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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 61

公開日:2019.9.4


今週のジャーナル


Nature Vol. 572, No.7771(2019年8月29日)日本語版 英語版

Science Vol. 365, Issue #6456(2019年8月30日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.9(2019年8月29日)日本語版 英語版






Archive

癌細胞は肺転移するときにII型肺胞上皮細胞を利用する?/アナフィラキシー反応に関わる高親和性IgE産生とTFH13細胞の発見

•Nature

1)腫瘍生物学 

転移ニッチの標識から幹細胞の特徴を持つ実質細胞が明らかになった(Metastatic-niche labelling reveals parenchymal cells with stem features

 今週のNatureの表紙となっている癌細胞の転移メカニズムについての研究である。癌細胞は転移先の臓器で周囲の組織内に腫瘍を形成するために自分にとって都合の良い環境,すなわち転移ニッチをつくると言われているが,少数のその初期段階の転移ニッチを直接研究することは困難であった。

 イギリス・ロンドンのフランシスクリック研究所からの本研究では,転移ニッチを調べられる方法として隣接細胞に取り込まれる細胞膜透過性蛍光蛋白質を開発した。癌細胞に発現させれば,この蛋白質は隣接細胞に取り込まれるので,局所の転移細胞環境の空間的な特定を可能にすることができるため,初期の転移ニッチにおける少ない組織細胞を特定し特徴付けをすることができる。News & Viewsでも紹介されていて(リンク)その図がわかりやすい。

 実際にマウス肺での転移性乳癌細胞の細胞環境を調べ,癌細胞のまわりの5細胞層を調べることができ,活性化した好中球とⅡ型肺胞上皮細胞を同定している。そして上皮細胞からは幹細胞様の特徴,肺前駆細胞マーカーの発現,多細胞系譜への分化能,自己複製活性を示す癌関連実質細胞(cancer-associated parenchymal cell)の存在が明らかになった。Ex vivoでも,癌細胞と共培養した肺上皮細胞は,癌関連実質細胞様の表現型を獲得して,癌細胞の増殖を助けることを示している。


•Science

1)アレルギー 

アナフィラキシー性IgEを誘導する濾胞ヘルパーT細胞サブセットの同定(Identification of a T follicular helper cell subset that drives anaphylactic IgE

 日本の石坂公成・照子先生夫妻によって発見されたIgEは,抗体の中でもアレルギー反応の中心として働いていることはよく知られている。しかしながらさまざまなIgEのなかでもアナフィラキシーを起こすような親和性の高いIgEができてくる正確な機序についてはこれまで明らかではなかった。親和性の高い抗体の産生には,リンパ節で「親和性成熟」が起こることが知られている(図A

図A


 本論文では濾胞性T細胞のサブセットの1つであるT follicular helper cells(TFH13)という細胞について米国イエール大学の研究者が報告している。濾胞性ヘルパーT細胞はリンパ節内で,B細胞が中心に形成する濾胞(follicle)内にみられるCD4T細胞で,B細胞の親和性成熟や活性化,germinal centerの形成に重要な細胞である。今回発見された,TFH13細胞は寄生虫などのアレルギー反応では誘導されないが,アレルゲンで誘導され,アナフィラキシー反応を起こすような高親和性のIgEを産生するのに重要な働きをすることが示されている()。


2)人工知能

マルチプレイポーカのための超人的AI(Superhuman AI for multiplayer poker

 これまでにチェスや囲碁といった1対1の対局するようなゲームで人間に勝つような人工知能・プログラムが次々と開発されてきた。今回,米国カーネギーメロン大学とフェイスブックの研究グループが,より難しいとされる6人制のポーカーで人間のプロに勝てるプログラムを開発した()。


•NEJM

1)HIV 

 今週号のNEJMではHIV関連の論文とくに抗レトロウイルス療法(ART)レジメンにおける,ドルテグラビル(DTG)についての内容が豊富である。HIV治療はそのウイルスのライフサイクルの諸段階を標的としていて,(1)細胞への侵入,(2)DNAへの逆転写,(3)細胞DNAへの組み込み,(4)プロテアーゼ機能,のおのおのに対する治療薬(侵入阻害薬,逆転写阻害薬,インテグラーゼ阻害薬,プロテアーゼ阻害薬)があり,これらを組み合わせて使用されている(図B)。ドルテグラビルは,治療効果の高いインテグラーゼ阻害薬であるが,今回のNEJMでは以下のarticleに3つとcorrespondenceに2つ報告されていて,さらにPERSPECTIVEとEDITORIALにも記事がでている。


図B



南アフリカにおける HIV に対するドルテグラビルをベースとしたレジメン(Dolutegravir-based regimens for HIV in South Africa

HIV-1 治療に用いるドルテグラビルベースレジメンと低用量エファビレンツベースレジメンとの比較(Dolutegravir-based or low-dose efavirenz–based regimen for the treatment of HIV-1

ボツワナにおける神経管閉鎖障害と抗レトロウイルス療法レジメン(Neural-tube defects and antiretroviral treatment regimens in Botswana

 PERSPECTIVEでは特にアフリカのHIV患者の60%を占めるといわれている女性のHIV患者について,EDITORIALでもGlobal HIV Treatmentとして取り上げられている。

 簡単にまとめると,治療不成功が低くその有効性からドルテグラビル治療については,その有効性は評価すべきであること,しかしながら今回の報告から体重増加の副作用が報告されていること,神経管閉鎖障害の報告があることから女性に対しては慎重に対応すべきであり,今後より多くのデータ収集が必要であることや,バックアッププランの必要性などが述べられている。


2)CLINICAL IMPLICATION OF BASIC RESEARCH

気管支喘息の結晶の役割(Making asthma crystal clear

 以前にこちらでも紹介された気管支喘息では有名なシャルコー・ライデン結晶それ自体が2型炎症を促進し,結晶に対する抗体で元に戻る,というScienceの論文(リンク)についてNEJMらしい綺麗なとともに解説されている。19世紀に発見・記述されたシャルコー・ライデン結晶のアレルギー炎症における役割とそれを標的にした治療の可能性についてである。本論文について今回のNEJMよりも約3カ月早くお知らせした「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No.48は多くの読者に読んでいただけているようでこの場を借りて感謝申し上げます。


(鈴木拓児)


※500文字以内で書いてください