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細胞質内で二本鎖DNAを検知するAIM2がPANoptosisと宿主防御を促進/CRISPRを用いたin vivoスクリーニング:免疫系と腫瘍細胞の相克の実際/ファイザー新型コロナmRNAワクチンの安全性評価(イスラエル)
1)PANoptosis
AIM2はpyrinとZBP1と複合体を形成してPANoptosis と宿主防御を促進(AIM2 forms a complex with pyrin and ZBP1 to drive PANoptosis and host defence) |
プログラムされた細胞死にはアポトーシス(Wiki)以外にも様々な制御機構が知られており,TJHでも過去にピロトーシス(No.89)やフェロトーシス(No.91)などを扱っている。ネクロトーシスについては肺サーファクタント遺伝子SFTPA1の変異によっておきる肺線維症がII型肺胞上皮細胞におけるネクロトーシスによって引き起こされることが本邦より報告されている(リンク)。
ピロトーシス,アポトーシス,ネクロトーシスの各パスウェイの上流にはZBP1(リンク)とTAK1(リンク)がそれぞれ機能していることから統合的な概念としてパノトーシスという言葉が提唱されている(リンク)が,今回の研究は,提唱者である米国セントジュード病院のKanneganti博士らによる報告である。
インフラマソーム(Wiki)には様々な役者と機能が知られているが(リンク,TJH No.42,No.124),今回はその中でもAIM2という二重鎖DNAのセンサーとして働く蛋白質の機能についての報告で,もともとそれを活性化することが知られていた単純ヘルペスウイルスI型(HSV1)と野兎病を引き起こすFrancisella菌(ちなみに野兎病tularemiaを引き起こす代表菌はFrancisella tularensisだが,本研究ではもう少し安全なFrancisella novicida,以下Fn菌)を用いて検討したものである。余談だが,野兎病は本邦での報告は少なくなっているが,忘れてはいけない4種感染症である(リンク)。
まずは野生型を対照として,Aim2以外にもセンサー蛋白質として知られるNlrp3,Nlrc4,Mefv,Zbp1をそれぞれ欠損した骨髄由来マクロファージを用いてHSV1,Fn菌,サルモネラ菌,インフルエンザA型,LPSなどで刺激し,HSV1とFn菌がAIM2特異的に,Caspase-1の切断やIL-1β,IL-18産生,細胞死のシグナルを出していることを示した。この時にpyrinをコードするMefvとZbp1のそれぞれの単独欠損では特異的ではあるもののAim2欠損に比べると半分程度の抑制であることに着目した。
pyrinはコルヒチンで抑制できるので,研究者はZbp1を欠損した骨髄由来マクロファージを加えてHSV1とFn菌を感染させたところ,Aim2欠損の場合と同程度にCaspase-1の切断やIL-1β,IL-18産生,細胞死が抑制されたので,pyrinとZbp1が協調的に作用してAIM2依存性のシグナル伝達を制御していると考え,MefvとZbp1を両方欠損したマウスを作出して整合性を確認した。ヒトでも同様なのか調べるためにTHP-1マクロファージ細胞株を用いてHSV1を感染させてsiRNAで同様の結果を確認した。
さらにピロトーシスのマーカーであるGasedermin D(GSDMD),GSDME,アポトーシスマーカーのcaspase-8,caspase-3,caspase-7,ネクロプトーシスマーカーのRIPK,MLKLについて野生型,Aim2,Mefv,Zbp1の各欠損,およびMefvとZbp1の二重欠損の骨髄由来マクロファージでHSV1と Fn菌の感染による影響を調べたところ,Aim2欠損とMefvとZbp1の二重欠損では各マーカーの分子の切断活性が完全に失われていた。このことは少なくともHSV1と Fn菌の感染においては,ピロトーシス,アポトーシス,ネクロトーシスがAIM2もしくはpyrinとZBP1の相互作用に依存して一斉に影響を受けることを示しており(Fig.3),提唱者でもある研究者たちの主張するパノトーシスという統合概念の妥当性を裏付ける結果であった。
研究者たちはAIM2,pyrin,ZBP1の関係性を調べるため,pyrinとZBP1の単独欠損ではAim2欠損ほどのシグナル伝達障害には至らなかったことから,Aim2がシグナルの上流に位置するのではないかと考え,それを示唆する結果としてAim2インフラマソームを構成するAim2,Asc,Casp1のそれぞれを欠損したマクロファージではHSV1,Fn菌の感染後のpyrinやZBP1の蛋白質量が減少することを見出した。
pyrinとZBP1はもともとインターフェロン刺激により発現が上昇することが報告されており,Aim2欠損により蛋白質だけでなく遺伝子発現も低下することがわかったZbp1,Mefvの発現低下の機序を明らかにするために,インターフェロンβ産生能を調べたところ,Aim2,Asc,Casp1の各欠損マクロファージでは野生型と比べるとほとんど発現しないことがわかった。そこでインターフェロンβを添加してみたところAim2,Asc,Casp1の各欠損マクロファージでもZbp1,Mefvは誘導された。
ピロトーシス,アポトーシス,ネクロトーシスのそれぞれに関与する蛋白質について,分子的な関係を明らかにするため,HSV1,Fn菌感染後の細胞で抗ASC抗体を用いて免疫沈降実験を行い,AIM2,pyrin,ZBP1,casepase-1,caspase-8,RIPK3,RIPK1,FADDがASCと結合することを示した。研究者たちは感染後のAIM2複合体のことをAIM2 パノトソームと称して,免疫染色で細胞内での局在も証明した(Fig.4f)。最後に研究者たちはin vivoの実験でも確認するため,Aim2,pyrin,Zbp1の各欠損マウスを用いて,HSV1,Fn菌感染後の各病原体を定量し,各マウスの生存曲線を描いて整合性ある結果を得た。
1)癌免疫
獲得免疫システムは癌細胞における癌抑制遺伝子の欠損を選別する(The adaptive immune system is a major driver of selection for tumor suppressor gene inactivation) |
今週号のScience誌には免疫システムが癌化を引き起こす2つの仕組みがそれぞれ報告されており,Perspectives にわかりやすい図が掲載されている(本研究は下の絵)。今回は特に目を引いたCRISPRを用いたin vivoスクリーニングの論文を紹介する。西川伸一先生のAASJにも掲載されていたので是非参照されたい(リンク)。ハーバード大学・ハワードヒューズ医学研究所のStephen J. Elledge教授のグループからの報告であり,これまでの癌研究を大局的に説明するところから始まっている。癌の発生は様々な選択圧に適応していく必要があり,彼らはこれをgrowth and survival adaptation(GSA)と称していて,GSAによって癌は正常な組織の恒常性維持機構から抜け出して自立性を獲得するが,GSAを担う遺伝子の解析の多くはin vitroでの培養実験に限られてきたため遅れてきたと述べている。その理由としては,in vitroの単純培養や従来のような免疫不全マウスへの癌細胞移植実験では,腫瘍環境の複雑な細胞間相互作用,特に免疫システムのなかで生きようとする癌細胞の特徴を見落としてしまうからだとしている。今回の研究では,獲得免疫システムによる癌を除去しようとする選択圧をくぐり抜けようとする癌細胞の変化をimmune surveillance adaptation(ISA)と称して,従来のスクリーニング方法では見つけられないような遺伝子をCRISPRで見つけようとした。
まず,7500までの既知あるいは創薬可能な遺伝子を標的にできるマウス用レンチウイルスCRISPRライブラリーを作製し,BALB/c系統マウス由来の4T1乳癌細胞株に感染させ,in vitroで培養する群,野生型(BALB/c)と免疫不全マウス(SCID BALB/c)のそれぞれのマウスに細胞を皮下移植する群に分けた。研究者らは野生型と免疫不全マウスにできる腫瘍を比較すれば,獲得免疫システムが機能しているときに腫瘍増殖に働く遺伝子を同定できるのではないかと考えた。SCIDマウスに移植して得られた腫瘍からはPtenなどやはり増殖に関連する遺伝子のガイドRNAが濃縮されたが,野生型マウスからはB2mやJak1など抗原提示や免疫系シグナルの遺伝子がリストに挙がってくることがわかり,他には癌抑制遺伝子(Tumor Suppressor Genes: TSGs)が多く含まれることを見つけた(Fig.1)。TSGsについてヒトの癌関連遺伝子のデータベースを参照することで,SCIDマウスやin vitro培養よりも野生型マウスで多くのTSGsが発現していることを確認し,これらが増殖しやすい遺伝子ばかりではないこと,ヒトの様々な癌種の変異データベースと照らし合わせたときに乳癌含めたいくつかの癌細胞の変異とよく相関することを見出し,研究者たちは今までのin vitroでのスクリーニングでは見出せなかった機能を持った遺伝子がリストの中に含まれるに違いないと考えた。4T1細胞株に限った結果でないことを確認するため,CT26大腸癌細胞株でも同じライブラリーを用いてin vivoスクリーニングを行ったところ,ヒト腫瘍で見つかる変異との相関性もTSGsの濃縮程度も野生型マウスの方がSCIDマウスやin vitroスクリーニングよりも高かった。
研究者たちはCT26や4T1細胞株のいずれでも野生型マウスで特によく濃縮されている遺伝子群のうちGna13,Cul3,Hdac2に着目した。バリデーションのため,それぞれの遺伝子についてガイドRNAを変えたライブラリーを作り直して,スクリーニングの再現性を確認したところ,これらの遺伝子は予想通りin vitroやSCIDマウスでは濃縮されず,野生型マウスでのみよく濃縮され,最初のスクリーニングの妥当性が証明された。
次に研究者らは自分たちのCRISPRライブラリーに本来含まれているべきTSGsが含まれていないことに気づいて作り直した上で,B6系統マウス由来の癌細胞株から肺癌(LP1233),悪性末梢神経鞘腫(185-3 MPNST),メラノーマ(B16)の3株を選択して,同じB6系統の野生型とRag1欠損の獲得免疫不全マウスを用いて,スクリーニングを実施したところ,細胞株やマウスの系統を変えても獲得免疫を備えた野生型マウスの場合にはRag1欠損マウスと比べたときに,同様のTSGsが濃縮されることを確認した。その中でもメラノーマと肺癌細胞株を野生型マウスに移植した時に濃縮されるGusbに着目し,ガイドRNAを変えたライブラリーを作成してバリデーションのためのスクリーニングを行い再現性を確認した。以上のスクリーニングで見つかってきたGna13,Gusb,Hdac2,Cul3は抗原提示能やCD8陽性キラーT細胞による細胞障害作用に関与していないことから,研究者たちはそれ以外の機序が想定されると述べている。
今回の研究では膀胱癌,乳癌,大腸癌などの様々な癌種で散発的に変異が見つかるGna13に着目した。文献的にはin vitroで4T1細胞株に強制発現すると増殖が抑制されることは知られ,in vivoでは免疫正常なマウスのB細胞悪性リンパ腫でGna13をコンディショナルノックアウトする研究から癌抑制遺伝子であることが知られていたが,メカニズムはよくわかっていなかった。研究者たちはCT26細胞でGna13を欠損させて,野生型マウスの皮下に移植し,遺伝子発現解析でin vitroで培養した場合と比較したところ,Ccl2(Mcp-1)が野生型マウスに移植後のGna13欠損細胞で顕著に上昇していた(Fig.4)。シングルセル遺伝子発現解析のデータベースを用いてGna13欠損腫瘍細胞で腫瘍環境に多い免疫細胞を調べたところ,最も上位に出てきたのが免疫抑制型M2マクロファージだったため,CCL2がこのM2マクロファージを呼び寄せているのではないかと考えて,Gna13欠損CT26細胞株でのCcl2欠損ありなしで比較する実験を行った。In vitroではCcl2欠損による増殖への影響はなく,SCIDマウスに移植しても増殖には違いは見られなかったが,野生型マウスに移植したところ,CT26細胞株でCcl2単独欠損しただけでは腫瘍増殖には差がなかったが,Gna13欠損CT26細胞株でCcl2を欠損させたときに腫瘍サイズが低下した。以上より,Gna13欠損→Ccl2上昇→M2マクロファージによる腫瘍増殖促進という流れが想定され,この機序は治療標的に結び付く可能性があると結論づけて,in vivoでのスクリーニングの有用性が強調されている。
1)ワクチン
BNT162b2(ファイザー・ビオンテック)のmRNAワクチンの一国全体でみた安全性(Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine in a nationwide setting) |
新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの安全性について,私たち呼吸器専門医は日常臨床ではワクチンの安全性について質問されることが多く,今回はこの論文を取り挙げることにした。イスラエルで人口の52%にあたる470万人以上の保険医療をカバーするClalit Heath Services(人口の52%にあたる470万人以上の保険医療をカバー)からの報告で,製薬会社とは独立した調査結果である。対象は,16歳未満と医療従事者は除かれ,2021年5月24日時点より前にワクチン接種し,SARS-COV-2のPCR陽性となったことがない人口から,最終的に88万4828人がワクチン接種群に設定され,同数がワクチン非接種群に割り付けられた(Fig.1)。またワクチンによる有害事象と,新型コロナウイルス感染による事象を比較するため,新型コロナウイルス感染者17万3106人に対して同数の非感染者群が割り付けられた(Fig.2)。
結果はワクチン接種群では,心筋炎:リスク比3.24,リスク差2.7/10万人,リンパ節腫大:リスク比2.43,リスク差78.4/10万人,虫垂炎:リスク比1.40,リスク差5.0/10万人,帯状疱疹ウイルス:リスク比1.43,リスク差15.8/10万人。心筋炎の合併症は21症例で年齢中央値は25歳で90.9%が男性だったと述べられている。これに対して,新型コロナウイルス感染では,心筋炎:リスク比18.28,リスク差11.0/10万人,急性腎障害:リスク比14.83,リスク差125.4/10万人,肺塞栓:リスク比12.14,リスク差61.7/10万人,頭蓋内出血:リスク比6.89,リスク差7.6/10万人,心外膜炎:リスク比5.39,リスク差10.9/10万人,心筋梗塞:リスク比4.47,リスク差25.1/10万人,深部静脈血栓:リスク比3.78,リスク差43.0/10万人,不整脈:リスク比3.83,リスク差166.1/10万人と違いは明白だった。
ファイザー・ビオンテック(BNT162b2)もモデルナ(mRNA-1273)のいずれのワクチンも接種後のベル麻痺が報告されており,今回の研究でもベル麻痺が報告されリスク比は1.32とわずかに上昇しており,帯状疱疹ウイルスのリスク上昇と関連した顔面神経麻痺の可能性が指摘されている。また,アデノウイルスベクターワクチンで報告されてきた血栓症のリスクについては今回の研究では関連性を認めなかったと結論付けている。貧血や頭蓋内出血に対して保護的な効果があるように見えていることについてはSARS-CoV-2に感染しても診断されていない症例が含まれているのであろうと述べられている。
今回の研究はランダム化比較試験ではなく,比較する群をマッチングするにも限界があり選択バイアスが多少含まれる可能性はあることも限界点として述べられている。また,日本人ではどうかを短絡的に結論付けることもできないが,これほどの人口を観察対象とした安全性評価は日常臨床の参考にはなると思われる。
今週の写真:大学近くの荒神橋から見た鴨川。左側に見えるのが京都府立医科大学です。 |
(後藤慎平)