•Nature
1)Bio AI algorithm
最適化された mRNA 設計のアルゴリズムにより安定性と免疫原性が向上(Algorithm for optimized mRNA design improves stability and immunogenicity) |
日本では2020年クルーズ船から始まったコロナ禍は,翌21年暮れにはmRNAワクチンが使用可能となった。その恩恵か日本では医療崩壊時期はあったが,死亡者数は制御された。私にとってmRNAとの出会いは1980年代半ばのNIH留学時代,northern blottingの経験である。mRNAは取り扱い不安定が話題であった。mRNAをワクチン化するにあたって,かなりの長鎖RNAを,修飾塩基は使うにしても,どう安定化しているのか,疑問であった。
中国上海のStemiRNA社と米国在のBaidu社AIの開発したアルゴリズムでmRNAワクチンの安定性と免疫原性を改善するという今週の論文には興味を持った。例によってアルゴリズムは全く理解できない身でありながら,hackingを試みることにした。投稿は22年3月,受理は23年5月である。
専門でない領域であり,hackingとしてOpen accessのNatureサイトからGoogle翻訳で日本語化して全文をWordに移して通読した。もう一つはWeb検索である。著者らが投稿時から他の研究会等で発表したYouTube動画(例えば
リンク)が参考になる。現段階で日本語でのサイトは見当たらなかった。
概要は
Fig.1にある。Fig.1aはcodon usageの可能性である。実際平均アミノ酸のcodonを3とか4にしても,1200アミノ酸の組み合わせになると10
600程度の莫大な可能性であると著者らは示す。Fig.1bにはwild typeと,彼らのアルゴリズムを使用してわずか12分で導き出した最適な配列が並ぶ。見ての通りピンクのloop部を減少させ,相補的なhelix部が増えている。素人想像でもloop部は切断される不安定な構造であると納得できる。
Fig.1cはまたしても自然言語発生のアルゴリズムの応用(最近5年,自動翻訳等でのtransformer理論など,自然言語研究がAI展開の基礎にある)であることを示す。それがDFA(deterministic finite-state automaton)として古典的格子理論を応用し,このcodon usageを選ぶという。この点はもっとも肝心なところであるが,専門家の解説を待つ以外ない。
そしてFig.1dが重要である。CAI(codon adaptation index)とMFE(minimum free energy)のグラフとなる。横軸のMFEは自由エネルギーが小さいほど安定なのは概念として分かる。問題はCAIである。関連数式はMethodsに示してあるが,私はgive up。
しかしこのアルゴリズムを使わない例として,図の右側には,市販のBNT-162b2(BioNTech,○)とmRNA1273(Moderna,☆)のMFE/CAI位置が示してある。右下のwild typeは安定性もCAIも良くない。これに対して著者らのアルゴリズムによる塩基配列で構成したものが左側領域のA,B,C,Dの位置である。
Fig.2はLinear Design Algorithmの説明である。Fig.2cに選択結果がhelix構造部が多くなることはわかるが,その演算経過はわからない。Fig.3はこのアルゴリズムを使用したデモンストレーションとしてCOVID-19 spike proteinと VZV gE protein(ヘルペスウイルス,帯状疱疹用ワクチンに使用)の塩基配列のoptimal-CAIの実際が示される。
Fig.4はCOVID-19 spike proteinでのMFE/CAI図である。Fig.4bのアガロースゲル電気泳動は形態がcompactで早く移動し,Fig.4cは安定性(half-life)が示される。Fig.4dはmRNA安定によるタンパク質発現の安定性を反映している。Fig.4e~fはC57BL/6による実際の免疫反応である。Fig.4eはanti-spike IgG,同fはneutralizing antibody,同gはIFNγ陽性T細胞頻度で,不安定なHと比較して免疫原性が増強している。
なおこれらのmRNAにはいわゆる修飾RNAは使用されていないが,それでもこれだけの効果を示す。前述のYouTube動画を見ると,Hに修飾RNAを使うと安定性・免疫原性の増加が示されている。修飾RNAによる効果はModernaからも論文化されている(
リンク)。Fig.5はVZV gE protein用mRNAによるデータであるが,同様の傾向が示されている。
さてmRNAワクチンの防御免疫効果はコロナ流行抑制で示され,さらにワクチン応用のみならずCARTなどでがんや老化細胞を標的にすることが最近論文化されている(
TJH#103)。こうした方向の中で,mRNAのコドン選択・自由エネルギーのアルゴリズムを示したBaiduなどの研究は面白い。
アミノ酸配列からタンパク質立体構造を予想するAlpha Fold(
TJH#158)は,今週Nature Briefingで,すでに2億種のタンパク立体構造予想に使用され,「パンドラの箱を開けた」と紹介されている。こうしたバイオとAIの組み合わせは,若い研究者達には目が離せなくなっているのではないか?21世紀らしい展開である。
•Science
1)Perspective/Hypothesis
ミクログリアとシナプスの相互作用の定義(Defining microglial-synapse interactions) |
今回は直接の論文ではなく,PerspectiveにHypothesisとして取り上げられた表記小文を紹介する。
先のNature紹介論文も,必ずしも完全に理解できる内容ではないが,斬新な論文として紹介に値する,すなわち知的要求を満たす意味で紹介した。このPerspective/Hypothesisが取り上げるのは,microgliaである。glia細胞として,astrocytesやoligodendrocytesとは違い,tissue resident macrophageであるという点が,脳という特異免疫環境の中での機能として注目されるところだ。
著者のEyo U(Virginia大)とMolofsky AV(UCSF)はともにmicroglia研究者として30〜40報,特に最近活発である。彼らにとっての注目点は,「microgliaが直接にsynaptic pruning(剪定)に関わるか?」という点である。これは感染や炎症という免疫現象を離れて,microgliaむしろ脳機能の維持に積極的に関与をするのか?という点でもある。この話は2010年前後,microglia細胞内にsynapse構成タンパクが見出されたことに端を発する。ところが細胞イメージング技術が発達しているにもかかわらず,それ以降,直接microgliaがsynaptic pruningする像が捉えられていていない
著者らはmicrogliaの機能と考えられる点を
図に4つに分けて議論する。
①microgliaがextracellular matrix除去やsynapse膜部の活性化部分を貪食することが,neuron自体にsynapseをexophorとして排出する。
②dying neuronの片付け役として,神経細胞の多様なdebrisを取り込む。
③それ以外にfilopodiaや,一部報告されるpresynaptics dendritesの一部囓りとり(trogocytosis)等でシナプスを整備する。
④可能性は低いが,pre-あるいはpost synapseをそのまま取り込む。
著者らはmicroglia研究の専門家として「neuronにはautonomous pruning機構があり,その結果をmicrogliaが処理しているだけ」というHypothesisを述べる。すなわちphagocytic microglia機構はplumbing(剪定)という言葉で誤解されやすい。むしろless-catchy termsとして「microglia dependent synapse elimination」という言葉が適当だという。
引用された2021年の
Reviewでは,実際のsynaptic pruningは幼少期(
Review Fig.4)の脳内神経回路再編成の時期に,例えばsynapseでのmitochondria活性(ATP供給)低下などが関与,あるいはfractalkineやcomplement(C1q,C4A等),astrocytes自体のphagocytic receptorや,microgliaとのcross-talkなどが示されている(
Review Fig.2)。むしろこのsynaptic pruning異常は疾患原因としての関連が示唆される。実際ASD(autism spectrum disorder)やschizophreniaにおけるGWASデータと関連する遺伝子の欠損マウスモデルの表現型一覧表に灰白質部の変化等が挙げられている。
以上synaptic pruning(シナプス剪定)として話題になるmicrogliaの研究状況を,自分として理解するには良いPerspective/Hypothesisであった。
•NEJM
1)NASH
NASHにおけるFGF21類似体ペゴザフェルミンのランダム化臨床試験(Randomized, controlled trial of the FGF21 analogue pegozafermin in NASH) |
呼吸器としてはあまり関連のないNASH(non-alcoholic steatohepatitis)を選んだのは,FGF21の作用に興味を持ったからである。FGF(fibroblast growth factor)は現在FGF1~23まで存在する。多くのFGFはhomology searchで見出されている。そしてシグナル伝達のための受容体も複雑な状況である。特に重要なのは,FGF21やFGF23では補助受容体としてKlotho(Wikiリンク:https://en.wikipedia.org/wiki/Klotho_(biology))が15年以上前に同定されている。少し古い
ミニレビューであるが,以上の整理に役立った。
FGFにはcanonical(FGF1,FGF4,FGF7,FGF8,FGF9 subfamily),intracellular(FGF11subfamily)とhormone-like(FGF19 subfamily)があり,FGF21はヘパリン親和性が弱いので,paracrineではなくendocrine活性があると考えられるFGF19 subfamilyに含まれる。FGF21は肝臓において発現,総じて脂肪分解に作用し,抗metabolic作用を示す。受容体のFGFR1a,FGFR3cとβ-Klothoが関与する。一方FGF23は受容体にFGFR1c,FGFR2c,FGFR4とαKlothoが関与し,腎臓におけるリン排出制御に関与する。実際にFGF21(209アミノ酸)は製剤としてはPEG化(glycopegylated:
Wiki)されて血中寿命を延長し,免疫防御能あるものが使われている。
本臨床試験報告はphase 2bでありplacebo(n=71),pegozafermin(15mg weekly)(n=21),同(30mg weekly)(n=73),同(44mg every 2w)(n=57)の群に皮下注射で実施。参加者のBWの平均が100kg前後,BMIは35以上,II型糖尿病が60%前後含まれている。
主評価はbiopsy評価であるがcentral scoring systemが採用され,副次的にnon invasiveなMRI-PDFF(magnetic resonance imaging proton density fat fraction)や各種血中測定値が取り上げられている。
結果は,
Fig.1の通り,fibrosis improvement>1 stage without worsening of NASH評価,一方,NASH resolution without worsening of fibrosis評価共に明瞭な有意差となっている。
Table.2にもALTはじめ各種metabolic end pointsもplaceboに比べ明瞭な差を示した。AEとしては,nauseaやdiarrheaが見られている。
PEG化FGF21を使用して,正面からNASH改善への試みである。当然,さらに長期の臨床試験が求められる。一方,ほぼ同時期の高度高脂血症へのpegozafermin臨床試験はNat Medに有効と報告されている(
Open access)。
実際には,日本人ではなお少ない,米国の高度な肥満とII型糖尿病をenrollした試験であるが,最近話題の体重減少効果を認める薬剤(
TJH#250)等では,NASHの評価を行うとどうなるのか?さらには両者併用効果は?など新展開に興味を惹かれる点である。
今週の写真:2023仙台七夕,青葉区一番町三越前。全国各地の夏行事同様,ほぼコロナ前に戻った。
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(貫和敏博)