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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 132

公開日:2021.2.13


今週のジャーナル

Nature Vol. 590, No.7844(2021年2月4日)日本語版 英語版

Science Vol. 371, Issue #6529(2021年2月5日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 5(2021年2月4日)日本語版 英語版







Archive

SARS-CoV-2免疫維持はどれくらい?/mRNA-1273ワクチンへの期待

 日本のワクチン接種はいつ頃開始するのだろうか? まさにワクチン後進国になってしまっている。東京も含め全国でのSARS-CoV-2感染者数は漸減傾向ではあるが緊急事態宣言解除はまだまだで,今のマスコミの話題は東京オリンピックに関連した辞任問題に向いているようにも見える。そんな中,今回は3誌からSARS-CoV-2の話題をまとめた。今後のSARS-CoV-2の疫学データとしてモデル化したIFR値の解釈,感染後の免疫応答の維持,そしてmRNAワクチンの有効性安全性と,今後のSARS-CoV-2感染には重要な内容がそろっているので,SARS-CoV-2祭りになってしまいました。


•Nature

1)免疫 

SARS-CoV-2の年齢別死亡率と免疫パターン(Age-specific mortality and immunity patterns of SARS-CoV-2

 COVID-19感染者数や死亡者数は,各国で実際の数値を反映しているのか判断が難しい。その理由は重症度の推定など入手できるデータに不一致があることが大きい。しかし,COVID-19関連死亡者数を各国間での比較によりエピデミックサイズを検討されているこが多い。実際には,報告されている死亡者数は全感染者数の一部であり,また介護施設など感染状況の違いや高齢者の死亡報告例数にもバラツキがある。

 研究者らは,その数値により世論が左右されていることを問題視して推定される感染致死率により各国および大陸別に感染状況を論じた報告である。イギリスのケンブリッジ大学の遺伝学教室からで,彼らはこれまでも数理モデルを使用してデング熱やB群連鎖球菌などのグローバルな感染疫学研究を多数報告している。


 本研究では,45カ国のCOVID-19関連死の年齢別データを用いて,感染と致死率パターンの整合性を分析するため22の血清有病率研究を複数国間で調べた。
まず初めに,65歳以上の介護施設に入居していない英国人の年齢別死亡リスク(2020年9月1日時点で英国での死亡発生率が著しく高い)を基本にして,各大陸エリアの相対的死亡率を解析している。30~65歳においてはヨーロッパ,アフリカ,アジア,北米,南米ともに年齢と共にリスクは上がるが相対的リスクは1.0未満と高くない。しかし,65歳以上の高齢者ではヨーロッパと北米では英国データと同様に年齢増加に伴い相対的リスクは高まっていたが,他エリアでは各国にバラツキを認めていた。
 2つ目(Fig. 2)は,年齢別や各国間でのIFR(infection fatality rate/risk)を算出している。ちなみに疫学の定義としては,死亡率はある期間の人口あたりの死亡者数,IFRは確定診断された感染者あたりの死亡者数,になっている。つまり感染確定者をどう定義するのか,またどこまで調査しているのか,によってIFRは大きく左右される数値ということである。ちなみにパンデミックになる以前の中国でのCOVID-19によるIFRは0.66%と2020年3月にLANCET(リンク)に報告されている。今回,45カ国でのアンサンブルモデルにより推定された年齢別IFRは,5〜9歳の0.001%から80歳以上の8.29%の範囲で,5歳ごとの年齢増でIFRも平均0.59%増加し,男性が女性より高い傾向を示している。しかし,国別のIFRは全国規模での血清有病率研究から推定値は中央値0.24~1.49%と大きく異なっていた。そのデータを人口構造も考慮した数理モデルで解析すると高齢者人口が多い日本のIFR(中央値が約1%)が最も高くなり,ケニアやパキスタンは約0.1%と低く算出されている。
 3つ目は,感染罹患率(ある観察期間内における発生した感染者数)を解析している。
34億人となる45カ国のデータ(2020年9月1日時点)では,平均5.27%の感染罹患率で,韓国の0.06%からペルーの62.4%まで幅広い。この時点で日本は第二波であったが,韓国とほぼ同程度レベルであった。さらに欧州各国での経時的な罹患率の変動は,国別では推定値の不確実性が生じていることを指摘している。
 そして最後(Fig. 4)には,報告された感染者数と本研究モデルを使用した推定感染者数との差異を評価している。多くのラテンアメリカの国では,報告されている60歳以上の死亡者数は予想よりも大幅に少ない。これは高齢者のCOVID-19関連死亡者数が過少報告されている可能性を指摘している。逆に北欧の国々では予想よりも高齢者の死亡者数が高い。これは報告されている症例のうち,介護施設で発生したCOVID-19関連死亡者数が関連しており,多くの高所得国におけるこれらのコミュニティーにより経験された莫大な負担が浮き彫りになったことを意味している。フランスを例に挙げると,介護施設居住者の人口加重IFR(年齢・性別分布調整)は22.25%と算出されていて,これは一般人口の3.8倍のリスクになっている。実際に,フランスの介護施設人口の7.28%が2020年9月1日までに感染しており,一般人口の1.7倍の感染罹患率であった。
 本研究における単純なモデル化により枠組みは,各国のパンデミックの進行状況の評価に役立ち,信頼できる年齢別死亡データが利用可能ならば,どのようなシナリオにも適用することができる。またモデル化した推定IFR値を報告された感染者数と比較することにより,各国での感染状況の問題を浮き彫りにできることも示唆している。


•Science

SARS-CoV-2に対する免疫学的記憶は,最大感染後8カ月までみられた(Immunological memory to SARS-CoV-2 assessed for up to 8 months after infection

 免疫応答の維持は感染症やワクチン後に免疫防御の基盤である。SARS-CoV-2感染やCOVID-19発症後の免疫維持の持続期間は不明である。免疫学的な記憶は,メモリーB細胞,特異的抗体,メモリーCD4陽性T細胞,そしてメモリーCD8陽性T細胞で構成されている。SARS-CoV-2への免疫学的記憶を明らかにすることで,COVID-19発症に対する防御免疫の見直し(ワクチン投与の指針)や今後のさらなるSARS-CoV-2パンデミックに対する対応においても意味がある。それゆえ,本研究では少なくとも6カ月間はウイルス特異的免疫が存在するかどうか,SARS-CoV-2の感染後の免疫応答の持続性を確認している。
 2020年3~10月にかけて米国において白人が78%を占める188例のSARS-CoV-2感染者(90%が軽症)を対象とした。SARS-CoV-2感染8カ月後まで,回復した患者の末梢血にて抗原特異抗体,メモリーB細胞,メモリーCD4陽性T細胞,そしてメモリーCD8陽性T細胞を測定した。COVID-19の188例から感染後6〜8カ月までの43検体を含めた合計254検体が用いられた。そのうち51検体でSARS-CoV-2特異的免疫の横断的および縦断的分析も行われた。SARS-CoV-2のスパイクやRBD(receptor binding domain)に対する特異的抗体は8カ月で緩やかに減少していくが,SARS-CoV-2スパイクに対するメモリーB細胞は感染後1カ月から8カ月の間に増加していた(リンク)。メモリーCD4陽性T細胞とメモリーCD8陽性T細胞に関しては,3~5カ月の初期半減期をもって減少した。抗体応答の中で,スパイク免疫グロブリンIgG,RBD-IgG,そして中和抗体価は同様の動きを示し,緩やかに減少していった。またスパイクIgAは感染後6~8カ月においては大部分の検体で検出されなかった。メモリーB細胞応答の中ではIgGが有意なアイソタイプで,IgAメモリーB細胞は少数であった。IgMメモリーB細胞は短期間だけの出現である。 

 メモリーCD4陽性T細胞とメモリーCD8陽性T細胞は,すべてのSARS-CoV-2蛋白に対して測定された。感染1カ月目までは70%までの症例がメモリーCD8陽性T細胞を検出していたが,感染6~8カ月には約50%にまで低下していた。CD4陽性T細胞メモリーに関しては,感染1カ月で93%の症例でSARS-CoV-2メモリーをもっており,92%の症例は感染6~8カ月まで高値を維持していた。B細胞を補助する能力を有するSARS-CoV-2スパイク特異的メモリーCD4陽性T細胞(濾胞性ヘルパーT細胞)も維持されていた。免疫応答の異なるタイプはそれぞれの動態をもち,それはB細胞・T細胞の存在と時間経過での抗体免疫との間での複雑な相互作用による結果をもたらす。さらにSARS-CoV-2に対する免疫記憶においては実質的な不均一性がある。感染6カ月までは約95%の症例で免疫応答が記憶されていたが,末梢血に循環している抗体価ではT細胞メモリーを予測できない。つまり,SARS-CoV-2抗体の単純な血清学的検査ではSARS-CoV-2に対する免疫応答の豊富さや維持は反映されない。この免疫応答の内容の理解は今後のワクチン接種方法においては大きな情報になる。


•NEJM

SARS-CoV-2ワクチンmRNA-1273の有効性と安全性(Efficacy and safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 vaccine

 モデルナ社の開発したmRNAワクチン(ウイルス粒子表面のスパイク蛋白の遺伝情報をもったmRNA)による第3相試験の結果内容である。第1相試験の報告はTJハックNo.121で紹介している。同様のmRNAワクチンであるファイザー社のBNP162b2の第1相試験もTJハックNo.126にて紹介しており95%の予防効果(非接種群の発症よりも接種群の発症率の方が95%も少ないということ)であった。どちらも28日間隔の2回接種の用法である。

 この第3相無作為化観察者盲検プラセボ対照試験は米国99施設で行われ,SARS-CoV-2感染またはその合併症のリスクが高い人を対象に,mRNA-1273(100μg/0.5mL)を28日間隔で2回筋肉注射する群とプラセボ群を1:1で無作為に割付した。主要評価項目は,SARS-CoV-2感染の既往のない症例における2回目接種後14日以降に発症するCOVID-19の予防効果としている。
 30,420例が登録され,そのうちの2.2%にベースラインでSARS-CoV-2感染所見あり,また2回接種したのは96%超であり,mRNA-1273群は15,181例,プラセボ群は15,170例であった。両群とも白人79%,黒人10%,アジア人4%が含まれており,リスク因子としては両群とも糖尿病9.5%,慢性肺疾患約5%,心疾患約5%,肥満約7%を有していた。COVID-19発症者はプラセボ群で185例(1,000人年あたり56.5例),mRNA-1273群で11例(1,000人年あたり3.3例)であり,ワクチン有効率は94.1%(95%CI:89.3-96.8%)であった。また初回接種後14日目の評価や,ベースライン時にSARS-CoV-2感染所見が認められた症例を含めた解析,65歳以上の参加者を対象とした解析,すべてにおいても同様に有効であった。プラセボ群では30例が重症COVID-19を発症し1例は死亡したが,mRNA-1273群では重症例はいなかった。ワクチン接種後の一過性の反応はmRNA-1273群で有意に多かったが,中等度の一過性のものであった。接種部位の疼痛は1回目も2回目も共に約7割で生じている。また全身倦怠感,筋肉痛,頭痛,関節痛は2回目で半数程度の出現があった。
 ファイザー社のBNP162b2に引き続き有効性と安全性を示した報告であり,接種後90日までの有効性を検証したデザイン(リンク)である。ただ本試験においては,無症状感染者への予防効果などの課題はまだ残されている。そして新変異種における有効性は不明のままであるが,本稿のScience論文の免疫応答が新変異種に対しても包括されることを祈願する。



今週のスケッチ:最近,黒いスケッチブックの存在を知りました。大学すぐそばの小川では小さな川岸の芝も少しずつ緑化してきました,春の訪れはもうすぐかもしれません。



(石井晴之)


※500文字以内で書いてください