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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 164

公開日:2021.10.13


今週のジャーナル

Nat Med Vol. 27, Issue 9(2021年9月)英語版

Science Vol. 374  Issue #6564(2021年10月8日)英語版

NEJM Vol.385 No.15(2021年10月7日)日本語版 英語版








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イスラエルでのコロンワクチン3回目接種 -Booster効果の実際は?/従来型コロナウイルス感染症の既往が形作るCOVID-19の臨床経過-スパイク蛋白SIIとSIの差の意味/SMNを利用した呼びかけはコロナ流行の抑制に役立つのか-FB使用者数千万人での解析

 今回の論文選択はコロナ一色となってしまった。いつもと紹介する順序を変更し,まずは,NEJM誌からイスラエルからのワクチンブースターの明らかな有用性を紹介する。次になぜブースターが必要か? に対するメカニズムを示唆するサイエンス誌の,既往のヒト社会常在コロナ既感染によるSARS-CoV-2との交叉免疫反応が疾患経過に与える影響を紹介する。最後に,ワクチン以外に有効な流行抑制はないのか? という点について,最近では馴染みの深いメディアであるSMN広告を用いて医療従事者が呼びかけを行った際に人流を抑制できるかを前向き比較試験で解析した米国からの検討結果をnature medicine誌から紹介する。

•NEJM

1)感染症:Original Article 
イスラエルにおけるファイザー社コロナワクチンのブースター効果(Protection of BNT162b2 vaccine booster against Covid-19 in Israel
 本邦では12月から医療従事者にmRNAワクチンの3回目のブースター接種がはじまると聞いている。今回のイスラエルからの報告は保健省のデーターベースをもとに後ろ向きでの観察研究を行い,ブースター接種のヒト集団ベースでの効果を証明した最初の報告である。大まかに言うと,2021年9月2日の時点で2回接種後から5カ月以上経過した60歳以上の例,1137804人のデータが対象である。政府がブースター接種を承認した7月30日以降,8月31日までのデータを用いて,ブースター接種を受けた例と受けていない例の発症率,重症例の発生率を主要評価項目として比較している。結果は,ブースター接種から12日目以降で確認されたコロナ症例は非接種群に比べて11.3分の1(95%CI:10.4~12.3),重症例の発生率は19.5分の1(95%CI:12.9~29.5)であり(Table 2),いずれもブースター接種例で有効性が確認されている。様々な交絡因子を調整したポアソン回帰の結果がFigure 2に示されている。接種後11日までも付加的な発症抑制効果が軽度認められるが,12日以降では大幅に発症抑制効果が強化されており,当初のワクチン接種の立ち上がりと同様の経過であった。
 中和抗体の経時的な減少傾向は方々から聞こえてきていたものの,「実際にどうなの?」あるいは「重症化抑制効果があれば良しではないの?」などと感じていた。また,最近よく聞かれる質問の1つに「3回目の接種って必要ですか?」がある。今までは,「はっきりとした根拠には乏しいんですよね……。」と言葉を濁していたが,今回の集団ベースの解析では高齢者の重症化抑制効果もブースターにより増強されそうである。臨床的には,対象者を選択しての“3回目接種”を勧める方向でも良いのかもしれない。

•Science

1)感染症:Research Article
交叉反応性CD4陽性T細胞が感染時,ワクチン時のコロナ免疫反応を増強する(Cross-reactive CD4+ T cells enhance SARS-CoV-2 immune responses upon infection and vaccination
 NEJM誌からのつながりで,あたり前のようにも感じる以下の疑問に見解を与える報告である。

 ①なぜ感染者の80%は無症状,軽症で済むのか?
 ②なぜ高齢者では重症化するのか?
 ③ブースター接種は必要なのか? 必要であれば対象は誰なのか?

 既知のコロナウイルス(HCOV)はいわゆる風邪ウイルスとして人類社会には蔓延しており,人口の90%はHCOVに対する液性免疫を保持する(つまり既感染)ことも知られている。HCOVの既感染による免疫記憶が交叉反応的にSRAS-CoV-2の感染時に惹起され,液性免疫,細胞性免疫ともにウイルス排除に有効に働くことは既に報告されているが,今回のドイツのベルリン大学とマックスプランク研究所からの報告では,疫学的な流行状況の形成と,ワクチン応答に関与する点について着目している。同グループからの報告はTJH#121でも取り上げられており,その続報ともいえる。HCOVの免疫記憶が加齢により衰えていくことにより,SARS-CoV-2とのCD4陽性T細胞の交叉反応性が減弱すること,HCOVと共通する免疫の有効な標的としてのスパイク蛋白上のペプチド配列の同定,HCOV既感染者では実際の感染やワクチン接種時には交叉抗原に対しての二次応答を想像させる免疫反応が生じることを報告している。

 検討の対象は,コロナ既感染者,非感染者のそれぞれである。主に用いられるベンチでの手法はCD4陽性細胞免疫応答を確認するin vitroの系である。PBMCを採取しSARS-CoV-2蛋白を構成するORFやペプチドで刺激を行う。FACSにて活性マーカー(CD40L, 4-1BB)を発現するCD4陽性T細胞の割合を測定し細胞性免疫応答を定量化している。無刺激時に比べて3倍以上の増加を示した場合に有意としている。非感染者でもHCOVと共通の複数のORFで免疫応答が確認されたが,大多数ではSARS-CoV-2罹患後でもORFに対する免疫応答の増強効果は認めていない。「やはり」というかスパイク蛋白に相当するORF(S-Ⅰ,S-Ⅱ;HCOVとの相同性はS-Ⅰ<S-Ⅱ)のみが一部の非感染者での反応と既感染者でのT細胞応答の増強を示した(Fig1)。

 ここまでが予備データである。まず第一に加齢に伴う交叉免疫反応性の検討を行っている。S-Ⅰ,S-Ⅱに対する応答性を年齢分布で確認したところ,S-ⅡはS-Ⅰと比べて,ベースでの反応性が高く,若年に比して高齢者では有意に反応性が減少することが示された。またその所見は,高機能T細胞でより顕著に認められた(Fig2)。同様の所見はHCOVのS-Ⅰ,S-Ⅱを用いた検討も行われ,やはり加齢に伴い減弱することが示された(Fig3)。これらの結果からは,HCOV既感染者ではSARS-CoV-2に対して相同性が強くかつ効果的な免疫標的であるS-Ⅱに対しての免疫記憶が形成されており,その交叉反応性は加齢により減弱することが示された。これはCOVID-19の重症化率が高齢になるほど大きくなる1つの理由として魅力的と感じる。

 次に第二の検討である感染者やワクチン接種者でHCOVとの交叉免疫反応が疾患経過に役割を果たすことを検討した。前向きに未感染者をモニターし17例のCOVID-19感染者を認めいずれの例も軽症であった。S-Ⅰ,S-Ⅱに対してのCD4陽性T細胞応答は経時的に増強した(Fig5A-C)。罹患前のS-Ⅱ交叉反応CD4陽性T細胞レベルは,罹患から40日目以降のS-Ⅰ結合IgG量と正の相関を認め(Fig5I),HCOV反応性CD4陽性T細胞の割合も,罹患直後より増加した(Fig5J)。この事実は,液性免疫・細胞性免疫の両者において,HCOV既感染により生じていたS-Ⅱ交叉反応性CD4陽性T細胞はSARS-CoV-2初感染時の免疫応答に役割を果たしたことを示している。また,ファイザーワクチン接種時の交叉免疫反応を31人の成人で検討し,S-Ⅰに対してのCD4陽性T細胞応答は接種後7日目,14日目と経時的に上昇しプラトーになったのに対し,S-Ⅱに対しての反応は7日目で最大となりプラトーとなった(Fig6B)。このことはS-Ⅰに対してはナイーブとしての反応,S-Ⅱに対しては二次反応(記憶された抗原に対しての反応)と理解できる。

 これらの結果は,サマリーとしてわかりやすい図で解説されており,COVID-19例の多くが軽症で改善する理由,高齢者に重症が多い理由,また高齢者ではブースター接種が必要となるかもしれない機序,スパイク蛋白を標的とするワクチンが異常に高い効果を示す理由などが説明できる可能性がある。

•Nat Med

1)社会医学:Article
大規模なSMNを用いた広告がクリスマス休暇の旅行とCOVID-19流行に与える影響:前向き無作為化対照試験(Effects of a large-scale social media advertising campaign on holiday travel and COVID-19 infections:a cluster randomized controlled trial
 大変身近になっているフェイスブック(FB)やツイッターに代表されるソーシャルメディアネットワーク(SMN)は,世論の形成に大きな役割を担いつつあるといってよいだろう。コロナ禍においても,公衆衛生学的なメッセージを多数のインフルエンサーが発信しているが,その定量的な効果は検証されていない。このレポートではMITやハーバード大学等の名だたる米国の研究機関からのグループが,米国成人の70%をカバーするFBを用いて医療従事者による大規模な行動変容の呼びかけが実際の人流やCOVID-19感染流行にどのような影響を与えるのかを前向きに検証した結果を報告している。

 感謝祭前とクリスマス前に,13州820郡の無作為に選ばれた郵便番号に住むFBユーザーが,医療従事者が休暇中に自宅にいることを呼び掛ける20秒間の動画を広告(スポンサーコンテンツ)として受け取った。高強度介入郡は75%が受信し,25%が受信しなかった。一方で低強度介入郡では25%が受信し,75%が受信しなかった。合計で感謝祭前には1100万人以上,クリスマス前には2300万人以上が受信した。主要な評価項目は,休暇中の旅行に与える影響と休暇後のCOVID-19症例数である。
 結果である,旅行に与える影響はFig2に示されている。感謝祭,クリスマスともに3日前から前日までは高強度郡で朝滞在していた場所からの移動距離が減少し,数値的には0.993%ポイント(95% CI:−1.616, −0.371,p=0.002)減少し有意であった。休日当日に外出するヒトの割合には影響しなかった。また,COVID-19症例数に与える影響は感謝祭,クリスマスの2週後にはCOVID-19例は高強度郡で3.5%減少した(adjusted 95%CI:−0.062, −0.007,p=0.013)。しかし,Fig3に示されたように,その効果は一過性であり持続はしていない。いずれの評価項目でも有意な結果が得られ,SMNによる大規模な広告介入は市民の行動変容を起こす媒体であることが証明された。

 但し書きで興味深かったことに,昨年の大統領選挙でトランプへの投票率の高かった上位3分の1位以内の“田舎の60郡”はクリスマスキャンペーンの調査対象から外したことが記載されている。これは,感謝祭キャンペーン期間にきわめてネガティブで政治色の強いコメントが少なからず投稿されたことから,関連する州で不測の事態を予防するために除外したとのことだ。この報告はAASJでも取り上げられており,Nature Medicineという雑誌にSMN・端末の移動距離データなどを用いた医学研究が掲載されておりとても今風と感じた。

今週の写真:鹿児島の白熊
 コロナ禍以前に鹿児島へ小旅行した際に立ち寄った白熊の有名店。「たかがかき氷」と侮っていたが,食してみると大変にうまかった。練乳の甘さとふわふわの氷,びっくりするほどの山盛りだが簡単に食べてしまえる。人気の訳も納得した。
 熊本は10月に入ってからも連日30℃超えであり,夏が終わらない。

(坂上拓郎)

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