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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 171

公開日:2021.12.9


今週のジャーナル

Nature  Vol. 600 Issue 78872021年12月2日)日本語版 英語版

Science Vol. 374, Issue 6572(2021年12月3日)英語版

NEJM Vol.385 No.23(2021年12月2日)日本語版 英語版








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ヘルプラインデータを用いたメンタルヘルス解析/mRNAコロナワクチンの免疫記憶の持続性/mRNAコロナワクチン接種後の心筋炎

 日本ではまだCOVID-19新規感染者数は少ないが,海外の感染状況や新たなオミクロン株などCOVID-19情報は常にメディアの中心にある。わが国においてもCOVID-19に関連する法案として,18歳以下の10万円給付やブースター接種時期は早く決議すべき内容である。今週のTJ Hackでは,それらの政策に関連する情報を取り上げた。コロナ禍での社会問題として取り上げるべきメンタルヘルス,mRNAワクチンのブースター接種時期の検討に関連する免疫,そしてmRNAワクチン接種増加に伴う関連事象についての論文を紹介していく。

•Nature

1)メンタルヘルス:Article
COVID-19とメンタルヘルス(Mental health concerns during the COVID-19 pandemic as revealed by helpline calls
 本研究はスイスのローザンヌ大学の疫学調査グループからの報告で,ヘルプラインデータを用いた新しい手法として紹介されている。確かにコロナ禍においても医療逼迫や経済破綻という問題に繋がるメンタルヘルスについては軽視されているかもしれない。このヘルプラインデータはメンタルヘルスのリアルタイム情報であり,かつ電話をかけた人は自分自身の意思で行動した結果であり研究デザインや研究者の意図によらないデータになる。そして通話という手法のため幅広い会話トピックがデジタルデータで毎日のように自動で記録されたものである。電話によるヘルプラインは多くの国で,メンタルヘルス保護や自殺防止のための制度として確立されており,すぐに,匿名で,安価に,アクセスしやすい形でサポートを提供している。自殺のヘルプラインは,自殺率を低下させ,自殺防止のヘルプラインの通話量が自殺率に関連することも明らかになっている。
 COVID-19のパンデミック時には,対面での接触は感染リスクを伴うため,自宅待機や自粛生活によるメンタルヘルスに対してのヘルプラインは特に重要な意味があったと思われる。なぜなら,感染症対策のための多くの制限処置は,失業,経済的ストレス,孤独,人間関係の問題,既存の精神的脆弱性などを悪化させ,メンタルヘルスにも影響を与える可能性を考えれば理解できる。今回,ヨーロッパ14カ国,米国,中国,香港,イスラエル,レバノンの23のヘルプラインを用いて,2019年から2021年初頭までの800万件の個別通話による情報を解析している。COVID-19パンデミックの際には,Google Trendsで記録されたオンライン検索に基づいて,より高頻度のモニタリングが行われている。
 電話相談の件数は最初のアウトブレイク(集団発生)後,6週間でピークに達し,パンデミック(世界的大流行)前の水準より35%増加している。この増加は主に恐怖(感染の恐怖を含む)と孤独感,そしてパンデミック中では身体的健康に関する懸念が多い。一方,人間関係の問題,経済的な問題,暴力,自殺念慮は,パンデミック前よりも減少しているのは興味深い。このパターンはCOVID-19の第一波時だけでなく,その後の流行時にも見られている。これはパンデミックと直接結び付いた問題が,不安から別の要素へと置き換わったことを意味している。感染率の増加に伴い自殺に関連する電話相談は,封じ込め政策が強化されると増加(Fig. 3)していたが,所得補助が延長されると生活安定によるためか電話件数は減少している。この結果は,経済的な安心感が,ロックダウン対策によって引き起こされる悩みを軽減できることを意味し,ヘルプラインデータの統計解析から得られる社会的にも大きな情報ではないだろうか。

•Science

1)免疫学:コロナワクチン(research article)
mRNAワクチンがSARS-CoV-2に対する永続的な免疫記憶を誘導している(mRNA vaccines induce durable immune memory to SARS-CoV-2 and variants of concern
 以前TJ Hack No.132にてSARS-CoV-2感染後の免疫記憶について,SARS-CoV-2のスパイクやRBD(receptor binding domain)に対する特異的抗体は8カ月で緩やかに減少,メモリーB細胞は感染後1~8カ月の間に増加し,メモリーCD4陽性T細胞とメモリーCD8陽性T細胞に関しては,3~5カ月の初期半減期をもって減少した論文を紹介している。
 本論文は,全世界で最も接種率の高いmRNAワクチンの免疫記憶がどれくらいなのか,という研究で,ペンシルベニア大学免疫学教室からの報告である。今回,SARS-CoV-2未感染者(45名)と感染後回復者(16名)のワクチン接種反応を,接種後6カ月間にわたって縦断的に観察している。要旨として掲載されているがとてもわかりやすい。mRNAワクチン接種は,抗スパイク抗体,抗受容体結合ドメイン(RBD)抗体,そして中和抗体を誘発しており,それらの抗体は接種1カ月後から時間経過とともに減少傾向ではあった。しかし,ワクチン接種後6カ月時点で,ほとんどの人がワクチン接種前のベースラインレベルより抗体価は上回っていた。抗体価の推移はワクチン接種後どの時期においても未感染者より感染後回復者で高い傾向があり,ブースター接種の効果は明らかである。またmRNAワクチンは,スパイクおよびRBDに特異的なメモリーB細胞の生成を接種後3カ月から6カ月の時期に増加し続けていた。それらの細胞の大部分はアルファ,ベータ,デルタの各バリアントに交差結合していたこと,また軽症感染者(26名)よりもワクチン接種者の方が高頻度にRBD特異的メモリーB細胞が生成されていることは臨床的にワクチン接種の大きな有用性を示唆している。
さらにmRNAワクチンは,抗原特異的なCD4+およびCD8+T細胞を誘導し,2回目ワクチン接種後にピークレベルから減少するものの3~6カ月までは比較的維持させていること,1回目のワクチン接種後のT濾胞性ヘルパー細胞反応が6カ月後の抗体価と相関があったというのも興味深い。ワクチン接種1回目という初期のCD4+T細胞反応が長期的な体液性免疫に重要な役割を担っていることになる。
 本研究結果では,既存の免疫をもつ人に対するワクチン接種のリコール応答は既存のメモリーB細胞により抗体価をより増加させている。それはSARS-CoV-2およびその亜種に対する強固な細胞性免疫記憶が,mRNAワクチン接種後少なくとも6カ月間は維持されることを示している。この6カ月という時点で3群ともメモリーB細胞が同等であることからも,少なくとも6カ月後以降にはブースター接種の必要性がありそうなのは免疫応答から見ても納得できる。これらのワクチン接種後の免疫応答がCovid-19感染後と同様であることが明らかになったことは,よりワクチン接種の需要を高めることにつながると思われる。

•NEJM

1)循環器病学:心筋炎(article)
イスラエルにおけるmRNAコロナワクチン接種後の心筋炎(Myocarditis after Covid-19 vaccination in a large health care organization
 COVID-19に対するmRNAワクチンのより一層の接種率増加が政策であるが,mRNAワクチン接種後の心筋炎/心筋症も問題視されている。TJ Hack No.157でも以前に米国CDCから2例の症例報告を紹介しているが,今回はイスラエル最大の医療組織(HCO)であるクラリットヘルスサービスのデータベースを用いて,BNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー社–ビオンテック社)を1回以上接種した患者における心筋炎の診断を検索し,臨床的特徴を明らかにしている。患者の電子診療録から後ろ向きに初回接種後42日間の心筋炎の発症率についてKaplan–Meier解析(リンク)を行った。ワクチン接種を受けた16歳以上のHCO加入者250万人超のうち,54例が心筋炎の基準に合致。つまり1回以上受けた人における心筋炎の発症率は100,000人あたり2.13例(95%信頼区間 [CI] 1.56~2.70)。発症率は16~29歳の男性で最も高く(100,000人あたり10.69例,95%CI 6.93~14.46),76%は軽症,22%は中等症で,1例は心原性ショックを伴っていた。心筋炎発症後の追跡期間中央値83日の時点で1例は再入院,1例は退院後に原因不明の死亡。入院時の心エコー検査で左室機能障害が認められた14例のうち,10例は退院時にも障害が持続していた。この10例のうち5例はフォローで心機能が正常に改善していた。

イスラエルにおけるCovid-19に対するBNT162b2 mRNAワクチン接種後の心筋炎(Myocarditis after BNT162b2 mRNA vaccine against Covid-19 in Israel) 
 こちらの論文は,イスラエル保健省が能動的サーベイランスを行ってmRNAワクチン接種後の心筋炎を調査した結果の報告である。イスラエルでは,すでに約510万人がBNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー社–ビオンテック社)を2021年5月31日までに2回接種している。その中で,有害事象のモニタリング中に早期心筋炎の報告があったことから,保健省は2020年12月20日~2021年5月31日のすべての心筋炎症例のデータを後ろ向き調査した。心筋炎症状のあった304例のうち21例は心筋炎ではなく,残りの283例のうちBNT162b2ワクチン接種後に発症したのは142例,そのうち確定例またはほぼ確実例に分類されたのは136例であった(リンク)。臨床症状は129例(95%)が軽症,重症1例は死に至った。2回目の接種後と初回接種後とのリスク差は,全体では100,000人あたり1.76(95%信頼区間 [CI] 1.33~2.19),16~19歳の男性でもっとも大きかった(差100,000人あたり13.73,95%CI 8.11~19.46)。完全接種者における2回目の接種後30日時点でのワクチン未接種者と比較した率比は2.35(95%CI 1.10~5.02)で,これも16~19歳の男性が最も高かった。前述した調査論文の結果と同様の傾向であったが同時掲載されているのはmRNAワクチン接種率が高いイスラエルのビッグデータとして貴重な情報と判断されての結果だからか?

今週の写真:ズワイガニ
11月から解禁となった冬の日本海の味覚,カニに付いているタグの色は水揚げ場所で決まっています。この青いタグは城崎温泉近くの津居山港になります。

(石井晴之)

※500文字以内で書いてください