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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 169

公開日:2021.11.24


今週のジャーナル

Nature  Vol. 599 Issue 78852021年11月18日)日本語版 英語版

Sci Trans Med Vol. 13, Issue 620(2021年11月17日)英語版

NEJM Vol.385 No.21(2021年11月18日)日本語版 英語版








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新型コロナウイルスへの中和抗体をFc領域の改変により強化/sotrovimabによる早期治療介入試験/脱メチル化したCAR-T療法で癌への奏功性を高める

 今週号はNatureにもScienceにも日本からの研究が掲載されている。Natureでは理化学研究所・京都大学を中心としたシドニア・ファガラサン先生の率いる共同研究チームの論文で(リンク),Scienceでは京都大学の斎藤通紀先生たちの研究チームの論文(リンク)で大変喜ばしいことである。ここでその論文内容を紹介したいと思ったがプレスリリースがすでに充実しており,ここでは引用するにとどめて別の論文を紹介したいと思います。

•Nature

Fc領域を改変した抗体で新型コロナウイルスへの治療効果を高める(Fc-engineered antibody therapeutics with improved anti-SARS-CoV-2 efficacy
 昨年12月にTJH No.126で紹介した「Fc-optimized antibodies elicit CD8 immunity to viral respiratory infection」という米国ロックフェラー大学Ravetch教授の研究室から発表されたNature論文の続報で,この時に筆頭著者を務めていたStylianos Bournazos博士が今回の論文のlast authorとなっている。抗体のFc領域を最適化すると受容体FcγRを介して樹状細胞の成熟やCD8陽性T細胞の活性化を誘導する作用を高めて,細胞性免疫を誘導することが可能になる。昨年の論文ではインフルエンザウイルスに対する中和抗体のFc領域に抗体半減期を延ばす変異(LS型)をあらかじめ導入しておき,FcγRIIa とFcγRIIIaの両方に強く結合できる変異(GAALIE型)を追加したところ,抗ウイルス効果が5.5倍に高まることを報告していた。今回は中和抗体として治療薬として承認されて,日本では「ロナプリーブ」として臨床で使われているcasirivimabとimdevimabの抗体カクテルと「ゼビュディ」として最近に承認されて販売開始となったsotrovimabのそれぞれについて,Fc領域に変異を導入して新型コロナウイルスのin vivo感染モデルで実験を行った。

 まずは感染モデルの確立しているハムスターを用いて検討した。ハムスターとヒトでは当然ながらFcRにも種の違いがあるため,ヒト,ハムスター,マウスのIgGサブクラスとFcバリアントの対応関係を調べ,ハムスターではFcγRI,FcγRIII,FcγRIVが活性型でFcγRIIbが抑制型となっていることを確認した。感染の前に予防的に抗体を投与しておくと,FcRと結合しない変異(GRLR型)を抗体に導入していても予防的効果はある程度認められたが,感染翌日の治療的投与では効果が落ちることを確認した。マウスではFcγRIVがインフルエンザウイルスやHIV-1感染に対して防御的に働くことがわかっていたので,ハムスターのFcγRIVに対して親和性の高い変異(GAALIE型)と親和性の低い変異(V11型)を抗体に導入にしてin vivo感染モデルでの治療的投与による効果を調べたところ,GAALIE型のみが治療効果が期待でき結果だった(Fig.1)。

 次にヒトIgGの反応をより正確に調べるため,FcγRをヒトに置き換えたマウスで新型コロナウイルスの感染実験を行った。ウイルス株はマウスに感染できるように適応したMA10株(リンク)を使用し,15週以上のマウスで感染ウイルス量を振って治療介入の効果が確認できる条件を設定した。致死量のMA10株に感染して翌日のマウスに「ロナプリーブ」を5mg/kg(参考までにヒトで臨床的に使用される量はcasirivimabとimdevimabで600mgずつになるので1,200mg)で投与したところ,マウスは死ななくなったが,FcγR欠損マウスやFcγRに結合できないGRLR型変異を入れた抗体製剤では治療効果が失われた。

 次に,投与する抗体量を半数以上のマウスが致死的になる1mg/kgに減らして,Fc領域に別の変異を導入した抗体製剤も作って感染実験を行ったところ,FcγRIIaによく結合する変異(GA型)やFcγRI・FcγRIIIに親和性の強い変異(ALIE型)ではそれぞれ野生型よりは治療効果が期待できそうだったが,FcγRIIaとFcγRIIIの両方に親和性が強くて抑制型のFcγRIIbには親和性の低いGAALIE型が最も強い治療効果をもたらし,この条件ではマウスは死ななくなった(Fig.3d,e)。この結果より,Fc領域をGAALIE型にすると抗体量を1/5に減らしても,FcγRIIaとFcγRIIIを相乗効果的に活性化することで,同等の治療効果が期待できるものと考えられた。

 FcγRと結合しないGRLR型でも40mg/kgと高用量にするとGAALIE型と同様の効果が見られたことや,感染2日後の治療投与についてはいずれの変異型の抗体製剤も治療効果がないことも確認され,マウスでは中和抗体による治療介入可能な時間が,感染後24時間以内という最近の論文報告(リンク)とも合致していた。

 さらにロックフェラー大学が関わっている別の臨床治験中の中和抗体(GMS-RU)でも同様の検討を行い,1mg/kgでは野生型ではなく,GAALIE型だけが感染後翌日投与の治療効果を認めた。中和能を持たない陰性コントロール用の抗体(CR3022)でGAALIE型を導入しても当然効果がないことも示している。

 ハムスターでの検討では中和抗体の新型コロナウイルス感染前予防的投与にはFc-FcγR相互作用の効果は認めなかったものの,MA10株を用いたマウス感染モデルでも実施したところ,野生型では予防効果はなかったが,GAALIE型では0.5mg/kgと低用量でも予防効果を認めたことが示されている(Fig.4)。これらの知見は今後の中和抗体治療薬の開発に有用な情報になるとみられる。

•NEJM

新型コロナウイルス中和抗体sotrovimabによる早期治療介入試験(Early treatment for Covid-19 with SARS-CoV-2 neutralizing antibody sotrovimab
 先述の研究紹介にも触れたが最近承認された中和抗体sotrovimabの第三相試験(COMET-ICE)の中間解析結果が報告され,わかりやすいサマリーもつけられている。多施設二重盲検第三相試験であり,症状発現から5日以内の症候性COVID-19で入院を要さない軽症~中等症の患者が対象となった。

 Sotrovimab(S309/VIR-7831)はもともとSARS-CoV-1患者から樹立されたモノクローナル抗体に由来し,SARS-CoV-2とも共通の保存された抗原を認識する。多くの中和抗体はウイルスで最も変異が入りやすくて免疫原性も高い受容体ACE2との結合部位を抗原とするが,その場合は変異株には効きにくくなるデメリットがある。Sotrovimabではウイルスの受容体結合部位には直接結合せずに中和作用を発揮する点で「super-antibodies」として新型コロナウイルスの様々な変異株に有効性が期待されている。

 また,sotrovimabではFc領域に半減期を高めるため変異(LS型)を導入することで血中有効濃度を維持しやすくしている。先述の論文でも紹介したFc-FcγR相互作用による細胞性免疫へのエフェクター作用も期待されているが,Ravetchらの研究室はVir Biotechnology社の抗体開発チームにも参画しており,エフェクター作用などをさらに強化するためのGAALIE変異を導入した抗体はVIR-7832として抗体の臨床治験も進められていることがNat Biotechnologyにも取り挙げられている(リンク)。

 今回の治験はVir BiotechnologyとGSKがスポンサーとなり,軽症~中等症COVID-19でハイリスクの非入院患者を対象に,500mg単回静脈投与で,重症化を防げるかを調べた内容となっていて,2020年8月27日から2021年3月4日にかけて米国,カナダ,ブラジル,スペインの4か国で患者がリクルートされた。ハイリスクの基準は55歳以上あるいは糖尿病,肥満(BMI>30),慢性腎不全,慢性心不全,COPD,中等症から重症の喘息のいずれかを満たす患者が対象で,呼吸困難,SpO2<94%,酸素投与中の患者は除外された。試験デザインはFigure 1の通りで,スクリーニングからランダム化して治験薬投与開始が1日以内となっている。主要評価項目は24時間以上入院もしくはランダム化後29日間に死亡した患者の割合とした。

 有効性評価では,291名がsotrovimab投与群,292名がプラセボ投与群に割り付けられ,観察期間は約10週間だった。安全性評価では430名がsotrovimab群,438名プラセボ群に割り付けられ,観察期間は約8週間だった。人種構成は63%がヒスパニック・ラテン系で肥満・55歳以上・糖尿病のリスク因子を持つ患者が多く2つ以上のリスク因子を持つ人が42%を占めていた。また,症状で最も多かったのが咳で,62%以上に認められた。

 有効性について,sotrovimab群291名のうち3名の重症化に対して,プラセボ群では292名のうち21名で重症化を認めた(相対リスク減少85%,p=0.002)。死亡例はsotrovimab群では0名に対して,プラセボ群では1名,入院を要さない救急外来受診もしくは24時間未満の入院はsotrovimab群3名に対してプラセボ群7名,その他,酸素投与や人工呼吸を要したり,集中治療室への入室を要した症例数はいずれもプラセボ群で多くみられる結果だった。

 有害事象についてはsotrovimab群430名のうち73名,プラセボ群では438名のうち85名に認められ,sotrovimab群の方がむしろ頻度の低い結果だった。特に重篤な有害事象はsotrovimab群で2%,プラセボ群で6%となり,COVID-19が原因としても説明はつけられた。Sotrovimabでは少なくとも1%に軽症~中等症の下痢を認めたことも報告されている。輸注反応は両群とも1%で,全体的に両群間で大きな差はなく,antibody-dependent enhancement(抗体依存性免疫増強)も特に認められなかった。

 なお,NEJM今週号にはCOVID-19の回復期患者血漿を用いた治験結果も掲載された。
COVID-19のハイリスク外来患者に対する回復期患者血漿の早期介入試験(Early convalescent plasma for high-risk outpatients with Covid-19
 こちらは簡単な紹介にとどめるが,2020年8月から2021年2月までかけて米国21州で実施された治験である。先述の治験と同様のハイリスク患者で,発症後7日以内(ランダム化までの症状発現期間は中間値で3〜4日間)の外来治療中のCOVID-19患者を対象とした回復期患者血漿の有効性を調べたものである。主要評価項目はランダム化後15日以内の重症化もしくは死亡で,257名が血漿治療群に,254名がプラセボ群に割り付けられた。結果は77名(30%)の血漿治療群患者の重症化(死亡は5名)に対して,81名(31.9%)のプラセボ群患者が重症化(死亡は1名)した。残念ながら有効性は見いだせなかったという結論で,COVID-19に対する抗体療法とは対照的な結果となった。

•Sci Trans Med

CAR T細胞でDNMT3Aを欠損させるとT細胞の疲弊を抑制し抗腫瘍効果が高まる(Deleting DNMT3A in CAR T cells prevents exhaustion and enhances antitumor activity
 CAR-T療法は血液癌を根治できる可能性のある治療手段として普及しつつある一方で,最も実績のあるCD19陽性急性リンパ性白血病でも,1年以上効果が持続する症例は50%とされ,固形癌や脳腫瘍に対してHER2やCECAM5などの腫瘍抗原を標的としたCAR-T療法の長期生存者はごくわずかにとどまっていることから,CAR-T療法に対する治療応答性を高める研究開発が求められている。米国セントジュード病院のからの報告で,研究者たちは先行研究として,マウスのT細胞特異的にDnmt3aというDNAメチル化に関わる遺伝子を欠損させると,慢性ウイルス感染症に対して,T細胞疲弊が抑制され,抗原に反応するエフェクター機能を保持できることをCell誌(リンク)に報告していたが,今回の研究では,DNMT3Aが欠損するとヒトでもメモリーT細胞の幹細胞性を強化できるのではないか,さらにCAR-T療法ではCAR-T細胞の抗原曝露が続くと「exhaustion(疲弊)」(リンク)を起こすことが知られており,CAR-T細胞でDNMT3Aを欠損させることで治療に有用なのではないかという仮説で実験を進めた。Supplementary Figureは30個もあり,査読者から求められたのかかなり詰めの細かい内容となっている。

 まず,in vitroでCRISPRを用いてDNMT3A欠損T細胞を作成し,そこにレトロウイルスでCARを導入してDNMT3A欠損CAR-T細胞を用意した。IL-15存在下にヒト神経膠腫由来の細胞株U373に曝露を繰り返すことで,細胞数を計測した。Fig.1では様々なCAR-T細胞(HER2,IL13Rα2,EphA2のCAR-T)でDNMT3A欠損CAR-T細胞が非欠損CAR-T細胞に比べて刺激ごとに増殖することを示し,抗原なしでは増殖しないことを確認した()。次に腫瘍細胞に1回曝露後と4回曝露後のCAR-T細胞のサイトカイン産生能を確認し,DNMT3A欠損CAR-T細胞ではIL-10のみが一貫して分泌上昇することを見出した。また,DNMT3A欠損CAR-T細胞では腫瘍細胞に4回曝露後も非欠損CAR-T細胞に比べて腫瘍殺傷能力が維持されていることを確認した。IL-10についてはその役割を調べるため,HER2.ζ CAR-T細胞を用いて,IL-10とDNMT3Aのそれぞれの単独および両方をCRISPRで欠損させて比較したところ,IL-10欠損では腫瘍細胞に曝露しても増殖しなくなり,IL-10を補充すると増殖が得られたことから,CAR-T細胞の増殖にIL-10が必要なことも明らかにした。

 DNMT3A欠損CAR-T細胞での腫瘍細胞曝露に依存した増殖メカニズムを調べるため,腫瘍細胞に4回曝露後のDNMT3A欠損と非欠損のCAR-T細胞(CD8+ CAR-T細胞が>90%を占めた)で全ゲノムのDNAメチル化の違いを調べるためのバイサルファイトシーケンスを行った。特に顕著だったのはTCF7とLEF1で,T細胞分化と共に発現が抑制されることが知られるが,DNMT3A欠損CAR-Tでは非欠損細胞に比べてメチル化されにくくなっており,蛋白質レベルでも確認できた。DNMT3A欠損CAR-T細胞では他にも様々な遺伝子で脱メチル化されており,DNAメチル化パターンはナイーブT細胞や未分化状態のメモリーT細胞と似ていた。さらに確認実験として,DNMT3Aを欠損させるとどのT細胞集団がCAR-T細胞になって腫瘍細胞に曝露したときに増殖能を獲得しやすいかも検討して,ナイーブT細胞・幹細胞様メモリーT細胞(CD45RO-CCR7-)がどのドナー由来でも安定して増殖することを確認した。

 研究者たちはDNMT3A欠損CAR-T細胞のin vivoでの抗腫瘍効果について3つの固形癌で,3種類のCAR-T細胞を使って調べた(Fig.5)。まず,ヒト骨肉腫肺転移由来の細胞株(LM7)を腹腔内に局所的に植え付けた免疫不全(NSG)マウスでDNMT3A欠損と非欠損のEphA2 CAR-T細胞について抗腫瘍効果を比較したところ,DNMT3A欠損でのみマウスの長期生存が可能だった。LM7を経静脈的に肺に播種した骨肉腫肺転移モデルではHER2ζ CAR-T細胞を用いて治療効果を調べたところ,これらも同様の結果だった。U373を植え付けた脳腫瘍モデルでは特異的に反応するIL13Rα2 CAR-T細胞を移植して調べたが,有意差が出るまでには至らなかったものの,腫瘍サイズはDNMT3A欠損CAR-T細胞の方が非欠損CAR-T細胞で治療した時よりも小さく,前者の方が腫瘍により多くのT細胞が浸潤していたが,CAR-Tが標的とする抗原を失った腫瘍細胞を認めた。

 さらにCAR-T療法が最も成功しているCD19 CAR-T細胞でDNMT3Aを欠損させることで治療効果が高まるかを調べ,CD19陽性ヒト白血病細胞(BV173)の移植マウスモデルでも抗腫瘍効果が確認され,マウスの生存に寄与できることを示した(Fig.6)。完全奏功したマウスに再度BV173細胞の移植をしたが生着しないこと,CD19欠損BV173細胞を移植したところ生着したことから,DNMT3A欠損CD19 CAR-T細胞が治療効果を発揮していることが証明された。そこでCD19 CAR-T療法を受けた34症例の慢性リンパ性白血病患者のデータベースも調べてCD19 CAR-T細胞のRNA-seq結果と予後の対応関係を調べ,CAR-T療法が奏功した患者のCAR-TではDNMT3Aの標的遺伝子が良く発現していて(DNMT3Aによる発現抑制が少ない),治療後のCAR-T細胞が奏功群では非奏功群の65〜635倍増殖していたことも明らかになった。研究者らはCAR-T療法の治療効果を予測できるかについても調べ,DNMT3A欠損によって発現変動する遺伝子リストだけでは予測には使えなかったが,メチル化の異なる遺伝子領域(differentially methylated regions:DMRs)のリストも組み合わせると奏功群と非奏功群をある程度は分けることができたと述べている。


今週の写真:南禅寺山門(仏教では三門とも言うそうです)から見た境内の様子です。


(後藤慎平)

※500文字以内で書いてください