる疾患である[1]。画像上,1cm大の境界明瞭な結節影を胸膜下に認めることが多く,原発性肺癌,転移性肺腫瘍などの腫瘍性疾患や,肺結核,真菌症などの良性疾患との鑑別を要する[1]。今回我々は,腎細胞癌術後の経過観察中に認めた,高齢者の肺犬糸状虫症の1例を経験したので報告する。

症例

 患者:88歳,女性。
 
 主訴:特になし。
 
 既往歴:80歳,腎細胞癌(淡明細胞癌)。
 
 家族歴:特記すべき事項なし。

 生活歴:喫煙歴なし。ペット飼育歴 室外犬を飼育。

 現病歴:腎細胞癌に対して2012年に当院で手術を施行された。外来で経過観察されていたが,2020年のCTで右上葉に結節影を認め,当科を紹介受診した。

 初診時現症:身長142cm,体重39.2kg,体温36.6℃,血圧136/60mmHg,脈拍69/分・整,SpO2 98%(室内気下),眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜に黄染なし,頸部リンパ節腫大なし,心音・呼吸音は異常なし,腹部 平坦,軟,圧痛なし,両側下腿浮腫なし,神経学的異常を認めず。
初診時血液検査所見:貧血は認めず,肝機能は正常範囲内であった。右腎の摘出後で片腎であったため,クレアチニン値が0.94mg/dLと軽度の上昇を認めた。

 初診時胸部単純X線写真図1a):右上肺野に1cm大の結節影を認めた。心拡大や明らかな胸水貯留は認めなかった。
初診時胸部単純CTおよびPET-CT(図1b〜d):CTでは右上葉S2に辺縁整,境界明瞭な1cm大の結節影を認めた。縦隔条件では内部に脂肪成分を疑う所見は認めなかった。PET-CTでは同部位にFDGの淡い集積を認めた(SUV Max 1.61)。CT,PET-CTともにその他の部位に明らかな異常所見を認めなかった。

図1 胸部画像所見
a. 胸部単純X線写真:右上肺野に結節影を認める。
b, c. 胸部単純CT:右上葉S2末梢に辺縁明瞭な1cm大の結節影を認める。縦隔条件では内部に脂肪成分を含むような陰影を認めなかった。
d. PET-CT:FDGはSUV Max 1.61と淡い集積を認めた。


 臨床経過:今回のCT所見では器質化肺炎や過誤腫などの良性病変も鑑別診断として考えられたが,1年前のCTでは同部位に異常所見を認めなかったことや過誤腫に見られるような結節内部の脂肪成分を疑う所見を認めなかったことから,腎細胞癌の転移性肺腫瘍が疑われた。高齢ではあったが,本人,家族の同意の上,外科で手術を施行した。
 胸腔鏡下に胸腔内を観察したが,癒着や胸水貯留は認めなかった。右肺S2領域の結節を部分切除し病変を摘出した。

 病理所見図2):肉眼的には長径10mm大で境界明瞭な黄白色結節であった。病変内に凝固壊死を認め,周囲には線維化とリンパ球浸潤を認めた。壊死巣内の肺動脈腔内に厚い角皮を持つ虫体を認め犬糸状虫症と診断した。

図2 病理組織所見
 肉眼的に長径10㎜大で境界明瞭な黄白色結節を認めた。顕微鏡的には病変内に凝固壊死を認め,周囲には線維化とリンパ球浸潤を認めた。壊死巣内の肺動脈腔内に厚い角皮を持つ虫体を認めた(H.E.染色)。


 術後経過:術後合併症を認めず,第12病日で退院した。約1年間の経過では再発を認めていない。

考察

 肺犬糸状虫症は,終宿主であるイヌ科の哺乳類の右心系に寄生しているDirofilaria immitisが,ミクロフィラリアと呼ばれる感染幼虫を末梢血に放出し,中間宿主の蚊が媒介して人体に感染する人畜共通感染症である[1]。ヒトの肺病変の成因については,血行性に肺に至った虫体が,末梢肺動脈内に塞栓し梗塞巣や肉芽腫を形成するといわれていたが,虫体に比して変性壊死する範囲が広いことなどから,虫体の壊死物質に対する抗原抗体反応である可能性も示唆されている[2][3]。

 本症例ではペットとして室外犬の飼育を認めていたが,感染動物との直接接触で感染するものではないため,本症の発症頻度はペットの飼育歴とは関係がないとされている[1][4]。発症頻度に影響する因子としては,生活環境におけるイヌの数,イヌのフィラリア感染率,媒介する蚊の密度などが報告されている[4]。また本症例のように,無症状で発見されることが多いが(60~80%)[1][5],胸痛,咳嗽,血痰,発熱などの症状を認めることもあるとされている[1]。

 国内では1969年に吉村らが初めて報告し[6],以後は約150例程度の報告があるといわれている[7]。年齢については櫻井らが117例の肺犬糸状虫症の検討で,17~80歳に分布し,平均年齢が59.1歳であったことを報告している[8]。またFliederらの39例の報告においても,平均年齢が58歳であったとされており[9],本症例のように高齢者においての報告は比較的少ない。これは,過去の報告においても確定診断として手術が選択されていることが多いことが要因かもしれない。高齢者では,手術による合併症のリスクも考慮され,未診断で経過観察されている症例が多い可能性が示唆される。

 本症例は,基礎疾患として腎細胞癌を認めており,画像上は転移性肺腫瘍との鑑別が困難であった。腎細胞癌の転移部位としては肺が最も多いと報告されている[10]。肺転移の数に関しては,あまり一定の見解がなく,孤発症例の割合が47%であったという報告もあれば,2.5%であったという報告もある[11][12]。再発率に関しては,5年以内が93%と報告されているが[13],術後5年以上の経過後に再発する症例も報告されている[14]。一方で,肺犬糸状虫症の画像上の特徴としては,①2cm前後の孤立性腫瘤を形成し,胸膜よりわずかに離れて存在し胸膜変化を伴わない,②末梢肺動脈が関与し,中枢側の気管支壁肥厚や腫瘤内石灰化を伴わない,③肺腺癌に認めるような腫瘤中心に向かうconcentric spiculationではなく,腫瘤周囲へ向かうexcentric spiculationの傾向を示すことが報告されている[15]。また好発部位としては右肺下葉に多く,次いで右上葉,中葉の順に多いことなども報告されている[16]。下葉に多い理由としては,肺血流量の違いや虫体が血液より重いことなどを指摘した報告もある[17]。上記のような画像上の特徴を指摘されているが,原発性肺癌のように辺縁不整で胸膜陥入像を呈する症例[18]や,内部に石灰化を伴った症例の報告[19]もあり,画像のみで他疾患との鑑別を行うことは非常に困難である。本症例においても,①と②の特徴は満たしていたが,③や病変部位に関しては満たしておらず,必ずしも典型例とは言えなかった。PET-CTに関しても,肺犬糸状虫症に関しての一定の見解はなく,FDGの集積する症例や逆に陰性例の報告もある[20]。FDGの集積の程度に関しては,病変部の肉芽腫性炎症の活動性を反映している可能性が報告されている[20]。本症例においてもFDGの淡い集積を認めており,CTやPET-CTなどの画像診断による良悪性の判断は困難であった。

 過去の肺犬糸状虫症の多くの報告では,手術が施行され診断に至っている。しかし,前述したように高齢者においては手術が困難な症例も存在すると思われる。他の診断方法として,血清学的にオクタロニー法やELISA法,ラテックス凝集反応,赤血球凝集反応などによる特異抗体を検出する方法も報告されている[1]。ただし病巣が陳旧化した例や,石灰化した例では血中抗体が陰転化するとの報告[14]や,虫体死滅からの時間経過も診断率に影響するという報告[1]もあり注意が必要である。診断精度のより高い免疫学的診断法の開発など,より侵襲が小さく確実な診断法の確立が必要であると考えられた。

 転移性肺腫瘍との鑑別が困難であった肺犬糸状虫症の1例を経験した。本症例のように,担癌状態の症例では悪性腫瘍との鑑別がより困難であり,注意すべき疾患であると思われた。高齢者含め,特に手術困難な症例においては,血清学的検査なども考慮して精査を行っていく必要があると思われた。

 利益相反:本論文に関して,開示すべき利益相反状態はない。

Abstract

 An 88-year-old woman was admitted for further examination of abnormal shadows on chest computed tomography (CT). She underwent an operation for renal cell carcinoma 8 years previously and had been followed up at our hospital. CT showed a nodule in the right upper lobe. Positron emission tomography (PET) demonstrated mild 18-fluorodeoxyglucose (FDG) uptake (maximum standard uptake value = 1.6) within the nodule. As a metastatic renal cell carcinoma was suspected, right upper wedge resection was performed. Histopathological findings revealed granulomatosis inflammation involving coagulation necrosis with a rim of fibrous tissues and lymphoid cell infiltration. The pulmonary artery in the necrotic tissue contained parasitic worms with a thick cuticle, identified as Dirofilaria immitis.

 Pulmonary dirofilariasis is a relatively rare zoonotic infection caused by the heartworm D. immitis. Radiographic imaging typically shows a smooth, round nodule 1-to-3 cm in size. It is difficult to differentiate pulmonary dirofilariasis from a malignant tumor; hence, we will be careful with this condition.

図表


文献

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