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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 266

公開日:2024.1.18


今週のジャーナル

Nature Vol. 625 Issue 7994(2024年1月11日) 英語版 日本語版

Science Vol. 383 Issue 66792024年1月12日英語版

NEJM  Vol. 390 Issue 2(2024年1月11日)英語版








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Immune Dictionaryとは?in vivo cytokine免疫反応/腫瘍組織好中球が腫瘍増殖に関与?/Subclinical AfへのApixabanとEdoxaban臨床試験

 少し遅れての2024年,謹賀新年。本年もよろしくお願いします。

 21世紀ももう四半世紀を過ぎる。20世紀は遠くなりけりとの印象をもつ論文が相次ぎ,77歳でもかろうじて論文フォローができる認知的幸運に感謝!
 21世紀への転換は,2003年のヒトゲノム終了で助走が始まり,本格的変化は10年前,2015年前後からか? 筆者はベンチレベルを全く知らないのは当然だが,状況理解として,塩基配列というデジタル情報収集がベンチレベルで自動化,一方barcodingと呼ばれる一見単純な工夫で,デジタル情報空間構築の道筋が見えて来た。さらに最近数年はその汎用化で巨大なシステム解析など研究が拡大している。
 いよいよ21世紀サイエンスが本格始動という印象を持つ。
 今週は免疫細胞系論文を中心に紹介する。

•Nature

1)免疫学
単一細胞解像度でのサイトカインに対する免疫応答辞典(Dictionary of immune responses to cytokines at single-cell resolution
 免疫系の相互作用を個体内の免疫反応として統合的に理解する“Dictionary of immune response to cytokines”という,とんでもない論文がOpen accessで報告されている。投稿は2年半前であるから,かなりの議論が査読者との間でなされたであろう。
と同時に,誰でも一度は「in vitroではなくin vivoでcytokine signalはどうなるのか」と少し頭に思い浮かべながらも,その複雑さに思考停止したのではないか? それが部分的にも可能な時代となったのだ。

 BostonのMIT,Broad研究所からの報告である。もちろん筆者は免疫学に関しては常識レベルの知識しかなく,本論文をTJHに取り上げるのは無謀ではあるが,Dictionaryとはどんな内容かを表面的に紹介したい。

 マウス(C57BL/6,雌)の両側腹部皮下・皮内に87種(マウス各3匹)の新規調整cytokineを注入(5ug/100ul)。4時間後,注入皮膚のdrainage lymph nodesを集め,酵素的方法でviable cellsを回収。
 scRNAseq(10x Genomics)および所定のdata processingで,38.6万細胞のt-SNEを示す(Fig.1.b)(Fig. 1)。使用された86種のcytokineとそれに対する17種の免疫系細胞の反応はFig.1.dに示してある。まさにImmune Dictionaryである。
以下論文に沿って4つに分けて紹介する。

①Cell-type-specific cytokine response:
 Fig.2(Fig. 2)に示されたように,cytokineの中でも強い反応を示したINFβ,IL-1β,TNF投与で各免疫細胞種においていかなる遺伝子発現がなされたかが示されている(Fig.2.a)。
著者達はこれらの発現遺伝子群にあるグループ性がある事実をから,GP(gene programs)を提示し,あるcytokineにグループとしてレスポンスする40種の遺伝子群に分けて示している(Fig.2.c,Supplement Tab.5.)。この中にはneutrophilsのfirst responderとか,macrophagesのmigration関連遺伝子群,あるいはTreg系の免疫制御系のGPが例として示されている。

②Cytokine-driven cell polarization states:
 これは例えばcytokineによりmacrophagesがpro inflammatory M1-likeとreparative M2-like statesに分かれるような細胞種ごとの特殊化反応を見たものである(Fig. 3)。macrophage以外にも多様な細胞種がcytokine typeで66種にpolarizationしている(Fig.3. a~n)。常識的免疫理解者としてはあまり知らなかった世界ではあるが,なるほどという記載が続く。

③Cytokine production-response map:
 では各cytokineの刺激によりそれぞれの免疫細胞でいかなるcytokine二次発現が誘発されたか? その一覧がFig.4.a(Fig. 4)である。細胞腫により反応発現する遺伝子系にかなりのばらつきがあることが一覧で理解される。
 Fig.4.aでもわかるが,多数の反応性cytokineを発現するFRC(fibroblastic reticular cell)は,これらcytokineを介して二次的に多数の細胞とコミュニケーションすることがわかる(Fig.4.c)。cDC1(conventional dendritic cell)も同様な傾向を見る。
研究グループは同様の細胞間コミュニケーション系として,各種cytokine受容体の発現一覧も示している(Extended data Fig.10)。

④Immune Response Enrichment Analysis(IREA)
 こうした膨大なデータ体系を今後の研究にどう活かすのか?
 研究グループはIREAというcompanion software for the Immune Dictionaryを最後に紹介している(Fig. 5)。
 例えば一研究者が自分の免疫系実験の遺伝子発現データをdepositすれば,IREAがそのDictionaryの全データreferenceを表示し,図示して示すようである。実際に既報のデータセットから, IREAで描出されるサイトカイン相互関連データがFig.5.cに図示されている。
 IREAはすでにウェブ公開(IREA Home)されている。手元に免疫細胞系遺伝子発現データがある方は,試しに使ってご覧になるのもいいだろう。

 以上,最初に述べた,誰もが思う「in vitroでなくin vivoではどうなの?」という疑問への,Immune Dictionaryの回答である。
 今回は常識的免疫学理解者である筆者が論文のごく表面だけを紹介した。現在まだWebにないが,おそらく数か月後,免疫専門研究者から,本論文の評価,あるいはIREA使用法に関してわかりやすい解説が出されると期待する。

•Science

1)腫瘍学
腫瘍内の好中球の決定的な再プログラミング(Deterministic reprogramming of neutrophils within tumors
 本論文は私にとっては現在の腫瘍学で最も知りたかった情報である。
 筆者は20世紀医学としてのcyto-toxic治療から臨床試験にも参加した分子標的薬,さらに退職後のICI治療の進展を経験してきた。
 しかしこれらすべてにほぼ無効な患者群がかなり存在する。我々は腫瘍組織形成で何かを見落としているのでないか? 残された可能性として,ICIによる獲得免疫の下支えをしている自然免疫系の腫瘍組織における機能はどう考えればいいのか?
 その一端を示すのが本論文である。腫瘍組織内の好中球がreprogrammingされ,最終的分化で低酸素環境対応,血管新生等の遺伝子発現により,pro-cancer的変化をきたすという。

 研究はシンガポール(A*STAR),上海,スペイン,米,仏,伊,オーストラリアなどのグループで,そのデータ量,研究方法展開の多彩さに,ただただ圧倒されてしまう。
研究はマウスのorthotopic膵管癌(PDAC)モデルで展開する。

①この実験膵癌腫瘍から白血球系細胞として,CD11bCD115Ly6G細胞を選別する(対照はBM,spleen,末梢血)(Fig.1.A)(Fig. 1)。
 これら細胞をscRNAseqでUMAP(uniform manifold approximation and projection)分布を見ると,premature,immature,matureの細胞分布がBM,末梢血では見られる。しかし腫瘍組織ではそれとは全く異なるT1,T2,T3という好中球グループが存在する(Fig.1.B)。しかしこのT1,T2,T3は最終的にT3好中球にconvergeすることをRNA velocity法(リンク)で示す(Fig.1.D,E)。
 さらにATAC seq法を用いて,腫瘍でmature好中球がGO(gene ontology)的にhypoxia,glycolysis,angiogenesis遺伝子の発現を示す(Fig.1.G)。これは腫瘍組織にprogramed好中球がいかなる意味を持つかの解明となる。

②一方,T3好中球はいかなる表面マーカーを持つか?
 Infinity Flow法(リンク)で249細胞の表面マーカーを解析し,ことに腫瘍内好中球でdcTRAIL-R1等を同定した(Fig.2.A,D)(Fig. 2)。
 T3白血球は成熟白血球のマーカーを加え,CD101+/-,dcTRAIL-R1+と同定,形態学的に多分葉とドーナツ型核をもつ。

③ではT3好中球など腫瘍内好中球は腫瘍のどの領域に存在するのか?
 まずGO的解析でT3好中球は対hypoxia反応,angiogenesisなどを示す(Fig.3.C)(Fig. 3)。
 さらにSpatial transcriptionの一種,Bayes Space法(リンク)を用いて(Fig.3.D)cell type deconvolution(Fig.3.E),spatial cluster(Fig.3.F)などでの解析をすすめ,T3好中球の存在する領域の遺伝子発現が,Glycolysis,Hypoxia,Angiogenesis等の特性を持つことを示した(Fig.3.H)。
 これらはMACSima imaging cyclic staining(MICS)(リンク)で見事に腫瘍組織上に示された(Fig.4. A,F,H)(Fig. 4)。

④T3好中球へのreprogramingに関してはin vitro実験も追加している。
 DMEMとTCM(tumor conditioned medium)での培養で3日で表面マーカーdcTRAIL-R1が発現した(Fig.5.B,F)(Fig. 5)。これはin vivo実験養子トランスファーでも,先と同様T3好中球かが腫瘍組織内で見られた。
 ではT3白血球の寿命はどうか?これはbrdU(5-bromo-2‘-deoxyuridine)を用いた好中球で追跡している。腫瘍組織では5日目に取込ピークを見て(Fig.5.G),T3好中球としてはlife spanが5.6日と長命であることを確認した。

⑤最後にT3好中球は腫瘍増殖とどう関連するか?
 まずVEGF-Aの発現がT3好中球で最も多く,Matrigel assayではT3好中球との共存が血管新生と腫瘍体積を高める(Fig.6. C,D)(Fig. 6)。
 逆に抗VEGF抗体を用いれば,それが抑えられる。一方抗dcTRAIL-R1抗体を用いると,腫瘍組織は増殖抑制される。
 駄目押しはTCGAなどのヒトがん検体データでの評価である。
 既報のscRNAseqデータを今回のUMAPにembedding(こんなことできるんだ!)すると,確かにT1T3様領域を認める(Fig.S14,A,C,D)。
 さらにTCGA,PACA-AUなどでT3high,T3lowで予後をみると,T3存在が予後不良を示す(Fig6. K),膵癌以外にもT3 signatureで多臓器癌(LUAD,HNSC,LGG,ESCA,CESC)でhazard ratioが大きくなることを示している(Fig.6. L)。

 関連文献によると2020年前後からの同グループの集積的成績であることが分かる。しかしよくここまで腫瘍内好中球を解析したなと感嘆する。RNA velocityとか新たなspatial transcription法も駆使しての謎解きは見事である。
 一方in vitro実験のTCM中の何がT3 reprogramingに関与するかは示していない。おそらくongoingと思われる。
またsupplement dataではvasculogenesisの検討でT3好中球とTAM(tumor associated macrophages)を示している。しかしT3抑制の方が腫瘍抑制効果はあるという。

 組織防御へのmyeroid系細胞機能と抗腫瘍治療というスキームが浮かぶ。
 最初に述べたがcyto-toxic,targeting,ICIという現在の治療に加え,抗好中球的治療法が新たに加わる可能性は大きいと思われる。

•NEJM

1)循環器・神経内科
無症候性心房細動における脳卒中の予防を目的としたアピキサバン(Apixaban for stroke prevention in subclinical atrial fibrillation
 退職後介護施設に勤務しての悩みは,新規認可薬剤に関して,薬理効果は理解できるものの,副作用とか投与量匙加減がわからない点である。今回のXa因子阻害薬もそのひとつである。

 Atrial fibrillation(Af)は加齢とともに増加する。その形成機序に関してはTJH#244で紹介した。当然のことながらsubclinicalに進行する。昨今話題のApple Watchなどがこのsubclinical診断にどの程度寄与するのか? 知りたいところだ。
 Afを背景とする脳梗塞発症は,気の毒であるが,現実にはかなりの割合で介護施設入所者に存在する。Xa因子阻害薬としてedoxaban同様,apixabanも入所時には服薬中が多く,出血傾向や腎機能低下者などには注意が必要である。

 本試験の全体像はリンク(Research summary)の通りであり,抗凝固としてのaspirinに比べ,非常にクリアな成績が示されている。しかしXa因子阻害薬という面からは,筆者のような立場ではむしろEditorial “What lies beneath the surface”(Editorial)のほうが勉強になる。そのFig.1には当論文ARTESIA(apixaban),NOAH-AFNET6(edoxaban)の臨床試験が並べて示してある(Editorial Fig. 1)。

 TJH#244に示すように,マクロファージ由来のSSP1,CCR2などの解析が進む中,60歳以降で使用のできるAf予防薬の開発も待たれるところではある。

今週の写真:
仙台市民のスキー場,泉が岳Spring Valley。年始,孫2人と家内とtrainで滑り降りた。コロナに奪われた高齢者の貴重な時間。ようやく孫との滑降希望が実現,「オオ シーハイル!(懐かしい昭和だね)」

(貫和敏博)

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