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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 88

公開日:2020.3.18


今週のジャーナル

Nature Vol. 579, No.7798(2020年3月12日)日本語版 英語版

Science Vol. 367, Issue #6483(2020年3月13日)英語版

NEJM Vol. 382, No.11(2020年3月12日)日本語版 英語版





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新型コロナウイルスのスパイク構造が明らかになった/制限的酸素療法conservative oxygen therapyは本当に有用か

•Nature

1)腫瘍学:Article 
前転移ニッチを標的としたエピジェネティック療法(Epigenetic therapy inhibits metastases by disrupting premetastatic niches
 がんの外科的切除後の転移性再発は,依然として臨床上の大きな問題である。今回米国ボルチモアのジョンズ・ホプキンズ大学のグループは,「腫瘍細胞が転移してくる前に,予め転移巣の下地を作るMDSC(myeloid-derived suppressor cell)」に着目し,エピジェネティックな変化を促す薬物でMDSCの働きを抑えることで,腫瘍細胞の転移そのものを抑制できることを示した(概略図)。
 MDSCは,骨髄由来のCCR2陽性単球やCXCR2陽性好中球で,腫瘍細胞の発現するCCL2(CCR2のリガンド)やCXCL1(CXCR2のリガンド)によって骨髄から転移巣となる臓器(例えば肺)へ遊走し,転移してきた腫瘍細胞が生着しやすくなるような微小環境(niche)を整える(MDSCについは当サイトのNo.45でも取り上げられている)。これに対し,マウス肺転移モデルに,5-アザシチジン(DNAメチル化酵素阻害薬)とエンチノスタット(ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬)を低用量で投与すると,MDSCのCCR2やCXCR2の発現が低下し,MDSCの骨髄から転移巣への遊走が阻害された。結果的に肺転移が抑制され,マウスの生存が有意に延長した。また興味深いことに,5-アザシチジンとエンチノスタットの投与によって,単球はMDSCではなく,炎症性マクロファージとして最近注目されている間質性マクロファージへ分化することも示されている(リンク)。
 このようなエピジェネティック療法は,これまで腫瘍細胞を主な標的として開発が試みられてきた。今回の知見によって,エピジェネティック療法に新たな展開が期待されるようになった。

2)ウイルス学:Article
中国のヒト呼吸器疾患に関連する新しいコロナウイルス(A new coronavirus associated with human respiratory disease in China
コウモリ起源の可能性が高い新型コロナウイルスに関連した肺炎の集団発生(A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin
 新型コロナウイルスのゲノム塩基配列を決定し,その由来(コウモリ)や受容体(アンギオテンシン変換酵素2)を示唆している。既報の2報(Lancet. 2020; 395: 565-74. N Engl J Med. 2020; 382: 727-33)と同様の結果である。

•Science

1)腫瘍学:Reports 
頭頚部扁平上皮がんの稀なドライバー遺伝子変異はNOTCHシグナルに集中している(Rare driver mutations in head and neck squamous cell carcinomas converge on NOTCH signaling
 頭頚部扁平上皮がんは5年生存率が50%未満と予後不良で,その発がんには,喫煙,アルコール摂取,ヒトパピローマウイルス感染が関与している。腫瘍の変異遺伝子としては,71%の患者で変異が認められるp53遺伝子を筆頭に,多くの患者で共通して変異を認める遺伝子が既に報告されている。しかし個々の患者でばらばらに認められる稀な遺伝子変異については,これまでその意義が検討されてこなかった。
 そこで今回,カナダ・トロントにあるMount Sinai病院のグループは,頭頚部扁平上皮がんに認められる稀な遺伝子変異の生物学的意義を調べるために,ヒト頭頚部扁平上皮がんの遺伝子変異データから,変異が稀な484遺伝子を抽出した。そして,マウスの口腔粘膜細胞において,これら484遺伝子の機能をCRISPR/Cas9システムを用いて阻害してみた(詳細は図1A。参照:実際は「484遺伝子のガイドRNAを発現するレンチウイルスベクターを,Cas9を発現しているマウス胚の口腔粘膜へ分化する外胚葉部分へ,子宮内で注射する」という手法と,「Creを発現した細胞が四色のいずれかに蛍光発色するConfettiマウスを用いて,遺伝子導入細胞のクローンを可視化する」という手法を巧妙に組み合わせている)。
 このような484遺伝子の機能阻害を,p53など「頭頚部扁平上皮がん患者で高頻度に変異が認められる遺伝子の変異マウス」に対し行うと,数週間で多くの頭頚部扁平上皮がんが形成された。「頭頚部扁平上皮がん患者で高頻度に変異が認められる遺伝子の変異マウス」だけでは,頭頚部扁平上皮がんは認められなかった。また同様に,乳がんの稀な遺伝子変異から抽出した215遺伝子を機能阻害してみても,頭頚部扁平上皮がんは認められなかった。すなわち,「機能阻害することによって頭頚部扁平上皮がんを発生させた484遺伝子の中に,頭頚部扁平上皮がん特異的に発がんを抑制している遺伝子が含まれている」と示唆された。
 そこでマウスに発生した頭頚部扁平上皮がんを解析してみたところ,Adam10Ripk4Ajubaの3つの遺伝子が,「頭頚部扁平上皮がん特異的に発がんを抑制している遺伝子」として同定された。さらにADAM10AJUBAについては,NOTCH受容体シグナルを活性化することによって,頭頚部扁平上皮がんの発がんを抑制していることがわかった。
 すなわち,頭頚部扁平上皮がんに認められる稀な遺伝子変異の解析から,「頭頚部扁平上皮がんの発がんには,NOTCHシグナルの不活性化が重要である」と示唆された。今回の頭頚部扁平上皮がんの結果が,肺扁平上皮がんなど他臓器の扁平上皮がんにも当てはまるのかは興味ある課題である。

2)ウイルス学:Reports 
新型コロナウイルスのクライオ電子顕微鏡によるスパイクの融合前構造(Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation
 新型コロナウイルスの構造解析の結果が米国テキサス大学から報告された。新型コロナウイルスは,その三量体のスパイク蛋白を介して,ヒト気管支の線毛上皮細胞やII型肺胞上皮細胞に高発現しているACE2(アンギオテンシン変換酵素2)と結合する。その結合力は,SARSコロナウイルスの少なくとも10倍以上であることや,新型コロナウイルスのスパイク蛋白はSARSコロナウイルスのスパイク蛋白とは抗体結合性が異なることなどが示されている。このようなスパイク蛋白の違いが,新型コロナウイルスがSARSコロナウイルスを超えるパンデミックを引き起こしている理由の一つと思われる。

•NEJM

1)集中治療:Editorials
重症病態への酸素療法(Oxygen therapy for the critically Ill
 2016年のJAMA誌に発表されたGirardisらの論文は,集中治療室入室者を対象に,過量の酸素投与を避ける制限的酸素療法の有用性を単施設で示した。さらに,制限的酸素療法を支持するメタ解析(リンク)や後方視的解析(リンク)も報告され,ICUにおいて制限的酸素療法は一般的になりつつある。
 これに対し「制限的酸素療法が本当に有用なのか否か」について,今回二報の前向き多施設無作為化試験(ICU-ROX研究LOCO2研究)の結果が報告された。結論として,ICUで人工呼吸管理を行う患者を対象としたICU-ROX研究でも,ARDS患者を対象としたLOCO2研究でも,制限的酸素療法の有用性を示すことはできなかった。さらに,LOCO2研究では,有用性を示せなかっただけでなく,非制限的酸素療法に比し,制限的酸素療法の90日死亡が有意に高く(14%上昇,95%CI:0.7-27.2),制限的酸素療法の危険性さえ示唆された。「制限的酸素療法の目標SpO2の下限を88%と低く設定しすぎているのではないか」など,今回の試験デザイン自体の問題点がいくつか指摘されている。しかし,前向き多施設無作為化試験二つの結果は重く,「制限的酸素療法は,どのような患者にどのように行うべきか」という課題が依然として残ることになった。

(TK)

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