" /> Long COVIDの免疫プロファイル/今回のMpox流行は人畜共通感染症ではなく,APOBEC3の影響を受けたヒト・ヒト感染によるものであった/人工呼吸器関連肺炎予防のための先制吸入抗菌療法 |
呼吸臨床
VIEW
---
  PRINT
OUT

「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 257

公開日:2023.11.8


今週のジャーナル

Nature  Vol.623 Issue 7985(2023年11月2日) 英語版 日本語版

Science  Vol.382 Issue 6670(2023年11月3日)英語版

NEJM  Vol. 389 Issue 18(2023年11月2日)英語版 日本語版








Archive

Long COVIDの免疫プロファイル/今回のMpox流行は人畜共通感染症ではなく,APOBEC3の影響を受けたヒト・ヒト感染によるものであった/人工呼吸器関連肺炎予防のための先制吸入抗菌療法

 今週のNatureでは,「Japanese research is no longer world class — here’s why」(Link)という記事が掲載され,ニュース,SNS,国会で大きな話題となった。最後の段落では「研究環境の変革」に関して述べられている。若手研究者である筆者は他のシニア研究者と比較すれば各種業務が少ないはずであるが,週末を犠牲にして様々な業務を処理しないと,研究にたどり着けない現状があり,筆者には最適な’処方箋’がよくわからないというのが正直な本音である。

•Nature

1)免疫:Article
免疫プロファイルによって同定されるLong COVIDの特徴(Distinguishing features of long COVID identified through immune profiling
 medRxivに掲載された時点から話題になり,On Lineに掲載された時にも話題となったYale大学のIwasakiグループから発表されたLong COVIDに関する包括的な解析を取り上げる。
275人のコホートを解析しているが,これは5群から構成されており,①ワクチン接種前にSARS-CoV-2に感染した医療従事者コホート,②SARS-CoV-2に感染していない医療従事者の健常人コホート,③SARS-CoV-2に感染しワクチンを接種し,Long COVIDの症状が無いコホート ④Long COVIDを有するコホート,⑤Long COVIDを有する別コホートから構成されている。
 Long COVIDを有するコホートの内,症状としては疲労(87%),Brain Fog(78%),記憶障害(62%),混乱(55%)などが最も認められた症状であった(Fig. 1)。
 PBMCの解析により,コントロール群に対してLong COVIDを有するコホートでは,non-classical monocyte(CD14 low CD16 high )(本細胞集団はCOVID-19の重症化を引き起こす細胞集団として今回,注目を浴びた)が上昇している一方,conventional type 1 dendritic (cDC1)は減少していた。その他の特徴として,ダブルネガティブB細胞,IL-4/6を分泌するCD4 T細胞の数が増加している一方で,central memoryCD4 T細胞数が減少していた(Extended Data Fig. 2)。ホルモンレベルにおいては代表的なストレスホルモンであるコルチゾールのレベルがLong COVIDコホートにおいて低かった(Fig. 2)。
 また,Long COVIDコホートでは,SARS-CoV-2以外にEBV,VZVに対する抗体レベルが高かった(Fig. 4)。
免疫フェノタイプのデータをベースとする機械学習モデルから,Long COVIDを鑑別する予測式をAUC 0.94(95% CI=0.84–1.00)の精度で作り上げている(Fig. 5)。 このデータの内,フローサイトメトリー,血漿プロテオミクス,ホルモン(コルチゾール)がLong COVIDの鑑別に有用であることを示している。
 おそらく,本研究には多額の解析費用がつぎこまれているが,現象論に留まり,機序解明までは迫れていない印象を受け,改めてLong COVID研究の難しさを実感した。最近,Cell誌に報告されたセロトニンとLong COVIDの関係(Link)が注目を浴びており,両研究の関連がどのようになっているかが,個人的には興味深い。

•Science

1)感染症:Research Article 
少なくとも 2016 年以来,持続的なヒト伝播の証拠としてMpox ウイルスの APOBEC3によるデアミナーゼ編集を認める(APOBEC3 deaminase editing in Mpox virus as evidence for sustained human transmission since at least 2016
 歴史的には,Mpoxは西アフリカおよび中央アフリカに生息する齧歯類との接触により感染する人畜共通感染症であったが,2022年にはMpoxが風土病を超えて国際的な流行となっている。1970 年代に最初のヒトの症例が観察されて以降,感染は主に乳児と子供に認められていたが,その後,欧州で見つかり,現在は収束傾向となっているものの,世界的な広がりを見せた。この伝播様式に関して,エジンバラ大学とナイジェリアのグループが過去のウイルス株との比較を含めて,解析を進めている。
 西アフリカやコンゴで流行していた系統株(Clade)と,今回流行している系統株を比較すると,別個の系統株になっていることがわかる(Fig.1)。ちなみに,今回のCOVID-19でウイルス変異の報道が一般的となったが,日本感染症学会,日本ウイルス学会から「strain」「variant」「lineage」「clade」の用語,訳語の違いに関して,このような発表(Link)を行っているので参考にされたい。
 Mpoxの進化速度は1部位あたり1.9×10-6(1.2×10-6~2.7×10-6)個の置換であると推定され,これは3年ごとに約1ヌクレオチドの変化に相当し,今回流行している系統株は,2017年にチンパンジーで流行していた以前の系統株などと比較すると,高頻度で変異をする株であった。しかも,この変異はウイルスの複製機構によるエラーだけでは説明できず,それよりもはるかに高い頻度で変異が起こっており,ウイルスの複製機構によるエラー以外の機序が考えられた。実際に起こっている塩基変異を解析すると,そのほとんどはTC→TTまたは相補鎖の配列(Reverse Complement)であるGA→AAのジヌクレオチドの変化であった。この特定の変異は,ヒトシチジン脱アミノ化酵素であるAPOBEC3(Link)ファミリーの作用による編集の影響と推定された(Fig. 1)。APOBEC3とMpoxの関係に入る前に,他のウイルスの分野におけるAPOBEC3の先行研究を見てみたい。
 APOBEC3は一本鎖の核酸に特異的に結合しシチジン脱アミノ化反応を触媒する生化学的な活性により強力な抗ウイルス作用を有し,HIVのようなレトロウイルスに限らず,HPV,HBV,HCV,麻疹ウイルス,ムンプスウイルス,RSウイルスでもその抗ウイルス作用が報告されている。ヒトでは,APOBEC3には7種(A,B,C,DE,F,G,H)あり,血球系を中心とした細胞で恒常的に発現している。APOBEC3はAIDと同様にシチジン脱アミノ化酵素であり,構造類似を有している点も興味深い(Link)。一方,HIV-1感染細胞ではウイルスがコードする遺伝子産物Vifが特異的にAPOBEC3を,ポリユビキチン化・プロテアソーム系を介して分解するため,APOBEC3から逃避するような機構も併せ持つ。
 最近の研究では,細胞培養中およびMpox感染中にAPOBEC3Fが編集されていることを実証する報告がなされていた。2017年から2022年にかけてヒトのMpoxで解析された120のウイルス株のうち,109のウイルス株がAPOBEC3による編集を受けた変異型と一致していた(90.8%)。一方,以前より齧歯類を中心に流行していたMpoxはAPOBEC3による編集を受けた変異の濃縮は認められなかった。
 APOBEC3によって広範囲に編集されたゲノムは単に生存できず,さらに伝播しない可能性があるが,Mpoxはおそらくローリングサークル増幅(Link)によって細胞質内で複製し,広範な連続ゲノム複製が促進され,MpoxのDNA分子濃度が十分に高い場合,APOBEC3作用が飽和する可能性を指摘している。この過程で,APOBEC3によってわずかに編集を受けたゲノムが生存したまま感染し,その後,伝播することを筆者らは論じている。
 さらに,筆者らはAPOBEC3による変異が年間約6つ発生することを見出し,最近みられるMpoxの流行株はヒト集団内で少なくとも2016年から循環していたと推定している(Fig. 3)。
 正直,論文の中で論じられていたベイジアン統計は理解ができなかったが,ウイルス・宿主の相互作用を疫学的,生物学的に俯瞰するダイナミックな論文である。

•NEJM

1)感染症:Original Article 
吸入アミカシンによる人工呼吸器関連肺炎の予防(Inhaled amikacin to prevent ventilator-associated pneumonia
 予防的吸入抗菌薬が人工呼吸器関連肺炎の発生を減少させるかどうか,フランスの19施設のICUを用いて,医師主導の多施設共同二重盲検無作為化比較試験である。機械的人工呼吸を72時間以上受けている重症成人に関して,理想体重1kgあたり20mgの吸入アミカシンを1日1回投与する群とプラセボを3日間投与する群に割り付けている。プライマリアウトカムは,28日間の人工呼吸器関連肺炎の初回エピソードとしている。
 合計850例の患者が無作為化割付を受け,847例が解析に組み入れられている(アミカシン群:417例,プラセボ群:430例)。アミカシン群では337例(81%),プラセボ群では355例(82%)が1日3回の吸入療法が完遂できている。28日時点で,人工呼吸器関連肺炎はアミカシン群の62例(15%)に対し,プラセボ群では95例(22%)で発症していた(p=0.004)(Link)。感染関連の人工呼吸器関連イベントは,アミカシン群では74例(18%)に対し,プラセボ群では111例(26%)に発生していた(HR:0.66)(95%CI:0.50~0.89)。本臨床試験に関連した重篤な副作用は,アミカシン群で7例(1.7%),プラセボ群で4例(0.9%)に認められた。
これらの結果より72時間以上の機械的人工呼吸を受けた患者において,その後の3日間の吸入アミカシン吸入療法は,28日間のフォローアップ期間中に人工呼吸器関連肺炎を減少させた。
 これまでに,人工呼吸器関連肺炎の減少を目的として予防的吸入抗菌薬の臨床試験が,コリスチン,セフタジジム,ゲンタマイシンなどで評価されてきたが,本試験は最も大規模な試験であるようだ。その後の耐性菌の出現などに留意する必要がありそうだが,今後,実臨床,ガイドラインにどのように組み込まれるのか興味深い。

2)呼吸器:Review Article
囊胞性線維症(Cystic fibrosis
 この総説では,囊胞性線維症の病態生理,評価,治療について概説し,近年のCFTRモジュレーターの進歩について概説している。CFTRモジュレーターに関しては以前のTJH(Link)でも取り上げている。

今週の写真:ランニングの途中で立ち寄った肥後細川庭園(文京区目白台)
会議室の利用もできるようである。こんな所で研究ミーティングを行ったら,良いアイデアが出てくるかもしれない。

(南宮湖)


※500文字以内で書いてください