" /> タンパク質構造解析ツールの進化版/経静脈的な肺内幹細胞の遺伝子修復/COPD・喘息への早期介入 |
呼吸臨床
VIEW
---
  PRINT
OUT

「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 283

公開日:2024.6.18




Archive

タンパク質構造解析ツールの進化版/経静脈的な肺内幹細胞の遺伝子修復/肺機能予測式における人種による調整

•Nature

1)分子構造学:Article
AlphaFold3でタンパク質と分子の相互作用の予測が可能に(Accurate structure prediction of biomolecular interactions with AlphaFold 3
DOI: 10.1038/s41586-024-07487-w

 今週号の表紙を飾ったAlphaFold3についてである。AlphaFoldは2018年に最初に発表された構造予測のAIツールで,2021年にそのアップデート版であるAlphaFold2が発表された(本トップジャーナル・ハックでもNo.158でも紹介,N Engl J Med誌の紹介動画もあり)。囲碁ソフトAlphaGoで有名なDeepMind社が開発したAIツールで,アミノ酸配列からほぼ正確にそのタンパク質構造を予測できるようになったことから,「生物学の大変革」とも称されている。実際,無料のGoogleアカウントとネット環境さえあれば,だれでもGoogle Colabのサーバーを使って,任意のアミノ酸配列から三次元構造モデルを構築でき,できた三次元構造モデルをクルクル回して眺めていると「生物学の大変革」を体感することができる(紹介動画の一例)。
 今回は,その最新版であるAlphaFold3について,英国ロンドンのGoogle DeepMind社とIsomorphic Labs社からの報告である。AlphaFold3は,拡散モデルを用いた深層学習アーキテクチャーに改良が加えられており,タンパク質,核酸,小分子,イオンなどと相互作用しているタンパク質について,その複合体構造をより正確に予測できるようになった(図1)。
 これによって,受容体とリガンドとの結合,抗原と抗体との結合など様々なタンパク質複合体の三次元構造を正確に予測できるようになると思われ,生物学的現象の理解や薬剤の開発が爆発的に促進されることが期待される。
       

•Science

1)遺伝子治療学:RESEARCH ARTICLE
マウス肺幹細胞における永続的な体内遺伝子修正(In vivo editing of lung stem cells for durable gene correction in mice
DOI: 10.1126/science.adk9428

 米国テキサス大学からの報告である。ビトロネクチンで覆った脂質ナノ粒子(「lung SORT LNP」と呼称)を経静脈的に投与すると肺幹細胞に遺伝子導入でき,遺伝子編集ツールと組み合わせることによって囊胞性線維症モデルマウスを治療できることを示した(PERSPECTIVEとして解説あり必見)。
 図1では,Cre組換え酵素が働くと終始コドンが外れてマーカーtdTomが発現してくるマウスを用いて,lung SORT LNPでCre mRNAをマウスへ投与した。肺幹細胞としてNGFR陽性細胞とKRT5陽性細胞を取り上げ,いずれの細胞にも高率に660日にわたってtdTomが発現していることを示している(投与660日後,49〜70%のNGFR陽性細胞と45〜80%のKRT5陽性細胞で,それぞれtdTomが発現していた)。
図2では,ビトロネクチン受容体であるαvβ3インテグリンが陽性の細胞にlung SORT LNPは多く取り込まれていることを,図1と同様のマウスモデルを用いて示している。
 図3では,CRISPR アデニン編集(ABE)のmRNAとガイドRNAをlung SORT LNPで囊胞性線維症モデルマウスに投与し,CFTR遺伝子の変異が50%のNGFR陽性細胞で修復できたことを示している。
 「経静脈的に投与したナノ粒子が,血管内皮と基底膜を通過して肺幹細胞に取り込まれる」という奇想天外の発想には驚かされた一方で,ナノ粒子には編集酵素のmRNAを封入する点が新型コロナワクチンの副産物と感じた論文である。

•NEJM

1)呼吸器病学:SPECIAL ARTICLE
肺機能予測式における人種による調整(Implications of race adjustment in lung-function equations
DOI: 10.1056/NEJMsa2311809

  ハーバード大学からの報告である。全米健康栄養調査(NHANES),UK バイオバンク,アテローム性動脈硬化症の多民族研究(MESA),米国臓器調達移植ネットワーク(OPTN)の総計 369,077 人のデータを用いて,人種に基づく 2012 年世界肺機能イニシアチブ(GLI-2012)の予測式と,人種によらない GLI-Global の予測式とを比較した。
GLI-2012 の予測式を用いても GLI-Globalの予測式を用いても,呼吸器症状,医療サービスの利用,新規疾患の発生,全死亡,呼吸器関連死亡,移植待機中の死亡など,全体的には同様な結果であった。なお人種に基づく GLI-2012を用いると,非閉塞性呼吸障害の診断では,黒人で141%増加する一方で,白人で69%減少するという結果となり,退役軍人の年金額は黒人で増額となる一方で白人では減額となることが示唆された(Fig.1)。
 肺機能予測式に人種差があっても不思議はないものの,全体でみるとそれ程大きな違いではない,というところは納得できるところである。

今週の写真:
武雄温泉から長崎へとあっという間でしたが,西九州新幹線に初乗りしました。

(TK)