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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 73

公開日:2019.11.27


今週のジャーナル


Nature Vol. 575, No.7783(2019年11月21日)日本語版 英語版

Science Vol. 366, Issue #6468(2019年11月22日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.21(2019年11月21日)日本語版 英語版







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グルタミン阻害で癌治療? 癌細胞を押さえ,T細胞を活性化する/糖尿病薬で心不全治療?/肺癌に対するPD-1/CTLA-4阻害併用治療

•Nature


1)微生物学 

バクテリオファージによる腸内細菌の標的化はアルコール性肝疾患を軽減する(Bacteriophage targeting of gut bacterium attenuates alcoholic liver disease

 多くの疾患に腸内細菌が関与していることが報告されてきているが,今回の米国サンディエゴのUCSDからの報告ではアルコール性肝疾患の促進因子として,やはり腸内細菌が悪さをしており治療標的となりうること,しかもファージで治療するという論文である。本論文では腸球菌のEnterococcus faecalisにより分泌される外毒素である細胞溶解素が,肝細胞の死や肝損傷の原因であること,アルコール性肝炎患者では,糞便中のE. faecalis数が増加していることが明らかとなった。そして細胞溶解素陽性(細胞溶解性)E. faecalisの存在は,アルコール性肝炎患者における肝疾患の重症度および死亡率と相関していた。アルコール性肝炎患者の糞便から採取した細菌を定着させたヒト化マウスを用いて,細胞溶解性E. faecalisを標的とするバクテリオファージによって治療効果がみられることを報告している。今回の研究で,バクテリオファージは,細胞溶解性E. faecalisを特異的に標的とすることが可能で,腸内細菌叢を正確に編集するための方法の1つとして使えることが明らかとなった。NEWS and VIEWSでも紹介されている。


•Science


1)腫瘍免疫と代謝 

グルタミン遮断は細胞によって異なる代謝系変化をもたらし腫瘍免疫回避を打開する(Glutamine blockade induces divergent metabolic programs to overcome tumor immune evasion

 ドイツのノーベル症受賞学者であるオットー・ワールベルクは,癌細胞では解糖系に偏ったブドウ糖代謝がみられることをとなえ,現在では「ワールブルク効果」(Wiki参照)といわれている。こうした腫瘍増殖に都合の良い代謝状態は,腫瘍微小環境における免疫細胞に対しても影響を与え,腫瘍免疫回避の機構の1つになっている。米国ジョンズホプキンス大学のPowell研究室からの本論文では,ブドウ糖とともに代謝で重要な働きのあるグルタミンに着目し,グルタミンを阻害することで腫瘍の増殖を抑えること,さらにリンパ球の働きを亢進させて抗腫瘍効果を導くことをimmunometabolic checkpoint(免疫代謝チェックポイント)として報告している。グルタミン阻害により,腫瘍細胞では解糖系もTCA回路も低下することで増殖が抑えられるが,T細胞ではグルタミン阻害で低下したTCA回路中間体を補充するような「アナプレロティック反応(anaplorosis:補充反応,Wiki参照)」が働くためにTCA回路の機能が維持され,結果的には解糖系も賦活されて機能が亢進する(Fig. 4Kにまとめられていてわかりやすい)。アナプレロティック反応のない腫瘍細胞と同反応のあるT細胞で,グルタミン阻害によって真逆の反応が生じる結果,腫瘍増殖抑制と抗腫瘍免疫亢進が同時に生じて抗腫瘍効果を発揮するという興味深い論文である。


•NEJM


1)心疾患 

駆出率が低下した心不全患者におけるダパグリフロジン(Dapagliflozin in patients with heart failure and reduced ejection fraction

 ナトリウム–グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬のいくつかの大規模試験で,SGLT2阻害薬が糖尿病患者における心不全の新規発症による入院のリスクを低下させることが示されているが,その機序はグルコースとは独立したものであると考えられている。そこで糖尿病の有無を問わず,すでに心不全と診断されている患者にも利益があるかどうか,イギリスのグラスゴー大学を中心とした,日本の施設も入っている全世界(欧州,北米,南米,アジア)の施設をまたがる多施設第3相プラセボ対照試験が行われた。ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類II~IV度の心不全を有する,駆出率が40%以下の患者4,744例を,推奨される治療に加えて,SGLT2阻害薬のダパグリフロジンを投与する群とプラセボを投与する群に無作為に割り付け,心不全の悪化(心不全による入院または心不全による経静脈治療にいたる緊急受診)および心血管系の原因による死亡を評価した。その結果,糖尿病の有無にかかわらず,ダパグリフロジンを投与した患者のほうが心不全の悪化または心血管死のリスクは低かった。ビデオサマリーがあり,わかりやすい。

 なお,「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」では4月にNo.44においてSGLT2阻害薬の腎機能への影響についても臨床試験の結果について紹介しているので参照していただきたい。


2)肺癌 

進行非小細胞肺癌に対するニボルマブとイピリムマブの併用療法(Nivolumab plus ipilimumab in advanced non–small-cell lung cancer

 本論文についてはすでにオンラインで発表されていたので,「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」でも10月初めにNo.66で少し触れられているが,非小細胞肺癌に対するPD-1阻害とCTLA-4阻害の併用療法の重要な論文であり再度紹介する。

 ニューヨークのメモリアル・スローンケタリングがんセンターを中心とした日本も含む多施設非盲検第3相試験(CheckMate227試験)の全生存期間データの一部の結果報告である。化学療法歴のないIV期または再発性の非小細胞肺癌(NSCLC)を有する,PD-L1発現量が1%以上の患者を,ニボルマブ+イピリムマブ群,ニボルマブ単独群,化学療法群に1:1:1の割合で無作為に割り付けた。PD-L1発現量が1%未満の患者は,ニボルマブ+イピリムマブ群,ニボルマブ+化学療法群,化学療法単独群に1:1:1の割合で無作為に割り付けている。本研究の主要評価項目は,PD-L1発現量が1%以上の患者における,化学療法と比較した場合のニボルマブ+イピリムマブ群の全生存期間であるが,結論としてはNSCLC患者において,ニボルマブ+イピリムマブによる一次治療により,化学療法と比較して,PD-L1発現量にかかわらず全生存期間が延長した。


3)感染症 

糞便微生物移植由来の薬剤耐性大腸菌による敗血症(Drug-resistant E. coli bacteremia transmitted by fecal microbiota transplant

 糞便微生物移植(fecal microbiota transplant:FMT)は,Clostridioides difficileによる偽膜性腸炎をはじめとした,さまざまな病態に対する新しい治療法である。米国ボストンのマサチューセッツ総合病院からの報告で,2件の臨床試験で,基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended-spectrum beta-lactamase:ESBL)産生大腸菌菌血症が患者に伝播し,2例が敗血症をきたし,うち1例は死亡したことが発表された。遺伝子解析の結果,これらは1人のドナー由来の便からの移植であることが判明している。今後,こうした糞便微生物移植の際には,ドナー便の厳重なスクリーニングが重要であることが再認識された。


 なお,CLINICAL IMPLICATIONS OF BASIC RESEARCHでは,「線虫モデルのおかげで明らかになった抗オピオイドシステム(An anti-opioid system, courtesy of a worm model)」として,この「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」9月No.64で紹介されたScienceの論文(リンク)についてわかりやすい図とともに紹介されている。線虫にヒトμオピオイド受容体遺伝子を発現させてスクリーニングすることによって,オピオイドの副作用低減につながる分子を同定している研究である。


(鈴木拓児)