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【投稿/症例報告】健康食品(カバノアナタケ)による薬剤性肺障害の1例


北野正剛*,遠藤 駿*,丸田竜介*,蝶名林賢*,雨宮光男*,松本崇平*,西山直樹*,増尾昌宏*,小林正芳*


*東京都立墨東病院呼吸器内科(〒130-8575 東京都墨田区江東橋4‐23‐15)

A case of drug-induced pneumonitis by
 a supplementary food containing
Inonotus obliquus


Masataka Kitano*, Shun Endo*, Ryusuke Maruta*, Satoshi Chounabayashi*, Mitsuo Amemiya*, Shuhei Matsumoto*, Naoki Nishiyama*, Masahiro Masuo*, Masayoshi Kobayashi*


*Department of Respiratory Medicine, Tokyo Metropolitan Bokutoh Hospital, Tokyo


Keywords:カバノアナタケ,健康食品,薬剤リンパ球刺激試験,薬剤性肺障害,ステロイド/Inonotus obliquus, supplementary food, drug lymphocyte stimulation test, drug-induced lung injury, steroids


呼吸臨床 2021年5巻10号 論文No.e00139
Jpn Open J Respir Med 2021 Vol. 5 No. 10 Article No.e00139

DOI: 10.24557/kokyurinsho.5.e00139


受付日:2021年7月12日
掲載日:2021年10月18日

©️Masataka Kitano, et al.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。



要旨

 症例は76歳女性,健康食品のカバノアナタケを煎じて6カ月服用した。一時休薬後,再開時に呼吸困難と乾性咳嗽が出現し当院を受診した。血液検査で好酸球増多,KL-6高値,CTで両肺末梢優位に斑状のすりガラス影を認め,薬剤リンパ球刺激試験でカバノアナタケに陽性を示した。気管支肺胞洗浄と経気管支肺生検で他疾患の除外を行い,カバノアナタケによる薬剤性肺障害と診断した。原因薬剤中止とステロイドを投与し,血液検査および画像所見は改善した。カバノアナタケによる薬剤性肺障害を来した稀な症例と考え報告した。

はじめに

 カバノアナタケ(学名Inonotus obliquus)はタバコウロコタケ科サビアナタケ属の担子菌類であり,北海道やロシアなどの寒冷地で一部の成熟した白樺に寄生し生息する。ロシアではチャーガ(charga)と呼ばれ,健康維持のために抽出後にお茶として飲用されている。β-Dグルカンなどの真菌特有の成分を多く含み,成分の1つであるスーパオキシドディスムターゼ酵素が体内の活性酸素を除去し,抗腫瘍効果がある健康食品として民間的に知られ市販されている[1]。我々はカバノアナタケによる薬剤性肺障害を経験し,良好な治療経過を得た。これまでにカバノアナタケによる劇症肝炎は報告されているが[2],薬剤性肺障害の報告はされていない。

症例

 症例:76歳,女性。

 主訴:呼吸困難と咳嗽。

 既往歴:高血圧,2型糖尿病,脳梗塞,右乳癌(64歳時に右乳房部分切除術および放射線療法を施行し,現在も再発なし)。

 アレルギー歴:特記事項なし。

 家族歴:特記事項なし。

 生活歴:喫煙なし,カバノアナタケ以外に健康食品の使用歴なし,鳥飼育なし,職業は専業主婦,アスベストおよび粉塵曝露なし,居住環境は日当たりの良いマンション。

 内服薬:デキストロメトルファン臭化水素酸塩,アンブロキソール塩酸塩,コデインリン酸塩,ニフェジピン,トリパミド。

 現病歴:北海道に居住する長男が,患者の健康増進のためにカバノアナタケを地域の販売店で購入し,患者に与えていた。X−1年6月より同年12月まで毎日,患者は塊を砕いて粉末状にしたカバノアナタケをスプーン3杯分煎じて服用していた。X年2月より再度飲用を開始したところ,徐々に乾性咳嗽が出現した。5月28日に呼吸困難を自覚したため,他院を受診しCTで胸部異常陰影の指摘を受けた。6月上旬より自らカバノアナタケの服用を中止した。呼吸困難が増悪したため当院を紹介受診され,精査加療目的で7月12日に入院した。

 入院時現症:身長155.0cm,体重43.8kg,意識清明,体温36.6℃,血圧136/79mmHg,脈拍73回/分,呼吸数14回/分,経皮的酸素飽和度98%(室内気)。顔面浮腫なし,胸部聴診上は呼吸音清,心音純,四肢下腿浮腫なし,ばち指なし,皮疹なし。

 入院時検査所見表1):好酸球数は1,668/μLと高値でIgEが231 IU/mLに上昇していた。KL-6は393 IU/mL,SP-Dは86.2ng/mLと正常で抗核抗体は陰性,β‐Dグルカンの上昇はなく,トリコスポロン・アサヒ抗体は陰性であった。

表1 入院時検査所見


 画像所見:胸部X線写真で両側上肺野に末梢側優位なすりガラス様陰影を認めた(図1)。X年5月29日に他院で施行されたCTで右肺の肺尖部優位にreversed halo signを伴う斑状のすりガラス陰影を認めたが(図2a),X年7月2日のCTで両肺上葉に新たに淡いすりガラス陰影が出現した(図2b)。

図1 胸部単純X線写真
両側上肺野末梢側優位にすりガラス陰影を認めた。


図2 胸部CT画像
a. カバノアナタケ飲用中:右上葉優位にreversed halo signを伴ったすりガラス影を認めた。
b. カバノアナタケ中止後:両肺上葉末梢側優位に淡い斑状のすりガラス影を認めた。
c. ステロイド内服後:両肺上葉のすりガラス影の改善を認めた。


 臨床経過:入院後に気管支鏡検査を行い,右肺中葉B5bで気管支肺胞洗浄を行った。洗浄液は白色透明であり,回収率は42%(63/150mL),総細胞数0.40×10*5/mL,細胞分画はマクロファージ86.0%,リンパ球6.0%,好酸球8.0%と好酸球が軽度増多し,CD4/8比は4.7と高値であった。右肺上葉B3aで経気管支肺生検を行い,肺胞内にマクロファージと好酸球の浸潤と肺胞隔の線維性肥厚を認めた。洗浄液の性状・細菌検査・細胞診及び組織診断からは各種感染・他の間質性肺疾患・悪性疾患は否定的であった。カバノアナタケに対する薬剤誘発性リンパ球刺激試験(drug lymphocyte stimulation test:DLST)を施行し,controlが116cpmに対し556cpmとなり陽性〔stimulation index(SI)=480%〕であった。以上の検査結果及び臨床経過よりカバノアナタケの薬剤性肺障害と診断した。来院時にカバノアナタケの服用を中止したが,症状や臨床所見の改善が得られず,第8病日よりプレドニゾロン(prednisolone)0.5mg/kg/日の投与を開始した。その後,自覚症状と末梢血好酸球数,画像所見の速やかな改善を認めた。その後はプレドニゾロンを5mgずつ2週間ごとに漸減した。第30病日のCT(図2c)ですりガラス陰影はほぼ消失し,プレドニゾロンの内服を終了した。

考察

 健康食品として市販され飲用されているカバノアナタケは,抽出物の抗酸化作用[3]やHIV-1プロテアーゼ阻害活性効果[4]が報告されている。カバノアナタケと同様の健康食品として注目される同じ担子菌類のアガリクス(学名Agaricus Incidum)は,薬剤性肺障害の報告が散見されている[5][6]。薬剤性肺障害の診断基準(Camusらの基準)は,以下の5項目が挙げられている[7][8]。①原因となる薬剤の摂取歴がある。②薬剤に起因する臨床病型の報告がある。③他の原因疾患が否定される。④薬剤の中止により病態が改善する(自然軽快もしくは副腎皮質ステロイドにより軽快)。⑤再投与により増悪する。今回は再投与試験が困難であったため,患者自身が再投与し増悪した経緯を同様の評価とした場合,②以外の診断基準を満たしており,カバノアナタケによる薬剤性肺障害と診断した。

 本症例は,カバノアナタケを6カ月内服後に1カ月の自己中断期間を経て,再投与後4カ月で症状を自覚した。好酸球数とIgE値が高値であったが,KL-6は正常域であった。他院受診時のCT所見ではreversed halo signを伴う両肺上葉の斑状すりガラス影を認めたが,当院受診時は陰影が変化し両肺上葉に斑状の淡いすりガラス影を認めたことから,器質化肺炎(organizing pneumonia:OP)パターンが示唆された。薬剤性肺障害の発生機序は,投与期間や量と相関がある細胞障害性機序と,初回投与や少量でも誘発されるアレルギー性機序の2つが想定されている[9]。本症例は再投与により症状の増悪や治療介入を有しており,III/IV型アレルギー反応の関与が推測された。

 カバノアナタケは,健康食品として服用に関する薬効や安全性は確立されていない[10]。有害事象の報告は劇症肝炎の報告があるものの,薬剤性肺障害の報告はなく使用には十分な注意が必要であると考えられた。

 本症例は,健康食品として摂取されるカバノアナタケによる薬剤性肺障害であり,極めて重要であるため報告する。現在は多くの健康食品が市販され,簡便に服用できる環境にある。カバノアナタケを服用する習慣がある場合については,詳細な問診を行う必要がある。

 利益相反:申告すべきものなし。

Abstract

 We present the case of a 68-year-old woman who was administered a supplement containing Inonotus obliquus for six months, which is expected to have anti-cancer effects. After a temporary discontinuation of the supplement, a dry cough appeared at the time of resumption, and she visited our hospital. A blood test showed eosinophilia and high KL-6 levels, and a Computer Tomography showed predominant pitted ground glass shadows in both lungs. The drug lymphocyte stimulation test was positive for Inonotus obliquus.

 Other diseases were excluded by bronchoalveolar lavage and transbronchial lung biopsy, and she was diagnosed with drug-induced lung injury due to Inonotus obliquus. After discontinuation of the causative drug and the administration of steroids, her blood tests and imaging findings improved. We report this as a rare case of drug-induced lung injury due to Inonotus obliquus.

図表


文献

  1. Jiwon Baek, et al. Bioaactivity-based analysis and chemical characterization of cytotoxic constituents from Chaga mushroom (Inonotus obliquus) that induce apoptosis in human lung adenocarcinoma cells. J Ethnopharmacol. 2018; 224: 63-75.
  2. 姜 貞憲, ほか. カバノアナタケ茶飲用に起因する劇症肝炎の1例. 肝臓. 2004; 45: 331.
  3. Mu H, et al. Antioxidative properties of crude polysaccharides from Inonotus obliquus. Int J Mol Sci. 2009; 121: 9134-206.
  4. Ichimura T, et al. Inhibition of HIV-protease by water soluble lignin-like substance from an edible mushroom, Fuscoporia oblique. Biosci Biotechnol Biochem. 1998; 62: 575-7.
  5. 本多宜裕, ほか. アガリクスによる薬剤性肺炎の1例. 日胸. 2003; 62: 1027-31.
  6. 邨野浩義, ほか. 肺扁平上皮癌の経過中にアガリクスによる薬剤性肺障害を発症した1例. 日呼吸誌. 2017; 6: 187-9.
  7. Camus P, et al. Interstitial lung disease induced by drugs and radiation. Respiration. 2004; 71: 301-26.
  8. 日本呼吸器学会. 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き作成委員会. 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き(第2版). 2018; 1-7.
  9. Rosenow EC 3rd. The spectrum of drug-induced pulmonary disease. Ann Intern Med. 1972; 77: 977-91.
  10. Yoshikazu Y, et al. Double blind study of health claims for food containing extract of Kabanoanatake. JAAM. 2007; 4: 1-10.