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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 74

公開日:2019.12.4


今週のジャーナル


Nature Vol. 575, No.7784(2019年11月28日)日本語版 英語版

Science Vol. 366, Issue #6469(2019年11月29日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.22(2019年11月28日)日本語版 英語版







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フェロトーシス誘導のもう1つの鍵 FSP1。新たな癌治療戦略となるか?/食事でGVHDが予防できる?

•Nature


1)腫瘍学 

CoQオキシドレダクターゼであるFSP1はGPX4と協同してフェロトーシスを抑制する(The CoQ oxidoreductase FSP1 acts parallel to GPX4 to inhibit ferroptosis

FSP1はグルタチオンに依存しないフェロトーシス抑制因子である(FSP1 is a glutathione-independent ferroptosis suppressor

 癌治療の標的として期待されている「フェロトーシス」に関しては,これまでにもTJH No.46, No.59でその分子生物学な背景について概説させていただいた。今回,米国カルフォルニア大学とドイツミュンヘンのグループから,癌細胞が備えるフェロトーシス抑制に関わる新たなメカニズムが明らかにされた。Back to backの掲載なので,2報の内容をまとめて概説する。

 フェロトーシスはプログラムされた細胞死の一形態であり,鉄依存的な細胞膜脂質に対する酸化的損傷によって引き起こされる。グルタチオン依存的な脂質ヒドロペルオキシダーゼであるグルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4)が,脂質酸化を戻す酵素として,これまで唯一フェロトーシスを防ぐ因子として報告されていた(わかりやすい図解がNEWS AND VIEWSに掲載されている)。しかしながらGPX4阻害薬への感受性は,がん細胞によってばらつきがあり,別の因子がフェロトーシスへの抵抗性に寄与している可能性が示唆されていた。


 米国グループは,CRISPR–Cas9を用いた細胞スクリーニングで,Control群と非致死量のGPX4阻害薬RSL3で治療した群とを比較して際に,RSL3治療群で顕著に細胞死が誘導される細胞に着目しFSP1(ferroptosis suppressor protein 1)〔元々はAIFM2(apoptosis-inducing factor mitochondrial 2)と呼ばれていた〕が,GPX4とは別にフェロトーシスを抑制していることを明らかにした。彼らは,これまで報告されていたミトコンドリア内での機能とは独立して,FSP1がミリストイル化によって細胞膜へと誘導され,コエンザイムQ(ユビキノン)を還元してユビキノールを生成する。このユビキノールが脂溶性の抗酸化物質として細胞膜の脂質過酸化反応が広がるのを阻止し,フェロトーシスを抑制する機序を解明した。さらにFSP1の発現が,数百のがん細胞株にわたってフェロトーシス抵抗性と正の相関を示すことを明らかにした。非ミトコンドリアのコエンザイムQ抗酸化系の役割が明らかになったという点でも大きな発見である。


 ドイツのグループも同様にスクリーニングでFSP1を見出している。FSP1はNAD(P)Hを使ってコエンザイムQの再生を触媒する。FSP1阻害とGPX4阻害は,多数のがんでフェロトーシスを相乗的に誘導することが可能であった。FSP1–CoQ10–NAD(P)H経路は,GPX4・グルタチオンと別々に存在し(論文中のFigure4f),協調して脂質過酸化とフェロトーシスを抑制していることが明らかになった。


 FSP1およびGPX4の両者を抑制することによる,新たな癌治療戦略として期待される。


•Science

1)血液腫瘍学 

ラクトースがエンテロコッカスの増殖を介してGVHDを増悪させる(Lactose drives Enterococcus expansion to promote graft-versus-host disease

 抗生剤・PPIなどの薬剤・放射線治療などさまざまな因子がこれまで腸内における細菌叢,特にほかの臓器にトランスロケーション可能な腸球菌の増殖・腸内細菌叢内での占拠率に影響することが報告されている。中でもエンテロコッカス属の占拠率は,炎症や免疫に影響を与えることが報告されている(まとめのがperspectiveに掲載されている)。本報告は,MSKCC・デューク大学・北海道大学・レーゲンスブルク大学(ドイツ)の4施設の共同研究によって,同種造血幹細胞移植を受けた合計1,325名を対象に,腸内細菌叢のプロファイルを行った研究(移植の約1カ月前から採取開始)。移植後まもなくの腸内細菌の評価の際に,エンテロコッカス属(特にE. faecium)の占拠率が拡大した患者は,より高頻度にGVHDを発症し致命率が高くなることがわかった。さらにノトバイオートマウス(もっている細菌叢がすべて知られているマウス)に対して造血幹細胞移植を行った場合でも,エンテロコッカス属(特にE. faecalis)の占拠率拡大を認めた。エンテロコッカスの占拠率が高くなる原因を検索するため,移植後の患者およびマウスのエンテロコッカスにおける代謝経路解析を行った結果,lactose・galactose代謝がハイライトされた。E. faeciumE. faecalisも増殖にはlactoseを必須とし,培養中にlactoseがないと増殖できないことが知られているため,マウスモデルを用いてlactoseを欠如した飼料を投与したところ,移植後のエンテロコッカスの拡大は抑制され,GVHDも軽減した。

 また臨床的には,lactoseの吸収に関わるSNPが報告されている(通常の吸収群と吸収不良群とに分けている)(リンク)。Lactose吸収不良群の患者では,広域抗生剤使用後のエンテロコッカスの増加の割合は通常と変わらないものの,抗生剤中止後もエンテロコッカスの高い占拠率が長く持続することが分かった。

 以上より,非常にありふれたラクトースが一部の腸内細菌の増殖を助けることで,エンテロコッカスの占拠率を拡大することがGVHDの増悪に寄与することが明らかとなった。非常に簡単な食事制限のみでGVHDを軽減できる可能性があり,早急な臨床応用が期待される。


•NEJM

1)呼吸器病学 

臨床的確率と合わせてDダイマー数値を用いた肺塞栓症の診断(Diagnosis of pulmonary embolism with D-dimer adjusted to clinical probability

 これまでのレトロスペクティブな研究結果などから,肺塞栓症は,臨床的検査前確率(clinical pretest probability:C-PTP 循環器病学会のガイドラインp13。本研究ではWellsスコアが使用されている)が低い患者ではDダイマー値1,000ng/mL未満,C-PTPが中等度の患者ではDダイマー値500ng/mL未満で除外されることが示唆されている。今回,カナダMcMaster大学を中心としたグループ(The Pulmonary Embolism Graduated D-dimer)によって,上記の基準が満たされる外来患者は,それ以上検査を行わなくても肺塞栓症が除外されると想定し,前向きにその確認を行った試験。これらの基準に入らない患者には,全例で胸部画像検査(通常はCT肺血管造影)を施行し,診断の際に肺塞栓症と判断されなかった患者は抗凝固療法を受けなかった。全例で3カ月間追跡経過観察を行った。C-PTPが低い(1,285例)または中等度(40例)で,Dダイマーがそれぞれの基準値以下であった1,325例のうち,追跡期間中に静脈血栓塞栓症が認められた患者はいなかった。最初に肺塞栓症の診断を受けず,抗凝固療法を受けなかった1,863例のうち,1例のみで静脈血栓塞栓症が認められた。臨床的検査前確率(clinical pretest probability:C-PTP)が低く,Dダイマー値1,000ng/mL未満であれば,追跡期間中の肺塞栓症リスクが低い患者群を同定できることがわかった。


(小山正平)